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第1話第2話│第3話│最終話


< 第 3 話 >

●行ける人、行けない人

「過去に行きたい‥‥過去に行きたい‥‥過去に行きたい‥‥‥‥ダメか」
 三角田藍子は、強く念じてみていたが帰昔線への道は開けなかった。
「もっと、具体的に絞らないとダメなのかも知れない‥‥」
 過去に帰りたいと思うだけでは、漠然としすぎているのだろう。行き先を決めずに電車に乗ろうとしているかのように。
「私もダメみたいだ。過去に魅力を感じていないようじゃダメみたいだね」
 風見璃音も諦めて息をついた。
 過去を変える事に‥‥過去に思いを募らせる事に否定的である事が、帰昔線をも拒む結果となっているのか? ともかく、璃音にも異変は訪れない。
「‥‥他の人達は行ったみたいだね。仕方ない、しばらく帰ってくるのを待ってみよう」
 璃音は藍子を促し、座れる場所を探して歩き出す。草間達が帰ってくるのを待つために。



 二人の黒服‥‥祓い屋と葬儀屋という奇妙な組み合わせの二人、闇乃部神威と糾薙誓破もまた乗る事は出来なかった。
 過去の失敗‥‥とは言え、既に過去として受け止め、何とも思ってはいなかったものを擬似的な後悔として利用し、帰昔線へ乗り込もうとしたのだが‥‥やはりそれでは、帰昔線の切符は手に入らないようだ。
「重要なのは、過去に帰りたいと願うことではなく過去への執念なのかもしれませんね。私達の中で、あの事件は既に終わっていますから」
 誓破が言うのに答え、神威が残念そうに言う。
「欲しくもない物を、形だけ欲しがって見せても無駄だと言う事か‥‥儀式のようなものなのだろうが、融通がきかないな」



「心残り‥‥ねぇ」
 インターネットを見て、話のネタと暇つぶしに帰昔線を見に来た倉実鈴波18歳男“浪人生”は、とりあえず過去に帰りたいと願う為に、今までの人生でもう一度巡り会いたいものを思い浮かべてみた。
 つきたてのきなこもち(幼稚園のイベント)。給食の揚げパン(小学校)。注文制だったパン食、チーズパン(中学校)。十日煮込んだカレー(高校文化祭)。
「あ‥‥でももし、昔にもどって、勉強なんかして、現役で受かったら、寮で出るバイキング式のこんなうまい朝食、食えなくなんだよなぁ。食いすぎて3キロ太るくらいなのに。なんか、やだなぁ」
 ふと、そう思う‥‥もちろん、こんなじゃあ一生かかったって帰昔線に乗れるはずもない。こんなで乗れてたら、新宿駅から人が居なくなる。
 そんなわけで、倉実は路線を変更してみることにした。
「帰昔線に乗りそうな人の後ついてけば、いけるんじゃないかなぁ。表情を良く見て、何か思いつめていそうな人の後をこっそりつけてみよう」
 いそいそと、何か思い詰めてそうな人を捜して歩き出す倉実は、確実に来年も浪人になる事が決まっていそうだった。



 月影龍慈と水薙霜夜の前で、風峰刹那は消えた。いや‥‥消えたのではなく、いつの間にか居なくなっていたと言うのが正解か。
 居なくなる前と居なくなった後。
 その境目を認識できない。目を離していたわけでもないのに、気がつけば彼は居なかった。
「‥‥他人と同行するという手はダメか」
 刹那の記憶を探す名目で一緒に行く予定だったのだが、自分の事でないとダメらしい。
 また、消える瞬間を知覚できない以上、その後をつけると言うことも不可能だった。
 龍慈が言うのに、霜夜は特に興味も無さそうに相槌を打つ。
「そのようですね。まあ、風峰君も子供じゃないんですから。自分でやるでしょう」




●駅の別れ


 帰昔線の駅‥‥大方の者は、車掌を気にしながらも電車に乗り込んだ。なお、気絶中の三下君は、仲間に引きずられての御乗車となる。
 そんな中、ただ一人。御堂まどかだけは、恐怖に身をこわばらせていた。
「草間さん駄目です。乗らないでください」
 半分パニック状態で草間を止めようとする御堂に、草間武彦は呆れたように言う。
「おいおい、こんなで怖がってどうする?」
 まあ‥‥草間はあくまでも普通の人間であり、怪奇現象の秘めた危険さを関知する術がない。
 目の前の相手が襲いかかってくれば、肉体的危険から恐怖を感じるのだろうが‥‥見た目と言う意味で、車掌は怖くはない。不気味だが。
 半泣きになりながら草間の袖を引っ張る御堂は、草間をどうにか思い止まらせようと、言葉を投げかける。
「過去なんかどうでも良いじゃないですか」
「‥‥‥‥それは人それぞれだろ?」
 草間は少し悲しげに言葉を返した。
「過去がどうでも良いかどうか‥‥そんな事は、本人にしかわからない。お前が、自分の過去をどうでも良いと言うのならそれで良い‥‥けどな、他人の過去の価値を否定するのはよせ」
 過去をどうでも良いと思うのは本人の勝手。だが‥‥それを、他人がどうこう言うのは誤りだ。誰が、他人の過去を理解する事が出来よう。
「過去を振り返る事は愚かな事だと、したり顔で言う奴もいるだろうが、俺にはそうは思えない。確かに、手の届かない過去を思って日々を無駄に過ごすのは馬鹿のやる事だ。けどな、今はその過去に手が届くんだ」
 帰昔線が本当に現在と過去を結ぶなら、今の延長上にかつて過ぎた筈の時間が存在している事になる。過去に手が届く‥‥それは、過去が過去ではなくなったことを示していた。
「過去は今、俺の未来にある。過去を変える事でどうなるかはわからないが‥‥そのチャンスに背を向ける事が賢明だとは思えない」
 決意の言葉に、御堂は手を離す。草間は、電車の中に足を踏み入れた。草間と御堂、二人の間を閉まったドアが隔てる。
 御堂はメガネをはずして涙を拭った。電車が行くのを見送りながら‥‥
 涙はまだ止まらなかった。




●帰昔線は行く。


 客は皆無言で、ある者は椅子に座り、ある者は吊革に身を預けながら、電車の振動に身を任せていた。
 座席の一つを占拠した草間は、からかおうとでも言うのか鬱陶しく話しかけてくる風峰刹那に、完全無視を決め込んで窓の外の闇を眺め続けている。
 草間の思う事は一つ。
 タバコを吸いたい‥‥‥‥車内は禁煙なのだ。
 怪奇現象なんだから別に良いかとも思うのだが、車内禁煙の文字が車内にしっかりあるのが気に入らない。
 タバコ一本でおかしな現象に襲われても困るので、ここは一つ我慢する。となると、やっぱりイライラしてくるので、目の前の馬鹿ガキを殴ってやろうかとも思う。
 だが車内での喧嘩は喫煙以上にやばいだろうと判断し、それに年ばかり取って背は高くなったが未だにオムツが取れて無く夜な夜なママのオッパイを欲しがって泣いているガキと殴り合って自分の価値を下げる気にもなれなくて、やっぱり草間は完全無視を決め込んだ。
 いや‥‥実際には風峰は、そんな坊やなんかではない。かなりイライラしている草間は、思考が非常に危険な事になっていた。
 と、その時、電車の中にアナウンスが流れる。
『思い出〜、思い出〜、下り口、左側になります。お忘れ物の無いよう、お気をつけください。思い出です』




●思い出の駅


 ドアが開いた。そこには、ごく普通の駅のホームが広がっている。駅名は『思い出』と読めた。
 ただそれだけ‥‥奇妙と言えば、この駅から外に出るための通路が見当たらない事だろうか。それ以外は、何の変哲もない駅に見える。
 しかし‥‥ある者にはそれとは別なものが見えていた。
「へ‥‥嘘だろぉ、おい。ありゃあ‥‥30年前、俺が婿養子に入った酒屋だ」
 渡橋十三の声は震えていた。
 彼に見えたのは、彼の思い出の中の風景。
 電車は、かつて彼が住んだ酒屋の前に停車していた。
 思わず電車のドアをくぐり、飛び出した彼の前‥‥酒屋の引き戸が開く。
「あら‥‥貴方、帰ってらしたんですか?」
 そこに立つ女性‥‥渡橋のかつての妻の芙美が、渡橋の顔を見て微笑んだ。それは、渡橋にとって最も美しい思い出の中の笑顔そのままだった。
「わかるのか!? 俺は、あれから‥‥」
 そう言った渡橋は、自分の体の異変に気付く。
 若返っていた。かつての思い出の中の自分と同じ姿になっていた。
「沙耶は‥‥居るのか? 俺の娘は」
「居ますよ? 今朝も会ったじゃないですか」
 渡橋のその問いに、芙美は怪訝な表情を浮かべる。それはそうだろう‥‥本来の時間の中の渡橋は、今日もこの二人と共にいたのだ。それが、どんなに輝かしい時間だったのかにも気付かずに‥‥
「まて‥‥今は‥‥沙耶は5歳か。そうだ‥‥憶えている。憶えているぞ」
 渡橋はゆっくりと歩みを進めた。そして、酒屋の引き戸に手を伸ばす‥‥と、渡橋の手が届く前に、引き戸がカラリと開く。そこに現れた幼い少女は、渡橋の顔を見て笑った。
「あ、お父さん! あれ? どうして泣いてるの‥‥‥‥」
 渡橋の背後‥‥遠くで声が響く。
『間もなくドアが閉まります。駆け込み乗車など、ご遠慮ください』
 ‥‥ドアが閉まった。
 渡橋が出た筈のホームには誰もいない。
 渡橋が足を踏み出した瞬間に、彼の姿は消失していた。後を追い、草間も外に出てみたが、何の変哲もない地下鉄のホームに出られただけ‥‥結局、何もできないままに電車に戻ってきていた。
「‥‥なるほどな。用のある駅につくと、呼ばれるわけだ」
子狐  呟いたその時‥‥いつもついて来ていた子狐が、椅子に爪を立て、しがみつくようにしているのが見えた。どうやら一緒には下りなかったらしい。
 草間はヒョイと子狐を拾い上げ、頭の上に乗せた。
「‥‥お前の降りる駅だったんじゃないのか?」
 聞かれ、子狐は去りゆくホームを見つめ、悲しげに一声鳴く。窓の向こう、子狐にはホームではなく、懐かしい巣穴と母の姿が見えていた。
 悲しげな様子の子狐に草間は言う‥‥
「泣くなよ。理由は聞かないからさ」




●人生の転機の駅


 そこで下りたのは一人、烏丸紅威だけだった。
 彼に見えていたのは、400年以上昔の風景。
 遙か昔の事ゆえに帰れないかとも思っていた烏丸だったが、帰昔線は彼を、彼が人ではなくなる前へと送ってくれていた。
 電車から降りてみると、自分の体が人間のものになっている事に気付く。だが、記憶も、憶えた技の類も残っていた。
「今なら‥‥人として生きる道を選べますね」
 数百年分の知識が在れば、己が身に悪霊を封じずとも全てを終わらせる事が出来る。今度は‥‥人として、愛した人と普通に生きて死ねる。
 烏丸は歩みだした。封じるべき悪霊の待つ都へ‥‥その背後で遠く声が響く。
『間もなくドアが閉まります。駆け込み乗車など、ご遠慮ください』




●後悔の駅


「僕の降りる駅が来たようです」
 四ノ宮雅欄は、そう言って草間に笑いかけた。
「祖父の死を‥‥止めたいと思うんですよ」
「そうか‥‥頑張ってくれ」
「ええ‥‥今度は、何を言われようと祖父の所に行きます」
 決意を固める四ノ宮‥‥その時、ホームに電車は滑り込んだ。四ノ宮は迷う事なく、ドアの前に立ち‥‥そしてややあってドアが開く。
 四ノ宮の前にあったのは、四ノ宮の家の中、父親の部屋のドアだった。
「‥‥親父に呼ばれた直後‥‥このドアの向こうに、待っているのは‥‥」
 そう、父親と母親が待っている。そして、祖父の元へ行こうとする四ノ宮を妙な理屈をこねて止めるのだ。
 結果、祖父の元へと旅立つのは一日遅れてしまう。そして、今夜‥‥祖父の家は炎に包まれる。一日の遅れが、取り返しの付かない遅れとなり‥‥祖父は炎の中で死ぬのだ。
 四ノ宮は‥‥父母の待つドアに背を向けた。
 どうせ、話すだけ無駄だ。このときは確かそうだった。
 この頃はまだ、父親と話をしようと思うくらいの関係だったと思う。随分と親子の関係が冷めたものだと思い、四ノ宮は苦笑した。
 四ノ宮は自分の部屋に行き、荷物を持ってさっさと祖父の元へと旅立つつもりで歩く。
 これで、祖父の元へ行けるはず。祖父の死も止められるはず‥‥
 四ノ宮の背後で声が響く。
『間もなくドアが閉まります。駆け込み乗車など、ご遠慮ください』




陣内十蔵 ●辛い過去の駅


 電車の中は、かなり人が減ってきていた。降りる者は降りたという所だろう。
「さて‥‥次だな」
 草間が呟いた。次は、辛い過去の駅。と‥‥ここで、陣内十蔵が騒ぎ出した。
「都合が良すぎやしねェか? 何か臭うぜ? 勘がさっきから騒ぎやがる」
「‥‥当たり前の事を今更言うなよ」
 陣内に草間が言う。そう‥‥どう考えても今更だ。怪しいと言うのなら、全てが怪しい。
「‥‥こんな所まで来て、怖くなったのか?」
「な‥‥何だと!?」
 何を考えているのか、言うだけ言ってから草間は陣内から視線を逸らす。陣内は、草間を少しの間睨み付けていたが、思い直すと大声で怒鳴った。
「車掌! 出て来やがれ!」
「‥‥他のお客様の迷惑になりますから、どうかお静かに願います」
 車両をつなぐドアが、スッと音もなく開き、そこに車掌が立つ。陣内は車掌にツカツカと歩み寄り、聞いた。
「教えろ‥‥貴様は、何を企んでいる。俺達を過去に運ぶ‥‥その代償は何だ!」
 激しい勢いの陣内‥‥だが、車掌はあくまでも冷静に言葉を返す。
「企むとは何の事でしょう? 私どもは、お客さんの願いに答えるため、誠心誠意を尽くして運営しております。それに代償ですか? それならば既に私どもは受け取っておりますよ」
「何?」
 自分が既に何らかの代償を支払わされていたと聞き、驚く陣内の前、車掌は穏やかに言う。
「帰昔線に乗る代償‥‥それは、お客さんの過去へ戻りたいという切なる願いです。帰昔線は、お客さんのその願いが在ればこそ、存在していられるのですから」
 その答を聞いて金糸雀琴音は口を挟んだ。帰昔線の正体をはっきりさせるために。
「この電車は何ものなの?」
「帰昔線は‥‥夢なんです。人々の抱く過去への思い。もう一度やり直したい事、もう一度会いたい人、もう一度、もう一度‥‥やり直せたら、あの時に帰れたなら。そんな誰もが思ってしまう、ささやかな‥‥そして、普通なら叶わない願いの集まりなんですよ」
 答える車掌の言葉は、事務的で丁寧だった。
 その時、久我直親が、畏敬に震える声を出す。
「‥‥人の願いが溜まって生み出される化性‥‥まさか、神なのか」
 陰陽道の一門として歴史をつないできた久我家には、それなりの知識も伝わっている。
 その知識が教えてくれた。もし車掌の言っている事が本当ならば、この帰昔線は尋常のものではない。
「神だって?」
 何を言っているんだと、正気を疑うかのように陣内が聞く。まあ、無理もないだろう。
 久我は、説明を始めた。
「いわゆる絶対神とは違い、八百万の神々の方に近い。人々の願いが神を創る‥‥創られた神は、人々の願いのままに力を振るう。そう言った、原初の神と言うべき存在だ」
「ひれ伏して拝むべきなのか?」
 草間が、茶化すように言う。それに、久我は苦笑を返した。
「それも良いかも知れないな。帰昔線が、より強大な力を持つ様になる‥‥この手の神の糧は、自分の存在を願う人の心だからな」
 つまりは、人が帰昔線を信じ、その存在を望めば望むほどに帰昔線は強い力を持つようになると言う事。神は祀られてこそ、神なのである。
「だから、どんな形にせよ過去への強い思慕がある‥‥つまりは、帰昔線を必要とする者以外は帰昔線に招かれる事は無い。そう言う事だ」
 説明しながら、久我は帰昔線の正体に大きく迫っている事を確信していた。
 この手の神は儀式めいた事柄にとらわれる事が多い。いや、儀式めいた事柄が付加される事で初めて存在が確立されると言うべきか。
 ともかく、正当なやり方で神に触れた者にのみ、恩寵が与えられるわけだ。この場合、新宿駅という場所で、過去に帰りたいと願う事が儀式となる。
「保証しよう。帰昔線は‥‥本物の“神”だ」
 久我は言った。それこそが答‥‥そして真相。車掌は否定も肯定もしない。皆は、あまりの事に言葉を失っている。
 だがそんな中、草間は一人だけ興味もなさげに立ち上がった。
「さて‥‥いい加減、話も出尽くしたようだな。電車の中の、暇つぶしにはなった」
 草間が言い終えるや、次の駅への到着を報せるアナウンスが鳴る。草間は‥‥迷う事無く出入り口の前に立った。
 そんな彼を陣内が声をかける。
「草間‥‥俺は、死んだ妹を救いたいと思っていたが‥‥だが、俺は降りない。現世で妹を思い続ける。それで良いんじゃねェか?」
 陣内にはかつての‥‥生きている妹の姿が窓の向こうに見えた。陣内は無意識にそれから目をそらす。
 だが、草間は外を見続けていた。
「陣内、お前は‥‥今度は自分の意志で妹を殺すんだな」
 そう言い残し、降りようとする草間。
 そのズボンの裾を、草間の頭から飛び降りた子狐がくわえて引っ張った。まるで、止めようとしているかのように。
 草間は、苦笑めいた笑みを浮かべると、子狐を掴んで座席の上に置いた。
「何‥‥ちょっと、電車の中の禁煙にも耐えかねたんでね。一服吸ってくるだけさ」
 子狐の頭を軽く撫で、再び出ようとする草間。子狐は駆け出し、草間よりも早くホームに飛び出す。
 だが、子狐は誰もいないホームに転がっただけ‥‥その後ろ、降りる草間の姿が消える。振り向き、その事を悟った子狐は、悲しそうに一声鳴いた。




佐保鵤 ●一週間後


 草間達が帰昔線に乗った日から一週間が過ぎ‥‥ようやく謹慎が解け、新宿駅に集合した雫とその仲間達は、立ち食いソバ屋の中から駅構内を窺っていた。
 そこには、一人待ち合わせをする佐保鵤の姿‥‥彼が待つのは、実は雫達である。
 だが、当の雫達は、佐保の事を疑わしそうな目で見ていた。
「‥‥どうしよっか?」
 月見の卵を掻き混ぜながら、雫が皆に聞く。
「‥‥あれだよね、保護者としてついてきてくれるって言う人。あの時は、あんまり強引だったからOKしちゃったけど‥‥‥‥やっぱりさあ、気持ち悪いよね」
「怪奇系のチャットで、ナンパなんかすんなって言うのよ」
 かけソバを豪快に啜り込みながら、榊杜夏生が答えた。
 ネットの中は、相手が見えない世界だ。そう簡単に相手を信じる事はしない方が良い。
 公開の場であるチャットで話を進めていたのだから、ある程度は飛び入り参加者も見越しての話だった。
 だが、初書き込みであるにも関わらず強引に仲間入りしようとするのはどうだろう? しかも、女の子メインで話をしている所に、男が無理矢理に入り込むのは‥‥他の目的を勘ぐられても、仕方のない事では無かろうか?
 もちろん、佐保がきちんと礼儀を通していたならば話は別だったろう‥‥問題は、そのやり方以外の何ものでもない。
「六理さんみたいにHPに毎日来てくれたら、信用しても良いかなって思うんですけど‥‥そう言えばまだ来てませんね?」
 望月彩也が小首を傾げる。約束の時間だというのに、紫月六理はまだ来ていない。
 チャットに現れて同行の約束を取り付けたのは六理も佐保と一緒。だが、六理の方はちゃんとネットに毎日訪れ、仲間になろうと努力もした。まさに好対照と言えよう。
「さっきメールしといたよ。遅れるみたいだから先に行くねって」
 雫が彩也に答えた。あんまり遅くなるようでは、そうせざるを得ないだろう。
「じゃあ、問題はあいつだけ?」
 やはりチャットで仲間になった東契が言う。当然、彼女はチャットの中で、佐保よりも常識的な対応をしていた。それが、今同行していると言う形ではっきりと出ている。
 今ではすっかり仲間になった契の言葉を受け、雫は腕を組んで考えて‥‥決めた。
「うーん、すっぽかしちゃおう。やっぱり、良く知らない人だから怖いもん。ネットストーカーとかだったら嫌だけど、そんな人と直接会う方が怖いし」
 かくして、佐保は新宿駅に放置される事が決定する。それは、つくづく哀れな事だった。




鮎川鱚美 ●居残り組


「え‥‥と、やっぱり無理か」
 鮎川鱚美は、帰昔線に乗る事が出来なかった。
 帰りたいと思っていない事がやはり引っかかったのだろう。
 そして、東契も同じように帰昔線には乗れなかった。彼女の場合、帰りたいと思う行き先がなかった事に起因する。
 帰る先のない者に帰昔線は道を開かない。それは、絶対的な真理であった。




望月採也 ●思い出の駅


 思い出の駅で電車のドアが開く。
「これ‥‥皆さんで食べてください」
 望月採也は、雫をはじめとする一緒に来た友達に、彩也手作りのスコーンが入った袋を渡した。
 そして、電車の出口の向こうに見える、おばあ様の家へと降りていく。
 よく手入れされた庭。その奥に置かれたテーブルに、おばあ様の笑顔を見つけた彩也は駆け出した。だが‥‥転ぶ。
 青い芝生の上をコロリと転がった彩也は、自分の体が随分と縮んでいるのに気が付いた。7年前の姿‥‥9歳の幼い姿に。
「あらあら‥‥大丈夫かい、彩也?」
 顔を上げた彩也の目に、優しいおばあ様の、ちょっと心配そうな表情が飛び込んでくる。
「大丈夫ですぅ、おばあ様」
 彩也は立ち上がり、精一杯の笑顔で言った。おばあ様の顔が綻ぶように笑顔に変わる。
「そう? 彩也は強い子ね?」
 おばあ様の温かい手が、彩也の頭を撫でた。
 ずっと昔に失われた温もり‥‥こみ上げてくるものを無理に押さえながら、彩也は言う。
「おばあ様、私、スコーンを焼けるようになったんですの。おばあ様、食べてください」
 差し出したのは、皆に渡したのとは別に用意してきた、これまたとびっきりのスコーン。
「彩也がつくったの? 美味しそうなスコーンだこと。じゃあ早速、お茶を入れなくちゃね」
 おばあ様は、彩也の記憶にない、輝かんばかりの笑顔でそう言ってくれた‥‥



 大沢巳那斗は、彩也のすぐ後にドアをくぐった。そこは、思い出の中そのままの風景‥‥幼い頃に旅行に訪れた場所だった。
「こんな、過去に浸ろうだなんて、俺馬鹿みたいだ‥‥情けねえの」
 そう言いながらも歩きだした大沢は、少し自分の身長が低くなっている事に気付く。そう言えば、この頃はまだ‥‥
 色々な思い出が、沸き上がり、また消えていく。
 その思い出の中で最も輝くべきものが目の前にあった。それは‥‥普段忙しく、ほとんど家にいない両親。
 過ぎ去りし今日この時だけは、二人が共に大沢と一緒にいてくれたのだ。
 大沢は‥‥思わず駆け出す。そして、まっすぐに両親の腕の中へと飛び込んでいった‥‥

 過去へ旅立った二人の背後で、遠くアナウンスが鳴る。
『間もなくドアが閉まります。駆け込み乗車など、ご遠慮ください』




滝沢百合子 ●人生の転機の駅


 滝沢百合子は、決意の表情で電車を降りた。
 彼女の前には、3年前のあの日‥‥両親と暮らした最後の日、父と母が罵り合いの喧嘩をしていた部屋のドアがあった。
 あの日は開くことが出来なかったドア‥‥それを、百合子は思いきって開く。
「止めて! 二人とも止めてよ!」
 部屋の中、父と母は、驚いたように百合子の方を見ていた。
 百合子は‥‥3年前に言えなかった言葉を、今こそとばかりに吐き出す。
「もう喧嘩しないで‥‥」
「‥‥百合子」
 母が、呻くように百合子の名を呼んだ。父は、無言のまま百合子から目をそらす。
 百合子は‥‥呟いた。
「もう、ダメなんだよね‥‥わかってるの。もう、喧嘩しないでって言っても、無駄なんだよね?」
 百合子の頬を涙が伝う。それは、父と母の中がもう終わりなのだと知った故の絶望の涙ではなく‥‥ただ、全てを諦めなければならない事への無念の涙であった。
「すまない‥‥」
 父が、百合子に頭を下げる。
「お前の言う通りだ。私達は、もうお互いを愛せないと‥‥思う」
「ごめんなさい、百合子‥‥辛い思いをさせてたみたいね?」
 母の温かい手が、百合子の涙を拭った。
「貴方‥‥百合子と一緒に話し合いましょう。このままじゃ良くないわ。百合子が教えてくれた‥‥良い機会よ」
「‥‥‥‥そうだな」
 父は、百合子と向き合い、真剣な表情で言う。
「私達がどうしたら良いか‥‥一緒に考えよう。終わるなら、ちゃんと終わろう‥‥お前が辛い思いをしないように‥‥」
「お父さん‥‥」
 百合子は、自分の言葉がきっかけで、歴史が動いた事を悟った。きっと今度は‥‥
 期待の芽吹く百合子の心‥‥その時、遠くにアナウンスが聞こえる。
『間もなくドアが閉まります。駆け込み乗車など、ご遠慮ください』




榊杜夏生 ●辛い過去の駅


 榊杜夏生が降りた場所は、帰昔線のホームにそっくりだった。
 ただ、ホームの反対側に帰昔線と同じ電車が停車しているのを除けば。そして、そこに見知った人物が電車に乗り込もうとしているのを除けば‥‥
「冬里おねーちゃん!」
「夏生ちゃん?」
 目の前で驚いたように自分を見る冬里は、彼女が謎の失踪を遂げた17歳のあの時のまま‥‥そして夏生は、自分が10歳の自分になっている事に気付いた。
「何処へ行くの!? みんな‥‥みんな、心配するんだよ!? もちろん、あたしだって!」
「過去に‥‥過去に帰るの」
 冬里は、夏生の前にしゃがみ込む。そこには、自分の知る冬里の姿はなく、悲しみに沈む少女の姿だけがあった。
「おねーちゃん‥‥?」
「ごめんね‥‥」
 冬里の瞳から涙が溢れる。夏生は、冬里に抱きしめられた。夏生は、冬里の悲しみが流れ込んでくるようで、自分の瞳からも涙が流れ出すのを感じていた。
 だが‥‥そんな時間の終わりを示すかのように、発車を報せるベルが鳴り響く。
「さようなら‥‥夏生ちゃん」
「待って! 待って、おねーちゃん!」
 夏生を放し、駆け出した冬里。その後を追って、夏生もまた電車に乗り込む。6年前の帰昔線へ‥‥
「夏生ちゃん、降りて! 帰れなくなるわ!」
「ダメ! おねーちゃんを、一人になんてしておけないもの!」
 夏生の後ろで、ドアが閉まった。そして、電車はゆっくりと動き出す。
 夏生は、冬里に言った。
「6年かかってやっと追いつけたんだもの‥‥大丈夫だよ。あたしは、運が良いから‥‥きっと、何とかなるよ」




瀬名雫 ●前世の駅


『間もなくドアが閉まります。駆け込み乗車など、ご遠慮ください』
 アナウンスが鳴り終えると同時に、雫はピョンと電車に飛び込んできた。
 その顔は、難しい事を考えているかの様に、ちょっとだけしかめられている。
「うーん‥‥ボディが、むちむちばよえんだったのは良いけど、ムー帝国の王女様じゃなかったかぁ‥‥狙ってたんだけどなぁ」
 この駅で何を見てきたのか深くは語るまいが‥‥雫は、何やら少しだけ残念だったようだ。
 ともかく彼女は、そのまま椅子に座ってから、誰もいなくなった車内に気付く。
「‥‥あ、そうか‥‥‥‥みんなと会うには、もう一周しなきゃならないんだ」
 途中下車したみんなと会うには、少し時間がかかる。雫はちょこんと座席に座り、彩也から貰ったスコーンを口に入れた。
「美味しいっ☆」
 一包みあったスコーンは瞬く間に消えていく。そして最後の一個を口に放り込み‥‥雫は言った。
「そうだ☆ 探検するのって良いよね」




エルトゥール・茉莉菜 ●来訪者


 エルトゥール・茉莉菜は新宿駅の中に立ち、黒服達が言っていた『彼女』とやらを探す日々を送っていた。
 自分の読心の力で、片っ端から女性の心を読んでいくというやり方なのだが、これは酷く効率が悪い。
 新宿駅を訪れる人の数、75万人。女性にターゲットを絞っても40万近い。茉莉菜が一人一秒の割で見ながら24時間粘っても、86400人が限界。考えるだに馬鹿らしい。
 それに、超常能力を使えば相当に疲労するので、粘れてせいぜい数時間。また、一人の心を探るのには、それなりに時間がかかりもする。
 結局、茉莉菜は宝くじ並に当たりが低くくなった捜査を、かれこれ一週間続けていた。
 だが‥‥それは突然現れる。
『覗き見は良くないわね。立派な、プライバシーの侵害だわ』
 心の中に何かが囁いた。直後、頭が割れるかの様な痛みが茉莉菜に走る。
 思わずしゃがみこんだ茉莉菜の前、肌も露わな黒いドレスを着、一匹の黒猫を抱いた女性が立った。
『力があるからと言って、それを使って力のない人達を踏みにじる権利はないのよ?』
 瞳を閉ざしたその女性は、子供をたしなめるかのような口調で、茉莉菜の心に直接言葉を送り込んでくる。その都度、茉莉菜は激痛に喘いだ。
 と‥‥その激痛は不意に消える。気が付けば、そこに黒いドレスの女性の姿はなかった。
「今のが‥‥“彼女”?」
 立ち上がり茉莉菜は呟く。だが、それを確たるものとしてくれる証拠は、何処にもなかった‥‥




●不帰の電車

碇麗香 三下忠雄

 雑然とした活気の中に浸る月刊アトラス編集部の中、三下忠雄は頭を抱えて呻いていた。
 二日酔いなどではない。記憶に全くない事の記事を書くという無理難題を抱え、脳味噌を沸かしているのだ。
 これでもう一週間。しびれを切らした麗香が、催促にやってきていた。
「で‥‥まだ、記事は出来ないの?」
「あの‥‥乗ったは良いですけど、結局最後まで気絶してましたので‥‥」
 ボソボソと弁解めいた事を言う三下。彼に、麗香はとても優しく言った。
「‥‥みのした君、今日は帰って良いわ。明日も、明後日も、ずぅうううううううっと、帰ってて良いわ。クビよ、クビ☆」
「ヒィイイイイイイイッ! そんな、勘弁してくださいぃ。後生ですぅ。ここ、クビになったら、行く先がないんですぅ!」
 すがりついて泣きわめく三下を邪険に足蹴にしながら、麗香は三下に同行して取材をしていた大角御影に聞く。
「さて‥‥と、大角君。いったい何があったのか教えなさい。しょうがないから、私が記事を書くわ」
「何と言いましょうか‥‥難しいですね。ただ、電車に乗って一周しただけに近いですから」
 見るからに哀れな三下を出来るだけ見ないようにしながら、大角は麗香に答える。
「僕らは下りなかったんですよ。この現実に帰ってこれる見込みがなかったものですから」
「どう言う事?」
 問いただそうとする麗香の前、大角は思い出していた。あの帰昔線の中を‥‥
「疑問をぶつけたら、車掌さんからも証言が取れたんですよ」



「帰昔線に乗って途中下車すると、もう二度と元の現実には帰れない‥‥違いますか?」
 帰昔線の中、大角はそう車掌に聞いた。
 傍らで未だ気絶中の三下はとりあえず役に立たないと判断して、メモ帳片手に車掌の言葉を一言一句のがさないよう身構えながら、彼は自分の仮説を滔々と車掌に話し始める。
「過去に干渉すると因果が変わるでしょう? つまり、過去に干渉した人は『新しい現実』の住人になる。それは、元々の現実とは違うものですから、たとえ帰昔線を使っても帰っては来れない。帰昔線は、その人の現実の中の時間を動く電車だから‥‥違いますか?」
 過去に戻り歴史に触れる度に、新しい世界が生まれるわけだ。歴史に触れた者は、必然的にその世界の住人とされる‥‥因果の根元となる存在なのだから。そうなった後、仮に帰昔線に乗ることが出来たとしても、彼が帰る場所は、新しい彼の寄るべき世界になる。
 既に彼は新しい世界の住人なのだから。
「‥‥そうですね」
 車掌は確かに頷いた。
「一度過去を変えたお客さんは、新たに選ばれた現実へと帰る事は出来ます。また、違う現実を探しに降り直す事も‥‥ただ、お客さんが最初にいた現実に帰る事は出来ません」
 『しない』のではなく『出来ない』。この差は、とてつもなく大きい。
 帰昔線は悪意の存在ではない。かといって善意の存在でもない。『そういうもの』なのだ。
 結局、出来る事は決められている。
 新宿駅の中で過去へ帰りたいと願う者を呼び、願われたままに幾つかの駅へと運ぶ。ただそれだけだ。それ以上でも、それ以下でもない。
 それが帰昔線の全てだった。



「‥‥なるほどね」
 大角の説明に、一応の納得は示した麗香だったが、少々不満な様子ではあった。
「そういう話にうちの客層がついて来れるかしら? 時系列の話をするとSFじみちゃって‥‥マニア受けはするかも知れないけど、うちの雑誌には少々異端かも」
 その危惧には納得ができて、大角は意見を控える。かわりに、現場で撮ってきた写真を見せて続けた。
「後、写真もありますけど‥‥使えないと思いますよ?」
「どうして?」
「電車も駅も普通でしたから。あれ、そのまま乗せても誰も怪奇写真とは思いませんよ」
 印画紙には、何の変哲もない地下鉄の駅が写っているように見える。帰昔線の文字の入った看板などもあるが、綺麗にくっきり写っているのでインチキとしか見えない。
 そして車掌だが‥‥彼は元から存在していなかったの様に、染み一つ写ってはいなかった。
「‥‥まあ良いわ。その辺は、こっちで修正するから。ともかく、それだけじゃ記事にならないわね‥‥でも、帰って来れない危険を冒すわけにも行かないか」
「そうですね。草間探偵も帰ってきて無いみたいですし‥‥彼も帰昔線から降りてしまった様ですから」
「え? 草間が‥‥?」
 大角に言われ、麗香に一瞬、動揺が走る。
 彼女はそのまま暫し考え込み、そして‥‥
「‥‥‥‥わかったわ。今度は私が行く。三下君は留守番ね。クビは撤回して上げるから、留守番中に帰昔線の創作記事書いておきなさい。良いわね?」
「は、はい、ありがとうございます!」
 尻尾があったら振っただろうと思えるくらいに、喜び満面で答える三下。だが、麗香はただ何かをじっと考え続けていた。
「‥‥行く前に、草間興信所に寄るわよ。草間の仲間の助けが必要かも知れない‥‥」




シュライン・エマ ●待人達



『この電話は、電源が切られているか、または電波の届かない所にあるため、お呼び出しできません‥‥』
 何度かけても結果は同じだった。
 シュライン・エマは、事務所の黒電話の受話器を戻し、溜息と共にその名を呼ぶ。
「武彦さん‥‥」
 エマが事務所に泊まり込み始めて、もう一週間が経った。帰ってくるだろうと思っていた草間は帰ってこず‥‥他に、草間の知り合いの渡橋十三も帰っては来なかった。
 と‥‥その時、事務所への来客を告げるブザーが鳴り響く。エマは何も言わずに走り、ドアを開けた。
「‥‥‥‥」
 期待に上気した顔が、落胆の色に染まる。その前で、風見璃音が心配げな表情を作る。
「草間はまだ帰らないのかい?」
 エマは、無言で頷いた。璃音は、溜息をつきながら事務所に上がり込む。
 中には既に先客が居た。
 三角田藍子と陣内十蔵。御堂まどか、サイデル・ウェルヴァ。そして、銀色の子狐。子狐は、エマが油揚げをやっても食べないで、ただ何かを待つ様に玄関口に丸まっている。
「渡橋さんが『思い出』。『人生の転機』で誰か知らない人が。『後悔』で草間さんと帰昔線の駅で知り合った人。草間さんは『辛い過去』で。後は草間さんに馬鹿な事言ってた奴が『忘却の彼方』。『前世』では誰も降りなかった。そして‥‥残りのみんなは『現実』に」
 メモ帳に、陣内から聞き出したままに何処で誰が降りたかを記録した藍子。
 意外に、一周して現実まで戻ってきた者は多かった。降りる直前で気が変わったり、過去よりも帰昔線自体の存在に夢中になってしまった者達が降りなかった為だ。
 その藍子のまとめを聞き、サイデル・ウェルヴァが苛立たしげに口を開く。
「草間を見損なったよ。全く‥‥本職が目的をはき違えてどうするんだい? 元々の依頼は帰昔線の捜索‥‥そして、探したそれがまさしく帰昔線なのかの立証が重要なんだろうに。帰昔線に乗ったり、過去に帰ったりなんてのは、依頼の中に入っちゃいない。ましてや、それで行方不明なんぞになってりゃあ世話無いじゃないか」
 言われてみれば確かにその通りで、余計な事をやって仕事の完遂が危ぶまれるような状況にしてしまった草間は、探偵失格と言われても何も言えない。
「なるほどね。依頼人からの、深入りするなって言うメッセージはそう言う事か‥‥」
 璃音は納得して頷いた。捜索が目的ならば、それ以上は言うまでもなく深入りだ。ならば、忠告してきたという事にも納得は行く。
 ただ‥‥そこまでだ。
 璃音が抱いていた疑問は、確たるものとなりつつあった。それは‥‥
「となると‥‥やっぱり、依頼人は知っていたんだろうね。帰昔線が何なのかをさ。だってそうだろう? 知らないなら、危険を警告なんて出来やしないからね」
「それは前提さ。知っていて‥‥調査を命じた。理由はわからないが、あたしらの知るべき事じゃないね」
 ウェルヴァが、璃音に答えて言う。
 その時‥‥来客を報せるベルが鳴った。エマがまた駆けていき、ドアを開く。
「あ‥‥貴方は」
 そこに立っていたのは、肌も露わなドレスを身に纏い、黒猫を胸に抱いた女性‥‥全ての始まりであった、高峰沙耶だった。
「‥‥今日は、報酬をお持ちしました。草間探偵は‥‥いらっしゃらないようですね」




●過去の中の草間


 新宿駅‥‥草間がかつていた頃の新宿駅は、現在のモノとは様相が少し違う。草間は、駅内のソバ屋に入り、キツネソバをすすりながら競馬新聞を眺めていた。
「‥‥さすがに覚えてないな」
 記憶を頼りに買った馬券の的中率は半々といったところ。やはり、よっぽど印象に残っているレースでもなければ、当たりを思い出す事は難しそうだった。
「しょうがない。さっさと元の世界に戻るか」
 帰り方など知る筈もないが、何としてでも探し出す。草間はそう決めると、残りのキツネソバを平らげにかかった。
 と‥‥そこに、コップが一つ差し出される。
 草間の視線はキツネソバから水を満たしたコップから移り、さらにそのコップを持つ者へと移っていった。
 そこに立っていたのは若い女性‥‥和泉蓮。彼女は、苦笑めいて微笑むと草間に言った。
「‥‥久しぶり」
「‥‥俺とはまだ会っていない筈だ」
 草間は記憶を探り、答える。
 そう‥‥彼女と会うのは、これからだいぶ後の事。恋人の死に自暴自棄になった彼女が引き起こした事件が発端で‥‥
 そこまで思い出し、草間はある事に気づいた。
 彼女の雰囲気がまるで違う。草間の知っている彼女は、常に死への憧憬を秘めたようなところがあった。だが、今、目の前にいる彼女にはそれが全く見受けられない。
 草間は蓮に聞いた。
「俺を知っているのか?」
「ええ‥‥でも、まさか‥‥」
 蓮も驚きに言葉を失い、草間としばし視線をぶつけ合う。そして‥‥蓮は一言一言、確かめるかの様に言った。
「そう、私は帰昔線の元乗客。貴方に、この意味がわかる?」
 草間は何も言わずに頷く。それだけで十分だった。連は全てを納得したように息をつく。
「帰昔線も‥‥たまには線路が交わる事があるのね」
「偶然とは言えないだろう。俺は、君も気になっていた。ある日消え、幾ら探しても見つからなかった君を‥‥帰昔線とは気付かなかったけどな」
 完遂できなかった仕事の一つ。ただ、蓮の様子が尋常ではなかったために気になっていた。実際、今日会うまでは、自ら命を絶ったのではとさえ考えていたのだ。
「‥‥複雑な気分だわ。じゃあ、私は私の世界の私なのかしら? それとも、貴方の世界に投影された私という存在なのかしら?」
「どう言う事だ?」
 謎かけのような蓮の言葉に草間は戸惑う。
 蓮は、苦笑混じりに言った。
「帰昔線に乗って過去を変えると、その度に新しい世界が生まれるの。元居た現実から私が消え、私が生んだ現実に私は導かれる‥‥それが、帰昔線で過去を変えると言う事。だからきっと、私は貴方の世界の中に生まれた、私の写し身なのね。考えてみれば、無限に分岐する世界の中で、巡り会うなんて事は有り得ないわ」
 つまりは‥‥今ここにいる蓮は、本物の蓮ではない。草間の世界の中に存在する、過去に渡った蓮という存在‥‥だが、偽物ではない。
 同じ命を持ち、同じ体験をした蓮‥‥ここにいる蓮は、草間が過去に渡ったことにより生まれた世界の蓮だというだけだ。
「まあ良いわ。貴方が私に会いたいと思ってくれていたと言うだけで嬉しいもの‥‥じゃあ、私は私の役目を果たさなくちゃね」
 蓮は、改めて草間に向き合い、真摯な表情を浮かべる。
「‥‥私は幸せよ。この現実には、あの人が居る。あの人と共に失った全てがある‥‥たとえ夢であっても、それは否定できない。この気持ちは、本物の私も同じ筈よ」
 連の表情は、微笑みへと変わった。
「本当に夢みたいよ。今も、たまに思うわ‥‥夢を見ているのかもって。最初に帰昔線に乗ったあの日から、醒める事の無い夢を‥‥」
「醒めない夢ならそれは夢じゃないさ」
 返す草間の言葉‥‥草間は、口元に僅かに笑みを乗せ、立ち上がる。
「それが聞けて良かった。これで‥‥思い残す事は無い」
「‥‥帰るのね? 途中まで送るわ」
「送る?」
 怪訝そうに見返す草間に、蓮は言った。
「‥‥帰昔線に乗る所までは行けるの。この時代の新宿駅からでもね」




●答


「黒服‥‥ねぇ。それだけじゃ、何もわからないわね。私の研究所とも何の関係もないし」
 エマの問いに答え、沙耶は言った。
 沙耶は今、応接セットのソファに座り、草間の関係者から問われるままに答を返している。
 薄く笑みを交えているため、どうもその言葉は信用できない。
 黒服の件については、少なからず知らないわけではないが、自分達に教えるべき事でもないと‥‥おそらくはそう言う事だろうとエマは推測した。
「そうよ。賢いわね」
 エマに、沙耶はニッコリと微笑みかける。まるで、心を読んだかのように。沙耶の胸の中の黒猫が、エマの目を見据えて小さく鳴いた。
「で‥‥聞かせて欲しいんだけど」
 璃音は、何故かその小さな黒猫の瞳が怖くて目をそらしながら、沙耶に核心をつく質問をする。
「あんたは帰昔線を知ってる‥‥そうだね? あれは、いったい何なんだい?」
「‥‥それを調べるのも、貴方達の仕事でしょう?」
「草間が帰ってこないんだ! そんな悠長なことを言ってる場合じゃない!」
 静かに答えた沙耶に、璃音は怒鳴り返す。
 殺しかねない勢いのその怒声を受け‥‥だが、沙耶は一向に堪えた様子もなく言葉を返した。
「迷い家を知っているかしら? 山奥で道に迷った人の前に現れる家。帰昔線はあの一種よ。つまり、人の願望が集合した存在」
 古い妖怪を例えに出され、璃音は頷く。
 同じ山に住むアヤカシ‥‥知らないわけではない。お目にかかった事は無いが。
「確かにそう言ったアヤカシも存在した‥‥でも、あれは霊力に満ちた山の中の話だ。人の行き交う新宿駅に何故‥‥」
「新宿駅に一日何人が訪れると思う? 75万人‥‥それだけの人が、限られた土地の上を通過する。当然、大量の人の気が集うわ。そして線路‥‥道は人外のモノの通り道でもある。なら、数十の線路が集まる新宿駅には、多くの霊的存在も集うと言えなくて?」
 言われてみるとそんな気もする。特に帰昔線が人々の想念で生まれたとするなら、人々が多く集うというのは必須の条件だろう。
「何か霊障があるわけじゃないし、霊気の様な形もとらないから誰も気付かないけど‥‥恐ろしい程の力が新宿駅には蓄えられているのよ。とは言え、そう言う場所は、新宿駅に限らず何処にでもあったりするのだけど」
 クスクスと笑い声を漏らして、沙耶は笑んだ。
 と‥‥そこへ、藍子が聞く。
「そんな事、どうでも良い。草間さんを帰昔線の中から連れ戻す方法は無いの?」
「‥‥帰昔線を消すしかないわね。そうしないと、草間探偵は‥‥そして、この世界から消えてしまった人は帰ってこない」
 沙耶は軽く答えた。だが、帰昔線を消せと言われても、何をどうすればいいのか‥‥
 皆の困惑を見てか、沙耶は勝手に答えだした。
「帰昔線の先頭‥‥全ての夢が集う所に核となる存在があるはず。それを、今私達が居るこの現実の住人である誰かが壊せばいい。そうすれば他の現実は砕け散り、その現実の住人となっていた人々は帰ってくるわ」
「危険は? 危険が予想されるなら、その話くらいは聞かせてくれて当然よね」
 沙耶の答を受け、エマが疑問をぶつける。
 ‥‥最初の時は、何も教えなかったのだから‥‥さすがに、その言葉は心の中で握りつぶした。
 エマの前、沙耶は哀れみの色を添えてクスリと笑う。
「危険なら止める? そんな考えなら止めた方が良いわ。それに‥‥帰昔線に乗って過去を修正して幸せな自分の現実を生き始めた人々を、元の現実に引きずり戻してしまうと言う事だけは忘れないようにね」
 帰昔線で過去に帰った者達は、過去を修正し、多くは幸福を得ている筈だ。そんな彼等を、再びこの現実に引き戻す事は、正しい事なのだろうか? 偽りの幸福と決めつけるのは容易い。過去に耽溺する者として嘲るのもまた‥‥だが、彼等を裁く権利が誰にあるというのだろうか?
 沙耶はそんな問いかけを皆に発していた。




●時の樹


 運転室。その前に雫は立った。
 電車を色々と探り回りながら先頭車両にまで歩いた雫は、ついにそこについたのである。
「ここが最後ね」
 言いながら、雫はドアに手をかけた。そして、一気に引き開けようとする‥‥と、その時、ポンと雫の肩が軽く叩かれる。
「ねえ」
「うきゃああああああ!?」
「わ、なになに!?」
 驚いて振り返った雫の後ろにいたのは紫月六理だった。だが、雫は六理の事を知らない。
「えと‥‥誰?」
「ああ、雫ちゃんだよね? あたしは紫月六理。チャットで、今日一緒に帰昔線に乗るって約束したよね?」
 六理が自己紹介し、それでようやく雫は相手に思い当たる。
「あ! ああ、ああ、ああ。そっか〜紫月さんだね?」
「あ、六理って呼んで。で‥‥何してたの?」
 六理は、自分の呼び方の事をちょっと訂正してから、雫の手元を覗き込む。雫の手は、まだしっかりと運転席への入り口にかけられたままだった。雫は、ばつが悪そうに笑う。
「入れないかなと思って」
「怒られるよ〜?」
 言いながらも六理は、雫の手に自分の手を重ね、一緒に入り口に手をかけた。
「でも、覗いてみたいよね」
「だよね〜☆」
 二人は、一緒になってドアを引っ張る。次の瞬間、ドアは激しい勢いで開き、大きく口を開いた。
 そこには‥‥終わりのない広大な空間が広がっていた。
 果てしない遠くを見通せるのに、闇が泥濘のごとく空間を満たしている。何かが渦巻き、うねっていた。だが、そこには何一つ存在していない。神々しさと、禍々しさを同時に感じた。
「何‥‥これ?」
 雫は呟く。
 その空間にあるものは、全てが知覚の範疇の外に存在していた。存在はしている‥‥だが、それはあまりにも巨大過ぎて認識する事が出来ない。
 呆然としながらも足を踏み出す雫。後に続く六理。二人は、背後でドアが閉まったのにも気付かないまま、呆然と辺りを見回していた。
 闇が確かにそこに存在しているのを感じる。無色透明な闇が‥‥
 手を伸ばすと、手の先が透明な闇に閉ざされ見えない。
 六理が無意識のうちに雫の手を握って呟く。
「ここ、いったい何処?」
「赤の王様の夢の中さ‥‥アリス」
 小さくマッチをする音がした。何もない闇の中、黄色い光が草間の姿を照らし出す。
 火はタバコに移され、辺りにまた闇が戻ると小さな赤い光だけが見えるようになった。
 草間がタバコを吸う。その時だけ強くなったタバコの火の放つ光が、草間の顔の下半分だけを浮かび上がらせる。
「じゃあ貴方は、タバコ好きのチェシャ猫?」
「そんな上等なものじゃないよ」
 言い返した雫に、草間の苦笑する声が聞こえた。
「ここも不思議の国じゃない。過去と未来のつながるところ‥‥夢と現実の狭間。そんなところだろう。明かりをつけてみな‥‥面白いものが見られるぞ」
 雫は言われた通り、ポケットの中からペンライトを出して光をつけてみる。光は無色透明な闇を払い、見えなかったものを照らし出した。
 巨木‥‥全てを覆い尽くすような巨木がそびえ立っている。僅かな光を受けただけで、それはその全身を淡く光らせた。
 無数の枝を伸ばしたそれは、圧倒的な存在感を持ってそこに存在している。
「これ何‥‥」
 六理は呆然とそれを見上げ、それが宇宙の全てを覆っているのだという半ば馬鹿馬鹿しい直感を、確信として得ていた。
「時の樹です。無限に存在する枝の一つ一つが、『有り得た時間』を現しています。無論、観念的な存在でしかありませんが」
 六理の漏らした言葉に答えたのは、見えない闇の中からその姿を現した車掌。彼の纏う闇は、見えない闇の中で彼の姿をくっきりと浮かび上がらせている。
 彼の答を受けて、雫は言う。
「時の樹‥‥世界を支える樹。ユグドラシル」
「何だ?」
「神話。何にも知らないのね、おじさん」
 雫は、草間に向かってさも絶望的だと言わんばかりの溜息をついて見せた。
「神話‥‥ね。何でも良いさ。ともかく、ここまで来た以上、これから先はない‥‥ここが、帰昔線の終着駅だ。そうだろう?」
「‥‥そうですね。お客さんは、四つから一つを選択する事が出来ます」
 草間に問われ、車掌は答える。あくまでも事務的な態度は崩さないままに。
「一つは、このまま皆さんの作り替えた世界に戻る事。一つは、このまま電車へと帰り、新たに過去を変えに行く事。もう一つは、ここで永劫に時を過ごすことです」
「ちょっと待って! 六理はどうなるの? まだ、六理は過去を変えてないよ?」
 六理が話に割り込んだ。そう、六理はまだ過去を変えてはいない。それよりも先に、ここに入り込んでしまったのだ。
 彼女に、車掌は指を4本立てて見せ、一つ一つ折り曲げながら言った。
「‥‥お客さんは、元の現実に戻る事が出来ます。もちろん、電車に戻って過去へ行く事も。そして、永劫にここに残る事も出来ます」
「で‥‥最後の一つは?」
 六理が更に問う。車掌は、何と言う事もなく答える。
「お客さんは、この時の樹を切る事で、この帰昔線の存在を消し去る事が出来ます。そして、他のお二人は、同じ事をする事で、皆さんの書き換えた過去で現実を織り直す事が出来ます」
 ‥‥改変された過去を寄り合わせ、現実を織り直す。それを成せば、過去を変えた全ての人々は新たなる世界の中で生きる事が出来る。不安定な『枝葉の世界』が揺るぎ無い幹に取って代わるのだ。
 しかしそれは、草間達がかつて居た現実の崩壊と消滅を意味する。そこに住まう人々が消滅し、新たな歴史の中を生きていた同じ人々が生まれる結果となる。すなわち‥‥全ての人間が、強制的に歴史の変革に巻き込まれるのだ。
 自意識のないままに、不幸に身を落とす者も居るだろう。今まで幸福だと感じていた事を、気付かぬまま奪われる者もあるだろう。場合によっては、消滅する者もいるかも知れない。
 過去を変えた者達に、他者を巻き込む権利があるだろうか? それは‥‥どうなのだろうか。
「変えられた過去が、現実となる‥‥か」
 草間の脳裏に、和泉蓮の最後の笑顔がよみがえる。夢は醒める。醒めない夢ならそれは夢じゃない‥‥なら、夢の中の彼女にとって、夢は確かに現実だったのだ。
 草間は思考に耽る。そして‥‥決めた。
「で‥‥どうやって切れば良いんだ? 時の樹という奴を‥‥」
「ちょっと待って! そんな事して良いの!?」
 雫は驚いた。勝手に、そんな事をして良いのだろうか? でも‥‥みんなが幸せならそれでも良いのかも。でも‥‥
「‥‥‥‥みんなが幸せにはならないのかな」
 雫と同じく、六理も迷っていた。彼女は、過去を変えに来たのだ。結局、それは大本の現実を変える事にはつながらない。変えるなら‥‥それは、大本の現実を巻き込まざるを得ない。
 その時、車掌が最初の草間の問いに答えた。
「時の樹は意志の力で切ります。時の樹に触れ、貴方が望めば‥‥樹は倒れるでしょう。ですが、今まで誰も時の樹を倒した者はいないのです」
 車掌は‥‥言う。
「無限の時間の奔流の中、誰が正気を保っていられます? 時の樹を切る者には、それに打ち勝つ強い意志が必要なのです」




■次回東京怪談

 帰昔線を消す/現実を織り直す

<作者より>

 帰昔線はタイムパラドックスを、パラレルワールドを無限に派生させる事によって解決してます。って、SFかこれは。

 さて、次回は最終回。すべき事は選択です。
 現実を守る為、そして過去に消えた人々を呼び戻す為、現実に残った者が時の樹を切る。
 改変した過去を真実の歴史と変える為、過去へ戻った者が時の樹を切る。
 どちらが正しいだなどと野暮な事は言いません。どちらも誰かを犠牲にします。誰かを不幸にします。そのどちらかを選択するのが、次回に求められる事です。


●過去へ消えた人達へ
 過去で何が待っていたのか‥‥それには敢えて深く触れませんでした。ただ言える事は、そこに暗い運命は用意されていないと言う事です。
 より良い過去を掴むのも、過去で更に挫折するのも、皆さん次第です。帰昔線は、そこにまでは一切関与しません。

 なお‥‥草間達のいる場所、つまり時の樹の元まで行く事は可能です。新宿駅(もしくは、これから新宿駅の出来る場所)へ行き、帰昔線に乗って電車の運転室を目指せばよいのです。


●悲しい事。
 トップページイラストで、高峰沙耶のオマケの黒猫は目立っているのに、碇麗香のオマケの三下君は何処にも居ない。
碇:「‥‥人間が猫に負けるなんて、うちの雑誌の恥よ。さんした君、やっぱりクビ」
三下:「へんしゅうちょおおおおおおおおおおぅ!(爆泣)」



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