【タイトル】 IN THE MOOD ―分岐点―
【執筆ライター】 高原恵
【参加予定人数】 1人〜
オープニング /ライターより /共通ノベル /個別ノベル


●「海キャンプ」 オープニング

 浜辺のキャンプ2日目――参加した生徒たちは、去り行く夏休みに悔いを残さぬためか、各々自由に遊んでいた。ちょっとその様子を見てみよう。

「よーし、泳ぐぞ!!」
「おうっ、競争だーっ!!」
 気合い十分に、水着姿で海へと突入する者たちの姿がある。くらげが出ていたりするのに、元気なことである。頭のいい者はその対策もしているようだが。
「いーーーーーーてーーーーーーーっ!!」
 今の叫び声は頭の悪い者のものだろう、たぶん。

「ふはははは! 釣るぞっ! 今夜のおかずを釣って釣って釣ってやるーっ!!」
 皆の期待を背負い、岩場で釣りに燃える者たちも居た。安い釣り竿を持つ者やら、お前はどこぞの釣りバカかいなんて言いたくなるくらい専門的な道具を持ってきている者だって居る。
「なーにが釣れるかなー♪」
 ほんと、何が釣れるんでしょうね?

「海か……何もかも皆、懐かしい」
「あんたはどっかの艦長かい。危険なネタだねー」
 雄大な海をただ眺め、新学期前に心身をリフレッシュしようとしている者だって居る。写真を撮ったり、ビデオカメラを回したり、絵を描いている者まで居た。
「うーみーがーすーきーっ!!」
 もちろん海に向かって叫ぶ者が居るのもお約束である。
「ふっふっふ、ヤマ……」
「だから危険なネタはやめんかいっ!!」
 ……変わり者も混じっているようだが、気にしないように。というか、気にするな。

「ね、向こうに洞窟あるんだって? ちょっと探険してみる?」
「賛成!! せっかくだもんねー☆」
 なんて言いながら、近くで見付かった洞窟を探検しに行く者たちも居る。その中には、瀬名雫や影沼ヒミコの姿も見受けられたのは気のせいだろうか?
 いや、気のせいではないだろう。あの2人、こういうことするのが好きなのだから。もっとも、それで痛い目に遭うことだってゼロではなく……。

「せっかくだ。夕食に向けて、何か料理をじっくりと作ろうじゃないか」
 何を思ったか、海に来て料理に目覚めた者たちも居た。カレー、シチュー、味噌汁、バーベキュー……色々と何を作るか案が出ている。
 まあ普通に作れば、十分食べられる物が出来るだろう。特にカレーなんて、その代表かもしれない。
 だが――時間があると余計なことをしちゃう者だって、ちらほら居る訳で。例えばカレーにさといもやこんにゃく入れたり、とか。
 まともな料理が出来上がるか、非常に見物である。

「……なーにやってんのかね、あの人は」
「は? 誰のこと言ってんの?」
「生徒会長。ほれ、向こう歩いてるだろ」
「ああ、ほんとだ。何やってんのかな」
 そんな中、とある生徒2人が砂浜を歩く生徒会長の繭神陽一郎の姿を見付け、その行動を少し訝しんでいた。
 それというのもだ。昨日から陽一郎が居ることは何度も姿を目撃しているから確かなのだが、泳いだり釣りをする訳でもなく、誰かと遊ぶでもなく、1人で海岸をぷらぷらと歩いているだけなのだ。
 もちろん2人が見ていない時に別の所へ行ったり、何かしているかもしれないけれども、2人とも他人の行動が全て分かるのであれば学校なんか通ってない。今頃は『よく当たる占い師』なんて触れ込みで、稼ぎまくっていることだろう。
「そういや、夕べ何か石みたいなの拾ってるの見たぞ」
「海岸の美化活動?」
「まーさか。そういうことするキャラか、あれ?」
「んじゃ、何やってるか聞いてこいよ」
「何で俺が!」
 と、2人がちょっと揉め始めた頃、陽一郎は砂浜に身を屈め石を1つ摘まみ上げていた。石は太陽の光に照らされ、きらり光っていた。
「これで海岸で見付けた3つ目、か。……今までの分と合わせてようやく5個。先は長いかな」
 その陽一郎のつぶやきを聞いた者は、きっと居ない。

「ふふ、皆楽しんでるね……」
 月神詠子は楽しむ皆の姿をきょろきょろと見ながら、やや満足げな表情で砂浜を歩いていた。
(お膳立てした甲斐があったよ、ボクも)
 詠子がそう思った瞬間だった。鈍い痛みにも似た感覚が、詠子の身体に走ったのは。
「……く……」
 目元を押さえ、立ち止まる詠子。しばしそのままじっとしていたが、ややあって手を目元から外して大きく深呼吸した。
「ふう……またか……」
 調子でも悪いのだろうか。こういうことは、初めてではない様子であった。
「月神さん、遊ぼー♪」
 誰かが、そんな詠子に声をかけた――。

 さて、あなたは何をして楽しんでいますか?




●ライターより

〈ライター主観による依頼傾向(5段階評価)〉
戦闘:1/推理:?/心霊:?/危険度:1
ほのぼの:4/コメディ:4/恋愛:?
*プレイング内容により、傾向が変動する可能性は否定しません
*オープニングに出ていなくとも、神聖都学園の有名人8人+三下忠はこの場に居るものとしてプレイングをしていただいて結構です
*オープニングで触れていない物事をしていただいても結構です
*一見関係のないことに見えても……?



●【共通ノベル】

●神の視線、あるいは孤独な瞳【1】
 海辺の某所――銘々に海を楽しむ一同を、俯瞰的立場より見つめている女子生徒の姿があった。
(……楽しそうだな……)
 2年C組に在籍する女子生徒、ササキビ・クミノはその俯瞰的立場から皆の姿を見つめていた。ここからだと、皆の楽しそうな様子がよく見えるのである。
 だがしかし、皆からクミノの姿はまず見えないことであろう。1人きりで居るクミノの姿は。
 クミノが何処に居るのか……分かる者が居るかどうか、不明である。

●お誘いです♪【2】
「月神さん、遊ぼー♪」
 と、声をかけられた月神詠子はそちらの方へと振り向いた。そこに立っていたのは水着姿の2年C組・海原みあお。長い銀色の髪や水着が濡れていない様子からすると、まだ海には入っていないようだ。
「遊ぶって……ボクと?」
 詠子がそう聞き返すと、みあおはこくんと頷いた。
「目の前に居るの、月神さんだけでしょ?」
 確かにみあおと詠子のそばには他に誰も居ない。みあおが詠子を誘っているのは明白だ。だいたい、名前をちゃんと呼んでいるではないか。
「……奇特だね、キミ」
 しばしみあおの顔を見つめた後、くすっと笑みを浮かべる詠子。
「分かった、いいよ。キミに付き合うよ」
「はい、決定ーっ! それじゃ、行こ行こ♪」
 言うが早いか、みあおは詠子の腕をぐっとつかみ、どこかへ連れてゆこうとした。
「どこに行くんだい?」
「色々だよっ☆」
 詠子の問いかけに対し、みあおは満面の笑みを浮かべて答えた。そして砂浜を歩き出そうとした時、2人は向こうから走ってきた上下ジャージ姿の小柄で坊主頭の男子生徒と擦れ違った。
 何気なく視線を黙々と走る男子生徒の方へ向ける2人。同じく男子生徒を見かけた生徒の一団の会話が耳に届いてきた。
「お、あれ野球部の渡橋だろ?」
「ほんとだ。最後の大会終わって、キャンプに来ても練習かあ……頑張るよな、あいつ」
「ねえねえ、渡橋くんっていくつか引きあるんでしょ? 今も練習してるってことは……でしょー?」
「んー、俺は聞いてねーけど、大会でのあの投げっ振りならあってもおかしくねーんじゃね、やっぱり?」
 男子生徒――野球部投手の3年A組・渡橋十三について、あれこれと話が盛り上がる一団。
「へッ……へ……へェッくしョいッ!!」
 遠ざかる十三の方から盛大なくしゃみが聞こえてきた。が、走り込む十三の足は止まらない。止まったのは、一団の会話の方であった。そりゃもう、ものの見事にぴたりと。
「……色々?」
 十三を指差し、みあおに尋ねる詠子。
「ええと、そっちの系統じゃなくて……とにかく行こうっ!」
 みあおはぐいぐいと詠子を引っ張っていった――。

●火は人の心を跳ねさせるらしい【3】
「よーし皆の者、火を熾せ!」
「イエッサーッ!」
「かまどの準備はいいかーっ!!」
「はいっ! 大佐殿、かまどは大丈夫でありますっ!!」
 料理を行っている一団の中より、そのような威勢のいい声が聞こえてきた。
 念のために言っておくが、ここは軍キャンプではないし、どこぞの特攻野郎たちが集まってる訳でもない。声を発したのは、れっきとした神聖都学園の生徒たちである。
「たく、サバゲー同好会の連中は……」
「ほんとほんと。何が『大佐殿』よ」
 妙に盛り上がる数人の男子生徒に冷ややかな視線を向ける女子生徒2人。どうやら先程の声は、サバイバルゲーム同好会の連中によるものらしい。
「まあまあ、そんなに目くじら立てずに。やるべきことはきちんとやっているんですから」
 女子生徒2人にそう言ったのは、三つ編みで下がスパッツの体操服姿の上にエプロンをつけた2年C組・天薙さくらである。手には濡れた包丁を持っていた。
「それよりも、手が止まっていますよ?」
 にこっと微笑み、女子生徒2人に言うさくら。慌てて包丁を握る手を動かす女子生徒2人。
「あ、ごめんなさい」
「はーい、分かりましたー」
 妙な盛り上がり方をしていても、今の所サバイバルゲーム同好会の男子生徒たちは普通に火を熾しているのだから特に問題はない。やるべきことを疎かにしているのではないのだから。
 さてさてこの料理の一団だが、興味ある者たちが自然と集まってきて、学年クラスごちゃ混ぜの状態であった。まあ、だからこそサバイバルゲーム同好会の連中も混じっている訳だが。
 そんな中、自然と作業の中心を担うことになったのは、今の会話を見ても分かるようにさくらであった。
 皆に指示を与えたりフォローしたりしつつ、自分の作業もきちんと行っていたのだから、当然の流れである。
 調理作業はほとんど女子生徒が中心となって進められていた。大部分の男子生徒はというと、先程のサバイバルゲーム同好会の連中みたくかまど作りをしていたり、釣りや素潜りなどで海の幸を獲得してこようという者とで二分されていた。
 調理作業は現在、下準備の段階。食材をさばき、下味をつけたりしている段階だ。煮るのも焼くのも蒸すのも、火が熾らないことには出来ないのだから、向こうの作業待ちである。
 そうなると、待つ間に下準備も念入りなものとなってゆく。例えば食材の隅々まで塩こしょうを擦り付けたり、とか。
「ねえ、寒河江さん。そっちにあるこしょう取ってくれる?」
 ちょうどその作業中であった女子生徒が、調味料置場の近くに居た2年B組・寒河江深雪に向かって声をかけた。何しろ女子生徒、手が塩まみれである。自分で取る訳にはいかなかったのだ。
「…………」
 しかし深雪は聞こえていなかったのか、ぼうっと海の方を見つめていた。再度女子生徒が深雪の名を呼んだ。
「……寒河江さん!」
「はっ、はいっ!?」
 びくっと身体を反応させ、振り向く深雪。視界に入ったのは、ちとご機嫌が斜めになった様子の女子生徒の表情であった。
「そこのこしょう取ってくれる?」
「え、あ……これですね」
 慌ててこしょうの瓶を手にし、深雪は女子生徒の方へそそくさと向かった。
「考え事してたの?」
「いえ……その……ちょっと暑くって、ぼうっとしてたかな……なんて。あはは……」
 こしょうの瓶を手渡した時に投げかけられた質問に、深雪は少し困ったような笑顔で答えた。
「あー、分かる。今日も暑いもんね……」
 と言って、額の汗を拭う女子生徒。その時にはもう女子生徒に背を向けていた深雪は、誰にも分からぬくらい小さな溜息を吐いていた。

●探険しましょ【4】
 場面は変わって、浜辺から少し入った森の中。わいわいがやがやとどこか目指して歩いてゆく、懐中電灯を手にした男女混合の生徒の一団があった。
「もう少し先にあるって聞いたんだけど」
 自分たちが歩いている方角をまっすぐに指差し、2年C組・瀬名雫が皆に言った。
「雫ちゃん、でもそのお話は誰から聞いたんです?」
 素朴な疑問を口にしたのは3年A組・影沼ヒミコである。そう言われてみれば、洞窟があるとは聞いたが誰がそれを見付けたのかは聞いていない。いったい誰が見付けたのか?
「え、言ってなかったっけ? サバイバルゲーム同好会の人たちが教えてくれたんだよ」
 情報源はそいつらですかい。
「ゲームやってる最中に、たまたま見付けたんだって。あ、まだ中には入ってないって言ってたよ?」
「つまり、私たちが最初に中に入ることになるんですね」
 確認するような口調で、雫とヒミコの会話に割り込んできたのは、雫の同級生である天薙綾霞だ。
 男子生徒はともかく、女子生徒は皆水着の上にパーカーなりTシャツなりを羽織っていた。もちろん綾霞もパーカーを羽織り、長い黒髪が邪魔にならぬようポニーテールに結んでいた。
「今までのお話からすると、そういうことですよね」
 指折り数え、ヒミコが言った。まあ正確には『最初に』の前に『生徒たちの中で』とつくのだろうが。
 と、その時、思い出したように雫が綾霞に言った。
「あれっ? 綾霞ちゃん、さくらちゃんのお手伝いしなくてよかったの? さくらちゃん、お料理してなかったっけ?」
「さくら姉さんの料理の邪魔にならないように、と思って。人が多すぎても邪魔になるだけですもの」
 にこ、と雫に向かって微笑む綾霞。さくらは綾霞の双子の姉なのだ。
「へー、ちゃんと考えてるんだね」
 雫は感心した表情を見せていたが、後ろの方から何やらひそひそと話し声が聞こえてきていた。
「逃げたのね……」
「きっと逃げたんだぜ……」
「否応無しに手伝わされるからよ、絶対……」
「あいつ料理プロ級だもんな……」
 そんな会話を交わしていたのは、雫や綾霞の同級生たち。言うまでもなく、さくらとも同級生である。
「――何か?」
 くるりと同級生たちの方を向き、にっこりと微笑む綾霞。その笑顔を見た途端、同級生たちは一斉にふるふると頭を振った。
「見えてきました!」
 ヒミコの声だ。見ると、前方に洞窟がぽっかりと口を開けて一同の到着を待ちわびていた――。

●冗談か本気か、それが問題だ【6A】
(んー、あれなら大丈夫そう……かな?)
 水着の上からパーカーを羽織っていた2年A組のシュライン・エマは、西瓜割りに興じる一団を目を細めて見つめていた。
 その中には、今まさに目隠しをされて割り手とならんとする詠子の姿があった。
「あ、回されてる」
 寄ってたかってぐるんぐるんと回転させられる詠子。一番詠子を回しているのがみあおなのは、気のせいでも何でもなかった。
 先程シュラインが詠子を遠目に見かけた時、詠子は頭が痛そうにしていた。行って声をかけようかと思ったのだが、先にみあおが詠子に声をかけてどこかへ連れていってしまったのだ。
 で、砂浜を歩いている最中に詠子を見付けたのが――西瓜割りに参加していた所、という訳だ。
(……いいなあ……)
 見ているうちに、身体がうずうずとしてくるシュライン。正直言って、西瓜割りに参加したいのだ。だが周囲から『あんたはやるな!』と、きつく止められているのであった。それがどういう意味を持っているかは推して知るべし。
(ああ、ダメダメ。見てるとやりたくなっちゃう)
 シュラインがくるんと西瓜割りに背を向けた。正しい判断である。西瓜割りが視界に入らなくなった代わりに新たに飛び込んできたのは、生徒会長である2年B組の繭神陽一郎の姿であった。
 陽一郎はジャージ姿で砂浜を歩いており、時々足を止めては身を屈めて何かを摘まみ上げているようであった。
(……何してるのかしら?)
 首を傾げるシュライン。先程もちらと見かけたが、どうにも陽一郎の行動は妙なのである。この海キャンプを楽しんでいるようには見えないのだ。
 自然と陽一郎の方へ向くシュラインの足。距離は次第に縮んでゆく。
「何してるんですか?」
 程よい距離になった時、シュラインは身を屈めていた陽一郎に声をかけた。陽一郎は手にしていた小石をぽいと放ると、シュラインの方に向き直り、真顔でこう言った。
「宝探し」
「……は?」
 きょとんとなるシュラインの表情を見て、陽一郎はニヤリと笑った。

●監視する者【6B】
 さて、そのシュラインと陽一郎の接触の様子を、森の方から眺めている女子生徒が居た。いや、眺めているというよりも、物陰から監視しているというべきか――。
「ターゲット、女子生徒に接触……である」
 ぼそりつぶやく女子生徒――2年A組の亜矢坂9すばる。手には古めかしくごつい双眼鏡を持ち、その姿といえば何故か制服姿。海キャンプに来ているというのに、制服姿なのである。
「心配無用、中には水着を着ているのだ」
 はあ、そうですか……って、あなた誰に向かって言ったんですか?
「気にしなくていい」
 ……そう言うなら気にしませんが、ええ。
 すばるは双眼鏡を構えたまま、じーっと陽一郎の居る方角を見つめていた。覗いてはいない、構えているだけだ。
 その目的は……すばるのみが知ることである。
 そして楽しい海の時間は、どんどんと過ぎてゆくのだった。

●夕食のお時間【13】
「シーフードカレーが出来ましたよ〜」
 太陽が水平線の向こうに全て沈んだ直後、さくらが皆に聞こえるように言った。お待ちかねの夕食が完成したのである。
 その声に、銘々海を楽しんでいた生徒たちがつらつらと集まってくる。その中には十三も、深雪も、綾霞も、雫も、ヒミコも、シュラインも、草間も、すばるも、陽一郎までもが居た。
「……これだけじゃ足りません、よね」
 集まってくる生徒たちの数を見たさくらは、エプロンのポケットから淡く光る小石を取り出し、それを見つめながらぼそっとつぶやいた。この小石、魚を裁いている途中にぽろっと出てきたのである。
 シーフードカレーは一応たっぷりとは作ったが、何せ若者たちの団体。カレー1杯くらいではお腹一杯にはならないだろう。特に男子生徒は。
 それを見越していたさくらは、並行してアサリやサザエといった貝、釣りに行った生徒たちが釣ってきた新鮮な魚などを調理していた。アサリは蒸し、サザエは壷焼き、釣った魚はそのまま焼いてしまうなど、と。さらには海草のサラダ付きである。
「うわ、美味しーっ!」
「コクあんな〜、これ」
 すでに食べ始めた者が居るようで、シーフードカレーの感想が出始めていた。コクがあるのも当然で、小えびで出汁を取って風味をつけ、そしてカレールーも複数の会社の物を混ぜ合わせて使ったのである。会社によって味が違うので、上手く合わせればよりよい味が出るのだ。
「月神さん、早く並ぼ! なくなっちゃうよ」
 ちょうど今、海から上がってきたみあおは詠子の手をぐいぐいと引っ張りながら言った。
「え、食べていいの? ボク何もしてないけど」
「皆のために作ってくれた物だもん、食べていいって♪」
 きっぱり言い放つみあお。そこにさくらの声が聞こえてきた。
「皆さん、遠慮なく食べてくださいね」
「ほら、ああ言ってるし。それにこういうのは、皆で食べるから美味しいんだよ☆」
「皆で……?」
 詠子がみあおに聞き返した。
「そ、皆で。1人じゃ寂しいでしょ?」
「……うん。そうだ、そうだね……」
 詠子はみあおの言葉に深く頷いた。そして2人もシーフードカレーを配っている列へ並んだのであった。

●願い【15】
 真夜中――月明かりの下、詠子は1人きりで砂浜を歩いていた。ただつらつらと、どこか特定の場所を目指すでもなく、砂浜を歩いていた。
「……ここが西瓜割り……」
 日中、西瓜割りに興じた場所に立ち、つぶやく詠子。2、3分その場に居たかと思うと、また少し歩き出す。
「ここでビーチバレー……」
 ビーチバレーの様子を思い返す詠子。皆で一生懸命ビーチボールを追いかけていた。途中でいきなりビーチボールがもう1つ投げ込まれ、てんやわんやになっていた。
 詠子はまたそこで2、3分立ち止まると、今度は海の方を向いた。
「夕日を受けて泳いで……」
 海に背を向け、今度は夕食のシーフードカレーを食べた場所へと向かう詠子。そこはもう綺麗に片付けられ、かまどの火もきちんと消されていた。
「……美味しいシーフードカレー」
 詠子がくすっと笑った。
「本当楽しかったなあ……」
 そうつぶやき、心底楽しそうな表情を見せる詠子。直後、詠子の表情はやや寂し気なものへ転ずる。
「……また、出来るのかな……」
 天を仰ぎ、まるで祈るかのように詠子が言った。
「…………」
 そんな詠子の様子を、物陰から陽一郎がそっと窺っていた――。

【IN THE MOOD ―分岐点― 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                 / 性別 / クラス / 石の数 】
【 0060 / 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう)
                  / 男 / 3−A / ☆02 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
                  / 女 / 2−A / ☆01 】
【 0174 / 寒河江・深雪(さがえ・みゆき)
                  / 女 / 2−B / ☆00 】
【 1166 / ササキビ・クミノ(ささきび・くみの)
                  / 女 / 2−C / ☆00 】
【 1415 / 海原・みあお(うなばら・みあお)
                  / 女 / 2−C / ☆00 】
【 2335 / 宮小路・綾霞(みやこうじ・あやか)
                  / 女 / 2−C / ☆01 】
【 2336 / 天薙・さくら(あまなぎ・さくら)
                  / 女 / 2−C / ☆01 】
【 2748 / 亜矢坂9・すばる(あやさかないん・すばる)
                  / 女 / 2−A / ☆00 】



●【個別ノベル】

【0060/渡橋・十三】
【0086/シュライン・エマ】
【0174/寒河江・深雪】
【1166/ササキビ・クミノ】
【1415/海原・みあお】
【2335/宮小路・綾霞】
【2336/天薙・さくら】
【2748/亜矢坂9・すばる】