●「海キャンプ」 オープニング
●購買部の事前レクチャー?
夏に海に行くとすれば、何がしたいのだろうか。
その命題に取り組むのは、学生時代の特権なのかも知れない。
「縦割りはどうだ!? 俺はAだから、嶋崎と同じ組だ! テントの組み分けも横じゃなくて縦割りの方が良いだろ! な?」
また何を言い出すのやらと、浦島・太郎(3−A)の発言を軽く聞き流しているのはレティシア・嶋崎(1−A)と共に購買部に昼食に来ていた雨宮・徹(2−B)だった。
「雨宮殿、いま人ごとだと思われたのではござらんか?」
「はい、海には行きますが、私は近くの方に……」
学園の行事で移動する先には彼女の訪れたかった、家族からも一度行ってきなさいと言われていた寺があるのだと語る徹に、ため息で高梁・英樹(3−B)は頭を振った。
「拙者、つきあいは長い故によくわかるのでござるが……一度言い出したら、あの人は譲らないでござる……」
「……奇遇ですね」
「?」
徹が何故かため息で返したのを不思議に思った秀樹は彼女を見た。
すると、徹は憂いとも諦めともいえない表情で、ある一点を見つめていた。
「あのねー太郎さん。一杯ご飯食べようね! レティ頑張っちゃうから!」
「をう!」
万歳と、無邪気にはしゃぐレティシア嶋崎の表情を見ていた徹は再びため息で秀樹を見上げていた。
「可哀想です」
「ええ、嶋崎殿には不快な気分にならないように厳重に注意して……」
「その逆です」
そっと、秀樹にしか聞こえないようにして徹が囁いた。
「レティシアちゃんのお料理って、そりゃもう……」
「……」
真面目な彼女が嘘を言うはずがないと、秀樹もよく判っていた。
「……拙者、先に行って病院関係だけでも見てくるでござる……」
「ええ、お願いしますね」
●下見の地で
万が一に備えてと、先に現地に向かった秀樹は休日の指定病院や連絡先などを控えて、キャンプの行われる場所を下見していた。
「いい浜風でござるな……松の林も枝振りよく……」
剣術の稽古でも始めなくなるのだが、それは置いて、彼は同じ学生服に身を包んだ人物を見つけた。
「? 生徒会長殿?」
「……君は?」
繭神・陽一郎である。
もちろん、一介の学生である秀樹のことを彼が知る由もなく、慌てて秀樹の方が頭を下げることになる。
「失礼しました。拙……自分は3年B組、高梁英樹です。ここの下見にと思ってきてみたのですが、生徒会長殿も?」
「? いや、殿といわれてもな……」
何処か時代がかった口調の秀樹をいぶかしげに見つめていた繭神はおやといった表情で秀樹の胸元を見た。
「高梁君、その胸ポケットの、それは?」
「ああ、これでござるか。拙者が散策していた浜辺で見つけたのでござるが……」
綺麗な、何処か幻想的な石だった。
何故か心に引っかかり、秀樹は石を持ち帰ろうとしていたのだ。
「浜で? そう、か……」
何か考え込んだ風情の繭神に、秀樹は一瞬言葉を失った。
「……生徒会長殿?」
「ああ、失礼。綺麗な石だなと思ってね。地学の標本にも良いなと思ったんだ」
「そうでござるか。では、また見つけたらそれはお譲りいたすで……」
その場を辞しようとした秀樹の肩に、繭神の手が置かれる。
「学園に置くと言うことで、それを貸してくれないだろうか?」
「……」
肩に置かれた手からは邪気は感じられなかったが、焦りと苛立ちのようなものは感じられた。それがあまり良くない感情であることも秀樹は十分に理解していたのだが、それ以上に会長職にある繭神の人柄を深く知らないうちに判断するのは良くないという自制が働いた。
「お貸しするのでしたら。また拙者が見つければ済むだけのことでござる」
「……ああ、済まない」
手渡しながら、加えた言葉に繭神の眉が揺れたのを秀樹は見逃さなかったが、その場は生徒会長とはそれ以上語ることなく別れて帰途についた。
「鬼とは違うでござるな……邪気はないと思うでござるが……」
何事かが起きても合宿中にはクラスメイト達もいるからと自分に言い聞かせるように頷いた次の瞬間に、秀樹は大切なことを思い出した。
「……嶋崎殿と浦島殿も一緒でござった……」
疲れ切った表情で肩を落とすその姿は、終業時刻でごった返す電車の中では見慣れた企業戦士のそれに似ていた……。
●いざ出陣! 本気で素敵? な海キャンプ
「……」
「……」
早速、バスの中で酔った風に黙り込む男女が2名。
「いいかーおまえたち! バスゲームは怖くないか!!」
「……ぉー」
「声が小さーい!」
使い古され、しかも古い台詞でつかみ損ねた浦島が挽回しようとマイクを離さないバスの中。現地でのテントの割り当てで女性陣の中に月神・詠子の名があったのだが、徹は一緒に無事に乗り切りましょう等と言って詠子を早速混乱させていた。
「訳のわからないのも道理でござるな……」
既にバスの中には乱痴気騒ぎを呈した予感が溢れている。
微妙に感じられるのは、その中でも静かに窓の外を見つめているものの存在……繭神だった。
「気のせいでござるかな……いや、しかし今はそれ以上に……」
下見に行った時よりも、繭神の表情が硬いと秀樹は感じていた。だが、事態は生徒会長の体調を考えていられる程に悠長なものではなくなっていたのだ。
「遠泳大会があるのは知ってるよな!? 夜の花火大会に続き、肝試しもある!」
「始めちゃいましたね……」
「そうでござるな……」
イベント好きの浦島が始めた、遠泳大会の覇者にお姫様からの祝福のキスだの、花火大会パフォーマンス大会、肝試し驚きキング大会と……聞いているだけで疲れそうな勢いで浦島はマシンガントークを続けている。
「いーよーーーーーーーっし! それじゃそろそろ会場だぜ皆の衆! 気合い入れて遊ぶぞーーーーーーーーーーっ!」
「「「「おーーーーー!」」」」
ついに浦島に感化された数名が腕を突き上げている。
そんなバスの中で徹、秀樹は深くため息をつくのだった。
●ライターより
・はじめまして。今回のダブルノベルでは海でのキャンプの日常に焦点を絞って皆さんの学生生活の一幕を描きたいと思います。
・基本的に浦島が吠えている内容を中心に描きますが、参加される方が居ない場合執筆対象からはずれて『あったこと』として流しますので、あえて全部に挑まれなくても構いません。
・また、キャンプにつきもののイベントも提案して頂ければ、ノベルという作品としての常識に照らし合わせて許す限り描写させて頂きます。
・NPCについても、特に考慮されることはありません。利用したい場合、話したい場合などはそれなりに行動をかけてみて下さい。
・枠は少なめにしていますが、どうしても参加したいという場合には急ぎご相談下さって連絡して下さい。可能な場合には窓を開けますので。
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