【タイトル】 あの波を越えて行け!
【執筆ライター】 とらむ
【参加予定人数】 1人〜
オープニング /ライターより /共通ノベル /個別ノベル


●「海キャンプ」 オープニング

 青い空。
 白い雲。
 真夏の陽射しは容赦なく肌を焼き、駆け抜ける熱風が潮の香りを乗せて、肌を撫で付ける。
 波が光を反射して煌く。
 遠くに見える水平線の上に沸き立つ巨大な白い雲。
 浜辺に打ち寄せる波が白い筋を幾つも描く。
 その波に乗り、カラフルなサーフボードが白波に踊る。
 歓声と、波の音。
 鮮やかに波を蹴立てるサーファー達に、陽射しにも負けないくらいの熱い視線が注がれていた。
 その光景を眺めながら月神詠子は金色の団栗眼をくるりと動かした。
 「あんな板に乗って、楽しいのかな? 僕には理解できないね」とつまらなそうに呟く。
 「まあ、あれもスポーツだからね。人それぞれだよ」と近くにいた生徒が苦笑しながら応えた。
 「ふ〜ん」と関心があるのかないのか分らない感じで鼻を鳴らしながら、月神詠子が訊く。
 「キミはしないのか?」と。
 その時。
 ふと、水平線付近から大きな波が湧き上がってくるのが見えた。
 確かに海に波はつきものだが……。
 繰り出していたサーファー達の間に歓声が上がる。
 ビックウェーブだ。
 何人かがその波に乗ってやろうと沖へと向かって板を漕ぐ。
 彼らにはよく分っていなかったようだが、浜から見ると異状なのがよく分る。
 風は穏やかではないが、それほど強いわけではない。
 波の状態にしても、高波が来る様な雰囲気は全くない。
 しかし、
 明らかに水平線より打ち寄せてくる波は、大き過ぎた。
 見る間に高さと幅を増し、空へと競り上がっていく。
 さすがにおかしい事に気が付いたサーファー達が慌てて戻ろうとするがもう遅い。
 波に巻き込まれてカラフルなサーフボードごと、天高く舞い上がる。
 
 折りしも海キャンプの真っ最中。学生がひしめいている浜辺は喧騒状態に陥っていた。
 悲鳴、悲鳴、悲鳴、
 そして悲鳴に混じって、異常事態に精神の糸が切れてしまった何人かが、ガニ股で両手を挙げて波に向って高笑いをしている。彼らに明日はないだろう。
 向ってくる巨大な波の上には、これまたプッツンしてしまった数人のサーファー達が両手を広げ板の上に立っている。
 涙を流しながらのピースサイン。
 このまま空と海の間にある世界へと行ってしまうのは、ほぼ確実だ。
 高波が立てる轟音が、地獄のマーチとなって賑やかに奏でられる。
 大惨事になるのは必至と思えたその時、不意に波が砕けた。
 大量の水飛沫は辺りに降り注いだが、高波に襲われる事に比べたら、何の事はない。
 悲鳴は少しの間浜辺を騒がしたが、後にはどよめきが残る。
 
 浜茶屋の軒下でこの様子を見ていた繭神陽一郎は、呪力を行使した為に灰になってしまったお札をふっと息をかけて吹き飛ばした。
 どうやら何か異常な力が亡霊を呼び起こしたらしい。
 見ると、一旦は鎮まった波がまた白い筋を立てて湧き上がろうとしている。
 その上には一人のサーファーの姿。
 「あれは……」
 陽一郎は彼が首にかけているネックレスに目を留めた。あのネックレスに埋め込まれているのは、間違いない──
 どうやら、あの亡霊を静めるしかなさそうだ。




●ライターより

 謎の亡霊サーファの正体を暴き、この高波を鎮めて下さい。
 これではキャンプにならないどころか、大変な事態になってしまいます。
 勝負を挑むも由、話を聞くも由。
 ただし、彼は陸には上がってきません。よほどの事がない限りは。
 また、高波の前後、ワンピース姿の少女を見かけたという情報もあります。
 目撃者の話によると、水飛沫は彼女の身体をすり抜けてしまっていたそうです。人間ではなさそうですね。



●【共通ノベル】

●本文
 降り注ぐ高波の名残を受けて光学迷彩が歪むのを見て、ササキビ・クミノは微かに眉根に皺を寄せた。
 この不可思議な学園世界に彷徨い込むようになって随分経つ。幾度か奇妙な出来事にも遭遇したが、これはかなりダイナミックだ。
 あの高波が直撃していたなら、大惨事になっていたはずだ。これが現実ではないとしても、死という事に意味がある以上、リアルの世界でも何かのリアクションは起きるだろう。精神の死か、或いは直接身体に何かの影響までもがあるかもしれない。
 どちらにせよ、このまま黙ってやられるなど自分の意に反しているし、受け入れられる事ではなかった。
 幸い、この異世界にあっても障壁の力は効力があるようだ。例え今のような事があっても、全てを無効化できるだろう。
 しかし、一体今のは何だ?
 突然高波が押し寄せたかと思えば、到着寸前には消えてしまう。尋常でない世界に、尋常ではない出来事だ。
 クミノは辺りに視線を配った。
 破壊という同じベクトルを持つ二つの力だが、発されたのはそれぞれ別なのではないかと直感が告げている。
 一つずつを潰していくしかないか……。
 まずは、この場の状況を知ることが重要だろう。
 喧騒覚めやらぬ海岸をクミノは静かに見下ろした。姿を隠し、上空に自分の身体を瘴気で固定しつつ、勘の赴くままに視線を移動させる。
 時間が経っても、地上は鎮まるばかりか騒ぎは大きくなっていくようだった。現実の世界ではないはずなのに、実際に救急車が来たりと忙しない。どこまでも現実世界の模倣をする異世界だ。
 視線を一転し、今度は海を見る。
 海岸とは打って変わって、海上は穏やかだった。時折寄せる波にはカラフルな色合いのサーフボードが舞う。
 さっきの高波が幻だったかのようだ。
「……何だって?」
 クミノは思わず視線を止めた。さっきの高波で、サーファー達は一掃されたはずだ。まさか、あの高波を乗り切った者がいる?
 だとすれば、ものすごい技量の持ち主に違いない。クミノ自身はサーフィンをしないし、したいと思った事も無い。ついでに興味も無い。しかし、これを驚かずにはいられなかった。
 目を凝らして、その人物を見る。若い男だ。といってもクミノに比べたらずっと年上に違いない。派手なスイミングスーツに身を包み、同様に派手なペイントを施したサーフボードを操る。
 少しだけ大きな波が水平線から競り上がり、サーフボードがその上を駆け抜けて、空中に飛ぶ。
 水飛沫が陽光を浴びて煌いた。
 ボードの裏面に描かれているのは龍。空高く飛翔するドラゴンの姿だった。
「あいつ、人間じゃない」
 呟きつつクミノは口の端を微かに緩めた。
 現実ではないこの異世界。自分達とて、実体ではないだろう。
 何もかもが幻、ならば何故にこの世界は存在するのか?
 自分にとって、そして今波に乗るあの男にとって。
 クミノは拳銃を取り出して、構える。
 見ているだけでは何も始まらない。まずは何らかのアクションを起こす事だ。そのリアクション次第で次の行動の指針を作ればいい。
 サーフボードの上で揺れ動く男を狙い打つのは簡単な事ではない筈だが、クミノはそれをいとも簡単にやってのけた。
 男の頭部に狙点を定め、躊躇する事無く引き金を引く。
 放たれた弾丸は波飛沫を払い除け、男の額を……
 「通り抜けた……?」
 見たままの事実を思わず口にして、クミノは微かに眉根に皺を寄せた。
 間違いなく捕えたはずだ。それとも見間違いだろうか?
 もう一度狙い、撃つ。
 だがやはり結果は同じだった。
 弾丸は男の頭部を突き抜けてしまう。何の手応えも無い。
 決して実体が無いわけではない。高く競り上がる波も、波に舞うサーフボードもそして男も確かに存在は感じる。ならば何故?
 砂浜に迫る波は急速に形を失い、それと共に波の上を走るサーフボードも緩やかに海中へと姿を沈める。直ぐに海上へと浮き上がった男は、次の波へ目指し沖へ向けてボードを漕ぎ始めた。
 その様子を無表情で眺めていたクミノは視界の隅に引っかかるようにして映った人影に首を動かした。波打ち際からやや離れた所にビーチパラソルが一つ花を咲かせるようにして色鮮やかな傘を開いていた。その影に一人の女性の姿がある。
 クミノは微かに視線を細めた。さっきまであんなものが在っただろうか。つい今さっきあんな事が在ったばかりだというのに、パラソルの影に佇む女性はまるで周りの喧騒を意に介さずにいるようだ。
 見ると、その視線、彼女の視線は沖を泳ぐあのサーファーの男をじっと見つめている。
 クミノは音も無く砂浜に降り立った。まだ姿は見せない。そのままそっと女性の元に歩み寄った。
 

「知っている男なのか?」
 驚いた事に、クミノが斜め背後から近付くと、彼女は静かにこちらを振り向いた。もちろん光学迷彩は解いていない。周囲の景色に同化してしまっているクミノの姿は普通には見つける事が出来ないはずなのに、だ。
 振り向いたのは一瞬で、直ぐにまた海へと視線を戻す。偶然だと思いたかったが、確かに彼女はクミノを見て微笑んだのだ。
 そう訊ねたのは、確認の意味もあった。
「ええ。よく」
 言葉短く答えて、彼女はパラソルの影から少しだけ顔を出して太陽を見上げた。そして眩しそうに掌をかざす。
「眩しいわね」と呟く。
「何故私の事がわかった?」
「さあ、何故かしら? 何となく……かな」
 曖昧な答えをしつつ、彼女は再び視線を海へと戻す。波に躍るサーフボードが丁度海中へと沈んでいくところだった。
「お前は、ここで何をしている?」
 彼女の背にクミノは聞いた。答え待つまでもない気がしないでもない。
「彼を見てるのよ」
 素っ気無く答える彼女をクミノは視線を細めて見た。
「いつからここにいる?」
「よくわからない。もうずっと長い間彼を見てるわ、ずっとね……」
「覚えていないのか?」
 その問いに、彼女は振り向いて笑う。
「気がついたら、ここにいた。それ以外は良く覚えていないわ」
 言葉と表情には嘘が無い。
「さっきの高波はお前達の仕業なのか?」
「どうかしら。私はただ、こうやって彼を見続けているだけだから」
 砂浜を風が吹き抜けた。
 それに呼応するように、ひと際大きな波が湧き上がる。
 波の上には、サーフボードと共に男の姿がある。
 やはりあの男が原因なのだろうか。
「私は彼の想いに引っ張られているの。あの日からずっとね」
「あの日?」
「そう。私も彼ももう死んでしまってるの。言ってみれば、私達は幽霊ね」
 さも事も無げに彼女は言う。
「何故こうやってここにいるのかはわからないけど、彼がまだ満足していなかったのは事実よ。それに私もつられちゃってるのね」
「あの男はサーファーなのか?」
 格好も何もかもからしてそれ以外には考えられなかったが、彼女は苦笑いをしつつ首を振る。
「なりたかったってだけ。そんなに上手くないよ、実際」
「……それで成仏できなかったのか?」
「多分、そう。『いつかプロになって、でっかい波を乗りこなしてやるんだ!』って言ってたから……。で、そのせいでここに呼び寄せられたのかも」
 言葉の最後の部分にクミノは眉を潜めた。
 引き寄せられた。それは同じだ。
「ここって、誰かの想いが作り出した異空間みたいじゃない? だから、あの高波は私達のせいだけじゃないと思うけどな……あ、でも確かにあいつのせいかもね」
 と、思わず口に手を当てて、彼女はしまったという顔をした。それからやや話を変えようとしたのが明らかなように小さく咳払いをして、クミノを見る。
「良かったら、直接彼に聞いてみてよ。自分でやった事ぐらいわかると思うわよ、さすがに」
「待っていればいいのか?」
 大きく首を振り、彼女はまた海を見る。
「もうずっと海から上がって来ないの。私はここでこうやって待っているだけ。泳げないし」
 待ち続けて、現世を彷徨っているのか? そう考えて、クミノは口元を微かに緩めた。この世界は現実ではない。そう言えば奇妙な事を言っていた。この世界が誰かの想いが作り出した空間? 
 もしそうならば、誰かが望んだ、或いは自分が望んだ世界だとでも言うのか?
 クミノは辺りを一瞬見回し、そしてこのしばらくの事を思い出した。
 ……自分が望んだ世界……?
 頭を一つ振ってそんな考えをどこかへと追いやる。無意識に、人の集まるところを自分が望んでいるという考えは、簡単には受け入れられなかった。
「わかった。連れ戻して来ればいいんだな?」
「簡単なのは、負かしてやる事かな。あなたに負けたらショックで上がってくるかも」
 彼女のその言葉を受けて、クミノは波打ち際へと向った。
 流れ着いていた自分の身長よりもずっと大きいサーフボードを瘴気の範囲内に入れて、そこに自分を固定する。後は波へ目掛けて進むだけだ。
 
●いざ勝負!
 突然近くに現れた少女の格好を見て、男は呆れたように笑った。
 水着どころか完全な普段着、いや制服を着てボードに乗っている。なんとも無謀な姿に見えた。
「そんな格好でボードに乗るなんて、無謀だぜ、お嬢ちゃん!」
 浅黒い肌に、白い歯をニッとむき出して男は笑った。
「水着は好きじゃない」
「ま、いいけど。溺れても知らないぜ!」
「心配は要らない。それでもお前には負けない」
 表情一つ変えずに平然と言い放つクミノとは正反対に、男の顔は大きく引き攣った。それでも相手はまだ子供だからという自制心が、辛うじて笑顔の形を引き止めている。
「ま、まあ、子供の言う事だからな。せいぜい怪我しないように──」
「大丈夫だ。自分の実力をわきまえないほど子供じゃない」
 男の言葉を遮ってクミノは言い、男の顔を横目で見た。
 クミノの言葉がよほど痛い所を突いたのだろう。浅黒い顔が真っ赤に変色し、頬の辺りが大きくヒクついている。笑顔は完全に引き攣って、とても見られたものではない。怒りの表情の一歩手前だった。
「溺れて泣きべそかいても助けてやらないからな!」
 大人気ないことを口走って、男は姿勢を低くして波の上を滑る。クミノもそれに続いた。
 口では大丈夫だと言ったものの、実際にサーフィンなどした事もないしやってみたいと思った事もない。
 瘴気で身体を固定して何とか着いていってはいるものの、そんなに長い間は集中力が持ちそうもない。ましてやサーフィンなど見たこともないほどの、まったくの素人だ。当然
取るべき姿勢など知ろう筈もない。 
 しかし幸か不幸か、サーフボードの上でほとんど突っ立っているだけに近いクミノの姿に、男の方が困惑してしまっているようだった。
 どう考えても信じられない光景だった。
 小学生ぐらいにしか見えない女の子が自分に着いて来ている事も、そして何よりもどう見てもでたらめな姿勢で乗っているサーフボードが、どうして波の上を平然と走っているのかが。
 彼の常識では、少女のような姿勢では一秒たりともボードの上にいられるはずがないのだ。それとも、自分が知らない今一番流行の乗り方なのだろうかと焦りすら感じてしまう始末だ。
 もしかすると、本当に実は凄い実力の持ち主なのではなかろうか……。
「く、クソ〜ッ! 子供のお遊びはこれぐらいだ! 次の波で、勝負ッ!」
 苦し紛れに指差した先、丁度二人の背後、水平線に盛り上がった波が急速にその体積を増やして、高く高く競り上がって行く。
 クミノは「やはりコイツか」と視線を男に向ける。そこで気になるものに目が止まった。男の胸元にかかっていたペンダントが強い光を放っている。
「あれは……?」
 脈動する光に合わせるようにして、波がどんどん高くなる。どうやらあれがこの騒ぎの元凶であるらしい。競り上がる波は最初に掻き消えたものと同じくらいの高さと勢いがありそうだった。
「行くぞ!」
 という掛け声と共に、男がビックウエーブに乗る為に今の波を滑り降りて行く。だがクミノはその後には続かなかった。
 波の上でくるりと180度向きを変え、まるでスキップをするように空中に跳ねる。そのまま大きく弧を描いて、背後の波の上へと移動して見せた。完全に物理法則を無視した動きである。
 元々が瘴気の力を利用して波に乗っていたのだ。クミノにしてみればわけもない事である。しかし、見ている方は何が起こったのかまったくわからないだろう。
 男は頭上を見上げた。
 波飛沫と共に、サーフボードが宙を舞う。陽光を反射した飛沫がボードの後にまるで光の帯の様になって軌跡を描く。
「と、飛んだ〜ッ!」
 驚きとも悲鳴ともつかぬ声を上げ、男は空を仰ぎ見る。その拍子にバランスを崩して海中へと姿を消した。
 その様子を視界の隅で捕えながら、クミノは一言「呆気ないな」と呟く。
 しかし問題はこの波だ。
 男の姿は海中に消えたが、波は消えなかった。益々勢いをつけて砂浜へと迫る。クミノはサーフボードの上から地上のパニックを他人事の様に見下ろしながら、自分の取るべき行動について判断を決めかねていた。
 自分自身はどんな形であれ被害があることはない。全て瘴気によって中和されてしまうが、他の者はそういうわけにもいかないだろう。しかしだからといって自分に何が出来るわけでもない。
 見下ろす地上にぽつんと一つカラフルなビーチパラソルが見えた。おそらく彼女にも何の被害もないだろうが、この騒ぎに巻き込まれてしまうともう会うこともないかもしれないと思ってしまう。
 「……?」
 丁度ビーチパラソルの後ろの辺りに見知った顔があり、クミノは目を凝らす。見間違い出なければ繭神陽一郎の筈だった。最近何かと動き回っている事が噂になっている生徒会長だ。こんなところで何を?
 繭神陽一郎は無雑作にパラソルの前まで歩み出ると、手にお札のようなものを掲げて何かを口走った。
 次の瞬間、強い圧力のようなものを感じて、クミノは思わず目を閉じた。障壁を突き抜けてこれほどの圧力をかけてくるとは只者ではない。そして高波がまたも掻き消える。突然足場を失ったクミノは、それでもゆっくりと砂浜に降り立った。
 なるほど最初の波を消したのもこの力だろう。
 光学迷彩が解け、姿を現しているクミノの側に繭神陽一郎は歩み寄る。一瞬身構えそうになったが、繭神陽一郎はまるでクミノを意に介さず、脇を通り抜けた。
 思わず振り向いた先、そこに男の姿があった。クミノと同じく海岸にいたのだ。
 繭神陽一郎は男の側によると、徐にその首にかけていたペンダントを引き千切った。そしてそのまま無言で踵を返すとさっさと遠ざかって行ってしまう。
 一部始終を見つめながら、噂にある「生徒会長が影で何かを集めている」というのが本当なのだとクミノは知った。
 「やっと下りて来たわね。まったく、いつまでつき合せれば気が済むのよ!」
 突然聞こえた声には聞き覚えがあった。
 力なく地面に座り込む男の腕を引っ張るようにして、彼女は引っ張っていく。そしてクミノの横を通り過ぎようとした時、こちらを振り向いた。
「あ、ありがとうね。まったく、この馬鹿に付き合わされたおかげで散々よ。次はもっとましな男と付き合う事するわ。あなたも、人に引っ張られるような生き方しちゃ駄目よ。自分は自分なんだからね」
 と片目を閉じて、彼女は歩み去る。
 後には海岸の喧騒だけが残っていた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 1166 / ササキビ・クミノ / 女 /  殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない】



●【個別ノベル】

【1166/ササキビ・クミノ】