【タイトル】 白薔薇の花嫁 〜マジック・インソムニア〜
【執筆ライター】 朧月幻尉
【参加予定人数】 1人〜10人
オープニング /ライターより /共通ノベル /個別ノベル


●「海キャンプ」 オープニング

 キャンプを楽しむ生徒達の元に手紙が届いた。
 あて先は【L'isola del bianco e aumentato】…白薔薇島だ。
 各テントの前にきちんと置かれ、その上に薔薇の文様が入ったペーパーウェイトまで置いてある。皆は不思議そうにそれを見た。可笑しな事に男子のテントの前にしか置いてないからだ。
「これ…なんだろうな?」
 草間武彦はそれを指先で突付いていった。
「そうだなぁ…つーか、何で俺らンとこにしか置いてないわけよ?」
「俺が知るかよ」
「分かってるけどさぁ…」
 論じても仕方ないと思ったその生徒の一人が手紙の封を開けた。

『神聖都学園生徒の皆様へ

 今宵、月祭の宴に招待いたします。
 夏休みのキャンプ中と窺っておりますが、楽しき学園生活の想い出に、我が島へいらしては如何でしょうか?
 心からおもてなし致します。
 無論、送迎を担当するものを向かわせます。
 ただ、その時に少しだけ、私たちに力を貸していただきたいのです。我が主の呪いを解いて欲しいのです。
 詳しくはこちらでお話し申し上げます。何卒お助けください。
 学園側には通達せぬようお願いいたします。

                   白薔薇島 執事:セイウェル・フォース』

 暫し、手紙を見つめていた武彦は眉を顰める。
「招待するけど助けて欲しいって…どういうことだ?」
「さあ? 助けてくれたら美味い飯でも食わしてくれるんじゃねーのかな」
 島に招待するということは、相当金持ちなのだろう。隣のクラスの男子は騒ぎ始めていた。無論、行かないと手紙を捨てるものもいる。
 追記部分を読むと、キャンプをしている場所から少し離れたバス停で待っていて欲しいとのことだった。時間は深夜12時。その時間までは半日以上ある。
 かくして、興味をそそられた生徒達は先生を騙してそこに行くべく、画策し始めた。




●ライターより

 こんにちは、朧月幻尉です。
 こちらのコンテンツは初めてですが、一緒に楽しみたいと思います。

 今回の内容は「眠れない島の主人のために、遊び相手になって欲しい」ということです。
 この主人は魔術をかけられ、眠る事が出来なくなっています。
 ちなみに日光アレルギーです(笑)
 故に、夜しか行動できません。 
 月祭の宴なるものを通してその魔術を消そうと試みているようです。その為に、魔力を持つ者などを探していたようですが、真相やいかに。
 もしかしたら光ってるあの石を拾う事があるかもしれません(謎)

 今回は男子キャラ専用です…と言うと、何のことか分かるかと思います。
 そうです。腐れたおねーさま方が好きな…アレです。
 内容としては耽美にいきたいと思います。
 島の主人は二十代後半から三十歳程の男性です。スーツが似合うタイプでしょうか。
 執事は金髪の男性です。年は三十後半ぐらいです。

 それではご参加お待ち申し上げております。



●【共通ノベル】

●手紙
 キャンプを楽しむ生徒達の元に手紙が届いた。
 あて先は【L'isola del bianco e aumentato】…白薔薇島だ。
 各テントの前にきちんと置かれ、その上に薔薇の文様が入ったペーパーウェイトまで置いてある。
 皆は不思議そうにそれを見た。可笑しな事に男子のテントの前にしか置いてなかったからだ。
「これ…なんだろうな?」
 草間武彦はそれを指先で突付いていった。
「そうだなぁ…つーか、何で俺らンとこにしか置いてないわけよ?」
「俺が知るかよ」
 武彦と同じテントにいる生徒が言い返す。
「分かってるけどさぁ…」
 論じても仕方ないと思ったその生徒の一人が手紙の封を開けた。

『神聖都学園生徒の皆様へ

 今宵、月祭の宴に招待いたします。
 夏休みのキャンプ中と窺っておりますが、楽しき学園生活の想い出に、我が島へいらしては如何でしょうか?
 心からおもてなし致します。
 無論、送迎を担当するものを向かわせます。
 ただ、その時に少しだけ、私たちに力を貸していただきたいのです。我が主の呪いを解いて欲しいのです。
 詳しくはこちらでお話し申し上げます。何卒お助けください。
 学園側には通達せぬようお願いいたします。

                   白薔薇島 執事:セイウェル・フォース』

 暫し、手紙を見つめていた武彦は眉を顰める。
「招待するけど助けて欲しいって…どういうことだ?」
「さあ? 助けてくれたら美味い飯でも食わしてくれるんじゃねーのかな」
 島に招待するということは、相当金持ちなのだろう。隣のクラスの男子は騒ぎ始めていた。無論、行かないと手紙を捨てるものもいる。
 追記部分を読むと、キャンプをしている場所から少し離れたバス停で待っていて欲しいとのことだった。時間は深夜12時。その時間までは半日以上ある。
「おや…白薔薇島ですか」
 セレスティ・カーニンガムは横からその手紙を覗き込んだ。朝も早よから制服をきっちりと着込んでいる。
 白露の如き清々しささえ感じるセレスティの美貌と、髪をおっ立てて制服をだらだらと着ている武彦は色々な意味で対照的だ。
 武彦はセレスティの言葉に引っかかり、顔を上げる。
「何だよ、お前。この場所知ってるのか?」
「いいえ」
 妙にキッパリと言い切られて、武彦はスッこけた。
「なんだよ」
「いえいえ。私のところにも同じようなものがありましたと…」
「はーん、お前の所にも来てたのか」
「私のところにも来てましたけど」
 そう言って、モーリス・ラジアルが白い封筒をひらひらとさせて見せた。セレスティは柔らかな微笑を浮かべ、モーリスに挨拶をする。
「おはよう、モーリス」
「おはようございます、セレスティ様」
 眉目秀麗な二人が交わす会話を聞いていると、砂浜でさえ典雅な宮廷か、高級ホテルのラウンジか何かに思えてくる。
 どうも居心地が悪く感じて、武彦は眉を顰めた。
「俺のところにもあったぜ」
 武彦の後ろから、菱・賢も顔を出す。
「これってセンセーに言ったら怒られるだろうな」
「でしょうね…」
「そっか…どうするかな」
 賢は暫し考えて手紙をポケットにしまった。
 それが先生に見つかり、折角の招待状が取り上げられてはかなわない。これだけ綺麗なカードを幾つも用意できる相手だ。きっと凄いご馳走を食べさせてくれるに違いない。
 そう思うと賢はウズウズし始めた。
 もうすぐ先生が朝の朝礼をするために生徒を呼び出す頃だ。その前に招待状を隠そうと自分のテントに戻っていった。
 去っていった賢を何と無しに見送った後、武彦は好奇心に駆られたのか、他の生徒に「センコーには招待状を見せるな」と念を押した。
 無論、ミステリー好きな女たちにもだ。
 難解な事が身に起きると、何故だか武彦はそちらの方に全神経が集中してしまう。時折、それが不思議でならなかった。
 一体、なんでなのか分からなかったが、無性に追いかけたくなる。どこまでも追って、全てを白日の下に…そんな衝動が武彦を満たしていた。
(自分はどうかしているのかもしれない)
 深く溜息をつくと、不意に目の前が蔭り、思わず武彦は顔を上げた。そこには月神詠子が立っている。
「武彦…まだ早いよ」
「な…何が?」
「まだ、早い。武彦、今日も遊ぼう。想い出を作らなくっちゃ」
「あ…。あぁ…確かに『命短しなんたら』って言うもんな」
 詠子の言う意味が分からなくて、武彦は戸惑った。
 ニイッと笑うともう一度「今日も遊ぼう」と言って、詠子は自分のテントの方に歩き始める。
 武彦はその背中をじっと見つめていた。

●綺麗なものには
「セレスティ様…もしかして招待されてしまおうとか思っていませんか?」
「おや…モーリス、それは貴方もでしょう?」
 セレスティはモーリスの言葉に対して、さも可笑しそうに笑った。白薔薇島の名前と、月夜の宴に悪戯心が刺激され、セレスティは興味が湧いたのだ。
 招待を受けて細めた瞳がモーリスを捕らえる。
 モーリスの方も、悪戯そうな笑顔で返した。
「えぇ、明らかに誘っている風な感じが可愛いと感じたので」
「まるで玩具を見つけた子供のようですね」
「楽しいじゃありませんか…ヴァカンスに現れた招待状に、主人にかけられた呪い。セレスティ様だったらどうします?」
「誰もこない庭園で暮らすのも一興」
「ご冗談を…貴方を閉じ込める美しい籠など、こには存在しませんよ」
 そんなことを言いながら、モーリスは片目を瞑ってみせる。自分の屋敷にいる者たちを忘れていくような人であるなら、何故に自分がこの人と契約などしようか。
 誰よりも綺麗で、誰よりも強い主人。
 どこかで調律しなければ、たちまち乱れてしまう今時の世界は、脆く儚いガラスのようだ。昔は金剛石のような強さを持っていたのに、人間達が無茶をして壊れかけている。
 こんな世界でさえ、この主人となら輝いて見えるのだ。
 いや、この世界だからこそ輝いて見えるのだろう。
「そうですね、貴方が作り出す箱庭の美しさに比べたら、世界は何と儚い存在でしょうか」
 セレスティは微笑んだ。
「褒めていただけて嬉しいですよ…さて、誰かに肩代わりして頂いて。私はこっそりとさぼりましょうか」
「そうですねぇ…夜に行動するとなると、今の時分は休んでおかねばなりませんね」
 ちょっと困ったようにセレスティは眉を寄せた。
「こんな良い天気ではセレスティ様は倒れてしまいかねません…。そうですね、保健委員に頼んで休ませてもらいましょう。今日は遠泳をすると聞いていますし、セレスティ様が『海育ち』であると知っている人間はごく僅かですから」
 モーリスが嘯きながら言い、小意地悪そうな笑みを浮かべている。それにどことなく屈託ないものに感じてセレスティは笑った。
「本当にそう言うところにも知恵がまわりますねぇ…貴方は」
「いえいえ…おや?」
 どんぐり眼の少年がこっちをじっと見ているのに気が付き、モーリスは顔をそちらに向けた。
 その相手は、先程、話し掛けてきた賢だった。
「どうなさいました?」
「ずっけーぞ、てめぇら。俺だって行きたいんだからなぁ〜」
 ちょっと頬を膨らませて二人に訴えかける。口は悪いが悪気はないらしい。如何にしてサボろうかと悩んだ挙句、抜け出す術を思いつかずにいたようだった。
「あぁ…さっきの子ですか」
「なんだよー、てめぇらと年変わんないじゃんかよ」
 賢少年はキッとモーリスを睨む。
 だが、少々顔色が悪い。
意地悪く微笑むとモーリスは賢に言った。
「どうしたんだい? まさか、考えすぎて頭が痛いとか…」
「う゛ッ…うるせー!」
 どうやら図星だったらしく、賢は真っ赤になって怒り始める。
「俺はなぁ〜〜〜〜!」
「モーリス」
 微か、気の毒そうにセレスティは賢の方を見、モーリスに言葉少なに命じた。
「Yes,master.どれ、見せてごらん…ほーら、いい子いい子」
 苦笑するとモーリスは賢の頭を撫でた。
 途端に膨れっ面をした賢だったが、急に頭痛が何処かに飛んでしまうと吃驚したような顔をする。
「痛くないぞ…てめぇがやったのか?」
 大きな目を更に大きくして訊く賢の表情に、二人はクスクスと忍び笑いをする。
「あ…。ありがと…な」
 怒ってしまった恥かしさからか、賢はぼそぼそと呟くように言う。
 モーリスは首を振って、それを否定した。
「いいえ…いいんですよ。さて、貴方がサボる理由を奪ってしまったようなものなんですが。如何でしょうかねえ」
「あ゛〜〜〜〜〜〜ッ!」
 事の重大さに気が付いた賢は眉を顰め、半ば泣きそうな顔で二人を見つめ返した。

●執事
 かくして、興味をそそられた生徒達は先生を騙してそこに行くべく、画策し始めていた。
 無論、セレスティは体が弱いことと体調不良を理由に、遠泳は遠慮する事にした。泳ぐなら、闇夜に紛れてすればいいだけだからあまり気にしない。
 モーリスは保健委員の男子を懐柔し、倒れた人間の看病をするという名目を譲ってもらっていた。そして、夕方になるまで保健室代わりのテントで昼寝していたのである。
 賢の方はというと、渋々、遠泳をする羽目になって文句を垂れていた。しかし、幸か不幸か遠泳中に足を攣ってしまい、溺れかけて保健用のテントに運ばれていたのだった。
 こうなるべくしてサボる羽目になったのか、看病してくれたモーリスをぼんやりと眺めつつ、賢は悩み込んだ。
「溺れかけるなんてさぁ〜〜〜」
「まぁ、いいじゃないですか。これでしっかり休めるってものですよ」
 寝転がりながら本を読んでいたモーリスは賢にそう言った。
 隣にはセレスティがいる。当然の如く、先生からは病人扱いだ。出かける為に、気分が悪くなったとでもそれらしい表情でか弱く演技をして先生を騙していた。
 元々、色が白いのもあって先生の殆どは疑いもしない。
 こうして、三人は昼間のあいだに休むことができた。

 夜になると、三人はテントを抜け出し、手紙に書かれているバス停へと向かう。
 古い掘建て小屋のようなバス停は台風でも来たら飛んでいってしまいそうだ。辛うじて綺麗と言えるかもしれないベンチに三人は座る。
 潮の香りを含んだ風を受けて、静かな夜に三人は潜む。ざわめく草の音を聞いていると時さえも遠く感じられた。
 そうしているとどこまでも遠い夜が近付いてきているようでもある。不思議な感覚に賢はぽーっとしていた。
「おーい…誰かいるか?」
「ん?」
 賢が現実に引き戻され、俯き気味だった顔を上げると武彦が走ってきた。
「遅かったな」
「あぁ…途中でセンコーどもをまいてきたからな」
 武彦はそういうと道路の向うを見た。何台かの車が行き過ぎたが、肝心かなめの手紙の主が来ない。武彦はセレスティの隣に座ると足を組んで道の向うを見た。
「来ねぇな」
「そうですね」
「こんだけ手間のかかったことしてるしな…嘘じゃないとは思う」
 武彦は言った。
 どことなく自分に言い聞かせているようでもある。
 セレスティは頷いた。
 手紙の枚数だけでも馬鹿にならない。その手紙は一枚一枚手で書かれていたのだ。一枚書くのでさえ面倒だろうに、全校分の男子生徒のテントに置いてあったのだから相当なものだ。
 武彦は「自分にはそんな面倒な事は出来ない」と言った。
 モーリスにとっては手紙の謎など如何でもよく、当初の目的としてはその招待状の名を記されている執事の方にあった。出迎えに出てくるのは多分執事であろう。
 それならば、いの一番で会える筈だ。
 白い薔薇の島に住む執事というのにはとても興味があった。
 
 暫くすると、黒い影が見えた。それは徐々に近付き、目の前で停まる。濃い闇のせいか、黒塗りのベンツである事が分かったのは直前で停止してからだった。
 静かに停まると、キッと甲高い音をさせて車が停車する。後のドアが開くと一人の男が出てきた。
 年は三十代か、もう少しいっているかもしれない。執事にしては年が若いような感じもしたが、綺麗な金髪と落ち着いた雰囲気が秀麗な顔立ちにあいまって、中々に魅力的な人物だった。
(おや…いいじゃないですか)
 モーリスは品の良い紳士と言った感じの相手に好感を持った。
「お待たせいたしました…わたくしが【L'isola del bianco e
aumentato】の執事、セイウェル・フォースです。あなた方は神聖都学園の生徒様でいらっしゃいますね?」
 会釈をするとセイウェルは柔らかな笑みを浮かべた。
 穏やかな雰囲気と物腰は大人の魅力と言うべきだろう。
「あんた…主人に掛けられた呪を解いてもらいたいらしいけどよ。何で俺たちなんだ?」
 武彦は半ば突っかかるような態度で言った。
「それはですね…丁度、この時期にいらした若い方々が貴方達しかいなかったのと…不思議な力をお持ちだったからです」
「それでか? 俺はそんな力なんざ持っちゃいねーぜ?」
 納得がいかないのか、武彦は眉を寄せて言った。
「貴方は来て下さらないんですか?」
 どことなく悲しげな表情さえ浮かべて執事は言う。
 機嫌が悪い武彦はふんっと鼻を鳴らしたが、執事の方へと歩いていき、「さっさと行こうぜ」と言わんばかりの目で相手を見る。
 にっこりと執事は笑うとベンツのドアを開け、武彦を車に乗せた。
 続いてセレスティが車に乗る。その後に賢とモーリスが乗り込んだ。そして執事はドアを閉めると、自分は前のドアを開けて座席に座る。
 ドアを閉めると車は船着場のある方へと走り出した。

●白い花の中で
 クルーザーに乗って一同は島に向かった。
 月の雫が落ちてきそうな空の下、島に向かってひたすらに進む。内海から程遠くない場所にその島はあった。然程、大きいわけでもなかったが、小さいわけでもない。大きさから言えば神聖都学園一個分ぐらいはあろうか。
 クルーザーを桟橋に停泊させ、エンジンを切る。ロープを繋いでデッキに固定した。
 一同はクルーザーから降り、花のアーチを潜って屋敷に向かう。
 さすがに白薔薇島と言うだけあって、島のいたるところに白い薔薇が咲いていた。そうは言っても白薔薇だけではなく、月下美人もあり、さすがに咲いてはいなかったが紫木蓮の木もある。賢は月明かりを受けて闇の中に仄明るく光る白き花に見蕩れながら歩いた。
 花の送迎を受けた後、見えてきたのは屋敷だった。
 屋敷はその名に相応しく白い建物で、車を止めるためのアーチは大理石で作られ、ギリシャ古典建築様式の柱は美しかった。
「コリント式ですか…見事ですね」
 セレスティは玄関の壮麗さに納得したようかの笑みを浮かべて言った。名に相応しくない屋敷であったら少し悲しいだろう。立ち振る舞いの際立っている執事とこの屋敷を見れば、どんな主人なのか楽しみだ。
「わかりますか?」
 セレスティの言葉に執事が目を瞬く。
 そして笑みを浮かべた。やはり、自分の仕える屋敷を褒められるというのは嬉しいらしい。
「イオニア式・ドリス式に比べて新しく最も装飾的ですしね。アカンサスの葉などをあしらった華麗な柱頭と細めの柱が特徴ですから…」
「えぇ、そうですね」
「一体、何がこの島に起きたんだ?」
 賢の問いにセイウェルは少し暗い顔をした。
 もう何年か経ってしまるのだが、昔、この島を花嫁となるべき人と暮らすために買い取った。しかし、島にあった『ある封印』をその人が解いてしまって、今に至るのだという。
 その花嫁も死に、主人だけが取り残された。おまけに、主人も自分もその瞬間から年までとらなくなってしまったのである。
「呪を受けて眠れない主人のために、遊び相手になっていただけませんか?」
「遊び相手??」
「そうです…私の主人は魔術をかけられ、眠る事が出来なくなっているのです」
 執事は頷き、皆が屋敷にたどり着くのを見計らってからドアを開けた。
「お邪魔致します」
「失礼します」
「……」
「邪魔するぜー!」
 交互に挨拶して中に入れば、ドアはパタンと閉まる。
 月祭の宴だというのに、瀟洒なつくりのフロア−にはそれらしき祭具が無い。武彦はいぶかしんで辺りを見回した。
 月明かりを透かして輝く窓をバックに黒い影がゆらりと揺れる。それに気がついた一同は窓のほうをしかと見た。
「おかえり、セイウェル」
「ただいま帰りました…総一郎様」
 うやうやしく礼をするとセイウェルは微笑んだ。
「いらっしゃい、神聖都学園の生徒さん達だね? 私は鷹村総一郎だよ」
 そう言いながら近付いてきた人は背が高かった。
 優しげな声音と綺麗な発音が田舎育ちの人間とは到底思えない。スーツをきっちりと着こなす姿も風格があった。
 その美貌は犯しがたい雰囲気さえ纏っている。整った鼻梁も、引き結ばれた形のいい唇も、透けるような白い肌も男性とは思えない。髪は闇のように黒い。
 この洋館に相応しい美しさだ。
「はじめまして、鷹村さん。私はセレスティ・カーニンガムです」
「あぁ、はじめまして。随分と綺麗な高校生だね…」
「そうですか? ありがとうございます」
 ニッコリと笑ってセレスティは言った。
「こんばんは…君の名前は?」
 総一郎の問いに視線を向けられた賢は吃驚して飛び上がった。
 なまじ、人間を超越したような美形がこれだけ揃うと頭がこんがらがってくる。その気も無いのに賢は顔を真っ赤にしていた。
「お、俺…賢だよ」
(ホントに人間? その何て言うか男の割に綺麗すぎる)
 まじまじと賢は総一郎を見た。
 セレスティが銀なら、総一郎は白か黒。モーリスはイメージカラーから言えば、碧だろうか。
 言っちゃ何だが武彦は普通の顔だし、自分にいたっては比べるべくも無く。何だか居心地悪くて仕方が無い。…と言うか美形、頭がいい、金持ち、名家の出身等のキーワードを持つ人間が大嫌いだが僻んでいるとも言えなくもない。
 しかし、義侠心からか、賢は真っ直ぐに受け止めていた。もしも、逃げてしまえば天台密教を学んだ僧兵としての自分はどうなってしまうというのだろう。
 それに、相手は呪われて困っているのだ。
 自分こそ手助けできるに違いないと賢は意気込んでいた。
「月祭の宴って何なんだ?」
 疑問に思った武彦はセイウェルに訊く。
「それは人の持つ不思議な力を集めて呪を解く方法なのです。しかし、ごく一般に近い人々しか協力を得られませんでしたから、今まで成功した事が無いのです。聞けば、神聖都学園には不思議が多いとのことで、是非とも協力していただこうと…」
「よしッ! 俺が助けてやるよ。宴つーからには飯とか出るんだろう? め〜いっぱい飯を食わせてくれよな♪」
 元気に賢は言うと早く呪法を解く場所に連れて行けと急かし、控えの間に連れて行かれた。呪を解く準備が終わったら、主人と遊んだりして時間潰しに付き合えばいいのだろうと賢少年は思い込んでいた。
 後を追おうとした武彦達は何故か別の部屋に連れて行かれ、バラバラに待つことになるのだが、当の賢の方は「皆、来るの遅いな」ぐらいにしか考えていなかった。

●朝
 夜の間中に幾つかの事件と体験があり、皆が目を覚ましたときには朝になっていた。
 朝露に濡れる花々は輝き、庭を彩っている。
 総一郎のベットにはセレスティとモーリスがいた。
 目が覚めてはいたのだが、セレスティはぐったりとした様子だ。モーリスは上機嫌でセレスティの隣に寝転がっていた。
 総一郎はというと、ベットの中で丸くなる少年達を優しげな視線で見つめている。
 窓の外を見れば花々は満開になっていた。もしかしたら、呪は解かれたのかもしれない。そうでなくとも良いと…総一郎は思っていた。
 ソファーの方を見ると、明け方ごろにこの部屋に入ってきた賢と3年A組のシェルフ・ビーストという少年が寝転がっている。
 理解できない世界を見たのか、はたまた本人が若すぎたのか、賢は唸っていた。
 一方、シェルフは自分の理解できない世界は無視とばかりに黙る。こっそりとこの島にやってきたシェルフとその兄…塔乃院・影盛は賢の部屋に入り込んでいたのだ。
 ある意味で鬼な性格のシェルフは、一緒にいた武彦に影盛と言う名の危険ブツを押し付け、賢を連れて逃げ込んだのである。
 まぁ、逃げ込んだ部屋が甘美な秘密の花園だったことは言うまでも無いだろう。
 モーリス曰く、悪魔にかけられた呪は献身的(&犠牲的)な少年達の活動により解かれたとのことである。
 かくして、少年達はセイウェル氏の運転するクルーザーで送りとどけられたが、何故か起き上がれなかった執事殿のために、その時間は夕方になってしまったという。

 ■END■


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】
 1883 / セレスティ・カーニンガム/男/3年A組
 2318 / モーリス・ラジアル/ 男 /3年A組
 3070 / 菱・賢 / 男 /  男 /2年A組



●【個別ノベル】

【1883/セレスティ・カーニンガム】
【2318/モーリス・ラジアル】
【3070/菱・賢】