【タイトル】 ■月と石と貝殻と■
【執筆ライター】 東圭真喜愛
【参加予定人数】 1人〜3、4人
オープニング /ライターより /共通ノベル /個別ノベル


●「海キャンプ」 オープニング

 キャンプ中、月神・詠子(つきがみ・えいこ)が行方不明になった、という話はすぐに生徒達に広まった。
 もうすぐ夜になるというのに、何時間教師達が探しても見つからないらしい。
 心配になったあなたは、自分も月神・詠子を探しにいこうと懐中電灯を持ち、数名の同志と共にあちこちを探している途中、地元の人達と出会った。
 事情を話すと、
「その女の子なら月貝(つきがい)のほうにいったよ」
 と目撃したらしい男が言った。
「だけどあそこはやめたほうがいい、昔から三人の人喰いが出るって噂でなあ……実際誰も戻ってきたやつおらんし」
 聴くと、三人の人喰いとは、美青年ひとり、美女ひとり、上品な老婆ひとり、といった面子らしい。
「まあ誰も戻ってきてないのにそんな面子分かってること自体ヘンだしな、本当のところは『月貝』って呼ばれる入り江に足を取られて死んじまったやつらのことを、そう昔の人が噂にしたんだろうよ」
 月貝という入り江は、まるで、獣が口を開けているような形をしているらしい。
 とりあえずもう少し進んでみようと思ったあなたは、その人達と別れ、その入り江近くまで行ってみた。
 ぽっかりと、灯りがともったペンションがある。貝殻を象った、洒落たペンションだった。
 そこに、スッと詠子の姿を見た気がして、あなたはハッとした。




●ライターより

▲プレイングにより、シリアス・微コメディ入りシリアス・ほのぼのになる傾向があります。
▲どのように行動するかをお書きくださいませ。もしペンションに入って噂が本当で、人喰いに会ったらどうするかも念のため書いてきてくださいね。ペンションに泊まることも可能です。
▲行動開始時刻は、夜です(夕食前)。
▲人数は一応4人までとしてありますが、お友達と参加したいなどありましたら、その旨をプレイングに一言添えてくだされば、窓をしめていても考慮致しますので、どうぞ皆さんでご参加くださいませ♪
▲プレイングは出来るだけ、キャラになりきって書いて頂けますよう、お願い致します<(_ _)>



●【共通ノベル】

■月と石と貝殻と■

 面白そうだから、と同じクラス、2年B組である青砥・凛(あおと・りん)が誘ったため、諏訪・海月(すわ・かげつ)は「しょうがないな……」という感じでついてきていたのだが───。
 海、夏とはいえ夜は少し波風で粘つき、水着ではあっても心地よくはない。凛は半そでシャツBにスパッツBだったのだが、似たようなものだろう。
 すると、背後から、
「あの」
 と、おずおずと言った感じで、こちらも同じクラスの十里楠・真癒圭(とりな・まゆこ)がついてきていた。
「ちょっとここ気味悪いですし、ペンションのほうも気になるし……行ってみない……?」
 彼女は極度の……否、面白い程度の……更に否、極度の男性恐怖症である。それを知っている凛も海月もだからこそ気懸かりだったが───。
「二人が出て行くのを見て、わたしもついてきたんですけど」
 迷惑だったかなと帰ろうとする、真癒圭。彼女は水着から着替えたばかりの私服で、膝までの紺色のスカートに白い半そでブラウスだったのだが、海月は反射的にそのブラウスの袖を掴まえていた。
 ぞわっという擬音が凛の耳にも届く。
「きゃああぁ───!!」
 ペンションの岩場から、海の夜空へ、真癒圭の雄叫びが上がった。

 それを聴いていたのは、同じく詠子の足取りを追ってきていた男子生徒二人である。其々に違うところにいたのはいたのだが、心地よいほどその雄叫びはハッキリと聞こえた。
 歩き疲れていたので丁度いいからそこで話を聴こうと、今まさにペンションに入ろうとしていた、3年A組のセレスティ・カーニンガム。彼は制服で、ブレザーである。
 もう一人、こちらはもしや詠子の叫び声ではと駆けつけた、体操服Aを着た噂を聞いてコワくなってしまっていたのだが、心配のほうが上回り、入り江まで来ていた3年C組のCASLL・TO(キャスル・テイオウ)だった。
 そして、更に、駆けつけたその男子生徒二人のため、動転した真癒圭は二度目の雄叫びを上げることになった。
(同時刻、その雄叫びを遠くに聞いた地元民は、あの人喰いの伝説は本当だったんだなやと哀れな犠牲者達のために涙を流していたことを、誰が知る由もない)

「大丈夫? 落ち着いた?」
 凛に術を施され、なんとか今晩だけは、術をかけなおすまでは男性とごく近くにいても平気になった真癒圭は、「はい」と、恥ずかしそうに頷く。
「海月も海月だよ……真癒圭さんには術をかけなおしてなかったんだから、気をつけて触らないと……」
「スマン、ついうっかり」
「あの……その言い方だと、気をつければ触ってもいいことになりますが……」
 おずおずと、彼女の男性恐怖症に加え自分の悪者面でコワがらせはしないだろうとハラハラしながらの、CASLLである。
「CASLLさん、青春真っ盛りですね」
 にこにこと、こちらは知っていてからかっている風のセレスティ。
「そ、そんな……私はただ」
 焦っているCASLLをよそに、セレスティは腰掛けていた岩場から立ち上がる。杖がコトンと音を立てた。
「ともかく、今夜は遅いですし、話も聴けると思いますし、ペンションに泊まらせて頂きましょう」
「うん……そうだね。僕もそう思ってた……」
「……凛、いつそう思ってたんだ」
 容赦なくツッコミを入れる海月。
「わたしも賛成です、わたしも疲れましたし」
「そうですね。先生には上級生である私から、電話で連絡を入れておきます」
 意外としっかりしているんだなと皆の視線を集めていることにも気付かず、恐る恐るといった感じでペンションに向かって歩いて行くCASLL。
 すると、入り口から、待っていたように美しい女性が扉を開けて現れた。衣装も客寄せなのかペンションの主の趣向なのか、貝殻模様である。
「おや、これは……」
 セレスティが目を瞠り、微笑んで手短に訳を話そうと近寄ると、美女のほうもにっこりと微笑んだ。
「先程来られた女生徒さんと同学校の方達ですね? 制服等を見れば分かります。どうぞ、今日は満月ですし、ペンションは無料の日です。ゆっくり疲れを取っていってください」
 そして、おどおどしながらのCASLLと、「すまないな」という海月に凛、真癒圭、最後にセレスティといった順で扉の中へと通す。
 セレスティは気をつけていたが、鍵はかけないようだ。
 まずは窓の外から覗こうかとも思っていたCASLLだが、その必要もないらしいと分かり、なんだか拍子抜けした感じである。
「すると、月神さんもここに?」
 セレスティが尋ねると、美女は微笑み、
「名前は存じませんが、今夜一晩泊めて頂きたい、と……随分と具合が悪そうでしたので、一室に既にご案内させて頂いております」
「とりあえずは、じゃあ、安心かな」
 海月が言い、凛が頷く。
 部屋割りは、隣同士だが、男女分かれて凛と真癒圭、セレスティと海月とCASLLということになった。
「あ……お姉さん」
 お腹がすいたらいつでも言ってくださいねと5人を背に去っていこうとする美女に、凛が声をかける。
「人喰いが出るって、……本当?」
 すると美女は、クスッと笑った。
「いいえ、そんなはずはありません。見てください、普通のペンションと内装は似たようなものでも、この賢覧豪華な素材! 人喰いなんていたら、こんなに商売繁盛しませんわ」
 しかし、その賢覧豪華な素材を分かる人間は、この中に約一名ほどしかいない。
「確かに素材はいいものですね」
 大財閥を血筋に持つセレスティが、壁をそっと撫でながら微笑む。
「さすが、財閥さんの血筋っていうのは、目も肥えるんですね」
 感心したように、真癒圭。
「えっ目が増えるんですかっ!?」
 人喰いというだけで怯えている(普通の人間は怯えるが)CASLLがそう言い、どこからかにょっきり生えてきた、今度は美青年がにこにこしながら言った。
「それこそオバケですよ、お客様。ささ、そうコワがらずに、お風呂も今お沸かししましたので、どうぞ」
「……あ、でもその前に……」
 凛が、言う。真癒圭は美青年であろうとも男性恐怖症なのは変わりないのだが、凛の術を施されているため無事(?)である───凛の背中にしっかり隠れてはいたが。
「そうですね、月神さんとお話させていただかないと」
「ご飯……食べたいんだけど……」
 その真癒圭と凛の言葉が、重なった。
 一瞬、場が静まり返る。だが、凛のこういうことに慣れているのは海月である。
「それもそうだな。飯喰ったら風呂入らせてもらう」
「いえ……その、海月さん……」
 ツッコミどころはそこじゃないと言おうとしたCASLLだが、ぽん、とセレスティに肩に手を置かれ、
「───多分、言っても無意味です」
 どこか遠い目をした彼をまた見返しながら、こくんと頷いたのだった。



 夕食は新鮮な海鮮料理だった。
 エビチリには特に皆舌鼓を打ち、自分達だけ無料でこんなに美味しい体験をしていいのかなと歓談していた。
 コックはなんと、年季の入った老婆だという。
 美女と美青年に通された老婆は、実に上品に会釈したものだ。
 しかし、そこで全員がハッと思い返す───地元民の言っていた「人喰い」とは、美女に美青年に上品な老婆ではなかったか。
「気にしすぎだよ……」
「でも、なんだか気味悪いです」
 凛と真癒圭が、お風呂に向かいながら話している。その後ろから、こちらもお風呂の用意ができたらしい男性陣三人が、部屋に備え付けてあったタオルを持って歩いてくる。
「確か、お風呂場は男女別々に分かれてありましたよね」
 念の為、尋ねるセレスティ。彼は晩御飯の後、少しCASLLを連れてペンションをざっと歩いてきていた。頷くCASLLに、「では全員一緒に入っても大丈夫ですね」と、微笑む。
「お風呂上がったら、月神さんのお部屋に案内してもらいましょう」
 真癒圭が言い、
「じゃ、また後でな」
 と、海月。
 そして、それぞれに「男」、「女」と暖簾のかかった風呂場に入っていった。



「なんか、このお風呂、鰹節みたいな香りしませんか?」
 真癒圭が、タオルを身体に巻いて湯船に浸かりながら、不気味そうに言う。だが、凛は、
「こういう香りのバスオイル使ってるとかじゃないのかな……」
 と、気にしたふうでもない。
「こっちは昆布の香りがします。まさか海水から直接汲み上げてる浴場だとかは……ないですよね」
 壁を隔てた向こう側から、CASLLの声。思わずばしゃっとお湯の中に、反射的に隠れてしまう真癒圭。いや、見えるはずはないのだがそれは女性としての性だろう。
 凛は最後にシャワーを浴び、
「先上がるね……真癒圭さん」
 と、がらりと扉を開ける。
 男性陣のほうも、全員上がったようである。
 真癒圭はしばらく、全員の声が聴こえない時間になるまで待ってから、ようやく息を吐いて湯船から上がった。
 脱衣所に戻ると、凛はまだ服を着ているところだった。
「あれ、凛さん。ずいぶん着替えるの遅いね?」
「うん……そこにあるの塗ってたら、遅くなっちゃった……」
 そこにあるもの? と小首を傾げて凛の指差すほうを見ると、幾つか平べったい箱が置いてあり、
『お風呂上がりによく身体に塗りこんでください』
 と、立て札が立ててある。
「さっき、お風呂に入るまではこんなものなかったのに……」
「僕達がお風呂場にいる間に、用意してくれてたんじゃない?」
「そうかな……」
 不審そうな真癒圭、平べったい箱の中の粉やべたべたしたものをそっと手で掬い取ってみる。
「なに、これ……バターとか塩みたいな感じだけど、凛さん塗ったの?」
「うん」
 そして凛はさっさと着替え終わり、
「先に戻るよ……それとも、待っててあげようか?」
「あっ……待っててください、すぐ着替えるから」
 真癒圭は慌てて、それを塗らずに服に着替えた。



「まるで『注文の多いレストラン』を思い出しましたよ」
 優雅に微笑みながら、美青年にそう言うセレスティ。隣でもらったジュースを飲んでいるCASLLは、凛と同じく全部律儀に塗りこんでしまったらしい。
「こんな余興でもないと楽しくないでしょう?」
 美青年が笑うと、
「もっと有意義な余興ならつきあったんだが」
 と、クールに海月。
 そこへ、真癒圭と凛が、美女と共に走ってきた。
「あの、月神さんらしき女生徒さん、いつの間にかお部屋からいなくなってたみたいで……こんな夜更けに、しかも危険って言われてる入り江がすぐ近くだし、探さないと」
 真癒圭が言うと、セレスティとCASLL、海月の顔も引き締められた。
「……しかし我々もこの時間出歩いて危険になることは変わりはありません。時間を決めておきましょう」
 そして、上級生であることと一番皆が威厳さを感じることから、セレスティが現時点でのリーダー役にされたのだった。



 見つかっても見つからなくても、ペンションの入り口で集合する時間は、午後23:30。
 それぞれにチームを組んでそれぞれに探したのだが、凛に海月と一緒にいた真癒圭は何故かはぐれ、その凛も海月とはぐれ、CASLLとセレスティもまたそれぞれにはぐれた。
 午後23:30ピッタリに一番先に戻ってきたのは、セレスティだった。次いで、海月。凛。真癒圭とCASLLは同時に、何故かへろへろといった感じで戻ってきた。
 そして全員、ため息をついたのだった。
 ───やっぱりあの三人は、人喰いだったのか……。



 そしてペンションに自分達の少ない荷物を取りに入り、それぞれの部屋から出てきた時、ペンションを出て行く一人の少女───月神詠子にかなり似ている人物を一同は同時に見た。
「あっ……待ってください!」
 CASLLが追いかけ、その後を全員が追う。
 夜も遅かったが、このペンションにずっと朝までいるほうがもっと危険だ。
 そう判断したので、気をつけつつ一旦キャンプ地に戻ろうということになったのだが───。
 だが、全員がペンションを出たところで、「彼女」はくるりと振り向いた。
「……くるな……」
 苦しそうな、喘ぐようなその声に、全員の足が止まる。
 確かにそれは、月神詠子の声。
「どうしたの……?」
 凛が近寄ると、バシッとその手を詠子は叩いた。きょとんとした風な凛と、身構える海月。その後ろでは、不可解な彼女の言動にセレスティも眉間に皺を寄せている。CASLLと真癒圭は互いに少しずつ後ずさりしていた。
「触るなっていってるんだ!」
「そんな台詞は今、初めて聞いたけどな」
 海月が凛を後ろに庇いながら、言う。
「月神さん……何か、具合でも悪いんですか……?」
 CASLLの言葉に、思い出したように、真癒圭。
「そう、月神さん、具合悪そうだったって聞きました。大丈夫なんですか?」
 その言葉に、詠子は苦しげに顔を歪め、手でそれを覆う。うぅ、と苦しげな呻き声が指の間から漏れた。
 更に近づこうとする凛を、キッと明らかな殺気でもって睨みつける。セレスティは咄嗟に叫んでいた。
「月神さん!」
 それを合図にしたように詠子は両耳に手を当て、物凄い速さでどこかへ走っていく。それを追いかける5人の前に、ふと、ゆらりといった感じで繭神・陽一郎(まゆがみ・よういちろう)が立ちはだかった。
「生徒会長……?」
「なんで、こんなとこに」
「生徒会長も、月神さんを探しに、ですか?」
 凛に海月、真癒圭が尋ねると、陽一郎はそっと手を差し出した。
「今は何も聞かないで───キミ達が拾ったそれぞれのもの、渡してくれないかな」
 この時、誰もが不審に思った。
 まだ誰も、それぞれがそれぞれに手に入れた「月に淡く光る石」を拾ったことを、言っていないのに。
「早くしてくれ。渡してくれなければ、キミ達にとても理不尽な力を与えて取り上げることになる。ぼくはそれが嫌なんだ」
 こちらも、詠子同様に苦しそうな声。
 まずCASLLが、次に真癒圭が、そして凛、海月、最後にセレスティが持っていた一つずつの石を彼に渡した。
 何か聞こうとしてそれぞれに口を開いたが、
「恩に着る」
 と短く打ち切られ、陽一郎は去っていった。
 5人はしばらく互いの顔を見つめていたが、
「ここにいても冷えるだけだし……」
 凛がつぶやき、
「帰りますか」
 セレスティが少し宥めるように言うと、残りの三人も頷いた。
「やっぱりね、あのペンション、何か不思議な感じがすると思ったんだ……何かあるって……」
「そうだな、俺達の感じた通りだったな」
 凛と海月のその言葉に、どうしてそれを早く言ってくれなかったんだと涙を呑む真癒圭とCASLL、そして「お二人はカンがいいのですね」と優雅に微笑むセレスティだった。




《完》


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】
1883/セレスティ・カーニンガム (せれすてぃ・かーにんがむ)/男性/3年A組
3604/諏訪・海月 (すわ・かげつ)/男性/2年B組
3636/青砥・凛 (あおと・りん)/女性/2年B組
3629/十里楠・真癒圭 (とりな・まゆこ)/女性/2年B組
3453/CASLL・TO (キャスル・テイオウ)/男性/3年C組



●【個別ノベル】

【1883/セレスティ・カーニンガム】
【3604/諏訪・海月】
【3636/青砥・凛】
【3629/十里楠・真癒圭】
【3453/CASLL・TO】