●「海キャンプ」 オープニング
太陽がさんさんと降り注ぐ白い砂浜。その向こうの海には何が広がっているのだろう。
例えば、青いさんご礁。
例えば、魚たち。
「スキューバダイビング……やりたいな」
ぼんやり海を見ながら月神詠子はぽつりと言った。
海に潜って楽しめるのは夏しかない。
そして月神詠子にとって最後になる学園生活。この海キャンプは心行くまで遊び倒してくいが残らないようにしたいのだ。
「そうだな。やればいいじゃないか。ここには面白いものがたくさん眠っているんだから」
月神はさっきのぼうっとした表情からは考えられない、醜くゆがんだ微笑を浮かべた。
それに自分で気がつき、自分で驚く。
大きくため息をついて深呼吸した。
「本当に面白いものだから、一人でいくのもやだな。それにボクは誰かと何かをしてこのキャンプを楽しみたいんだ。一人で何かをする、なんてせっかく海にきたのにもったいないじゃないか」
砂浜から大きな海を眺めて月神詠子は独り言を言った。
そこからの月神詠子の行動は早かった。
どこからかたて看板を見つけてくると、それにマジックでデカデカと大きく「スキューバダイビング体験実習」と書いたのだ。
そこへ草間武彦が通りかかった。
「何してんだ。月神。スキューバって、お前できるのかよ」
月神詠子はきょとんと草間を見る。
そんな質問は愚問だ。
「潜ればいいだけでしょ」
「その『潜る』ってのに道具とか技術がいること、ちゃんと分かってるのか?」
「技術? そんなの必要ないじゃないか。そのまま深くまで潜っていって海の中を探検すすればいいんじゃないの?」
「お前な……。そのままって、普通の人間ならへたすると死ぬぞ……」
そこまで言われて月神詠子は落胆と邪魔された怒りが込み上げてきた。
自分はダイビングがやりたい。
それはそのまま潜ってみんなと色々楽しみたいのだ。
月神詠子は素で何時間も潜っていられる。
そしてそれが普通だと思っている。
そのことからしてこの計画は他者と一緒にやることが困難だ。
でも。
この海にはあるのもが眠っている。
それを皆で見て、それについて語りたい。
「なんだよ! ボクは皆で楽しいことがしたいんだ! 夏の思い出を作りたいんだよ!」
月神詠子は泣きそうな顔で草間に怒鳴った。
「ばか。怒るな。そんな泣きそうな顔で言ったってそのままじゃ誰もこないぞ」
「……じゃあ、どうすればいい」
「スキューバの道具一式そろえて来い。俺の分もな」
「……え?」
「俺が引率してやるよ。……実はな……俺もしたんだよ、ダイビング。でもお前って常識ないから一緒に行くのに心配だっただけ」
「じゃあ……一緒にダイビングしてくれるの?」
「ああ。どうせやるなら大勢募集しようぜ。プリントでも配ってさ」
それから二人はスキューバダイビングの体験実習というプリントを生徒にくばり、海に立て看板をつけた。
草間と月神はそのたて看板を見て満足げに海を見渡した。
「海の中に潜るって楽しいよな」
「うん。ねえ、知ってる? ここの海には面白いものがあるんだよ」
「なんだよ、それ」
「そうだな……例えて言うなら一千の宝石が眠っているんだよ」
「お宝か!」
「ある意味、宝かな」
月神詠子は悪戯っぽい笑みを草間に向けた。
草間は眉を寄せて怪訝そうな顔つきで月神詠子の顔を見たが、月神はその先を言おうとはしなかった。
「ボクがみんなを案内してあげる」
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