【タイトル】 痴話喧嘩勃発!−砂の城−
【執筆ライター】 周防ツカサ
【参加予定人数】 1人〜?人
オープニング /ライターより /共通ノベル /個別ノベル


●「海キャンプ」 オープニング

 空は青く、砂浜は白く――なんて感想はありきたりだけど、やっぱり海はいい。爽快だ。

 ――サクサク。
 ――サクサク。

 望月透(もちづき・とおる)は一人寂しくスコップで海水に濡れた砂浜を掘っていた。
 砂を集めているのだ。
 なんのためにかって?
 砂の城を作るためだ――そこ、幼稚とか言わない!
 さて、どうして砂の城なんぞを作っているのかと言えば、さきほど暇だったので何気なく砂を集めて山を作って海水で固めてみたら――まるで雪を固めたかのように屈強な砂の塊ができあがったのだ。
 雪と比べれば砂なんて――と思うのが普通だが、ここの砂は海水で固めると異様に硬化してしまうらしかった。
 わーい、たのしーなー。
 透はこの大発見に、心の中では大はしゃぎだったが、傍で見ると友達の一人もいない根暗な生徒にしか見えなかっただろう――泣いてなんかないぞ。
「おーい、何やってんのー?」
 声がしたので振り返ると、そこには透の幼馴染の清水悠(しみず・ゆう)が立っていた。おー、水着姿がまぶい(死語)。
「見れば分かるだろ。砂の城、作ってんだよ」
「――暗いわね、あんた。そんなんだから誰も寄ってこないのよ」
「なんだと?」
 ちょっとカチンときた。ていうか、張り倒してえ、この女。
 そんなことを考えていると、すぐ隣で悠も同じようにして砂の城を作り出した。
「あら、ここの砂って――」
 どうやら彼女も砂の特異性に気づいたようだ。二人は、よいしょよいしょと砂をかき集めて本格的に砂の城を作り始めた。
「――うわっ!」
 透の顔面に砂の塊がぶち当たった。
「あ、ごめーん。わざとじゃないんだー」
 悠が嘲笑うかのようにしてこちらを見ていた。
 だが――透はキレた。キレまくりだ。
「おい、悠。勝負しろ!」
「ふふーんだ。あんたが私に勝てるとでも思っているわけ?」
「勝つさ! 汚い手を使ってでもなー」
 透は「こんな風になー」と言いながら砂のダンゴミサイルを砂の城(作:清水悠)に向かって放り投げた。
「きゃあ! 何するのよ!」
 徐々に騒ぎが大きくなり周りの生徒たちも「なんだなんだ?」と集まってきた。
 こうして痴話喧嘩は次第にヒートアップしていき、周囲の生徒を巻き込んでの大戦争へと発展したのだった!




●ライターより

ライターの周防ツカサです。
今回は、二人のどちらかについて砂の城を作っていただきます。
基本的にギャグ重視ですのでお気をつけください。
この勝負には『勝利条件』と『ルール』がいくつかありますので、以下を参考にしてみてください。

勝利条件:どちらかの砂の城が、縦二メートル、横二メートル、高さ二メートルに達した時。
ルール1:お互いの砂の城は十メートル以上離れていなければならず、相手の砂の城には五メートル以内に近づいてはいけない。
ルール2:砂、海水を利用した攻撃は許可。ただし攻撃対象は『砂の城』のみ(たまたま誰かに当たった程度ならば許容)。
ルール3:能力による攻撃、防御は禁止。
ルール4:途中で寝返っても構わない。

以上が勝利条件とルールになります。
ですが! 今回はギャグですので、あしからず。
こけても泣かない! 砂をぶつけられても泣かない! 勝負に負けても泣かない! 
でも、砂の城が壊されたら逆ギレしろ! そして寝返るんだ!

それではご参加お待ちしております。



●【共通ノベル】

 真夏の炎天下は凄まじい温度の上昇を見せる。クーラーでガンガンに冷えた屋内が恋しくなるのも無理はない。
 ほんとすみません勘弁してください、そう訴えたくなるほどの灼熱地獄だった。
 嘉神・真輝(かがみ・まさき)は水着にも着替えず砂浜に設置されたパラソルの下で冷たいジュースで喉を潤していた。
 真輝は、「未成年でしょう?」と疑ってしまうような年齢からは想像もつかない幼い容姿をしており、「女性ですよね?」と誰しもが間違うほどにやんわりとした表情をしている。けっこうわが道を行くタイプでまた短気だったりするが、親しみやすい性格をしており人からは好かれやすい。
 さて、なにやら騒がしい。
 非常に騒がしい。
 これは喧騒に包まれたビーチの典型的な姿とも違う、単純に『煩い』という現実的問題である。叫び声が頻繁に耳に届く。
 真輝は狂騒に止まない砂浜の方へと視線を投じた。
「へえ、面白そうなことやってるじゃないか」
 真輝は巨大なパラソルから飛び出した。日照りの激しい砂浜は焼け付くように熱い。思わず、早足になってしまう。
 その騒動は、波が届くか届かないか、といったほどの場所で起きていた。巨大な砂の城が二つ、間隔を置いて並んでいる。
 飛び交う、砂の塊。
 飛び交う、暴言の数々。
 何だか楽しげであった。
 たまに「殺すぞー!」とか「沈めるぞー!」とか聞こえてくるが、総じて楽しそうであると真輝はそう判断した。当たり前だが、本気で殺し合いをやってるわけではないようだし。
「俺も混ぜてくれよー」
 向かった先は冴えない表情の男子生徒が指揮官を務める望月透(もちづき・とおる)陣営であった。彼の方を選んだのは、近かったからというこれ以上ない簡素な理由からであった。それにこちらの方が不利のようだったし。
 透は「よろしく、頼むよ」と事務的に言った。あまり社交的な性格ではないらしい。
 現在は膠着状態が続いているようだったので、真輝はとりあえず気になることを質問してみた。
「何かルールみたいなものはあるのか?」
「そうだね。とりあえず何でもありが基本だけど、人間の限界を超えた力を使用するのは禁止だってあいつ――清水悠、あっちの指揮官がほざいてたよ。それから、勝利条件は縦、横、高さが二メートルの砂で出来た城を作ること。で、相手の砂の城には五メートル以内に近づいてはいけないってのはこっちが決めたんだけどさ」
「なるほどな。とりあえず理解した。あ、途中で抜けてもいいのか?」
「別にいいよ。俺は勝ち負けよりも悠を屈服させる事が目的だからさ。なんなら寝返ってもいいよ」
「屈服?」
「フフフ、俺様の砂ミサイルで、あいつの顔をズタズタにしてやるんだよ!」
 透は怒声を上げながら砂の塊を振りかぶった。
 飛んで、飛んで、飛んで――透の砂ミサイルは相手の城へ直撃した。
「反撃よ! さっさと沈めてしまいなさい!」
 あっちには既に四人ほどが集まっていた。こちらは三人、真輝と女子生徒二人が味方になってくれた。その女子生徒二人は、あちらに加わった男子生徒の幾人かと敵対しているらしい。常時睨み合っていた。怖い。
 あっちはまさにハーレムチームだった。悠を中心にむさ苦しい男どもが集結している。体格の良い男ばかりだ。末恐ろしい。
「んー」
 真輝はとりあえず砂の城でも作ってみることにした。透に聞いた所によると、ここの砂は妙に硬いらしい。しかも、海水につけると硬質化するとのこと。一般的な砂とは違う成分でも含まれているのだろうか。それとも海水の方に何か特別な性質があるのだろうか。どちらにしろ、砂が硬質化するというのは決定論だ。大方、気候か地形に特異な性質があるのだろう。
「おお、すごい」
 砂を集めて山を作り、海水をかけてペタペタと形作ると、なるほど確かに雪みたいに硬い。これで攻撃すれば人間にダメージを与える事も可能だろう。
 雪よりも若干、密度があるようなので、かなり痛いはずだ。これは、おにぎり大ほどに固めた砂団子を手に持ってみて感じた事だ。さすがに地面などに落ちたら崩れるだろうが。
 真輝は視線を敵陣営に向けた。あちらさんは、どうやら役割分担が徹底しているようだ。男子生徒三人が砂の城作り、残りの一人と悠が攻撃と防御を一手に引き受けているようだ。
 たまに「死ね!」なんて物騒な言葉と共に砂の塊が飛んでくる。命中率は悪いらしく、海水にドボーンと落下したり、見当違いの場所に飛んでいったりしていた(迷惑)。とにかく手数重視らしく、かなり積極的に攻撃してくる。
「くそっ、信二のバカヤロー」
 こちらの女子生徒が清水陣営に向かって巨大な砂の塊(物理的にありえない大きさ)を投げた。彼氏と喧嘩か何かをしてここへ乗り込んで来たのだろうか。相手陣営の男の一人が顔を歪めた。あいつか。
「おー、女投げのお手本だな」
 真輝は呟いた。
「ほんとだ。女ってどうしてああなるんだろう」
 透が真剣に悩み出す。
 真輝の言う通り、彼女は右手と右足が一緒に前に出る典型的な女投げであった。これでは思うように飛ばせない――はずなのだが。
 どういうわけか、相手陣営近くまで飛んでいき、そのまま海水面に落下――水しぶきが相手の砂の城を損壊させた。うまい。
「きゃあああ!」
 悠が悲鳴を上げる。
「ふん、ざまあみるがいいのよ!」
 女子生徒はそう言いながら高らかに笑った。
 女ってのは恐ろしい生き物だなあ、と真輝は切実に思った。
「二メートルってのは無理があったかな」
 真輝の隣で同じく砂を固めていた透がぼやいた。
「二メートルっていったら人間でも、相当高い部類に入るな」
「だよなぁ……。ま、とにかく土台をしっかり固めておかないとダメだよな」
 透が海水を両手で掬って砂の小山にかける。本当に雪を固めているような感触だ。冷たくない分だけ、こっちの方が楽だが、美感は反応しない。やはり真っ白な雪の方が見た目には美しい。
 とは言え、今は砂一色。砂の砂による砂のための――なんだろう。まあ、とにかく砂。
「これは長期戦になりそうだな」
 屈強な砂の城の土台を叩きながら真輝は言った。
「そうだな。同じ砂をぶつければけっこう簡単に崩せるだろうし、高くなればそれだけ守るのも難しくなるだろうしな」
 それは確かにもっともな事だと真輝は思った。いかに頑強とはいえ、破壊できぬ物はこの世に存在しない。無敵の矛と無敵の盾とやらが本当に実在すれば話は別だが。
「そう言えば、彼女とは幼馴染なんだって?」
「ま、まあね」
 透がどもった。ははーん――真輝は、勘ぐりはいけないと思いながらも、やはり聞いてみたくなるのが世の定説(ムリヤリ正当化している)。
「で、どうなの?」
「――え? 何が?」
「幼馴染との仲」
「仲って……そんなの普通だよ」
「普通?」
「……普通は普通だよ」
 透の声が小さくなる。けっこう純情なのかもしれない。真輝は、これ以上は刺激しない方がいいのかもしれないなと、そこでその話は打ち切る事にした。
「ま、今は戦いに専念しないと寝首を掻かれるかもしれないからな」
 言うと透は一度頷いて、
「さてと――」
 立ち上がり、真輝に「任せた」と言い残し、拵えておいた砂ミサイルを抱えて敵軍に向かって突貫していった。なんて勇ましい――真輝は透の死は無駄にしないと誓った。まあ、まだやられてもいないのだが。
「ほらほら、あんたってば根性ないわねー」
 悠が砂をペタペタと固めながら透を煽る。むさ苦しい男たちに防御は任せて自分は一人、作業に従事(観戦しながら適当にやってる)しているようだ。まるで女王様みたいに。
「はん、痛くも痒くもないぜ!」
 透は両手に抱えた砂ミサイルを放射しながら、敵の攻撃は身を持ってしてひたすら耐え忍んでいる。見ていて実に痛々しかった。やせ我慢にも程がある。
「撃て撃て撃て!」
 男の一人が指示を飛ばす。別の男が叫びながら特大の砲弾を発射した。
「――え?」
 透の目が点になる。
 その特大の砂団子は大きさがバスケットボール大ぐらいあった。通常であれば、間違いなく投げた瞬間に形が崩れるはずで――しかし、そのままの全形を維持したまま飛んでくる。巨大な影が透を襲う!
「――危ない! 逃げろ!」
 真輝が咄嗟に叫ぶが、
「うわあああ!」
 透は頭を抱えてへたれこんだ。情けな。
 どぼーん。
「――へ?」
 無事だった。特大ミサイルは海に落下し、巨大な水しぶきを上げた。
「ちっ、おしい」
 悠の舌打ち。本当に悔しそうだった。
「ふん、予想通りだ」
 透は髪の毛をかきあげ笑った。さっき頭を抱えていたのは誰だったか。
「おい、隠れてないで出て来い! 俺に負けるのがそんなに悔しいのか!」
「あんなこと言ってますよ?」
 男の一人が買ってきたかき氷を悠に手渡す。
「あ、いいな」
 真輝はハワイアンブルーに思いを馳せた。
「ふふふ、私の手を煩わせないでちょうだいね」
 悠は完璧に女王様モードだ。スイッチが完全に入ってしまったらしい。生来のエスっ気が災いしたようだ。ダメだこりゃ。
「やっちまえー」
 再び透が攻撃対象に。
「そんなへなちょこミサイル、余裕だぜ! 余裕、余裕!」
 透は足を震えさせながら虚勢を張った。
「いけー!」
「潰せー!」
 不意に飛んでくる砂ミサイル。
「だから、余裕なんだよ! 余裕、余裕、余裕……って! 痛いだろ! ていうか痛いって。あー、痛い痛い! ちょっと……ま……っ! 痛い痛い! わー、ギブギブ!」
 透が泣きながら戻ってきた。
「うわああー、あいつら卑怯だー」
 透が砂まみれの濡れ鼠状態で戻ってきた。
 女子生徒の一方が「うわ、悲惨〜」と言いながら透の肩を叩いた。悲惨と言いながら笑っている。透は泣きべそをかいている。
「ふふーん、所詮は雑魚キャラなのよ、透は!」
 悠が嘲笑いながら野次を飛ばしてきた。
 透はそれを聞いて、また余裕な表情を装った。
 そして悠の茶々入れに対して、「ふん、こっちには秘密兵器がいるんだぞ?」なんてのたまった。誰だろう、秘密兵器って――真輝がそんな事を考えていると、
「よし! 嘉神! 目にモノ見せてやれ!」
 背中を叩かれて「はあ?」と訳も分からず飛び出す羽目となった真輝は、仕方なく相手陣営に向かって歩き出した。
「あんたが秘密兵器? お世辞に強そうには見えないわね」
 失礼な奴だ。しかし、真輝はその手は食うかと挑発には乗らず、毅然とした態度を維持した。すると敵さんは攻撃態勢に入った。
「撃退しろー!」
「侵入を許すな!」
「断固拒否!」
「我が城の秩序を守り通すぞー」
 暑苦しい野郎どもが叫びながら手に握った砂の塊を放り投げてきた。
「ほっ! はっ!」
 真輝はそれら複数の砂の塊を手刀や蹴りで撃退した。空手を嗜んでいる彼にとっては造作もないことだった。硬いとは言え所詮は砂である。瓦や板を割る方がよほど痛い。そもそも砂ごときが人間様にかなうはずもない。
「ははは、その程度かよ」
 華麗なデモンストレーションに思わず立ち止まる生徒たちがちらほら。真輝は調子にのっていろんな技を披露した。
「――って!」
 砂が顔面にぶち当たり、砂が目に侵入してきた。調子に乗ったのがいけなかった。
「よし、トドメよー」
 悠の掛け声。真輝は敵の更なる攻撃に逃げ惑った。怒涛の攻撃にさしもの真輝も分が悪い。ていうか、無理だろアレ。
「あ、やばい。そろそろ糖分が……」
 カロリーを消費しすぎたのか動きが鈍ってきた真輝。ジリジリと肌を焼き付ける小憎らしい太陽も存分に体力を奪ってゆく。
 極度の甘味好きである真輝にとって現在の状況はストレスだ。清水陣営の男どもの容赦ない攻撃と悠の罵声、これだけで十分にストレスなのだが、食べたくても食べられないお菓子――そんな現状は真輝にとって拷問に等しい。
 むしろ、だいぶイライラが募ってきた。
「まきちゃん、根性だよ!」
「必死なまきちゃんも素敵だよ!」
 まきちゃん――非常に腹立たしいあだ名に真輝はカチンときた。
「おーい、まきちゃん、気合が足りないぞー」
 ついには透まで釣られてまきちゃんコール。ちょっと寒気がした。
「お前ら、まきちゃん言うな!」
 敵の攻撃をちゃっちゃと捌いて、真輝は踵を返した。憤慨しながら突貫し、女子生徒はさしおいて、とりあえず透に向かって足を振り上げた。八つ当たり万歳。
「うわー、冗談だってば。本気にするなよー」
 透が慌てて砂浜を転がって真輝の強烈な踵落としをかわした。
 ズン――ドサドサドサ。
「――あ」
 思うが遅く、真輝渾身の一撃は女子生徒たちがせっかく一メートルの高さまで作り上げていた砂の城を損壊させてしまった。いかに頑丈な砂の城とはいえ、踵落としではひとたまりもない。
 この瞬間、真輝の脳裏には様々な過去の思い出が走馬灯のように――ではなく、透が最初に言っていた事を思い出した。
 ――なんなら寝返ってもいいよ。
 確かに彼はそう言った。それはつまるところ、裏切っても許されるという事だ!
 真輝は飛躍した素晴らしき思想を胸に抱いた。
「おい、嘉神! いくらなんでもやりすぎだぞ!」
「きゃああ! 城が城が!」
「ちょっとおー、どうしてくれるのよー」
 三人が冷たい視線を。
「…………」
 真輝は踵を返し、清水陣営に向かって走った。
 こうなってしまったら、寝返るしかない!
「あらら? もしかして裏切り?」
「清水、その手に持ってる奴くれたら加勢するぜー」
 真輝は、悠がボリボリと食い耽っていたスティック状のお菓子を指差した。チョコレートがコーティングされた有名なお菓子である。
「まあいいわ。でも、これで六対三になっちゃったわね」
「確かに……って」
 真輝はあちらさんの様子を遠目に見て慄いた。
 すごい形相だ。
 ブツブツと念仏みたいな怪しい呪文を唱えながら何かを作っている。
 なんだあれ……こわ。
「よし、徹底的に潰すわよ!」
 悠の命令に男どもが「おー!」と口を揃えて拳を振り上げた。
「おー!」ボリボリ。
 真輝も軽く拳を上げる。お菓子を食べながら。
「ちょっと、食べてばかりいないでよ。加勢してくれるんでしょう?」
「そうだな」ボリボリ。
「ま、レクリエーションみたいなものだから強請はしないけど」
「そうだな」ボリボリ。
 真輝は食べるのに夢中だった。糖分は大事だ。
「悠、てめえ、地獄に落ちろー!」
 透が血相を変えて襲い掛かってきた。
「返り討ちよ!」
 再び抗争が始まる。両者共に砂の城なんて、もはや作っていない。彼等の頭の中は相手をいかにして潰すか――それだけのようだ。
 飛び交う罵声。
 飛び交う砂。
 飛び交う人。
 あちらは怒りに我を忘れているようだが、人数のハンデをものともしない猛攻を見せていた。こちら陣営の男たちもそれに気圧されてか少し押され気味。人間は極限状態になれば何でもできるらしい。
「戦況、思わしくないわね」
「そうだな」ボリボリ。
 真輝は、中途半端にお菓子を食べ物もんだから本格的にお腹が空いてきた。さて、退散するか、と真輝は決心し、清水陣営からフェードアウトする事にした。悠は自ら前に出ようとしている所だったので簡単に脱出できた。
 真輝は悠からせしめたお菓子を口にくわえたまま、そそくさと退散を決め込んだ。後方で「死ぬー」なんて物騒な言葉が耳に届いたが、聞こえなかったことにする。
 まあ、勝敗なんて二の次、楽しめればそれでいい。と、やってる時はけっこうマジだったなあ、とか思いながら、真輝は食事をするために海の家に向かった。
 陽はだいぶ傾き始めていたが、まだまだ砂浜での騒動は続くだろう。
「いてっ!」
 感慨に耽っていた真輝の後頭部に砂ミサイルが直撃。
 振り返ると遠くで透が笑っていた――

−End−


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2227/嘉神・真輝 (かがみ・まさき)/男/24歳/神聖都学園高等部教師(家庭科)】



●【個別ノベル】

【2227/嘉神・真輝】