【序章 〜蓬莱館の秘密〜】

高峰・沙耶(クリックすると全身図が見れます)  丁度いい所に来たわね。出かけるわよ。
 どこに行くのかって? そうね、温泉と言えば良いのかしら。
 私が所有する蓬莱館と言う温泉よ。
 富士の裾野にある良い所で、昔から浸かると不老長寿がかなうと言われているわ。まあ、そこに少し問題があるけどね。
 わたしが前に入ったのは、そうね百年程前だったかしら・・・ふふふ、冗談よ。
 楽しみましょう、温泉が待っているわ。

 でも、温泉に着く前にちょっと話をしてあげる。
 貴方も興味があるでしょう?


 まずは・・・そうね。私が温泉を所有している事に驚いているみたいだから、それから話しましょうか。
 尋ねてきた以上、知っていると思うけど・・・高峰心霊学研究所は、日本中の主だった怪異現象を把握しているわ。普段の貴方達の活躍も・・・ね。
 そのついでに、必要であれば・・・そして、状況が許せば、その現象が発生する土地や曰く付きの品物を収拾しているのよ。
 これは別に隠している事じゃないわ。アンティークショップ・レンに、集めた品物を管理してもらったりもしているしね。
 それで・・・今日行く場所は、研究所がおさえている曰くの有る土地の一つ。
 普段はどうという事もないただの森なんだけど、百年に一度・・・『蓬莱館』と呼ばれる温泉旅館が姿を現すの。そこは中華系のデザインをしたかなり大きな建物で、『蓬莱』と名乗る少女が出迎えてくれる・・・
 真面目な話よ。そして、本当の話。
 不思議でしょ。この蓬莱館の誕生にはある秘密があるのよ。


 それは昔々の話・・・今より二千年も前。中国は秦の昔。不老不死の薬を求めた偉大なる始皇帝の命を受け、「徐福」という一人の術士が探索の任を負ったの。
 彼は三千人の若い男女を乗せた船団を率い、不老不死の薬を求め世界をさ迷ったわ・・・
 そして長い放浪の果て、徐福は不老不死の薬がこの世に無いと思いこんで・・・この世に無い物であれば、あの世にこそそれは有ると考えた。
 ふふ・・・きっと、報われない努力に疲れてしまったのね。決して手の届かないものでは無かったはずなのだけど・・・
 とにかく、彼は訪れていた東方の島国で霊力に優れた土地を見つけ、とある儀式を行ったの。
 それは「不老不死」を可能とする「異界」を生み出す儀式。
 今よりもずっと世界が安定していたその頃に異界を生み出す為には、大きな犠牲を必要としたわ。
 術士・徐福の執念と生命、同伴する三千人の供の者の魂と、一人の少女の犠牲・・・そして、術は成功。富士の樹海にて『異界・蓬莱』は生まれたの。
 それで・・・犠牲となった少女。彼女がさっき話した「蓬莱」という少女よ。温泉に来た者を出迎えてくれるね。

【蓬莱】illust by 倣学  徐福は蓬莱を管理する存在として自分の従者だった、今は本当の名も忘れられたその少女を異界の核として選び、贄としたの。以来、彼女は異界・蓬莱の守護者として二千年近い年月を「蓬莱」として過ごしているわ。
 異界・蓬莱は百年周期で出現と消滅を繰り返していて、世界に留まれるのは約一ヶ月。この一ヶ月の間、温泉宿として泊まりに来た人間の霊力を吸収し異界の力として蓄える。
 あ、安心して。異界は、誰かを殺すような事はしないから。ただ、そこに人間がいるだけで、異界は必要な力を得る事が出来るの。だから、安心して楽しんでくれればいいわ。
 それで・・・蓬莱の肉体は異界の中心で眠り続けていて、異界が姿を現す時に目を覚まし、温泉宿・蓬莱を訪れる人達を迎えるの。
 そして、そんな彼女を、姿の見えない三千人の従者達・・・異界を造る為にその身を捧げた彼らが手助けしているわ。
 だから、温泉はとても快適なの。
 こうして客達は快適に過ごし、異界は霊力を蓄えて再び眠りにつく・・・今まで何度も繰り返された事。多分、これからも永遠に繰り返される事。除福の望んだとおりにね。


 少し長くなったけど、これがこれから行く先にある蓬莱館の話・・・ただ、これはただの知識に過ぎないわ。
 そこで何が起きるかは、貴方が確認してね。
 きっと、楽しい旅行になるわ。