調査コードネーム:キミと一緒に温泉に。〜桜舞う季節〜
執筆ライター  :葵桜
関連異界    :約束の木の下

 【オープニング】
 【 共通ノベル 】
 【 個別ノベル 】


【蓬莱】illust by 倣学 【オープニング】
狐族の幽霊の銀狐。
彼の名は「狐族の銀(きつねぞくのぎん)」。
彼ら狐族は、悪霊退治・依頼をする存在である。
なん度かゴーストネットで出会い、実際に会っている者たちもいる。
『おいなりさん』には目がない。

「樹ちゃん、温泉に行こう??」
「突然どうしたの?」
読書をしていた茅鳥・樹(ちどり・いつき)が銀の突然の要望に目を丸くしながら尋ね返す。
「うん・・樹ちゃんと行きたいと思ったんだ」
笑顔で答える銀。
だが、その笑顔の裏側にはある想いがあった。
樹は両親と離れ離れになり「約束の木」に迷い込んできた迷子だ。
事件当時、何らかの強い衝撃を受けたせいで樹自身、両親と逸れてしまった時の事を覚えていない。
どうしても「約束の木」の森で篭っている樹を外の世界へと連れ出したかった。


「『蓬莱館』っていう大きな温泉宿なんだよ。近くの神社に巨大な桜の木があるらしいん
だ!」
小さな神社である為、知っている者は少ないが桜の舞い散る姿が実に素晴らしいと聞く。
「それから・・素敵な浴衣あるかな〜??浴衣に似たのはお正月に一度だけ着せてもらったことがあるんだよ・・」
「そっか・・。温泉の後に着るものと言えば浴衣だもんね」
嬉しそうに話す銀と温泉の話をしている内に樹も温泉旅行が楽しみになってきたようだ。
「銀君、他の人も誘えばもっと楽しくなるかも・・」
「そうだね、皆で行けばもっと楽しくなるよね。色々な人達とお話できると嬉しいね♪」


「所で『約束の木』に宿る妖精は見えるけど『桜』に宿る妖精は見えるかな??」
ささやかな子供の疑問。
樹にとっては真面目な質問。
「うーん・・断言は出来ないけど、出会えるといいね」


【ライターより】
前期には参加できなかったのですが、遅れながら後期参加をさせていただきました。
茅鳥・樹(ちどり・いつき)と狐族の銀(きつねぞくのぎん)については異界の
『約束の木』をご参照ください。
樹に関しては初登場になりますので参考は異界のプロフィールのみになります。



〔〔高峰温泉〕〕
混浴温泉と男女別々の温泉が存在します。
温泉には古き言い伝えがあり、有名な3つの温泉(湯)効果を紹介しておきます。

「恋歌温泉(こいうたおんせん)」
昔、ある少女が温泉につかり、美しい旋律の歌声を奏でた。
その旋律はあまりにも美しいもので聴く者を虜にした。
それ以来、この温泉に浸かる者は自分に眠る美しい部分を引き出してくれると
いう。
また、恋人同士や好きな人と浸かるとお互いの恋心を更に高めてくれるらしい。

「金成温泉(かねなりおんせん)」
一人のお金持ちの心優しい少年が作り上げた温泉。
もともと存在しなかった温泉だが、少年は金のない者達に無料で貸し出す温泉を開いた『蓬莱館』に感動した。そこで旅館の発展を願い、一枚の金貨を埋めた。
翌日、その場所から温泉が湧き出たという。

「癒しの湯(いやしのゆ)」
名前の通り、リラクゼーション効果をもたらせてくれる温泉。
日頃の疲れも癒え、肩こり、頭痛など様々な病気を癒してくれると噂の湯。

〔〔桜〕〕
小さな神社を守護する巨大な桜。
花びらがゆっくりと舞い落ちる桜の下でお花見とささやかなご宴会をお楽しみください。
樹の言う桜の妖精が見えるかどうかは・・・謎。
神社には小さなお賽銭箱があるので、お願い事をするといいかも知れません。
言伝えで、お願い事をした後に舞い散る花びら一片を押し花にすると願いが叶うといわれてます。


【共通ノベル】

<オープニング>
狐族の幽霊の銀狐。
彼の名は「狐族の銀(きつねぞくのぎん)」。
彼ら狐族は、悪霊退治・依頼をする存在である。
なん度かゴーストネットで出会い、実際に会っている者たちもいる。
『おいなりさん』には目がない。

「樹ちゃん、温泉に行こう??」
「突然どうしたの?」
読書をしていた茅鳥・樹(ちどり・いつき)が銀の突然の要望に目を丸くしながら尋ね返す。
「うん・・樹ちゃんと行きたいと思ったんだ」
笑顔で答える銀。
だが、その笑顔の裏側にはある想いがあった。
樹は両親と離れ離れになり「約束の木」に迷い込んできた迷子だ。
事件当時、何らかの強い衝撃を受けたせいで樹自身、両親と逸れてしまった時の事を覚えていない。
どうしても「約束の木」の森で篭っている樹を外の世界へと連れ出したかった。


「『蓬莱館』っていう大きな温泉宿なんだよ。近くの神社に巨大な桜の木があるらしいん
だ!」
小さな神社である為、知っている者は少ないが桜の舞い散る姿が実に素晴らしいと聞く。
「それから・・素敵な浴衣あるかな〜??浴衣に似たのはお正月に一度だけ着せてもらったことがあるんだよ・・」
「そっか・・。温泉の後に着るものと言えば浴衣だもんね」
嬉しそうに話す銀と温泉の話をしている内に樹も温泉旅行が楽しみになってきたようだ。
「銀君、他の人も誘えばもっと楽しくなるかも・・」
「そうだね、皆で行けばもっと楽しくなるよね。色々な人達とお話できると嬉しいね♪」


「所で『約束の木』に宿る妖精は見えるけど『桜』に宿る妖精は見えるかな??」
ささやかな子供の疑問。
樹にとっては真面目な質問。

「うーん・・断言は出来ないけど、出会えるといいね」



●蓬莱館。
何処までも続く森を抜けると中華風の館が見えてきた。
その場所こそが、目的地の『蓬莱館』である。
「思っていたよりも大きな館ですね。今回は銀くん達と一緒だし、楽しみね。お家は神威さんが留守を預かってくれるっていうし、のんびりしましょうか。せっかくきたんですもの♪」
「蓬莱館みたいな鄙びた温泉宿も雰囲気があって好きだなぁ」
広大な屋敷に一人暮らしをしている白里・焔寿(しらさと・えんじゅ)だが、館の広さは焔寿の屋敷並に広い。それだけではなく、この森一面に広がる景色は館の敷地である。
そう考えるとこの屋敷の敷地内は莫大な広さを誇る。
葛城・樹(かつらぎ・しげる)は蓬莱館を目の前にして好印象を受けた。
「すみません〜」
館の中を覗くが迎えがなく、人の気配すら感じられない。
硝月・倉菜(しょうつき・くらな)の声が広い館内に響き渡る。

「「は〜い!!!」」
主の蓬莱が遠くから明るい声で返事を返す。
蓬莱館に似た中華風の可愛らしい格好で、軽やかな足取りで館内を走ってきた後に、軽く会釈をみせる。
「今日はよろしくお願いします」

七瀬・雪(ななせ・ゆき)がスカートを右手で軽くつまみ、足を軽く曲げ、軽く会釈でお返しをする。
「遠くからの長旅ご苦労様です。お疲れだろうし、お食事は宴会で昼はいらないみたいだから、夕食は軽めに用意しておくね。休憩した後には、温泉を楽しんでいってね」
蓬莱は夫々の部屋へと案内をする。親切にも個室と大部屋を用意してあり、荷物を置いた後に一行は大部屋へと集まる。

「ふぅ・・長旅は流石に疲れるわね。でも、温泉とお花見ですか・・いいですね」
綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)が軽く肩を揉みほぐしながら暫しの休息を取ろうと用意された座布団に座る。

「皆さん、お疲れ様。宜しければお茶をどうぞ」
人数分のお茶を注ぎ、樹が全員に配る。
暖かい春風に心地よさを感じながら、外を見れば辺り一面に美しい緑と、緑の香りが漂う。
穏やかな時間を感じる。
「素敵ね・・。銀くんの言っていた桜が益々楽しみね」
「ええ、桜の妖精にも会えるといいですよね・・」
倉菜と焔寿が夢中になって景色を見ている銀と樹の元へと近づく。
振り返る樹と目が合う。
「樹くんも一緒なのね?私は銀くんの友達なの。よろしくね」
「あ・・一日、宜しくお願いします・・」
「わぁ、私も兎が大好きよ。家には兎の縫いぐるみがいっぱいあるわ。樹くんのも可愛いわね」
兎の縫いぐるみを大事そうに抱きしめ、少し緊張気味の樹に倉菜が優しく声をかける。
兎の縫いぐるみの話題に触れ、樹の緊張を解そうと試みる。
「私も大好き。この兎はパパとママが買ってくれた物なんだ。幼い頃から大切にしてるんだよ・・」
抱き心地の良い、大きな兎の縫いぐるみをぎゅっと抱きしめ、笑顔を見せる。
「倉菜お姉ちゃんの兎さん今度、見せてね?」
「ええ、勿論よ」


「銀君くん、久しぶりだね」
「樹お兄さん!見て〜。緑の香りが心地よいね。ボクの住んでいる森みたいだ・・」
「あっ、そうだ!おかげさまで大学受験に合格したんだよ」
風を受け、耳をなびかせながら気持ちよさそうにする銀に、樹は良い知らせを告げる。
「大学に?わぁぁ〜、樹お兄さんおめでとう。ボクも嬉しくなるな」
「これからも日々精進を心がけないといけない所は変わらないですけどね・・」
「これからが樹お兄さんにとっての始まりなんだね」
ずっと、樹の受験奮闘の話を聴いていて心配していた銀だが、今は幸せそうに笑顔を見せる樹も自分の夢に向かって一歩踏み出す事が出来、幸せな時を実感する。
「所で、食事まで時間もありますし、温泉に行きませんか?」
お茶を飲み、一息ついた所で、ふんわりとした笑顔を向け雪が告げる。
「そうね・・折角時間もある事だし、夜の風景だけではなく、明るい内の風情も楽しみたいわ」
温泉を楽しみにしていた汐耶は雪の提案に快く賛成する。当然、汐耶だけではなく、ここにいる全員が温泉を楽しみにして、ここに来ている。
「じゃー、早速行きましょう」
温泉を楽しみにして来ていた雪は手を合わせ幸せそうに万遍な笑みを浮かべ、温泉へと向かった。



●ゆったり、まったり温泉へ。

「「わ〜、広ーーい♪」」

水着を着用している銀と樹は旅行という事もあって、テンションが高まり、広い温泉の周りを楽しそうに駆け回る。
「銀君くん、樹くん、そんなに走ると危ないわ・・」
倉菜が忠告しようとしたとたん、2人はお約束のようにつるりとすべり、扱けた。
「ふ・・2人とも大丈夫?!!」
咄嗟に雪は小さな樹の体を持ち上げ、樹は銀を持ち上げる。
「怪我は・・ないわね・・」
冷静に2人の体に異常がないかを調べ、怪我がない事を知り、汐耶は安心して一息つく。
「えへへ・・扱けちゃった・・」
「2人とも大怪我でもしたら危ないから気をつけるのよ・・」
苦笑しながら声を合わせて言う2人に倉菜は注意すると、2人が落ち込まないように、注意した後は2人に優しく微笑む。安心した2人の顔には再び笑顔が戻る。
体を軽く濯いだところで目的の温泉にそれぞれ浸かる。


「温泉といえば、幼い頃、両親に連れて行ってもらって以来かしら・・?」
過去の記憶を手繰り寄せる様に焔寿は物思いにふける。
混浴に抵抗がある焔寿はゆっくりと温泉に浸かろうと決めていた。
きょろきょろと辺りを見渡すと、焔寿は女性用の広い癒しの湯に浸かっている樹を発見した。
「樹ちゃんとは初対面になるのかな?仲良くなれるといいな。ねぇチャーム?」
温泉に先に浸かっている樹の下へ焔寿は猫のチャームと共に樹と話をしようと、決意を固めて向かう。
「い・・樹ちゃん?」
「えっ?あっ・・焔寿お姉ちゃんだよね」
今日初めてまともに会話をしたにも関わらず、樹はしっかりと焔寿の名前を覚えていた。
何気ない事だが、焔寿は少しばかり嬉しい気分になり、自然と笑みを見せる。
「久しぶりにいっぱい歩いて、少しだけ疲れちゃったな・・でも、すごく楽しいよ」
「私も今回は銀くん達と一緒だし楽しみにしていました。お家は神威さんが留守を預かってくれるっていうし、のんびりしようって決めていましたから・・」
「そうだね、折角きたんだもん。沢山、楽しめるといいね」
子供の体力は計り知れないものだが、疲れていると言われても、元気が有り余っているのではないかと思えるほどに樹は元気な笑顔を見せる。

「うーん・・どの温泉に入ろうかしら・・温泉は恋歌温泉と金成温泉は特に入らなくても良いかな・・とすると後は癒しの湯・・、かな」
どの温泉に入ろうかと悩んでいる倉菜。
大事な人はいるが恋人はいない。金銭面においても元から裕福な家庭で生まれ育った娘なので、困ってはいない。
そう考えると癒しの湯が一番最適であった。
「あっ、倉菜さんもこの温泉に?」
「ええ、一緒にいいかしら・・」
樹と話していた焔寿は気持ちよさそうに浸かりながら、猫のチャームと遊んでいる樹が、なにかの拍子で怪我をしないように真ん中にして左へと寄る。
「気持ちいですね・・」
「ええ、ここの所ずっと色々あったし、今年はいよいよ高校三年、受験生だから今のうちに日頃の疲れを癒すのも良いかも・・・」
これから始まるであろう受験戦争に向けて、息抜きを入れる。
温泉の効果は絶大で、肩の凝りも少しずつ和らいでいくのを感じるほど気持ちよい。
実感できる温泉も珍しいものである。
「ふぅ・・これで後、一つ・・」
全制覇をしたいと考えていた汐耶はのぼせない様に体に気をつけて、休みながら温泉に浸かっていた。
最後に残ったのが癒しの湯である。
女性用の湯よりも混浴の湯の方が少ない為、汐耶は混浴用に用意された服をしっかりと整えてから温泉に浸かる。
と言っても、蓬莱館に泊まっている客はここにいる、7人だけである。
温泉を贅沢に満喫出来るほどに広い。

「銀くん、樹ちゃん一緒に入ろうか?」
「「うん」」
二人は声を合わせて頷くと、樹に差し出された手をとる。
「あれ・・樹ちゃんは女の子だよね・・まぁ・・いっか」
少し考えたが、樹の方もちゃんと持参した可愛らしい水着を着ているし、本人は気にしていない為、一緒に浸かる事に決めた。
「あら・・樹(しげる)さん達じゃないですか?」
「汐耶お姉ちゃんに雪お姉ちゃん!」
普段、音楽家として活動している為、疲れを取りたいと思い、雪も癒しの湯を選んび、汐耶よりも先に来ていた。
汐耶と雪の元へと近づき、二人の間に座らせてもらう。

「樹お兄さんも早く入ろう??」
銀は樹の手を強引にならない程度に軽く引っ張って、温泉へと浸かる。
「樹ちゃん、初めまして。名前が僕と同じ漢字を使っているんだね。僕は『しげる』って言うんだよ、よろしくね。」
「うん。ちゃんと名前、覚えてるよ?同じ漢字なの??すごいね。同じ漢字だなんて、なんだか嬉しいな〜」
同じ漢字を使っている事を知り、何故か少し照れながら微笑む。
まだ間もない期間といえ、銀と同じ環境の中で暮らしているせいか、多少、銀に似ている所が見受けられる。
同い年の子供だという事もあるだろう。
極楽な気分の中で温泉に浸かっている樹(しげる)は歌を歌いたい気分になってきた。
「『温泉の歌』を思いついたよ・・」
「本当??樹ちゃん、樹お兄さんの歌はとても綺麗なんだよ」
「私も聴いてみたい!!」
2人の期待を背負い、樹は思いつきで作詞し、即興曲を美声で披露しはじめる。
樹のすばらし歌声に、歌い終わりには自然と一同は拍手を送っていた。


「流石にのぼせてきたわ・・・」
「そうね、そろそろ夕食時だしあがりましょうね」
汐耶の言うとおり、長居したせいで、少しばかりのぼせてきた。
ややのぼせ気味で頭がぼーとしている樹の体を持ち上げ、雪は癒しの湯から出る。
体の底から温まり、軽い足取りで温泉を後にする。

「銀くん、樹ちゃんはこっちに・・」

手招きされて汐耶の方へ2人は首を傾げながら近づく。
「2人に、浴衣を見立ててあげるわ」
少し嬉しそうに汐耶は二人に似合う浴衣を慎重に選び抜き、着せる。
樹には水色が入った浴衣を、銀には青色の入った浴衣を。
二人は浴衣に違和感を感じるものの、浴衣を着せてもらい嬉しく思い、まじまじと自分の浴衣姿を鏡で見つめる。
数ある中から汐耶は大人っぽい紺色を選び、手馴れた様子で着付けを済ませる。



●桜並木の通り道・・。
「蓬莱さん、お願いがあるの・・」
蓬莱を捜し求めてやって来た倉菜が話しかけると、部屋からでて来た蓬莱と一緒にいたのは汐耶だった。
「あら、倉菜さんじゃない・・」
「汐耶さん、ここでなにを・・?」
ふと汐耶の出てきた部屋の看板を見ると『食堂』と書かれていた。
「くすくす・・倉菜さんも同じ考えをしていたみたいね」
「そう・・みたいですね」
まさか、同じ考えをしているとは思わず、倉菜と汐耶はお互いに顔を見合わせてついつい笑ってしまった。
「そろそろ、時間もないから3人で早く終わらせてしまいましょう!」
「うん。後はほぼ、箱詰めするだけだよ」
汐耶と蓬莱で途中まで済ましており、作業を済ますと、早々と用意を終えて待っている皆の下へと向かう。


「遅かったですね。あれ?それ・・お弁当ですか??」
高峰温泉名物の料理ばかりを集めた大きな重箱弁当に焔寿は気づく。

汐耶と倉菜は弁当を作っていたのだ。
先ほど詰めたばかりなので仄かにいい匂いが立ち込める。
「じゃー、蓬莱さん行って来ますね」
「いってらっしゃい。気をつけてね!」
樹がそう告げると、倉菜と汐耶が運んでいた、重い重箱弁当を1つ、変わりに持つ。
7人分とあって、流石に重箱弁当は1つでは足らず、2つ用意していたので、一つは樹が運び、もう一方は汐耶と倉菜が時間おきに変わりながら道を歩く。
蓬莱は明るい様子で全員を見えなくなるまで、見送った。

少し歩くと桜並木が段々と多くなり、やがて満開の桜の道へとたどり着いた。
その場所は銀が見つけ出した秘密の場所だけあって、誰もいなく、美しい桜を独り占め出来るほど贅沢な気分を味わえるものだった。
「神社ってあれね?」
銀の話していた小さな神社をいち早く雪は見つけ出し、指差すと銀と共に一番乗りで鳥居を潜る。
「一番乗りね、銀君」
「本当だね。ボク達が一番だ〜♪」
願い事をしようと楽しみにしていた雪は、表情豊かに銀と同時に鳥居を潜るとふわりとした笑顔で銀に微笑む。
そしてクリーム色の綺麗な浴衣をヒラヒラさせながら満開の桜を見渡す。
境内も桜が満開で、散った桜も美しく、桜の絨毯とでも言うのだろうか。

誰も踏みはいっていない事が窺える。
「わぁ〜チャームと一緒に、散歩をしたけれど、神社を見つけられませんでした。こんな場所があるなんて・・素敵です」
温泉から少し早めにあがった焔寿はあちこちをチャームと散策をし、緑を楽しんだが、桜も楽しむ事が出来、嬉しそうに両手を合わせ、美しい桜の木に感動する。
「「ぐりゅぅぅ・・」」

突然、樹のお腹がなり、慌てて大きな兎を抱きしめ、おなかの音をさえぎると恥かしそうに俯く。
「あらあら、樹くん、お腹が空いちゃったの?」
「う・・うん」
「長いこと歩いて宿にきたし、温泉にも入ったから、お腹も空きますよね。樹ちゃん、私もお腹が空いていますよ」
俯いていた顔を上げ、倉菜に照れながらも苦笑で答えると、それに加え、散歩をしてきた焔寿の方もお腹がなる一歩手前にまで近づいていた。
神社のお祈りは後にすることにし、近くの大きな桜の木の下に座り、早速、重箱弁当を開くことにしよう。



●楽しい宴会。
「さぁ〜、どうぞ」
自慢の重箱弁当を汐耶が開く。中を開くと、高峰温泉の名物料理がぎっしりと詰め込まれている。
また、中には御袋の味というシンプルだが、美味しいものも詰めていた。
痛んだりすると怖い為、汐耶は皆の健康面の事を考えて旅館に頼んで仕度をしていた。
また、倉菜の提案で、高峰温泉の名物料理をぎっしりと詰めていた。

「最後はやっぱり神社の桜の木の下でお花見だね。僕たちはまだ、未成年だからお酒は飲めないけど、お茶とジュース、それにお菓子をたくさん準備してきたよ」
相変わらず人間の食料に興味のある銀は樹の用意した大量のお菓子に興味を持ち、目を輝かせながら、お菓子の中身がどんな物かを尋ねる。
同じ浴衣を着ている2人は、はたから見ると少しだけ兄弟のようにも見える。
「そうね・・確かに。未成年だからお酒じゃなくてジュースで乾杯しましょう」
グラスを取り、倉菜が全員のコップに飲み物を注ぎ終えると、少し遅くはあるが、旅行を共にしている友に乾杯をする。


「「乾杯〜」」


「わぁ〜、このお弁当、美味しい」
「御袋の味って言うのもいいですよね」
行儀良く手を合わせ、割り箸を持ち、焔寿は上手な手付きで、青い袖に付かないように一口食べると、味が口の中いっぱいに広がり、手を頬っぺたにあてる。
樹(しげる)もお袋の味を思い出しながら口の中に含む。

「樹くんと浴衣お揃いね。お弁当は美味しい??」
「うんっ・・・とっても美味しい。少しだけママの事思い出しちゃった」
両親と逸れてからずっと離れ離れになっていた樹は苦笑しながら倉菜に答えるが、あまり寂しさをみせない。
いつか再び逢える事を信じている樹にとって、両親を思い出すことは両親との唯一の繋がりであり、幸せなひと時を得る事が出来た。
ある意味、樹はプラス思考派なのかも知れない。
逆に幸せに満ちた笑顔を見せる樹の姿を見て、倉菜は安心する。
桜の下での宴会は普段の食事よりも食が大いに進み、大量の重箱弁当を皆で平らげてしまった。
当然、作った倉菜や汐耶にとっては、嬉しい限りであり、遣り甲斐を感じる。
「最後に甘いお団子にお饅頭はどうかしら?桜の下で食べると最高よ」
倉菜の準備した艶のかかったみたらし団子と餡子、美味しそうな饅頭に手を伸ばし、全員で、最後の宴会のひと時を楽しむ。お茶も用意しており、飲むと和やかで落ち着いた気分になり、また、違った桜の雰囲気を楽しむ事が出来る。

「所で樹ちゃん、妖精に会えた?」
「ううん・・。やっぱり会えないのかな」
樹(しげる)の質問に少し寂しそうに答える。妖精と交流出来る能力があれば、樹の前に姿を現してくれるように頼めるが、樹(いつき)の能力がどの程度かが分からない。
「ぜひ、桜の花の妖精に会ってみたいです。私でも会えるでしょうか?」
寂しそうな樹に微笑みかけると、雪は持参したフルートを奏でる。
専門はピアノだが、一通りは吹くことが出来、桜の下で演奏を皆に披露する。
美しいフルートの音が広い森に響き渡り、フルートの音だけに一同の耳が傾けられ、不思議な空気が流れる。

「そこにいるのなら姿を見せてはくださいませんか?小さな友人達・・・」

演奏を終えると桜の木を見つめながら優しく話しかけると、風が吹き、桜の木が柔らかい光を見せ、その小さな光が雪の元へと舞い降りてきた。
「よう・・せい?」
動植物が子供の頃から大好きで、焔寿も桜の妖精にあって見たいと考えていた為、突然の出来事に驚きを見せる。
「天使からのちょっと素敵なプレゼント・・・ですわ」
ふわりと優しい笑顔を見せると、妖精が動きを見せ、雪が樹(いつき)の下へ近づき、手のひらに妖精を置いてあげる。
「わぁ〜」
「樹ちゃん、良かったね」
妖精の存在を信じていた樹は嬉しい出来事に笑みを溢し、銀は普段よりも数段生き生きとした樹の笑顔を見る事が出来、嬉しく思う。
「樹ちゃんの願い事が叶ってよかったわね」
汐耶は樹の信じる心に感心した。


そして、妖精との暫しのひと時を皆で楽しんだ。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
2194/硝月・倉菜(しょうつき・くらな)/女/17/女子高生兼楽器職人(神聖都学園生徒)
1305/白里・焔寿(しらさと・えんじゅ)/女/17/神聖都学園生徒/天翼の神子
1985/葛城・樹(かつらぎ・しげる)/男/18/音大生
2144/七瀬・雪(ななせ・ゆき)/女/22/音楽家
1449/綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)/23/女/都立図書館司書
                      申込み順。

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■         ライター通信          ■
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こんにちは。今回担当させていただきました、葵桜です。
期間限定イベント、「東京怪談ダブルノベル 高峰温泉」を
受けてくださってありがとうございました。
いつもと違ったノベルは楽しくいつもと違った感じで
楽しく感じました。
引越しをして、少し体調を壊し気味なところがあります。
5月は季節の変わり目、皆さんも風邪には十分気をつけて
くださいね。
風邪をひいてる時ほど、「健康っていい」と思ってしまいます。


最後に余談ではありますが、樹(NPC)の全身図が出来上がって
おります。宜しければごらんください。

【倉菜様へ】
いつも、お世話になっております。
樹のプロフィールをしっかりと読んでくださっているようで
ありがとうございました。
プレイングを読んでいて感じました。
兎の縫ぐるみは結構大きいんですよ。
正確には樹が小さいせいでもあるんですけれど・・。
【焔寿様へ】
いつもお世話になっています。
私は温泉と言えば・・・やっぱり温泉の元。
実は温泉に入れないんですよね
(アレルギーとかではないのですが珍しいと言われます)
だからささやかな気分に温泉の元を入れたりします。
眠ってしまわないように気をつけないと(苦笑)

【樹様へ】
いつもお世話になっています。
大学の合格おめでとうございます。
私も大学生ですが、毎日宿題に追われるほど忙しい学校です。
でも、ちゃんと楽しんでもいますよ。
音楽の授業はないのですが、楽器とかに触れてみたいなっと
良く思います。
【雪様へ】
初めまして。
早速、相関を結んでいただきありがとうございます。
今年は桜をあまり近くで見る事が出来なかったので、来年は
見られるといいなっと思っています。
引越しをして、田舎なのですが街中へ行けば桜が綺麗らしいです。
紅葉も素晴らしい県だとはテレビなどで聞いていたので楽しみです。

【汐耶様へ】
いつもお世話になっています。
最近は本を読む機会が多く、頻繁に図書館に足を向けています。
二週間に5冊、薄い英語の本を辞書を片手に読んでいます。
司書の方はとっても頭がいいんですよね。
メッセージを入れてくださってありがとうございました。

【個別ノベル】

【1305/白里・焔寿】
【1449/綾和泉・汐耶】
【1985/葛城・樹】
【2144/七瀬・雪】
【2194/硝月・倉菜】