調査コードネーム:水辺に浮かぶ二つの奏鳴曲(ソナタ)
〜Capitolo della stella.〈星の章〉
執筆ライター  :海月 里奈
関連異界    :シスター・麗花による猊座の報告録集
リンクシナリオ :水辺に浮かぶ二つの奏鳴曲(ソナタ)
〜Capitolo della luna.〈月の章〉

 【オープニング】
 【 共通ノベル 】
 【 個別ノベル 】


【蓬莱】illust by 倣学 【オープニング】
「いやああああっ?! 俺を置いていかないでええええええっ!」
 宿のとある一室にて。
 青年は――大竹 誠司(おおたけ せいじ)は、温泉道具を持って去り行く親友の浴衣の裾にすがりつきながら、とにかく叫びに叫んでいた。
「やぁですねぇ、誠司、」
 親友は――教皇庁の高位聖職者でもあるユリウス・アレッサンドロは、誠司の叫び声に振り返り一言、にんまりと笑いかけると、
「そんなに私のこと、愛していらっしゃったんですか?」
「気色悪い冗談はよしてくれっ! なぁ清水っ?! 俺にはそんな趣味――!」
「……先生って、ユリウスさんのこと、愛していたんですか……?」
「しみずうううううううっ!」
 誠司の話しかけたその先には、座布団の上にちょん、と腰掛けた小柄な少女、清水 色羽(しみず いろは)がいた。
 いつもは病院に入院している色羽も、今日は誠司達と共に、こうしてここまで来ているわけなのだが。
 きょとん、と問い返され、誠司はさらに声の音量を上げる。
 ――しかし、その間に、
「ユリウスっ! お前覚えてろよっ! 
 ユリウスは既に姿を消していた。
 ったく、そーいうトコロだけは素早いっ!
 かくて。
 誠司と色羽。二人はぽつん、と部屋の中に、二人きり。
「――な、なぁ、清水?」
「なぁ、って……何がです?」
 つい先ほどまでは絵を描いていた少女に聞き返されれば、誠司としては、それ以上言うべき言葉が見つからなくなってしまう。
 ……ユリウス、アイツめ……!
 絶対、仕組んだな!
 思うものの、今更この状況がどうにか変わるはずも無く。
「……えーっと……」
 沈黙の、挙句に。
 ようやく、
「――な、なぁ、星でも見に行かないか?」
「星、ですか?」
 照れたように視線を逸らしながら、上ずりそうになる声を抑えて誠司が言う。
 その、言葉と、誠司の様子に、色羽は一瞬だけ言葉を失い――、
 やがてくすりと、小さく微笑んだ。
「良いですね。先生のことだから、どーせ望遠鏡とか、双眼鏡とかは持ってきてると思うし……」
「……学校の地学教室から拝借してきた!」
「さすが先生!」
 開き直るかのようにして答えながら、誠司が暫く、自分の荷物をあさる。
 そうして、数分後。
 キャンバス立ての代わりに望遠鏡を手にした誠司が、色羽を連れて宿から出られる姿が見られた。


【ライターより】
※シスター・麗花と駄目枢機卿・ユリウスとは、現在留守にしております。ユリウスは温泉に、麗花のいない理由は謎です。
 なお、誠司と色羽とは両想いなようですが、お互いに不器用なため関係に進展が無く何年も、といった感じでございます。主な事は望遠鏡をかまえての天体観測となりますが、その他の面でプレイングをかけていただいても構いません。
 よろしければ、お付き合い下さいましね。宜しくお願い致します。
 くわしくは↓をご参照願います。
http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=585

■今回の時間軸(予定)
1、ユリウスが一人のほほーんと温泉につかりに行く(なおこの時、麗花もいません。理由は不明ですが……)。この際誠司と色羽とが部屋に取り残され、今回のオープニングにある事が起こった事となります。(Capitolo della stella.〈星の章〉)
2、誠司と色羽が部屋に戻った頃、ユリウスと麗花とが戻ってきている予定です。――ので、次ぎはユリウスと麗花が、夜な夜な出かけて行く事になるようです。(Capitolo della luna.〈月の章〉)
 このようにして時間軸はずれておりますので、両方ともに参加していただく事も可能となっております。なお月の章に関しましては、後期に受注の予定でございますが、海月個人の事情によりましては、受注できない場合もございます。

Lina Umizuki


【共通ノベル】

I

 散策しようとして館から足を踏み出した丁度その時、二人きりなんて無理に決まってる……! と、偶々鉢合わせした黒緑色の浴衣姿の誠司泣き付かれ、ここまでやって来ていた――というのが、正直なところであった。
 尤も、付き合うのが嫌であったというわけでもなく、むしろ、
 ……むしろ碇さんに、提出するレポートのネタが欲しかったわけですから、構わないのですけれども。
 考えながら、館から歩く事数分、少し開けた木々の間から、夜空が良く良く見渡せるその場所で。
「……相変わらずですねぇ……」
 まぁ、らしいといえば、らしいでしょうけれど。
 ぎくり、と身を震わせた誠司の耳元で、
「とられてしまいますよ」
 ひっそりと囁きかけていたのは、綾和泉 匡乃(あやいずみ きょうの)であった。
 誠司が主に知っている、いつものスーツ姿ではなく、今日はラフな服装に身を包んだ、大学予備校の講師。
 その言葉に、誠司は引きつり笑いを浮かべ、ここから少し遠くの方を――色羽の方を見つめていた視線で、匡乃の方を振り返る。
 ――ああ、
「とっ、とられるって、なにが、どう、」
「お答えする必要もありませんでしょう。先生ならば、おわかりなのではないかと」
「とられるも何も、色羽はモノじゃあ――、」
「おや、誰が清水さんのことを言ったんです?」
「……先生っ!」
 ……まずい、見事に、やられた。
 きょとん、と逆に問い返され、誠司はがっくりと肩を落としてしまう。
 そこからひっそりと肩越しに、もう一度、先ほどここに来る最中、思いがけずに出会っていた知り合いの青年と――田中 裕介(たなか ゆうすけ)と、言葉を交わしている色羽の方を見やった。
「あー……、」
 長い黒髪を、軽く一つに纏めた青年は、確か、
 ユリウスの、生徒、だったか?
 だが、今はそれよりも何よりも、誠司は知らず、何となしに、そこはかとなく何かに脅迫されるかのように――赤桃色の浴衣に上着を羽織った姿の色羽の気を、惹いてしまいたくなって、
「探してる、って言われても、なぁ。星月(ほしづく)さんなら、ユリウスに聞けばどこにいるのかわかるんじゃないのか?」
 なるべく平穏を装い、歩み寄り、裕介に向って話しかけていた。
 ――確か先ほどから裕介がしている話は、と言えば、その殆どが、ユリウスの教会のシスターでもある、星月 麗花(れいか)についての消息に関するものばかりであった。
 裕介は誠司の方を振り返るなり、小さく一つ溜息を吐くと、
「先生にはもう聞きました。予想通り、更衣室にいましたし」
「……もしかして、温泉にまで行って聞いてきたとか……?」
「ええ」
 強く頷いて見せる。
 何せ裕介にしてみれば、そもそも、実のところ、ユリウスとは最初からそういう事で話がついていたのだ――勿論麗花には、内緒であったが。
 ――旅行の期間、麗花を、裕介の元へと預ける。
『いやぁ、等価交換、というヤツですかねぇ』
 温泉行きが決まった、その翌日くらいであったか。裕介の持っていったミルフィーユを幸せそうにつつきながら、あの時確かにユリウスはそう言っていた。
 即ち、
 先生は麗花さんに監視されなくて済むし、俺は麗花さんと一緒にいられるし。
「ああ……それにしてももう、麗花さんったら……一体どこへ……」
 しかしまさか、このような形で麗花に逃げられてしまうとは。
 果して麗花が、裕介やユリウスの策略のどの辺にまで気がついていたのかは裕介にはわからないのだが、ユリウスの話によれば、麗花は宿に着くなり、荷物を整理し、お手洗いを口実に部屋を出たきり、そのまま帰ってこなかったのだと言う。
 ――と、
「……おや、丁度良い」
 裕介の説明を聞きながら、不意に匡乃の視線が、南に続く細道へと向いていた。
 そこには、
「れ……、麗花さんっ!」
 長い髪の、一人の少女の――裕介の探していた、浴衣姿の少女の影があった。
 裕介は慌てて駆け出すなり、振り返った麗花との距離を詰める。
「あ……た、田中さんっ?!」
「どこ行ってたんですか……!」
「ど、どこって……やぁですね! べ、別に何があったとかそういうわけじゃあなくて、その……ほら、た、ただの散歩です!」
「麗花さん」
「ほら、珍しい植物もあるかなぁ、とか、思ったり思わなかったり! 猊下と一緒じゃ、ゆっくり見て歩けないし……!」
 慌てて弁解を始める麗花の姿に、裕介はつかつかと歩み寄る。
「……何、ですか……っ!」
 目の前に立ち止まり、真正面から瞳を見据えた。
 ――このような所で出会えてしまった事は、確かに喜ぶべき事ではあるのかも知れない。
 たがしかし、この出会いは、
「本当、散歩をしていただけですってば!」
 この夜の中に、ただ一人きり。
 つまりは、彼女が今の今まで一人きりで歩いていたと、そういう事を意味していた。
 確かに、いくら女性一人と雖も、都会の宵闇を一人きりで歩く事とはわけも違う。すぐ傍に宿の灯火が見える以上、確かに迷うような所でもないのかも知れない。
 それでも、
「心配では、」
 太陽の光のその下で、緑が輝くその頃とは、わけが違う。宵闇は、何もかもを――優しさも恐ろしさも、全てを平等に、覆い隠して、
 ――しまうのだから。
 その気持ちに、変わりはない。
 決して変わりは、無いのだ。
 だから、
「ありませんか……!」
 自ずから、抱きしめる。
 ほんの少しだけ、その腕に力を込めれば、
「たっ、田中さんっ?!」
 今までに感じた事の無い近距離に、さしもの麗花も、抵抗云々以前に全く動く事ができなくなってしまっていた。
 背中にまわされた暖かな腕が、この現実の世界に、妙な幻影感を与えているかのようで、
「だからってどうしてそんな……!」
 思考が、追いつかない。
 それでも麗花は、やっとの思いで、力の入らない手を裕介を押し退けるようにその胸に当ててやる。
 と、
「先生も、少しだけ心配していたようですよ」
 裕介は、そこで始めて麗花を抱きしめる力をふっと緩めると、それでも彼女には抵抗を許さぬままに、とりあえずまずは、と、適当に話を結んでようやく微笑んでいた。
「話の前に、放して下さい!」
「俺も、心配しましたけれどね」
「田中さん! その――、」
「どうしたんです?」
「その、」
 しかし、怒る、というよりも周囲を気にするような声音で名前を呼ばれ、その意外さに、裕介はそっと麗花を抱きしめていた腕を解く。
 麗花は素早く裕介から一歩距離を置くと、ぎこちなくすぐ近くの方を振り返った。
 裕介もつられ、そちらの方へと視線を廻らせる。
 ――そこには、
「……ああ、どうぞ、僕にはお構いなく」
 いつから二人のことを傍観していたのか、悪戯っぽく微笑む、匡乃の姿があった。


II

 持って来ていた望遠鏡を設置し、
「……やっぱ駄目だなぁ、最近は不景気で。学校の備品なんて、一体これ、何十年前の望遠鏡なんだって……、」
 ちょこりちょこりと愚痴を零しながらも、ようやく誠司が、月へと対物レンズを向けた頃。
「そうですよ、望遠鏡で大切なのは、決して倍率ではありません。むしろ、口径の大きさが重要です」
「口径、ですか?」
「あの望遠鏡で言えば、対物レンズが入っているところの大きさです。あの口が大きいと、多くの光を集める事ができますからね」
「へえ……」
 いつの間にか色羽が地面に敷いていた敷物の上に腰掛け、匡乃と色羽とは、並んで誠司の――否、誠司の設置したばかりの、望遠鏡の方を見やっていた。
 最初、匡乃の散策には、こうして誠司や色羽と一緒になる予定など無かったのだ。次の予備校で教える専門教科を何にするべきか、空を見ながらそんな事も考えようと思い、蓬莱(ほうらい)からは暖かいお茶まで水筒に用意してもらっていたのだが、
 ……コップを、持ってくれば良かった、ですね。
 水筒の蓋も兼ねたこの場には一つしか無いコップで、湯気の立つお茶を、暖かそうに両手で包み込む少女へと、
「すばる望遠鏡ってご存知ですか? 日本の国立天文台が、ハワイのマウナケア山の頂上に造った、反射望遠鏡なんですけれどもね、」
「反射望遠鏡?」
「ええ、反射望遠鏡とは、あそこにある望遠鏡とは違いますよ。あそこにある望遠鏡は、屈折式望遠鏡と言います。ところがこの屈折式望遠鏡には、」
「レンズを使っている、という点で大きな欠点があるから、すばるなんかは反射式望遠鏡なんだ。尤も――こっちにも、色々と欠点はあるんだがな」
 いつの間にか背後に回りこんで来ていたのか、匡乃と色羽の間に、誠司が不意に顔を出す。
 誠司は苦笑する匡乃にも構わず、狭い二人の間に無理やり立ち膝になると、
「で、その屈折式望遠鏡だが、これはレンズを使って光を集めてるだろ? 光っていうのは、屈折率、っていうのが違うから、ガラスを通り抜ける時に、映像がぼやけちゃったりするんだよな。安い望遠鏡だとこれでも良いんだが、高い望遠鏡ともなるとこれを修正するために、高い素材が使ってあったり、構造に工夫がされていたりするんだ。だが、すばるみたいに大きくするとなると、そういう面でも色々な意味で限界も出てくるしな」
「一方で、反射式望遠鏡というのは、光を集めるのに鏡を使います。鏡を使うと、レンズを使った時と違って、色の滲みもおきませんからね。あぁでも、丈夫さの面で欠けるですとか、むしろ欠点は、もしかすると屈折式望遠鏡よりも多いかも知れませんが、でも事実上、大きな望遠鏡を作るのでしたら、こちらの方がずっと都合が良いんですよ。屈折式で望遠鏡を作るよりも、随分安価になりますし」
 経口の大きい望遠鏡は、その殆どが反射式望遠鏡であるのだ。
 尤も、反射式望遠鏡は取り扱いがそれなりに難しいため、素人には屈折望遠鏡の方が使い易いのであるが。
「それに、すばるなんかですと、望遠鏡を持ち運びするわけでもありませんから、多少丈夫さに欠けていても気にする必要はありませんでしょうしね。尤もすばるなんかは、全部コンピューターで鏡が傷まないように、動かした時の角度ですとかを計算して、きちんと管理しているんですけれども」
 いくら大きくて立派な望遠鏡を作っても、やっぱり鏡が歪んでしまえば、全部台無しになってしまいますからね。
 一通り説明を終えると、二人して聞き手でもある色羽の反応を待つ。
 色羽はうーん、と頬に手をあて、小首を傾げると、
「長くて、あんまし聞いてなかった」
「やっぱりな」
 てへ、と微笑む色羽の姿に、さも同然のように誠司が頷いた。
「まぁ、いいか。つまり多分、綾和泉先生が言いたい事はな、」
 一息、置いて、
「よく資料とか、テレビとかで見かける宇宙の映像、あるだろ? あんなのは、こんな望遠鏡じゃあちっとも見えないって事だ」
「随分と端的に説明なさるんですね」
 まぁ、確かに、話の最後にはそれを言おうとしてたのですが。
 苦笑した匡乃に、誠司は一つ頷くと、
「そういうわけだから、とりあえず月でも見てみないか? ま、折角持って来たんだし、使わないと、損だからな」
 色羽の肩を叩き、すっくと立ち上がった。

「もおう、飽きた」
 ――その暫く後。
 月に向けられた望遠鏡の周囲には、早速誰もいなくなっていた。
「天体観測には、意外と忍耐が必要ですからね」
「でもぼやっとしててつまらなかったんですもん。こうやって星空を見上げてる方が、ずっと、綺麗」
 天体観測には、目が慣れるまで覗き続ける忍耐も必要なのであるが、
 ……どうやらその前に、飽きてしまったようですね。
 その上、普段テレビ等で見ている宇宙の映像には程届かない光景に、思わず落胆してしまったのだろう――と、先ほどの敷物の上に腰掛ける色羽の姿に、匡乃が内心付け加えていた。
 ――と、
「あ、そうだ、清水」
 不意に、荷物を探っていた誠司が、色羽へと小さな丸い紙のようなものを差し出した。
「ほら、プレゼント。星座早見表」
 星座の印刷された丸い紙の上に、数字や線の入った透明な丸いシート。二つは中央で止め合わされ、そこを軸に、回転するようになっていた。
「星座、早見表?」
「ああ、ほら、そこで時間とかをあわせると、今どこにどんな星があるのかが、わかるから」
「へぇ、すっごい! 先生、ありがと」
 素直に喜ぶ色羽を、どこか幸せそうに見つめていた誠司の耳元へ、しかし匡乃はひっそりと、
「……おや、随分と準備が宜しいんですね?」
「からかわないで下さいよ……全く、綾和泉先生ったら、人が悪い」
「失礼ですね。先生ほどでは、ありませんよ?」
 にっこりと、微笑んで。
「誠司先生こそ、計画犯ではありませんか、ねぇ?」
 誠司の肩を、軽く一叩きする。
 誠司は気まず気そうに咳払いを一つすると、それでも改めた面持ちで、再び色羽の方をするりと見やった。
「よーし、清水。今の時間は何が見える?」
「先生、北ってどっちなの?」
 貰ったばかりの星座早見表を、傍に置いてあった懐中電灯で明るく照らし、くるりくるりと回転させながら、明るい声で色羽が問うた。
 その問いに、
「宿があちらにあるという事は、北はそちらになりますよ」
 指を指し、匡乃が答える。
 色羽は教えられたとおりに、早見表を空へと掲げると、
「んっとね、西の空に、山猫座が見えるって書いてある」
「いやぁ、まぁ、確かになあ……」
 電灯の光のその下、見れば確かに、先ほど早見表と一緒に引っ張り出して来た、誠司の手元の天文の手引書にも、そう書いてはある。
 しかし、
 そんなマイナーな……。
 探すにしても、一苦労してしまう。苦笑気味に、誠司がどう答えを返そうかと考えているところに、さり気無く口を挟んだのは、匡乃であった。
「まずは一等星を探すと良いですよ。獅子座でしたら、誰にでも簡単に見つける事ができますし」
「獅子座、ですか?」
「ええ」
 頷いた匡乃に、誠司も視線を空へと移し、
「レグルス! そう、まずそれじゃあ、北斗七星を探してみようか。そこから探せば、レグルスも簡単に見つかるからな」
「……レグルス?」
 色羽の問うてくる声に、再び彼女の方を見た。
「獅子座の一等星の事。獅子座の胸の部分になるんだけどな、」
「ラテン語で、Regulus(レグルス)=\―小さな王、という意味になりますね。コペルニクスが名づけたそうですよ。コペルニクスは、地動説で有名ですね」
 ああ、それから、
「星には、色々な色がありますでしょう。丁度レグルスは青白いんですけれどもね。北極星は薄黄、他にも白や赤の星もあります」
 話は逸れるようですけれども――と、どうせ夜空を見上げるのであれば、と、匡乃はさらに、話を付け加える。
 少し、難しい話になりますけれども。
「天文の世界には、スペクトル型 、というものがあります。プリズムですとか、分光器を使って、星の光……と言いますか電磁波を分散させるとですね、その星がどういう性質のものか、知る事ができるんですよ」
 詳しくはまぁ、割愛するとしてでもですね、
「あ、清水さん、スペクトルって、見た事あります?」
 ……しかし、説明を始めるその前に、
 っと、これを聞いておかないと、始まりませんよね。
 問うた匡乃に、
「……あー、よくわかんないだろ? 明日の朝になったら、太陽のスペクトル、見れるから」
 答えたのは、誠司であった。
 確か地学教室から勝手に持ち出した望遠鏡には、サンプリズム――太陽用のプリズムが、ついているはずであった。
 つまりは、サンプリズムのような特別なフィルターを用いれば、スペクトルは簡単に見る事ができる、という事でもあるのだが、
「特別なフィルターを通して太陽とかを見るとな、虹色が見えるんだ。そもそもスペクトルっていうのは、光や電磁波を波長順に分解したもので、だからプリズムを通して太陽の光を見れば、紫、青、緑、黄、オレンジ、赤の順番に色が並んで見えるはずなんだけど……、」
「その虹色に、線スペクトル、と呼ばれる線が入って、星について、色々な事がわかるんですよ。この線スペクトルは、星の大気中の元素に対応しているのだそうでして、ヘリウムですとか、水素ですとか、元素によって違う線になるんです。大気中の原子ですとかが、特定の光を吸収するから、こういう風になるのですけれどもね」
 ――それが、二人の教諭による、長い長い、話の始まりであった。


III

 小道が東西南北の四方向に分かれるその場所に立ったまま、二人は――羽柴 戒那(はしば かいな)と斎 悠也(いつき ゆうや)とは、遠巻きに誠司達の天体観測の、その光景を眺めていた。
 その内に不意に、黒い縁取りの浴衣に身を包み、手には蓬莱から受取って来た風呂敷を手にした悠也が――漆黒の髪に、金色の瞳の印象的な青年が、
「色羽さんも、お元気そうでなによりです」
 遠くを見つめる金の瞳に、腰まで届く赤いウェーブヘアは横に流して緩く纏められた、戒那のその姿。
 黒にほど近い緑色に、赤紫の縁取りが鮮やかな浴衣に――いつも男性用の服を着ている事と同じく、男性用の浴衣に身を包んだ戒那へと、そんな話を振る。
「そうだな。しかし――、」
 遠くにあるのは、共に並んだ誠司と、色羽の姿。
 楽しそうな雰囲気も声音も、ここまで十分に伝わって来る。
 だからこそ戒那は、その光景に、ふ、と、くすりと微笑まざるを得なかった。
 ――まるで、
 羽澄も、そうだからな。
 何と無しに思い出されたのは、さながら妹のような――或いは、妹以上の存在の、薄青色の銀髪のよく映える、恋をしているあの少女のこと。
 ……まぁ、大竹君も、ね、
「羽澄さん、ですか?」
「まぁな」
 羽澄みたいに、ほんの少しくらい――欠片ほどくらいは、もう少し、素直になってみれば良い。
 尤も、それまでに彼女が、どれほどの段階を踏んでいたかという事も、戒那は良く良く知っているのだが。
 ……確かに、簡単な事ではないのであろうと、
 わかっては、いるのだが。
「それにしても――なるほど、スペクトルの話をしているのか」
 そこまで考えると、戒那はそういえば、と、唐突に話題を転換する。
 匡乃達の――北の方角から聞えてくる会話の中には、先ほどから気になる話題が秘められていた。
「悠也、光の定義は?」
「光、ですか?」
 問われたのは不意ではあったが、答えはするりと口をついて出てきた。
「電波、遠近赤外線、可視光線、紫外線、エックス線、ガンマ線――とにかく色々ある電磁波の中でも、主に可視光線が光、と呼ばれているんですよね」
 ただし、光の定義は、所によって異なってくる場合がある。可視光線以外の電磁波も、人間の目では感知できない光だとして考える事も、出来ない事はないのだから――例えば人間の耳では感知できない超音波を、音の一種であると考えるのと、同じくして。
「そう、俺達が恒星から得られる情報の殆どは光、つまり広く言えば電磁波なんだが、これだけでも、結構色々な事がわかるんだ」
 悠也なら、知ってるかも知れないが。
 戒那は離れた所から聞えてくる、匡乃達の会話を耳に、すっと夜空を高く見上げた。
 戒那の肩から、赤毛が静かに滑り落ちる。
「俺も別に、天文学者ではないからな。それほど詳しいわけでもないんだが、星の出す光の種類や強さは、全て違うだろ? これが結構な情報になるらしくてな、それで、色々な事がわかるらしい」
 直接調べる事などできるはずの無い星の温度が、今日では明らかとなっている理由の一つでもある。
「今だと主に星は、O、B、A、F、G、K、Mの七種類、まぁ、最近だとL、TやR、N、Sもあるが。とにかく、そうやって分類されているそうだ。Oは青白い星、Mは赤い星、と言った具合になるらしい」
「つまり、まずわかるのは、Oの星の方が温度が高いという事ですよね?」
「そう、丁度アルコールランプとガスバーナーの違い、みたいなものだな」
 前者は赤く温度が低く、後者は青く温度が高い。
 ――懐かしい話だがな。
 まぁ、
「逆を言えば、温度が高ければ星は青くなるし、低くなれば赤くなる、という事だ」
 単純に、星の色というのは、そう言う事。
 ああ、それから、
「ちなみに、最初はそのスペクトルの――線スペクトルのパターンから、星をA、B、Cと分類していたんだが、その後の研究によって、スペクトル型は星の表面温度の違いによって決めた方が、都合が良い事がわかったらしい。それで、さっきの七種類になるんだな」
 そこには一見複雑で、かなり密接な関係があるのだ。
「温度の高い星には電離ヘリウムの線が、それから、温度の低い星には酸化チタンの分子の暗線が見られたりもする。つまり、線スペクトルは、星の大気中の元素に対応しているのだから、星の温度は、その星の原子分子の構成にも関わっているという事だな、当然」
 恒星の化学組成は、恒星の温度に大きく関わってくる。
 そこまで話を終らせて、
「――でも普段、星空を見上げる時には、そんな事は思わないだろ?」
「ええ、確かに、そうですね」
 不意に問いかけてきた戒那に、けれどもとても、興味深い話ですよね――と、悠也はやわらかく微笑みかける。
 知っている話が無かったわけでもないのだが、改めて聞かされて、初めて事柄同士が繋がった話もある。
 ――と、
 唐突に、さて、と、戒那は身を翻すと、
「行こうか、悠也」
「ええ、そうですね」
 北へと向けていた歩みを、二人の邪魔になってはならないからと、東へと向けなおす。
 無言の合意に、二人が顔を見合わせた、そのところで。
 しかし、
「放して下さいっ!」
 唐突に、今まさに目指そうとしていた方角から――東の小道から、第三者の甲高い声が聞こえてきた。
 声に、というよりも、このような場所でまた人に出会った事に驚きつつも、二人が顔を上げれば、そこには、
「また逃げられてしまっては、困りますからね」
「逃げてなんていませんってば! 田中さんってばあ!」
 いつの間にか天体観測の場を抜け出してきていた――否、正確にいえば、裕介が麗花を引っ張り出してきていたのだが――裕介と麗花の姿が、そこにはあった。
 二人から見れば、真正面の位置に立ち止まったままの戒那と悠也とにも気付かぬ風で、
「どこに行くつもりなんですかっ!」
「ご案内してさし上げますよ」
 会話を交わしながら、ゆっくりと戒那達の方へと、近づいてくる。
「どこをですっ?!」
「蓬莱館の中ですよ」
 どうせゆっくり、見ていないのでしょう?
 続けた裕介に、
「……後で一人で見ますから、それで結構です!」
「やっぱり見てないんですね。でしたら尚更。良い場所があるんですよ。蓬莱館は広いですし、見所も沢山ありますからね」
 結果的には墓穴を掘りつつも、それには気付かない風で、麗花が怒鳴り声を返す。
「いいですってば! ですから、後で見て歩くって言ってるじゃな……、」
 しかし、言いかけて。
 ふと、
「どうしたんですか? 麗花さ――、」
 麗花が、立ち止まる。
 裕介も問いかけた所で、驚いたように視線を上げた。
 そこに、立っていたのは、
「……羽柴さんに、斎さん、ではありませんか」
「ええ、お久しぶりです、麗花さん。このようなところで会うとは、思ってもいませんでしたけれどもね」


IV

 あれから。
 結局数分ほど誠司達と会話を交わし、色羽の様子や周囲の状況に、少し嬉しく微笑んだ後。
「それにしても、レグルス、か」
 先ほど、皆で交わした会話を――獅子座の話を思い出し、不意に悠也が呟きを零し落とす。
 その中でも特に印象的であったのは、別れ際匡乃と交わした、レグルスについての話であった。
『大きさと質量は太陽の約三倍、光度にもなれば、太陽の百四十倍もありますよ、レグルスは』
 あれほどの、昼間の空にも紛れてしまいそうなほどの、星が。
 ――実は、太陽よりも大きな星であるという事は、
「子どもの頃はそんな事、考えもしなかったがな」
「確かに、そうですよね……けれどもそれだけ、宇宙は広いという事でしょうか」
 当たり前のようで、意外な事実。
 あまりにも遠すぎる距離が、あの巨大な青い恒星を、地球にとっては、夜空に輝く星以上となる事を、許してはくれなかったのだ。
「太陽の、三倍、ですか。けれどレグルスは、俺達にとってはただの星でしか、ないんですね」
「まぁな。見た目の等級だけ見れば、確かに太陽の方が随分と明るいしな」
 戒那の言葉に、悠也が頷く。
 だが、あの太陽も、実はただの恒星の一つにしか過ぎない事を、二人は良く知っていた。さほど大きい恒星でもなければ、特別な恒星でもない。
 それでも、
『でも太陽は、僕達にとっては、確かにある意味特別なものかも知れませんね』
 話の果ての、先ほどの匡乃の台詞のそのとおり。
 世界の内で――否、宇宙の中で、多分何よりも微細な折り重なりによって、この地球や、今が、育まれている。
 ――それは太陽が、太陽であったからこそ、できた事。
 太陽がレグルスであれば、この地球は、間違いなく今のようには、存在していられなかったのだから。
 と、
「戒那さん、あの場所が良さそうですね」
「ああ、そうだな」
 不意に悠也が、道の一端を指差した。
 その先にあったのは、二人で腰掛けて丁度良さそうな大きさの、大岩であった。
 早速歩み寄り、とりあえずためしに腰掛ける。夜空が丁度良い具合に見える事を簡単に確認すると、悠也がその岩の上に、手にしていた風呂敷を置いた。それから、その風呂敷の結び目に挟み込んでおいた一枚の布も引っ張り出して広げ、自分の隣にそっと敷く。
 その上に、軽い礼の言葉と共に戒那も腰掛け、置かれた風呂敷を手に取ると膝の上に乗せ、やおらするりと、結び目を解いてゆく。
 そこに入っていたのは、蓬莱に頼んで用意してもらった、小さな酒瓶と二つの杯であった。
 取り出した杯の片方は悠也へと渡し、残りの荷物は、自分の隣へと改めて置く。
 そこから戒那が、自分の杯と、酒の瓶とを取り出そうとした――その時、
「そうでした――戒那さん」
 悠也が、戒那の名前を呼んだ。
 名前を呼んで、空へと高く、片手を翳す。
 振り返り、不思議そうに見上げてくる戒那へと、悠也はそっと微笑を向けると、
「プレゼント、受取っていただけますか?」
 悠也の言葉に、ゆっくりと――それでもどこか、反射的に、何か当たり前であるかのように――差し出された戒那の手の平のその上へ、その手を下ろし、手の平を開く。
「……プレゼント、か?」
 戒那が軽く、小首を傾げる。
 ふと、視線を悠也から自分の手の平へと移したところで、悠也がやおら、その手をどけた。
 ――気がつけばいつの間にか、戒那の手の平の中に、硬く冷たい手触りがある。
「見つけたんです」
 戒那は悠也から受取ったものの乗せられた手を、静かに目の前へと引き寄せた。
 見れば、そこには、
「星を、見つけたんですよ――ですから、戒那さんに、と、思いまして」
 重なる白銀と、蒼氷色のダイヤモンドの織成す、星の形のピンブローチ。
 夜空の光を静々と浴び、夜の世界を映し出していた。
 思いがけずに手渡された贈り物に、
「そうか、星、か、」
 呟いた戒那が、空を見上げる。
 ――そうか、この、星も。
 深遠の闇の中に光の尾を引き、きらら地球の大地に、呼び止められて来たのだろうかと。
「まるで、本当に星を手中に降ろしたようだな」
 得られるはずのない光をこの手にしているかのような、そんな心地に、陥ってしまう。
 夜空から地上に、その美しさの何もかもを失う事無く受け止められた、この世で唯一の、星であるかのような。
 戒那は、手の平の上の星はそのままに、そのまま静かに、星々へと視線を廻らせた。
 都会では決して見る事の許されていない、しかし古来から無限に広がり続けている、永久のような世界。
 天の海、雲の波立ち。星の林に、今日は舟の形を模してはいない丸い月。
 何より、戒那の手中では、地上に君臨してもなおその輝きを失わない、星の女王が、美麗な佇まいを見せている。
「――ありがとう」
 突然の、出来事に。
 だからこそ、意識するよりも早く、自然とお礼の言葉が口をついて出てきていた。
 そのままやわらかく、戒那はふわりと微笑を浮かべる。
 その微笑に、悠也もまた、暖かな笑顔を返していた。
「いいえ、どう致しまして」
 そうして再び、岩の上に置いていた杯を手に取る。
「ん、悠也、俺が注ごう」
「ええ、ありがとうございます」
 酒瓶を取り出した戒那にお礼を述べ、今度は悠也が、杯を手にした戒那のそれに、受取った瓶の中身を注ぐ。
 ――きっと、良い日本酒なのであろうと、
 同じ予感を感じ、顔を見合わせる。
 笑い合い、静かに掲げあった杯の水鏡には、空の世界が揺られながら、映し出されていた。
 そうして、そのまま。
 春の夜の宴。光の散らばる、星の園。
 ――二人は、羽觴を飛ばして、星に酔う。


V

 いつの間にか、再び天体観測の場を抜け出していた裕介と麗花との二人は、暫く蓬莱館の中を廻ったその後、二階に設置された、休憩室へとやって来ていた。
 ソファに腰掛ける麗花の隣、裕介がにっこりと微笑んで、
「ね、面白い所が、沢山ありそうでしょう?」
「……別に、そんな事ありませんっ!」
 そっぽを向いた麗花に、やわらかく苦笑しながらも、
「でも本当に、ここは星が綺麗ですね」
 廊下の大窓から顔を覗かせる夜空を仰ぎ、不意に裕介が呟いた。
 その言葉に、麗花もまた、窓の外へと視線を投げかける。
 ……そこで、唐突に、
「あそこ、ベランダになってるのね……、」
 麗花が、すっくと立ち上がり、窓の方へと歩み寄る。
 そこには確かに、ベランダへと続く、硝子の戸があった。
「開けちゃって、良いわよね……、」
 一度星空の話しになれば、相当外の様子が気になるのか、麗花は戸の鍵の様子を確認すると、そっと戸に手をかけた。
 殊の他簡単に開いた戸から、麗花は軽めの動きで、ベランダへと歩みを進ませる。
 裕介もその後を慌てて追うと、続いて静かに硝子戸を閉めた。
 ――そうして、夜色に落ちた沈黙の帳の中、二人がほぼ同時に、夜空を見上げる。
 無限の、輝き。
 館から零れる多くの光をもってすら、夜空の輝きを打ち消す事はできないでいた。
「……良いですか。あそこからクエスチョンマークを引っくり返した形に見えますね?」
 不意に、どこか遠くの天を指差し、麗花が裕介へと話を始める。
「え……っと、」
 唐突にあそこといわれても、わかるはずがない。
 何と問うて良いものかと、裕介がまず、言葉を失ったそのところに、
「レグルスから見るんです! レグルス、わかりますでしょう?」
「あ、あ、わかりました、あれですね?」
 急かされて、ようやく空に疑問符の形を見出した。
 声音だけは相変わらず不機嫌そうに尖らせながら、麗花がもう、と説明を始める。
「獅子の大鎌、って言われるんです。あれが獅子の頭なんです」
「ああ、それで獅子座になるんですか」
「そうです」
 頷いた麗花に、ふと、
「でも麗花さん、何でそんなにお詳しいんですか?」
 沸き起こった疑問を、素直にぶつけてみる。
 麗花は一瞬だけ言葉を詰まらせながらも、
「大検とった時に勉強しただけです」
「……大検に、そんな知識って必要なんですか?」
「もののついでです」
「ああ、なるほど」
 麗花さんらしい、といえば、麗花さんらしいですよね。
 裕介が、口にしてはどうなるかわからないような言葉を、心の中で付け加える。
 ――と、不意に、
 麗花が柵際へと、小走りで歩み寄っていた。
「あ、あれ、羽柴さんと斎さん、みたいですね」
「――本当ですね」
 ゆっくりと歩み、麗花の隣から裕介も宿の下を見下ろした。
 何やら語り合う二人が、館の玄関の方角へと、ゆるりゆるりと歩いて行く。
 当然二人が、高くベランダの上にいる裕介と麗花の姿に気がついているはずもない。だが、裕介達も、あえて呼び止めるような事はしなかった。
 二人の影を視線だけで見送った後、ふと、麗花がぽつりと呟く。
「でも、いつ帰ってくるつもりなのかしらね。大竹さん達」
「さぁ、それは……どうでしょうね」
 ……ああ、そうだった。
 その言葉に、裕介はぴんと、思い出させられてしまった。
 ――早く、色々と見て歩かないと、
 皆が帰って来てしまうのだと。
「それじゃあ、行きますよ、麗花さん」
「行くって、どこにですか!」
「次の場所です。ご案内しますよ」
「えっ、いいですってば! もう私、部屋に帰らないと――!」
「いいですから、行きますよ。見せたい所が、あるんです」
「あ、ね、ちょっと、田中さんってば……!」
 それから、暫く。
 ――二人がベランダから姿を消したその後、ぱたん、と軽い音を立て、硝子戸が閉まったそのすぐ後に。
 先ほど戒那と悠也とがいた場所には、今度は匡乃と、脚を折り畳んだ望遠鏡を抱えた誠司と、色羽とが帰ってきていた事を、当然二人は知る由も無いのであった。


Fine



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            I caratteri. 〜登場人物
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★ 田中 裕介 〈Yusuke Tanaka〉
整理番号:1098 性別:男 年齢:18歳
職業:孤児院のお手伝い兼何でも屋

★ 綾和泉 匡乃 〈Kyohno Ayaizumi〉
整理番号:1537 性別:男 年齢:27歳
職業:予備校講師

★ 斎 悠也 〈Yuuya Itsuki〉
整理番号:0164 性別:男 年齢:21歳
職業:大学生・バイトでホスト

★ 羽柴 戒那 〈Kaina Hashiba〉
整理番号:0121 性別:女 年齢:35歳
職業:大学助教授




☆ 大竹 誠司 〈Seiji Ohtake〉
性別:男 年齢:26歳 職業:高校化学教師

☆ 清水 色羽 〈Iroha Shimizu〉
性別:女 年齢:22歳 職業:アマチュア画家

☆ 星月 麗花 〈Reika Hoshizuku〉
性別:女 年齢:19歳 
職業:見習いシスター兼死霊使い(ネクロマンサー)

☆ ユリウス・アレッサンドロ
性別:男 年齢:27歳
職業:枢機卿兼教皇庁公認エクソシスト



Grazie per la vostra lettura !

11 maggio 2004
Lina Umizuki

【個別ノベル】

【0121/羽柴・戒那】
【0164/斎・悠也】
【1098/田中・裕介】
【1537/綾和泉・匡乃】