調査コードネーム:高峰温泉名物?・謎の船盛り
執筆ライター  :とーい

 【オープニング】
 【 共通ノベル 】
 【 個別ノベル 】


【碇・麗香】illust by つかさ要 【オープニング】
温泉の醍醐味と言えばやはり『温泉』・『食事』の二つであろう。
ここ、高峰温泉は富士の裾野に広がる。
ゆえに食事は山の幸をふんだんに盛り込んだものである・・・が。

「今、試験運用中の船盛りでーす♪」

豪華な山の幸の食卓。
そのど真ん中にドン!と置かれたその船盛りは異様である。
蓬莱館のただ1人の仲居役である蓬莱はニコニコとただ笑う。
「な、何故山の中で船盛り?」
目の前にドンと出されたそれに、碇麗香は戸惑った。
「だーかーらー。試験運用中でーす♪」
「・・質問を変えるわ。なんの魚なのかしら?」
「それは企業秘密でーす♪」
「・・・」

麗香は戸惑っていた。
この得体の知れない魚で作られた船盛りをどうするべきか・・・。
とりあえず、自分で食べるよりはまず高峰温泉ツアーにやってきた人々に差し入れと称し食してもらう方がよいのではないだろうか?
そう考えた麗香は、その船盛りをツアー参加者の部屋へと持っていくのであった・・・。


【ライターより】
差し入れられた謎の船盛り。それをどうするかをお書きください。

なお、味に関しましては大変美味しいようですが、なにせ高峰沙耶所有・高峰温泉の企業秘密である以上何かが隠されている・・・と考えた方がよろしいかと思われます。
他のツアー参加者に無理やり食べさせるもよし、碇麗香を巻き込むもよし、思わず調査してみるもよし・・。

シナリオ傾向・コメディ系。
お気軽にご依頼ください。


【共通ノベル】

1.森を抜けると・・
鬱蒼とした森が突然消えた。
・・・いや、どちらかというと消えたのではなく、今まで隠そうとされていたかの様にひっそりと佇むその建物が忽然と現れた。
「すごい・・。こんな森の中によくここまでのものを建てたものだな。・・でも、なぜ中華系?」
富士の裾野というだけに、和風な建物を想像していたのであろう功刀渉(くぬぎあゆむ)が呟いた。
「でも、とても立派で風格がありますね。後でスケッチしようかな?」
「二見さん、絵を描くの? あたしも描くんだよ〜!」
二見桐香(ふたみきりか)の独り言に丈峯楓香(たけみねふうか)が思わず身を乗り出した。
「高峰さん、なにか中国とこの旅館って何か関係があるのですか?」
観巫和(みかなぎ)あげはがそう聞くと、高峰沙耶は微笑み「不老不死にまつわる伝説はたくさんあってよ」と言った。
「不老不死?」

「そう。・・旅はまだ始まったばかりだわ。自分たちでそれを聞いて調べてもらった方が楽しいだろうから、私からはこれ以上言わないわ」

一行を乗せたバスが、高峰温泉・蓬莱館の前で静かに止まった。
「あぁ、着きましたね」
郡司誠一郎(ぐんじせいいちろう)がそう言って手早く上の棚に置いてあった荷物を降ろし始めた。
各々が荷物を持ち、バスを降りるとそこに1人の人物が立っていた。
「あら、遅くなるのではなかったかしら? 碇さん」
沙耶がそう言うとその人物は顔をあげ、にっこりと笑った。
「その予定だったんだけど、後を『快く』引き継いでくれた三下くんのおかげで早く東京を出てこれたわ」
そう。その人物とは誰あろう、月間アトラスの鬼編集長・・・もとい、敏腕編集長である碇麗香(いかりれいか)。その人であった。
「碇編集長? 確かそろそろ締め切りが・・・?」
柚品弧月(ゆしなこげつ)がぽかんとした顔でそういうと、麗香が無言でカツカツカツッ! と柚品へと近寄った。

「いいこと!? 3年ぶりの休暇なの。仕事に関することはここでは一切! 口にしないで頂戴」

有無を言わせぬその言葉に、柚品は縦に首を振った。
「い・・碇さん怖い・・」
「綺麗な人には棘があるってホントですね・・」
恐れおののく楓香と桐香にあげはがそっとフォローを入れる。
「いつも仕事熱心な人だから・・。この旅の間くらいお仕事のこと忘れたいんだと思うわ」
激しく柚品を睨みつける麗香に、今度は功刀がフォローを入れた。
「3年ぶりにとれた休暇ですか・・編集業も難儀な物ですね。建築業もまた・・ああ、仕事の話など嫌ですよね。せっかくの休暇を存分に楽しまないと、お互いに」
『お互いに』という部分にアクセントをつけ、功刀はにっこりと笑った。
と、麗香がハッと我に返り、「そうよ! 私は休暇中なのよ!」と目をキラキラと輝かせた。
そしておもむろにスキップをしたかと思うと足早に旅館の内部へと消えていった。

「本当にお疲れなんですねぇ・・・」

郡司のその呟きに、皆一様に深くうなずくのであった・・・。


2.歓迎・蓬莱館
「皆様のお世話させていただきます、蓬莱(ほうらい)と申しまーす。よろしくお願いいたします」
ペコリ、と頭を下げた小柄な少女はそういうとにっこりと笑った。
まるで中国の仙女を思わせるようなその衣装が、不思議とこの旅館にマッチしていた。
「皆様用の浴衣も各色そろえておりますので、お気に召したものをお選びくださーい♪」
ずらりと並んだ色とりどりの男性用・女性用の浴衣。
こちらも蓬莱の着ているような中華なデザインのものだ。
「・・僕でも似合いますかね?」
「大丈夫でーす。老若男女、全ての人に似合うように作られてますから」
郡司の呟きに蓬莱はニコニコとそう言い、言葉を続けた。
「選び終わりましたら、着る時のポイント教えますね〜。誰かに帯を留めてもらうと簡単でーす♪」
「それ・・ポイントでもなんでもないんじゃ?」
柚品の鋭いツッコミが入る。
が、蓬莱はまったく気にせずに更に言葉を続ける。
「2人1組で帯を巻いてくださいね〜。巻き終わりの端っこを持ってグルグル〜っと引っ張ると、なんと!」
「なんと?」
楓香が先を促す。

「悪代官ゴッコができまーす!」

『・・・』
声高にそう宣言した蓬莱に、冷たい沈黙が降りかかる。
「・・お、温泉は露天風呂と室内風呂。共に混浴となっておりませんので、覗き等は禁止でーす」
沈黙に堪えきれなくなった蓬莱は本来のアナウンスを告げ、それぞれの部屋へと案内し始めた。
「ツアーの醍醐味は他のお客様との相部屋でーす。男性1部屋、女性1部屋。高峰オーナーと碇様は別室となっております。夕食は6時から。宴会場にてお待ちしておりますので、おいでくださーい♪」
一通りの部屋を案内し終え、蓬莱はどこへともなく去っていった。
「・・なんだか不思議な人ですね・・」
「ホントに・・・」
あげはが蓬莱に対する率直な感想を述べると、桐香もそれにうなずいた。
「まぁ、高峰女史の所有温泉ですから、何が出てきても不思議ではないと思いますけど・・」
「功刀さん・・それ、妙に納得できますね」
「あはは・・・」
功刀の呟きに郡司の言葉、柚品はただ笑ってごまかした。

なにやらこのツアー。
妙な方向に行きそうだ。


3.旅の醍醐味・温泉♪
男性陣・女性陣ともに案内された部屋はちょっと中華風なこざっぱりした和室だった。
部屋からの眺めは・・といえば、やはり富士の裾野ということで青々とした新緑が窓いっぱいに広がっていた。
・・・それ以外何も見えないということも出来るが。
「6時まで少々間がありますが、どうされますか? 温泉につかりますか?」
お茶の用意をしながら、郡司は柚品と功刀に言った。
「そうですね。旅の疲れはやはり温泉で取るのが一番かな」
柚品が眺めていた窓の景色から目を離した。
「僕は療養も兼ねてますし、入ろうかと思ってますが」
右足首をさすりながら、功刀はそう郡司に答えた。
郡司は3つの湯飲みをそれぞれに渡しながら「では、これ飲んだら行きますか」と笑った。

男性陣3人は露天風呂へとやってきた。
「効能は、リュウマチ・通風・美肌・打撲・切り傷・捻挫・・・不老不死?」
立て看板を読んでいた柚品が思わず素っ頓狂な声を上げた。
「よかった。捻挫にも効きますか」
「いや、問題はソコじゃないと思うんですが・・」
捻挫に効くと聞いた功刀の呟きに思わず郡司が突っ込みを入れた。
「高峰さんが『不老不死』にまつわる伝説がたくさんある・・って言ってましたけど、これのことなんでしょうか?」
「たくさんあるうちのひとつ・・と考えるのが妥当でしょうねぇ。しかし、どう効くんでしょうね??」
柚品と郡司がそう話している時、どこからか声が聞こえてきた。

『うっわ〜!! 結構ひっろーーーい!!』
『楓香ちゃん、走ると危ないわ!』
ぺたぺたと人が裸足で歩く音が響いたかと思うと「バッシャーン!」という派手な水に飛び込む音が聞こえた。
『ちょっと、子供じゃないんだから飛び込まないの!』
『碇さんのケチ〜! あげはさんも早くおいでよ〜、気持ちいいよ〜♪』
『もう、楓香ちゃんたら・・』

「碇さんと丈峯さん、観巫和さんのようですね」
なぜか声をひそめ、柚品が言った。

『碇さん、胸おっきい!! 何食べたらそんなに大きくなるんですか〜!?』
『こら! 無断で触るんじゃないの!』
『あげはさんは肌も綺麗だし〜♪』
『きゃ! くすぐったい!! やめて、楓香ちゃん!』

「どうやら女風呂と隣同士みたいですね」
女性陣の会話を聞きながら、功刀がボソリと呟く。
「・・これが不老不死の効能ですかね?」
郡司のその言葉に、柚品と功刀はどう返してよいか分からなかった・・・。


4.船盛り登場
6時10分前に浴衣を着込み、あげはと楓香は宴会場へと足を向けた。
桐香も誘ったのだが、日が暮れる前に写生を終わらせたいと言うので2人で先にやってきたのだ。
宴会場の中ではいそいそと蓬莱が1人で料理を並べていた。
「手伝いましょうか?」と思わずあげはが声をかけた。
「大丈夫でーす! お客様にお手伝いさせるわけにはいきませんから」
にっこりと笑い、くるくると働く蓬莱。
「・・他の従業員さんっていないのかな??」
ポツリと楓香の口からそんな言葉がこぼれた。
「そういえば、他の従業員さんの姿は見えませんね・・」
旅館に入って今まで、蓬莱以外の従業員の姿を見た覚えはない。
しかし、確実に蓬莱以外の人物の気配はそこここに感じる。
「あら、早かったのね。中で座って待ってはどう?」
突然、声をかけられ楓香とあげはは声の方向を見た。
そこには、1人暗がりに溶け込むかのように座ってなにやら飲んでいる高峰沙耶の姿があった。
「な、何してらっしゃるんですか?」
「早く来すぎたので先にお酒をいただいているの」
にっこりと笑った沙耶の顔は、白い肌にほんのりと赤みをさして大人の色気を漂わせていた。
その沙耶の着ているものといえば、客用浴衣の中には見受けられなかった黒地の中華風の浴衣であった。
おそらく特注品なのであろう。
「遅くなりました〜」
蓬莱があらかた料理を並べ終わったころ、柚品・郡司・功刀が少々ボーっとした様子で現れた。
「どうしたんですかぁ? 顔、赤いですよ??」
席に着こうとしていた楓香がそう聞くと、「湯あたりというヤツです・・」と功刀の細い声が聞こえた。
よく見ると、功刀は普段見慣れている整髪料で固められた頭髪ではなく、ピンピンと跳ねまくったなんとも活発な頭になっていた。
「大丈夫ですか?」とあげはが近くにあったお絞りを差し出しつつ、心配そうに言った。
「まぁ、冷たいものでも飲めばすぐに治りますよ」
にこりと笑い、郡司は近くの席に着いた。
と、そろっているはずのツアー客のほかに、誰かが入ってきた。

「こんばんわ〜。皆さんおそろいね」

それは、大きな船盛を手にした碇麗香の姿であった。


5.船盛 de 宴会
「どうしたんですか? その船盛」
「・・蓬莱さんにいただいたのだけど、1人じゃ食べきれないと思って持ってきたのよ」
微妙な間をあけつつ、麗香はそう言った後にっこりと笑った。
どうやら、何か裏があるようだ・・とそれぞれの胸の中で何かが警告している。
少々考え込んであげはは、おもむろにデジカメを取り出した。
「あ、あの・・変わった舟盛りだから・・記念に写真、撮ってもよいでしょうか?」
「俺もちょっと見させてもらってもいいですかね?」
柚品があげはの言葉に便乗し、誰にともなくそう聞いた。
「そ、そうね。旅の思い出になるわよね」
麗香があらぬ方向を見つめながらそう答えた。
「・・有り難く戴きましょう」
功刀は、そういうとスッと箸を構えた。
「あたし、功刀さんが食べてから食べてもいいですか?」
控えめに楓香がそういうと、功刀は「僕を毒見役にすると?」といつもの声で聞き返す。
「や、やだぁ! 違いますよ。ほら、あたしったらか弱い女の子だし、旅行に来ておなかこわしたりしたら最悪でしょ? 魚ってアレルギーがでやすいって言うし・・・」
「そういうのを毒見って言うんですよ」
必死に弁明する楓香に郡司がさり気なく痛いツッコミを入れた。
「お・・おいしそうだし、いただきまーす!」
郡司の言葉に楓香が開き直ったらしく、箸を手に持った。
「料理を愛する者として、出された料理は好き嫌いに関わり無く味見ぐらいはしよう・・たとえそれが人肉だったとしても・・」
そうボソッと呟いた郡司も箸を持った。
あげはと柚品も、それぞれ何かを諦めたかのように箸を持った。
各者いっせいにスタートラインに立った。
麗香と沙耶はそれをなぜか見守る。
ぷりぷりとした白身の魚の切り身。見た目には何もない。

それぞれの箸が、その切り身を口の中へと運んでいった。

「・・おいしい」
楓香がポツリと呟いた。
「さっぱりしているのに、ちゃんとお魚の味がしますね」
パチパチと瞬きをしてあげはもそう言った。
「酒のつまみになりそうだねぇ」
「なかなか冷凍物とは思えない味ですね」
郡司と柚品もそう言う。
「・・功刀さんは? どうなの!?」
1人、感想を漏らさない功刀に痺れを切らした麗香が詰め寄った。
「おいしいと思いますよ。ただ・・・」
「ただ・・?」
「何の魚か、分かりませんね。今まで食べたことのない種類だ」
「・・・」
一瞬、麗香の顔がギクリとした顔になったが、すぐに元の表情に戻った。
「よかったわ。皆さんに食べてもらえて。折角だから、私もご一緒しようかしら?」
何が吹っ切れたのか、麗香がそういうと「では蓬莱に碇さんのお膳を持ってこさせましょう」と沙耶が蓬莱を呼んだ。

麗香が機嫌よくお酌をして回る。
酒を遠慮した功刀と未成年のあげは、楓香はジュース。
郡司と柚品、そして沙耶はほろ酔い程度のお酒を飲んだ。
途中、郡司が麗香を連れ出してどこかに消えた。
それすら気にならないほど、それぞれは話に花を咲かせていた。

そう、その悲鳴が聞こえるまでは・・・。


6.温泉怪談
その悲鳴は若い女性の悲鳴であった。
一番に駆けつけたのは郡司と麗香であった。
「どうしました!?」
郡司が勢いよく室内温泉の扉を開けた。

「きゃーーー!!!?」

と、更にひときわ高い悲鳴が上がった。
「ぐ、郡司さん! 回れ右!!」
麗香がとっさに落ちていたタオルをつかみ、女性の体をくるんだ。
「どうしたんですか!?」
遅れやってきた柚品や功刀は入ってきた瞬間に麗香ににらまれ、やむなく回れ右をした。
「二見さん! どうしたの!?」
楓香とあげはが寄り添うように崩れ落ちそうな桐香の体を抱きとめた。
「へ、変な・・変な魚みたいなのが! 足が生えてて!!」
そこまで言うと、桐香の体から力が抜けた。
「部屋まで運びましょう!」
麗香がそう言って、脱衣所から浴衣を持って桐香に着せ部屋へと運んでいった。
「・・なんだか妙なことになってきましたねぇ」
「なんだか、仕切りなおして宴会・・という気分でもありませんね。部屋に帰りますか?」
女性陣を見送った後、功刀と郡司はそう話した。
「そうですね。少々疲れましたし、早めに寝ますか」
男性陣もそういうと、その場を後にした。

「足の生えた魚・・・だそうだけど」
「調理中に一匹逃げちゃったみたいですねぇ〜」
「・・早急に捕まえないと、またこのような騒ぎになるのではなくて?」
「今みんなで探してるんですけど、なかなかすばしっこくて〜・・」
「あまり詮索されても困るし、何とかして頂戴ね?」
ただ1人残った沙耶が、後からきた蓬莱とこんな話をしていたとはツアー参加者は誰も知らない・・・。


7.真夜中の出来事
早々に眠りについた者、静寂の夜を楽しんだ者。
それぞれの夜の時間を過ごした後、人々は眠りへとついた。
だが、またしても女性の悲鳴が上がった。
「な、なに!?」
「二見さん!? どうしたの!??」
同室の楓香とあげはが暗闇の中、手探りで悲鳴の主・桐香を探す。

「さ、魚〜! 魚がぁああ〜!!」

パッと明かりがつき、麗香が入ってきた。
と、半狂乱で泣き叫び、浴衣の胸元をかきむしる桐香の姿が・・・。
「あぁ!?」
「どうしたの? こんなに赤く・・」
麗香が桐香の胸元を隠しながら聞いた。
「・・温泉にいた、あの魚が・・・」
「さっき言ってた足の生えた魚のこと??」
あげはと楓香があたりをきょろきょろと見回した。
だが、そのような魚の姿はない。
「落ち着いて。大丈夫。私たちがいるから。ね?」
あげはが優しく微笑んだ。
「あたし、蓬莱さんに頼んでお水貰ってくるね」
楓香がそういって立ち上がった。
「じゃあ私も一緒に行きます。碇さん、二見さんのことお願いしてもよろしいですか?」
「えぇ。大丈夫。気をつけてね」
そういって部屋から出て行ったあげはと楓香。
だが、異変は訪れた。
桐香が倒れた室内温泉あたりを通りかかった時、急に2人は意識が遠くなるのを感じた。
それは、まるで温泉のにおいに催眠作用があったかのように2人は自分が倒れていくことを疑問に思わなかった。


8.魚
ぴちゃん

水の音が聞こえた。
月明かりに銀色に光る5匹の魚。
いや、正確には魚ではなく。
5匹の人魚。
それぞれの顔は柚品・郡司・あげは・功刀・楓香。
温泉の中を泳ぎまわる5匹の人魚は自由な時を楽しむように、自由に泳ぎ回っている。

「やっぱりダメね。こんな副作用が出る魚は商品としては出せないわ」
「面白いと思ったんですけどねぇ〜。不老不死伝説のある高峰温泉名物・人魚の船盛・・・って」
「・・そういえば二見さんを襲った『できそこない』は見つかったのかしら?」
「み・・見つかってません・・・」
「明日、予定を繰り上げて彼らを東京に帰すわ。そうしたら徹底的に捜索して頂戴」
「うぅ。あの人たち、いい霊力持ってらっしゃるから、もうちょっと吸い取らせていただけると100年後まで楽に過ごせるんですけど・・・。あぁ、徐福様にこの異界・『蓬莱』を預けられました身としては断腸の思いです〜・・」
「そう思うのなら、もうあんな怪しげな魚は作らないことね」

月の光に照らされた2つの人影が人魚と化した5人を見つめながら、そんなことを語っていた・・・。


9.全ては謎のまま・ツアー終了
「大丈夫?」
目が覚めると、目の前に麗香と桐香の心配そうな顔が見えた。
5人はバスの中でなぜか寝かせられていた。
「あ・・あれ?」
郡司は目をパチパチと瞬かせた。
「おかしいな・・。部屋で寝てたはずなんだが・・」功刀がムクリと起き上がり、考え始めた。
「楓香ちゃんと一緒にお水を取りに行って・・?」
「記憶がない・・」
あげはと楓香が途切れた記憶を探り出そうと悩んでいる。
「どうしてここにいるんでしょう?」
「覚えていないの? 全部??」
柚品の問いに、麗香が困ったような顔になった。
かわりに桐香が答えた。

「皆さん、温泉の中で倒れていたところを蓬莱さんに見つけられたんです。
 皆さんが目を覚まさないのでツアーは繰上げで帰ることになったんですよ」

『覚えてない・・』
5人の顔にはありありとそう書いてある。
「みなさん、無事でよかったわ」
沙耶がそう一言、言った。
その顔にはわずかに柔和な笑みが浮かんでいた。
「・・なんだか全然楽しむ暇もなかったような・・」
柚品がポツリとそう言った。
「ホントに。高峰さ〜ん。このツアー、もうやらないんですかぁ?」
不満げな顔で楓香がそういうと、沙耶は目をつぶった。

「そうね。また100年後ぐらいにはやるかもしれないわね」

キョトンとした皆の顔を見て、沙耶はニヤリと笑った。


ツアー客を乗せ遠ざかるバス。
そして、高峰温泉はその姿をまた森の中へと隠していった・・・。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2346 / 功刀・渉 / 男 / 29 / 建築家:交渉屋

1582 / 柚品・弧月 / 男 / 22 / 大学生

2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 15 / 高校生

2129 / 観巫和・あげは / 女 / 19 / 甘味処【和(なごみ)】の店主

2412 / 郡司・誠一郎 / 男 / 43 / 喫茶店経営者

1657 / 二見・桐香 / 女 / 16 / 女子高校生(隠れ魔族)

【個別ノベル】

【1582/柚品・弧月】
【1657/二見・桐香】
【2129/観巫和・あげは】
【2152/丈峯・楓香】
【2346/功刀・渉】
【2412/郡司・誠一郎】