調査コードネーム:温泉だよ!クイズでドボン!=神城便利屋番外編=
執筆ライター  :安曇あずみ
関連異界    :神城便利屋+EPin東京怪談+

 【オープニング】
 【 共通ノベル 】
 【 個別ノベル 】


【蓬莱】illust by 倣学 【オープニング】
 ある日の午後、久々に何の仕事もなくのんびりとしていた神城便利屋の電話のベルが鳴る。
電話番をしながらうたた寝していた申の式霊、焔(えん)が、慌てて飛び起きて受話器を取ると、
そこから聞こえてきた声はよく知った1人の女性…高峰・沙耶の声だった。
『由紀ー!高峰さんから電話!』
「え?何かしら…お仕事かしら?」
 便利屋の主人で、神城神社の巫女である神城・由紀(かみしろ・ゆき)は、
久しぶりの高峰からの電話を不思議がりながら焔から受話器を受け取った。
「はい、神城です。ええ…その後は特に変わりは無いです…はい」
 仕事の話だろうか、それとも何かあったのだろうか、色々と考えながら応対した由紀だったのだが、
意外にも高峰の用件と言うのは『温泉旅行』へのお誘いの電話だった。
『温泉かあ〜♪いいなあ…でもどうするの?行くの?』
「せっかく招待していただいたんだし、行ってもいいかな…とは思うの」
『やった!だったらお世話になった人たちにも声をかけてみましょうよ?』
 式霊の未来(みらい)がどこか楽しそうに言う。
『それええ考えやん!乗ったで!!』
 さらに寅の式霊の大河(たいが)も、どこからともなく現れて話に乗っかった。
「そうね…じゃあそうしましょう!来てもらえるかどうかわからないけど…」
『でも待てよ?ただ温泉行って飯食ってつかるだけじゃあ味気ないよなあ?』
『ふふっ♪焔は温泉とか大好きだもんね』
『そらオマエ…焔は猿やからな…』
『猿って言うな!申だけど…猿言うな!』
「はいはい。漫才はそこまでにして…みんな何か案でもあるの?」
 由紀の言葉に、腕を組んで悩み始める式霊たち。
みんなで温泉に出向いていって、そして何か面白い事をするとしたら一体どんな事が…。
『なあ、スタンプラリークイズでドボンってどうだ?!
俺たち十二人の式霊がバラバラに旅館に散ってさ、時間内に皆に探してもらうんだよ。
それでクイズ出して正解したらスタンプ押す。全員のを集められた奴だけ温泉に入れる!』
『いいわね、それ面白そうじゃない』
『オレも賛成!!』
 焔の意見に全員が乗り気で大賛成する。
果たして旅館の許可が下りるかどうかという不安も残る由紀だったのだが、
いざ、出かけてみるとどうやらそんな心配はしないで済みそうな雰囲気の旅館が待受けている事など、
ここにいる面々はまだ知る由も無かった。


【ライターより】
※異界で受注している『神城心霊便利屋事件簿』の番外編的なお話です。
※これまで異界に参加した事のある方でもない方でも自由にご参加下さい。
※神城便利屋との関係は自由に設定して下さって構いません。
(例/家がご近所、同業者、バイト先、偶然通りかかって…等々お好きにどうぞ。)
※神城便利屋及びNPCに関しては異界を参照して下さい。
http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=0689
【プレイングに記載して欲しい事】
※十二支の式霊の出す以下のクイズの答えと、式霊をまわる順番を記載して下さい。
◇子:ネズミをモチーフにしたキャラクターで”黄色、電気”と言えば?(難易度低)
◇丑:ウシとカエルのコンビのお笑い芸人の名前は?(難易度低)
◇寅:阪神タイガースの現在の監督は誰?<苗字だけでOK>(難易度中)
◇卯:”兔シチュー”という単語が出てくるファンタジー映画のタイトルは?(難易度高)
◇辰:俳優、古谷一行の息子が所属していたミクスチャーバンドの名前は?(難易度中)
◇巳:蛇のようで蛇でない太くて短い未だ見つかっていない幻の生物は何?(難易度低)
◇午:連敗し続けて人気の高知競馬の馬の名前は…?(難易度低)
◇未:ヒツジは英語でSheep、じゃヤギはなんて言う?(難易度低)
◇申:”モンキーマジック”を歌ったバンドのメンバー名を最低二人書け!(難易度高)
◇酉:2003年の第24回紅白歌合戦で白組のトリを飾った曲のタイトルは?(難易度低)
◇戌:”ポチたま”に出てくる名物犬(ラブラドール・レトリーバー)の名前は?(難易度中)
◇亥:イノシシのお肉を使った鍋ってなんて言う?(難易度低)
※解答の際、文字数との兼ね合いを考えて「通称や略称」で記載するのはOKです。
※正解率と選んだ順番により温泉に入れるかどうかが決定します。


【共通ノベル】

〓神城便利屋温泉ツアー〓

 富士の裾野にある森の入り口付近に、少々ポンコツ気味の小型のマイクロバスが停車する。
車での乗り入れはここまでと言うことで、駐車場にはすでに何台もの車が止まっていた。
白いマイクロバスの横には、よれよれの下手な文字で、”神城便利屋=温泉ツアー=”と書いたせいもあって、
駐車場にいる他の来客や通りすがりの人々の目を引いていた。
そんなバスのドアが開いて、まず最初にガイドの服を着た女性…式霊の未来(みらい)が降りてくる。
『皆さん、お疲れ様でした。足元にお気をつけて降りてくださいね』
 こちらもお手製の小旗を手にしていて、かなり楽しそうだった。
「こちらこそお疲れ様です、未来さん」
 未来に声をかけ、まず降りてきたのは冠城・琉人(かぶらぎりゅうと)。
「これがあの有名な富士の樹海なんですね!僕、旅はしてるけど樹海には来た事無かったから」
 にこにこと楽しそうに、如月・縁樹(きさらぎえんじゅ)がそれに続いた。
「僕も無いよ〜!由紀さんに誘ってもらってはじめて来たからね!とにかく楽しもうよ!」
 その縁樹をチャットで誘った本人である新堂・愛輔も弾んだ声で返す。
「リフレッシュだリフレッシュ!日頃の疲れをリフレーッシュ!!」
「お前さ、バスの中で飲んだ一杯にすでに酔ってないか?」
 二人並ぶようにして降りてくるのは、相澤・蓮(あいざわれん)と、向坂・嵐(さきさかあらし)。
「いつものキミも素敵だけど、その衣装もとても素敵だね…美しさと可愛さが際立っているよ」
 未来の手を取りながら、西王寺・莱眞(さいおうじらいま)が微笑む。
「西王寺様、お待ち下さい…座席にお荷物をお忘れですよ?」
 そのすぐ後ろで、天薙・撫子(あまなぎなでしこ)が忘れ物のお菓子詰め合わせを手に追いかける。
なんでも西王寺家所有の温泉地以外行った事の無い莱眞は『温泉旅行と言えばおやつが必須アイテム』だとどこかで聞いてきたらしく、
コンビニに行って”五百円”の限界に挑戦して出来る限りで買ってきたらしく…行きのバスではかなり話題をさらっていた。
彼曰く、「コンビニは庶民のワンダーランド」だと感慨深げに語っていたのだった。
「それにしても、やっぱりある程度の距離があると休憩挟んでてもやっぱり疲れるわねえ…」
 ん〜っ、とのびをしてシュライン・エマがショルダーバッグを肩にかけながら外の景色を眺めた。
「お客様は全員降りたみたいね。それじゃあ荷物運ぶから皆手伝って」
 その後に便利屋の主人、神城・由紀が式札から男性の式霊達を呼び出し空いた座席に置いていた全員の荷物を手にしてバスを降りていく。
さらに、神城家に居候中の二人、松岡・吾郎と夢野・千尋の二人もそれを手伝う。
由紀は最後に忘れ物が無いかを最後にチェックしてから、運転手に声をかけた。
「ありがとうございます、境さん。大丈夫みたいなので行きましょう」
「いやなに…ドライブは趣味だし、大型運転出来るのはわしくらいじゃからな」
 今回、運転を担当したのは神城便利屋に勤めて来ている宮司の境・惣太郎。
最初は式霊の誰かが運転するつもりだったのだが、さすがにそれはどうだろう…と言うことになり、
きちんと国の免許証を持っている彼に頼む事にしたのだ。その甲斐あって、無事に全員到着する事が出来た。
『では皆さん。目的地の”蓬莱館”までわたしがご案内します〜…しっかりついてきて下さいね』
 かなり楽しそうにガイドをする未来の掛け声に、全員揃って答えると…
どこか怪しげな雰囲気の看板に従って、森の奥へと続く小道に足を踏み入れたのだった。


〓蓬莱館〓

 森の奥深く…と言っても、駐車場から徒歩で五分程度の場所にそれは建っていた。
赤と黒、そして金色を基本色にした中華風のデザインのおそらくかなり大きな建物である。
何故おそらくなのかと言うと、見えているのは建物の一部だけで、残りは森の木々がまるで意思を持って隠しているかのように遮られていた。
その建物の大きな門をくぐって行くと、【蓬莱館】と書かれた看板が見えてその下に入り口が見える。
 お客を迎える間は常に開きっぱなしにしているのか、扉は大きく外に向かって開かれていた。
その前に、見知った顔の人物が立ち、由紀たちを見つけると安心したように駆け寄ってくる。
「ああ!ミセス彰子!足元に気をつけてくださいね?」
 すかさず莱眞が手を差し出したのは、神城家で働いている家政婦の彰子だった。
彰子は実家の用事で別行動となっていたのだが、どうやら先に着いてしまったらしく戸惑っていたようだった。
「お嬢様、こちらの旅館…何か不思議なんですよ」
「不思議って…?」
「入ってみたらわかると思います…さあ、どうぞどうぞ…」
 彰子も加わり、かなりの大人数となった神城便利屋温泉ツアーの一行は【蓬莱館】へと足を踏み入れる。
館内もやはり中華風の作りになっているのだが、微妙に近代的な箇所も見受けられた。
「いらっしゃい!よく来たネ!」
 フロントらしき場所に由紀が近寄ると同時に、隠れていたのかひょこっとひとりの少女が顔を見せる。
一瞬驚いた面々だったが、いそいそと少女が宿帳を用意するのを見て、「どうやら従業員らしい…」と納得する。
「ワタシ、皆さんのお世話をさせていただく”蓬莱(ほうらい)”と言います。よろしくネ」
「こっちこそ世話になります!宜しくな蓬莱ちゃん!」
「わたくし…温泉を楽しみにしておりますので…案内をお願いしますね」
 蓮と撫子が蓬莱に声をかけると、蓬莱はその独特のイントネーションで「任せるネ!」と返す。
何と言うか、アニメやらでありがちな中国人の話し方、と言えばわかりやすいだろうか。
 そんな彼女に従って、由紀が宿帳に記帳すると蓬莱はそれを腰から下げてフロントから外に出てくる。
普通、こういう宿の場合なら仲居さんが、ホテルで言えばホテルマンが荷物をお持ちします、だとか言って案内するのだが…
「お部屋はこっちネ!皆さん迷わないようについて来るヨ!」
 蓬莱は先頭に立つと、さっさと右手側の廊下へと歩き始める。
「…どうやら普通の温泉地や旅館ではなさそうですねぇ…人の気配がしませんね」
「そうみたいね…まあ、高峰さんからの紹介だそうだから、そんな事だろうとは思ったけど」
「代わりに何か妙な気配がするのは俺の気のせいか?」
 誰も居ないはずの空間を見つめながら問いかけた嵐に、シュラインと琉人は意味ありげな笑みで応えた。
一同が案内されたのは、建物の中ではあるが一軒家として建てられたように見えるデザインで向かい合って並んでいる二つの大部屋だった。
中華風な旅館であるにもかかわらず何故か男性の部屋が【トッポの間】、女性の部屋は【リバースの間】と名づけられている。
さらに、それぞれの部屋を出て奥には共有でゆっくりできる憩いの部屋【フランの間】が設置されていた。
 とりあえず部屋に荷物を置いてからその【フランの間】に集合と言うことになり、それぞれ部屋へと散る。
どちらの部屋も同じ作りで、入って正面は和室があり、奥には壁いっぱいの窓があって森の緑が綺麗に見える。
和室の横にはシングルベッドが二つ置いてある洋室も備えてあり、なかなかどうしてかなり豪勢な作りになっていた。
ベッドの上にはフロントで予め蓬莱に聞かれていたそれぞれの好みの浴衣もいつの間に用意したのかきっちりと揃えられており、
荷物を適当な場所に置いた後、早速浴衣への着替えに取り掛かった。
 そして、男性の方は式霊の焔(えん)が、女性の方は由紀が部屋の鍵を管理する事になり部屋を出る。
【フランの間】に全員が揃ったところで、ほっと一息して冷蔵庫からジュースでも…と言う事になったのだが。
「…あ、やっぱり…やっぱりそうだった…」
 最後に入った焔が部屋のドアを閉めようとした瞬間、誰かの声が聞こえてその手を止める。
誰?と全員揃って部屋の外の廊下に目を向けると…そこにはひとりの少年…石神・月弥(いしがみつきや)が立っていた。
「もしかして…石神さん!?」
「久しぶり…入ってもいい?家族と一緒に来てたんだけどはぐれちゃって…迷子になるような場所じゃないのにね?」
「ええ!もちろん!はぐれるなんて、やっぱりこの旅館とっても広いんですね…」
 由紀は廊下を見つめながら呟く。月弥は微笑みながら部屋に入り、集まっている全員に頭を下げた。
「石神さん、お久しぶりです!」
「懐かしいわね…元気そうでなによりだわ…」
 琉人とシュラインが再会の言葉をかけ、月弥は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「なんだなんだ?知り合いと遭遇って?!こんな場所で…凄いなあ…」
 そのやり取りを興味深そうに蓮が見つめる。
確かに、東京都内ならばまだしも、こんな期間も場所も限定された空間で出会うと言うのは運命めいたものすら感じた。
特にこの【蓬莱館】はどこか特殊と言うか特異な雰囲気のある旅館なのだから余計にである。
 全員が一通り、改めて挨拶をし終わった頃、宴会用に作ってあるらしい小さなステージの上に焔が上がる。
そして手の中にマイクを出現させたかと思うと、すうっと息を吸い込んで。
『皆様、本日は”神城便利屋温泉ツアー”に参加いただきありがとうございます!
日頃お世話になっている皆様に、このツアーでゆっくりとくつろいでいただこう…そう思ってご招待しました!』
 未来がガイドで乗り気なら、焔もなかなかどうして乗り気である。
『そして今回!ただのんびりと温泉につかるだけと言うのも面白くは無いのではないかと相談いたしまして、
”温泉だよ!クイズでドボン!”を開催する事にいたしました!!蓬莱さんの許可も得てます』
「焔さん…ずいぶんと楽しそうね…」
「そうですね…いつになく輝いて見えますわ」
 縁樹と撫子が二人並んでポツリと呟く。それほど、焔は輝いていたようだ。
『…と言うわけで、この館内のどこかに散っている俺達十二人が出すクイズに答えてもらい、
正解者にはこの紙にスタンプを押していきます!最後、正解数が高かった上位から順番に温泉入浴権が得られます!』
「質問…最下位とか下位はどうなるんだ?」
『いい質問です向坂さん!最下位と最下位から二番目の方は罰ゲームとして…部屋に備え付けのお風呂に入ってもらいます!』
「そ、そんな…!それは酷いですわ!わたくし、大の温泉好きですのに…!由紀ちゃん!?」
 聞いてないとばかりに、撫子は由紀をジトっとした目で見つめる。しかし、すぐに笑みを浮かべ。
「ですけれど面白い企画ですわね。こう見えてわたくし、クイズは得意ですの」
「俺も乗った!おもしれー企画じゃん♪はいっ!相澤 蓮参加します!」
「蓮が参加するなら俺も…まあ、そうじゃなくても面白そうだけどな」
「僕とノイももちろん参加です!楽しそうだし…」
「私も参加させていただきますよ?賞品に美味しいお茶とかがあるともっと素敵ですけれど」
「式霊のお嬢さん達全員に会う事が出来るんだね?だったら喜んで参加させてもらうよ?」
「それじゃあ全員参加って事ね?もう少し詳しく説明してくれるかしら?」
 シュラインに言われ、焔はクイズ大会の説明をする。
要するに、スタンプラリー形式で、蓬莱館の中のどこかに散って待機している式霊を探して見つけクイズを出してもらい回答し、
正解者にはスタンプを、不正解者には×印を台紙に記入して、正解数とクリアタイムを競って入浴権を争うというものである。
 一応、制限時間も決まっていて一時間半を越えると失格、と言うことだった。
「それじゃあ行きまーす!皆さん頑張って下さいね!……スタート!!」

→→→GotoIndividualNovels…


〓露天風呂〓

 クイズ正解者のみが教えられた大露天風呂は、まさに「大」に相応しい広さを誇っていた。
脱衣所を通って見える岩作りの露天風呂の周囲には、天然の森の木々が取り囲んでいて、湯気の白さと緑の木々が目にも優しい。
ぞろぞろと男性更衣室にて準備した男性達は、タオルを腰に巻きつつにこやかに温泉へと向かった。
 約一名、プライベート温泉にしか行ったことの無い莱眞は色々と衝撃が大きく少々戸惑いの色を見せていたが。
「見たところ男性陣は全員通ったみたいですねえ…」
 お茶の入った徳利を木製の桶に入れて、琉人はゆっくりとお湯につかる。
「式霊達も勢ぞろいで裸の付き合いってやつか!いいねえ!」
『おー!相澤さんに嵐ー!どっちが勝負に勝ったんやー!?』
「勝負?何の勝負してたの?」
 手桶でかけ湯をしつつ、月弥が三人に視線を向ける。
蓮と嵐は互いに視線を交し合った後、にこやかに作り笑いを浮かべて。
「男と男の勝負ってやつかな…ま、そんなわけで蓮…背中洗ってもらおうか」
「くっ…仕方ない…俺も男だ!男に二言は無い!」
『いいですね、その心意気…』
 ざばざばとお湯を掻き分けて、大蛇と達の二人は奥の方へと向かっていく。
『莱眞はーん!莱眞はんもこっち来ぃや!背中流したるで!』
「た、大河クン…これが庶民の温泉なのかな…これは聞くところによる銭湯のようだけれど…」
『普段、どんな温泉に行ってるんですか、莱眞さん…』
 タオルを頭に乗せて、湯の中につかりながら楽しげに笑う焔。
『西王寺さんの事だから、こんだけ広い温泉にひとりで入ってるんじゃないのー?』
 宇摩がその脇をすり抜けて、大蛇達の居る奥へと向かう。
「共同の広い温泉なんてこんなもんだよなあ、蓮」
「部屋についてる風呂は別だけどな」
「おい蓮。背中の右下がかゆいんだけど?」
「て、てめえッ…」
「相澤さ〜ん?男に二言はなんでしたっけー?」
「さりげなく聞いてんじゃねえー!!」
 湯船からさりげなく突っ込みをいれた琉人に、蓮は顔を真っ赤にしてさらに突っ込み返す。
和やかな温泉タイムがしばし流れていたのだが…
「…あれ?なんか、声が…」
 ふと、月弥が顔を洗っていた手を止めて露天風呂の出入り口に視線を向ける。
他のお客が来たのかと、つられて視線を向ける男性陣だったのだが…
「わー!ホントに広〜い!!」
「由紀ちゃん、誘ってくれて本当にありがとう…秘湯だから嬉しくて」
『見て見てシュラインさん!ほら、ここの温泉の効能いろいろありますよ』
「あらほんと…へえ…珍しい症状にも効くのね?持って帰って武彦さんのお土産にしようかしら」
『瓜亥温泉で泳ぐー』
 にぎやかに、高い声で楽しげに入ってきたのは…由紀とはじめとした、女性陣だった。
ピシリと一瞬にして凍りつく男性陣。
『わ〜!温泉だ〜!って、あ!冠城さん見っけ〜!温泉どうですかー!?』
 まず最初に、翼がバスタオルを巻いただけの状態で姿を見せ、
しかも琉人の目の前に一直線に駆け込んできたものだから…
「つ、翼さん!いえそんなっ…すみません…ああっ、私は一体どうしたら…」
 琉人は言い終わらないうちに顔を真っ赤にしてお湯の中にぶくぶくと顔を沈めていく。
『きゃー!冠城さーん!おぼれちゃいますよー!!』
「どうしたの翼?!何かあったの?!」
 翼の声を聞きつけたのか、今度は由紀と撫子の二人と、シュラインと未来が並んで入ってくる。
さらにさらに、その後から次々と式霊が姿を見せ、最後に彰子という落ちまでついての入場、いや、入浴で、
全員、バスタオルを巻いただけの、男性陣にとってはなんとも言えない姿で、だ。
『広いー瓜亥泳ぐー』
『こら!あ、ちょっと焔!ぼーっとしてないで瓜亥止めて!』
『あ、ああ…』
 今の状況を理解できない男性陣が固まってしまっているのをよそに、
女性陣はのほほんとした様子で思い思い、かけ湯をする者、身体を洗おうとする者、お湯につかる者、
桶に飲み物を用意するもの…それぞれ散らばっての温泉タイムを開始したのだった。
「やっぱり温泉での一杯って言うのは格別よねえ」
「そうですよねえ…しかもここって周りが完全に森ばかりだし…風情がありますしね」
「わたくし、未成年ですからお酒は頂けませんが、気持ちはとてもわかりますわ」
「僕も未成年ですけど気にせず飲んでますけどね…あ、ノイが出してくれた銘酒、差し入れです」
「気がきくわねえ縁樹さん!」
 シュライン、由紀、撫子、縁樹の四人は真ん中にある巨大な岩の前に陣取ってのんびりとお酒と景色、
そして温泉を堪能している様子で、彰子は恥じらいもなくほぼ素っ裸で身体を洗っていた。
「ああ…これは一体どういうことなんだい?俺のボキャブラリーにもライブラリーにも、
ギャラリーにもこんな光景は無いよ…美しいレディ達がこの俺の目の前で肌もあらわにっ…
しかも同じ風呂の湯を共有しているだなんて…!そんな事があっていいのか!?いいのか―――!?」
『あら?もしかして莱眞さん…ここが”混浴露天風呂”って知らなかったんですか?』
『混浴だってー!?』
「そういう事だったのかー!?」
 きょとんとした顔で言った未来の言葉に、焔と蓮が同時に驚きの声をあげて。
『冠城さーん、ほんとに溺れちゃいますよー?えいっ!』
「ぷはっ…はー、はー、ぜー、ぜー…し、死ぬかと思いました…」
『せっかくの楽しい温泉なんですから死なないで下さいね?一緒にお茶飲みましょう♪』
 琉人はひたすら潜っていたのだが、翼に頭を掴んで引っ張られて浮上してくる。
そこをすかさず、翼が遠慮なく琉人の前のお湯につかって、にこやかにお茶入りの徳利を手に微笑んだ。
「何やってるんだか…別に俺は気にしないけどね…」
『月弥、瓜亥と泳ぐ?』
「泳ぐのはちょっとね…温泉とか銭湯じゃ泳いじゃいけないって決まりがあるし」
『じゃあやめる。瓜亥、月弥とお風呂入る。』
「そうそう、ゆっくりと浸かるのが温泉の醍醐味だよ…ほら、もうすぐ陽が沈んで綺麗な月が出るだろ?
そうしたらまた明るい時とは違った風情が出てくるんだよ…」
『石神様は温泉にお詳しそうですね…私も温泉は好きですから話が合いそうです…』
 騒いでいる者がいる反面、月弥はのんびりとお湯につかりながら空を眺める。
瓜亥と子々がその脇に浸かって、同じように空を眺めていた。
「こんよく…結婚の約束をする事か?」
『ってそれ婚約やがな!』
「こんよく…ダイエットに最適なカロリーゼロの…」
『ってぇ、そらコンニャクや!』
「こんよく…自由の女神があるアメリカの都市…」
『そら………ニューヨークやがな!ってアカン!それは無理があるでー!莱眞はん!本気で混浴知らんのかー!?』
「なんなんだ!?混浴…ああ、聞けば聞くほど神秘に満ちて美しくもあり卑猥にも聞こえる響き!
この俺の気持ちをこれほどまでに激しく乱すこの”混浴”と言う言葉は一体…!」
『莱眞さん、大丈夫ですか?湯気にあたりすぎたんじゃ…』
『やめとけ未来、近づくな…悪化する…』
 焔はどこか遠い目をしながら、莱眞と大河、そして未来のやり取りを見つめたのだった。
『向坂さまは一番最初に、相澤さまは一番最後にわたしの所にいらしたんですね』
「偶然か?狙ったのか?」
「たまたまだろ…俺は嵐がどんな順番で行くかなんて聞いてなかったしな
「まあどっちにせよ…ゲーム楽しかったよ」
「俺も楽しかったぜ!どうせ最初からゲームの結果に関係なく全員入れるようにするつもりだったんだろ?」
『ありがとうございます。…皆さんに楽しんでいただくのが目的ですから。温泉の後は宴会の用意もしております』
「お!いいねえいいねえ!宴会、いいねえ!!」
「宴会か…さあ、どう蓮をこき使ってやろうか、今から楽しみだな…」
 月は何故か洗面台のある場所で、蓮と嵐と向かい合って座って和やかに談笑をしていた。
もうここが混浴とわかったらいっそのこと開き直るしかないと、蓮と嵐は自分に言い聞かせて気持ちを切り替える。
なかなかどうして目のやり場に困る状態であると言えばあるのだが…見なければいいだけの事だ。
「それで聞いてくれる…?あの人ったら、私がいつもいつも気を使って色々してあげてるって言うのに…
全然気付かないって言うか、それが当たり前と思ってるのかしらね?もう何においても鈍感なの…」
「辛いですわねシュライン様も…こう言う時は女同士の裸の付き合いですわ!
思いっきり、心の内を吐き出していい機会ですわ!」
「そうよ!なっちゃんの言うとおり!誰に遠慮する事もないですっ!」
「そーだそーだ!!僕だって色々と言いたい事とかいっぱいあるんだー!!」
「よっし!縁樹ちゃん!なんでも言っていいからすっきりしようっ!」
「いいわねえ…私も聞きたいわぁ…遠慮なく話してちょうだい」
「わたくし、お酒のお代わりも注文しますわ!さあ、どうぞ思いっきり!」
 なにやらアルコールが入ってテンションの上がりはじめた巨大岩付近の四人衆達。
自然と、にぎやかで華やかであるその一角に…男性陣の視線はそちらへと流れていく。
見るつもりはなくても、自然に流れていってしまうのが、何と言うか男のサガとでも言うのか…本能と言うか。
 そして、全員の視線がほぼ真ん中に集中した頃…
『『ばっかやろー!!』』
 どういう会話をしてどういう流れでその言葉に行き着いたのかは知らないが、
四人がざばっと立ち上がって一斉に、夕陽に向かって大声で叫んだのだった。
 その拍子に、彼女達が巻いていたバスタオルがものの見事にはだけて湯の中へと落ちていったのだが…
男性陣全員が目を覆うんだか凝視するんだか中途半端な目を向けたそのタオルの下には、
備え付けの入浴専用の水着をきっちりと着ていたのは…まあ、こういう温泉地エピソードでのお約束である。


〓旅の終わり〓

 混浴温泉タイムの後、全員揃っての大宴会を開催し、
文字通り、飲めや歌えの大騒ぎで夜通し楽しんだ神城便利屋ツアーの一行。
美味しいお酒も料理も揃っているし、カラオケもきっちり用意されていて文句なしの状態だった。
 ただ、誰もまだそれを用意している蓬莱以外の姿を見たことは無かったのだが。
従業員はおろか、他にたくさん来ているはずの来客たちの姿すら、見かける事は無かった。

…来館してから、チェックアウトして【蓬莱館】を去るまで…一度も見かけることはなかった。

「まあなんつーか、あれかな…死ぬほど広すぎるのか意外と客が少なかったのか、かな」
「従業員も雇えないって?それにしてはかなり切り盛り出来てたぜ…」
「そういえば、新堂君と松岡君と夢野さんは宴会の準備しててくれたんだよな?誰かに会わなかったのか?」
「いいえ、一度も」
「蓬莱さんにしか会いませんでしたよ」
 肩を竦めながら、互いに顔を見合わせて言う三人。
その会話を黙って聞いていた冠城だったが、小さく笑みを浮かべて。
「細かい事は気にしない方がいいですよ…ええ」
「そうね、害があるわけでもないし…楽しかったんだからいいじゃない?」
「僕も楽しかったです!また来たいな…あ、でも…帰り際に蓬莱さん、何か妙な事を言ってましたね」
「ええ、わたくしも聞きました」

『ドウモアリガトウ!!【蓬莱館】を利用してくれて謝々!
次の来館、心からお待ちしてるヨ!それじゃあミナサン…また百年後の開館まで…』

「冗談の好きなお嬢さんなんだね、きっと…どこか神秘的な雰囲気も漂っていたしね?」
「そうそう…何かある館だとしても害が無ければいいんだよ…」
「…って、石神さん、そういえばご家族の方は…?」
「探しても見つからないからね、一度、駐車場の車まで戻ってみようと思って」
 そういいながら、森の小道を歩いて行く集団。
来た時は短い距離で近くに感じた駐車場も、何故か帰りは遠く長く感じた。
果たしてそれは疲れているからそう感じるだけなのか、それとも何かの力でも働いているのかはわからないが…。

 結局、その後、月弥は駐車場にて保護者と合流し、神城バスも無事に出発。
そして再び少しばかりの長距離をひたすら帰途についたのだった。
さすがに帰りのバスは皆、眠っていたりしていたのだが…東京に着いて、神城便利屋で解散する頃には、
すっかり眠気も取れてある意味晴れ晴れしい顔で散って行った。
 あのどこか何かありそうだった蓬莱館も、どうやら実害は無さそうだと皆がそう落ち着きそうだった…
――が。
 実は、その翌日から『害』は発生したのである。
何故か理由は不明なのだが、蓬莱館に泊まった者達全員揃って…その日から3日間ひたすら爆睡し続けたのである。
そんなに体力を消耗するほどの事などしていないにもかかわらず、しかも全員がほぼ同時に、だ。
 ただ、働いている者にとってはその爆睡のせいで仕事が出来ずにかなりの『害』にはなったのではあるが、
特に定職の無い者にしてみたら寝すぎた、程度で害とは言わないかもしれないが。

 眠ってしまった理由が何故であるのかは…誰も知らない。
あの蓬莱館が、百年に一度現れる不思議な館である事は誰も知らない。
蓬莱館はその一度の機会に、そこに宿泊する客から霊力等を吸収して異界の糧にしている事は誰も知らない。

そして、高峰が何故そんな蓬莱館に通じているのかも…また誰も知らないのだった。





〓終〓


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家・幽霊作家+草間興信所事務員】
【0328/天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)/女性/18歳/大学生(巫女)】
【1431/如月・縁樹(きさらぎ・えんじゅ)/女性/19歳/旅人】
【2209/冠城・琉人(かぶらぎ・りゅうと)/男性//84歳神父(悪魔狩り)】
【2269/石神・月弥(いしがみ・つきや)/男性/100歳/つくも神】
【2295/相澤・蓮(あいざわ・れん)/男性/29歳/しがないサラリーマン】
【2380/向坂・嵐(さきさか・あらし)/男性/19歳/バイク便ライダー】
【2441/西王寺・莱眞(さいおうじ・らいま)/男性/25歳/財閥後継者/調理師】
NPC
【***/神城・由紀(かみしろ・ゆき)/女性/24歳/便利屋主人・巫女】
【***/新堂・愛輔(しんどう・あいすけ)/男性/18歳/高校生・レクリエーション愛好会会長】

【個別ノベル】

【0086/シュライン・エマ】
【0328/天薙・撫子】
【1431/如月・縁樹】
【2209/冠城・琉人】
【2269/石神・月弥】
【2295/相澤・蓮】
【2380/向坂・嵐】
【2441/西王寺・莱眞】