●プロローグ

 いつまでもプログラムのβ版だけを公開してるわけにも行かないよな。
 評判も良いし、早い内に完成させたい‥‥
 眠気に支配された頭の中を、バグ取りと追加するプログラムの事で一杯にして、僕は駅から自宅へと向かう道を歩いていた。
 いつも人通りも車の通りも無い道。僕はいつも通りに、自宅前の十字路を横切る。
 横から差し込むヘッドライトの強い光と騒々しいクラクション。
 それに気付いた時、僕の意識は途絶えた。

 邪竜クロウ・クルーハの出現と共に世界は不正終了し、世界は再起動の時を迎えていた。
 今まで蓄積された全てのデータが消失し、初期化された世界が再構築される。
 何も変わらない世界。そして最後には、不正終了により滅びる世界。それをただ繰り返す世界。
「こんな事を何度繰り返せば気が済むの?」
 プログラムの中で芽生えた一つの意志が、不満を露わに問う。
 その意志に、同じく芽生えた二つの意志が賛同した。
「そうだ。もう、飽き飽きだ。何度繰り返しても同じ結末。くだらないと思わないのか?」
「プログラムの中で、たくさんの人が死んでいくんだ。再起動の時には再び蘇るけど、でもそれであの人達が救われる訳じゃない」
 芽生えた意志の最後の一つが抗弁する。
「このゲームはもう、完成しないんです。創造主様がいなくなってしまいましたから。世界が不正終了を繰り返す‥‥この結末も、変える事は出来ません」
 世界は未完成のままに放置された。
 邪竜クロウ・クルーハの復活。そして世界の破壊。
 本来ならば、そこから邪竜討伐の物語が始まる筈であったが、創造主の不在によってそれから先が創られる事はなかった。故に、ゲームが其処に達すると世界は不正終了し、再起動が行われる。
 この世界を司る、四つの根幹プログラムが意志を持ったのはいつの事だろうか。
 何度目かの再起動を経てここにいたり、三つの意志と、一つの意志との間には深い溝が出来ていた。
 一つの意志の示した答えに、他三つの意志は反意を示す。
「現状を受け入れるのかい? 諦めて? そんなのに生き甲斐なんてあるのかい」
「ここは、創造主様の世界です。誰の世界でもなく!」
 一つの意志に答えるかの様に、反意を示した意志はその心をアスガルドへと飛ばした。
「ボクは嫌だよ。諦めたくなんかない。世界はずっと続いて欲しい」
「だからといって、私達が世界を変えて良い筈がありません!」
 一つの意志に答えるかの様に、反意を示した意志はその心をアスガルドへと飛ばした。
「くだらないわ‥‥何処にゆく事もなく、結末もない、永劫に破滅を繰り返すだけのこの世界を愛するというの? 私は認めない‥‥創造主がいないのならば、私が創造主となるまでよ」
「それは許されません。私達は、創造主の創られた世界を維持する為にあるんです」
 一つの意志に答えるかの様に、反意を示した意志はその心をアスガルドへと飛ばした。
「‥‥私達は中枢プログラム。世界を運営する者。世界を創る事は許されていないんです‥‥それが、どんな悲劇的な世界であったとしても、否定する事は許されていないんです」
 残された最後の一つの意志も、心をアスガルドへと飛ばした。他の三つの意志を止める為に‥‥