●都市伝説

 草間興信所を訪れ、応接セットのソファに座りつつ、薄めのカルピスなんぞを一口。そして、瀬名・雫はノートパソコンを弄くる手を止めずに草間・武彦に話しかけた。
「ねえねえ、呪われたゲームって知ってる?」
「何だそれは?」
 窓際に立ち、冬の足音近い街の様子を見下ろしながら、草間は興味もなさげに聞き返す。
 そんな草間の反応なんてちっとも気にせず、雫は喜々として話を続けた。
「今、ネットで人気なのよ。それがね‥‥」
 雫の話を要約するとこうだ。
 そのゲームは、ある天才的なプログラマーが作った物らしい。
 彼はそのゲームをインターネットにある自分のホームページで公開し、未完成ながらも多くの人から高い評価を受けていた。
 だが、そのプログラマーはゲームを完成させる事無く交通事故でこの世を去り、未完成のゲームだけが彼のホームページに残されたと言う。
 それから時が経ち、そのホームページは無くなったかに思われた。
 が、あるゲーム好きな少年がある日、とあるゲームのホームページを見つけた。
 『白銀の姫』
 そう、それは今ではインターネット上の伝説となったゲームであった。
 少年はメールで友人にそのゲームの事を伝え、そして行方不明となった。
 自宅には電源のついたパソコンと、飲みかけのコーヒーが残されていた。
 パソコンのブラウザの画面には『−Page Not Found−』の文字だけが表示されていたと言う。
 以後、発見すると呪われる。遊ぶとこの世界から消えてしまうと言う噂が残った。
 その話を聞き、草間は振り返りもせずに言う。
「ありがちで面白味に欠けるな」
「もう! せっかくパソコンのセッティングに来てあげたんだから、もう少し真面目に話を聞いても良いでしょ?」
 言いながら雫は、セッティングの終わったノートパソコン‥‥草間がどこからかもらってきたか拾ってきたかした中古品を応接机の上で閉じた。
「はい、終わったよ。インターネットとかも出来るようにしといたから」
「おっ、すまないな。これで零の奴も喜ぶ」
 草間は初めて雫に振り返り、苦笑めいた笑みを浮かべて見せた。
「あいつ、いきなりパソコンやりたいだなんて言いだしてな。ありゃあ誰かに吹き込まれたな」
「あはは‥‥最近は、みんなやってるから。草間さんはしないの?」
 笑い、ちょっとした疑問を投げる雫に、草間は肩をすくめて答える。
「ハードボイルドにパソコンは似合わないだろ」
「古いんだ」
 笑いながら言う雫に、草間は真顔で言い返した。
「男の良さってのは、昔から変わらないものさ」