●異界への旅立ち

 雫にパソコンをセッティングしてもらってから数日‥‥零は暇を見つけてはパソコンで遊んでいた。
 そして‥‥
「困った‥‥」
 草間は、二夜にして汚れ果てた興信所の中を見渡して絶望に頭を抱えた。
 どうも、零に頼り切る癖がついていたらしい。昔はもう少しましだったと考えてみて、やっぱり大差なかった事に気付いてまた頭を抱える。
 と、言うよりも問題はいなくなってしまった零であった。
 心当たりがないわけではない。あるからこそ、こうやって興信所の椅子を暖めているわけだが‥‥
「来たよ〜って、うわ、きたなぁい」
 ドアを開けて飛び込んできた雫が、部屋の惨状に眉をひそめる。
 しかし草間は、そんな評価が下された事などちっとも気にせず、雫に言った。
「よく来てくれた。頼みがあるんだ」
「掃除なら嫌だよ。零ちゃんはいないの?」
 足下に散乱したゴミを踏まない様に草間の机へと歩み寄る雫。
 そんな雫の前、草間は机の上のノートパソコンを開く。
「零は多分、お前の言っていた呪われたゲームだかに引き込まれた」
 いなくなった状況が、雫のした話に酷似していた。それが根拠。かなり、勘に近い。
「俺じゃよくわからんから、何とかしてくれ」
「何とかしてくれって‥‥」
 いきなりの話に困惑した雫ではあったが、とりあえずという事で草間を押しのけ、パソコンの前に立つ。
「えと‥‥履歴」
 雫はすぐに履歴を確認。中のアドレスを、全部クリックしていってみる。
 色々なページが現れる中、やがて一つのページに辿り着いた。
「これ‥‥かな? 良く見つけたよね」
 『白銀の姫』。噂のホームページ。
「色々、情報は流れてるんだけど、本物のアドレスって初めて見たわ」
 雫は少し感心した様に言った。
 有名なネット都市伝説と化しつつあるこの話も、ゴーストネットOFFの調査対象になっていたわけだが、ネットに流れている「これが本物!」というアドレスは全くの嘘ばかりで、時にはジョークサイトなどの気の利いた悪戯もあったが、酷い時にはグロ画像サイトやブラクラやウィルスサイトだったりもした。
 しかし、これはどうやら本物っぽい。
「どうする?」
「‥‥一応、アドレスとやらと行き先を残しておこう。危ないから、お前は何もするなよ」
 聞かれてから草間は答え、ノートパソコンを覗き込んでアドレスのメモを取った。
 そして、そのメモを興信所内の伝言板にセロハンテープで貼り付け、その横にマジックで「『白銀の姫』事件調査中」と書き記す。そして、草間はパソコンの方を振り返った。
「じゃあ、俺が中に入るから‥‥」
 其処には誰もいない。
 声を掛けようとした相手、雫は既にパソコンの前から消えていた。
 もちろん、こっそり帰ったという事ではない事は明らかだ。
「‥‥予想しておくべきだったな」
 まあ、この結末は‥‥雫の無茶な好奇心から言って、必然だったとも言えるだろう。
「帰れなかったら、親御さんにどう説明しろって言うんだ全く」
 頭を抱えたくなる思いを振り払いながら、草間はパソコンの前に座った。
 画面には『−Page Not Found−』の文字が見られる。零の時と同じだ。
「えーと、確かこのマウスとかいうので矢印を動かして、ここにあわせてボタンを押す‥‥と」
 草間は、雫のやった操作を思い出しながら、自力でのアクセスを試み始めた。