●ゲーム 白銀の姫

「ここはアスガルドって言う世界なんですって。今いる場所が兵装都市ジャンゴって言う街で、モンスターの侵攻に耐える事の出来る重武装都市。冒険者の拠点となる街みたいです」
「ふぅん‥‥」
 街の中を歩きながら、草間は零の話を聞いていた。零は、なかなか楽しんでいるようで、かなり嬉しそうに草間に話している。
 ざっと説明を受けた所、この世界は基本はファンタジーRPG的な世界なのだが、銃火器の類や機械機器類も混在しているらしい。
 そして、当たり前のように世界にはモンスターが満ちており、各地で暴れている。で、やがては、それらモンスターの大ボスとも言える邪竜クロウ・クルーハの復活が起こるらしい。
 その攻撃の前に兵装都市ジャンゴが陥落する。そこまでは良い。しかしその後、この世界は不正終了という、ある意味での滅びへと至る。そう運命づけられているのだという。
「それから、この街には4人の女神さまが住んでいるんです」
「4人の女神?」
「はい」
 零は笑顔で答え、簡単に説明を始めた。
 この世界にいる女神は、アリアンロッド、マッハ、ネヴァン、モリガンの4人。
 アリアンロッドは、この世界を本来の姿のまま維持しつつ、創造主の帰還を待とうとしている。
 マッハは、自分の楽しみを追求して、この世界で戦いを楽しんで回っている。この世界の中で許される限りの事をしてみようと考えているようだ。
 ネヴァンは、世界の不正終了を回避する為に、このゲームの大ボスである邪竜クロウ・クルーハを説得し、世界の指導者になってもらおうとしている。
 モリガンは、邪竜クロウ討伐を目差している。
世界の不正終了を防ぐ為というのはネヴァンと変わらない。ついでに権力好きらしく、世界を動かす実権を握る為に活動中。
 世界を変える方向性のマッハ、ネヴァン、モリガンと、世界の維持を願うアリアンロッドは完全に敵対中。まあ、マッハ、ネヴァン、モリガンの3人も、それぞれの目的の相違から、ほとんど敵対していると言って良いのだが。
「それで私、アリアンロッドさんに見出された勇者なんですよ」
 零は、にこやかにそう続けた。
 勇者‥‥すなわち、女神に見出された者。ゲーム中の呼称である。
「で‥‥そうやって遊んでいて、ついつい長居って訳か。心配掛けやがって」
「あ‥‥ごめんなさい。だって、いろいろやってたら時間が足りなくて」
 草間の一言に急に項垂れた零。その頭をポンと叩くように撫でて、草間は言った。
「とにかく、帰る方法を探そう」
「あ、すぐに帰れるみたいですよ? 私達は」
 零はそう答えて、説明につなげる。
「この世界に来る人は2つに別れるみたいです」
 勇者になる者は、超常現象に対してある程度の力や知識を持っている者に限られる。つまりまあ、草間興信所周りの連中は皆、冒険者か勇者になるわけである。
 残るもう一つは、現実世界の記憶を失ってこの世界の住人になってしまう人。そう言う人は現実に戻ると言う事すらも考えず、ゲームにとどまり続ける。
「だから、帰ってこれないのか」
 草間は納得した様子で頷いた。
 超常現象の知識のない者。つまり、全くの一般人がこの最後のパターンに当てはまる。つまり、ここに迷い込んだ者の多くは、記憶を失ってNPCと化すと言えるだろう。
 何にせよ、彼等を救い出さなければ‥‥
「当面の方針は決まった。俺は、他の連中を救い出す手を探す。零、お前はどうする?」
「私は、アリアンロッドさんの勇者ですから」
 方針を決めた草間に問われて、零は自分が草間に同行はしない旨を伝えた。そして、
「それに、他の勇者の方々も、独自に動くでしょうし、彼等を抑えないと‥‥」
「他にも勇者がいるのか?」
 気になって草間は問い返す。その問いに、零は意味ありげな笑みで答えた。
「ええ、皆さんもいらっしゃってますよ?」