●マッハの章
高い城の尖塔の上に立ち、女神マッハは地上を見下ろしていた。
遠く何処までも広がるアスガルド、近隣の村、遠くの街、深い森、静かな湖、雄大な山、広大な海‥‥全てを見通す事など出来はしない。
マッハの横に浮かぶのは嬉璃。彼女もまた、地上を見下ろす。どことなく邪悪っぽい笑みを浮かべて。
「マッハ殿は、世界の滅びについてどう思っておるのぢゃ?」
「どうって‥‥どうも。そんな事、考えるのも面倒くさいって感じだね」
マッハは視線をあげ、空をチラと見てから答えた。
「邪竜をぶん殴って止まるならそれで良いし。殴り合ったら解り合えるかも知れないし。誰か、止め方を知ってる奴に会えるかも知れないし。世界の滅び自体をぶん殴って直せるかも知れないし。そんなの、わからないしね」
そこまで言うと、マッハは満面に笑みを浮かべて嬉璃に向かって言う。
「これはゲームなんだろ? だったら、楽しまなきゃしょうがないじゃないか」
「いやいや、ゲームならば勝たねばならぬ。そうであろ? マッハ殿」
嬉璃はニヤリと笑みを浮かべた。
「世界全てが遊び場なら、世界全てを遊び場とするまで。この世界の強き者全てを倒し、全てを制覇してみるのはさぞかし面白いぢゃろうのう」
「それは‥‥すっげー面白そうだな」
嬉璃の誘いにのって、マッハは世界に思いを馳せる。
この世界、強い奴らが幾らでもいるだろう。そいつ等と戦って、戦って、最後まで勝ち残って。
「さすが、あたしの勇者。言う事が違うな。良いぞぉ〜〜っ、ワクワクしてきた!」
「わしに任せておけぃ。世界を共に我が物としようぞ」
言いながら嬉璃も世界に思いを馳せる。
世界全てを我が手に入れてみせる。ゲームであるならば楽しむのみ。他の事なんか知った事じゃない。
世界の危機なんて、まあそのうち何とかすればいいし、放っておいても誰かが何とかするだろう。
ともかく‥‥だ。
「世界を手に入れて、何でもやりたい放題ぢゃー!!」
拳を掲げて意を決する嬉璃の嬉しそうな声が、尖塔の上で高らかに響き渡った。
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