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調査コードネーム:奇怪!温泉植物の腹の中!? 執筆ライター :暁久遠 関連異界 :プラントショップ『まきえ』 【オープニング】 【 共通ノベル 】 【 個別ノベル 】 |
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![]() 「おっんせっんだー♪おっんせっんだー♪」 「あ、こら葉華。もっと大人しくしないと…」 子供用の浴衣(ちなみに女性用。本当は男性用のを着たかったのにまきえに強制的に着せられた)を翻しながら嬉しそうに飛び跳ねている葉華を、男性用の浴衣を着た聡が慌てて諌めている。 いくら宿とはいえ、他の客の迷惑になっては失礼極まりない。 そう言って控えめに叱る聡に、葉華は肩を竦めて「ごめん」と小さく謝った。 「まあまあ、聡もそのくらいでやめてあげたら…?」 「そうそう、程ほどにしないと葉華が凹むだろー?」 2人と同じように浴衣を着たまきえと希望が聡を宥め、葉華の頭を撫でる。 「ちょっとは無礼講気分でいこうぜ?折角温泉入るんだし♪」 「…まぁ、僕もそんなにしかりつける気はないから、いいですけど…」 肩をぽんぽん叩きながら言う希望に、聡も苦笑しながら口を噤む。 「そうよ。葉華も、喜ぶのはいいけど、ほどほどにね…?」 「…わかってるよ」 まきえにめっ、と言われてやや頬を膨らませながら返事をする葉華。 4人の手の中にあるのは、言わずもがな、な風呂グッズ。洗面器にタオルに下着などなどお約束な物がいっぱい。 ちなみに、アヒルちゃんは葉華の洗面器の中にある。 「さ、早く風呂入ろうぜ?」 「おー!」 「「はい」」 『植物の湯』と書かれたところの脱衣所を指差して言う希望に、他の3人は頷く。 「じゃ、おいらはこっち行くから」 「あら…女の方の脱衣所にこないの…?」 「絶っ対、ヤ!!」 「そう…じゃあ、仕方ないわね…」 葉華の本当に嫌そうな拒否に、まきえは残念そうにしながらも大人しく「女」と書かれた脱衣所に入って行く。 残りの3人はそれを見送ってから、揃って「男」と書かれた脱衣所に入り、戸を閉めた。 ―――数分後。 「よっしゃー!温泉だーっ!!」 「おう!温泉だーっ!!」 「2人とも…相変わらず無駄に元気ですね…」 脱衣所から飛び出すように走り出た葉華と希望の後を、苦笑しながらついていく聡。 混浴ゆえのルールか、3人ともタオルを巻いた下に更に水着をつけている。他の客も大体そんな感じだ。 ちなみに葉華は男物の水着を着ている。「どうせ胸がないから問題ない」らしい。 温泉の中には既に何人か先客がいるらしく、楽しそうに談笑したり、寛いだりしている。 「あれ?まきえはまだ来てないの?」 「みたいだね」 きょろきょろと辺りを見回しながら温泉の中に入る葉華に、一緒に入った聡が頷く。 「まあ、女だし仕方ないんじゃね?」 温泉の縁に腰かけて足だけを浸からせながら言う希望に、2人がなるほど、と納得したように頷く。 「それにしても、この温泉、随分効能が変わってるよなぁ…」 隣にある看板を見ながら笑う希望に、聡が不思議そうにそれを覗き込んで読み上げる。 「えーっと…『効能:疲労回復・垢落とし・家内安全・交通安全・商売繁盛・合格祈願』…って…」 「なんだそれ。効能らしい効能って『疲労回復』だけじゃん。『垢落とし』てなんだよ…」 「しかも『合格祈願』って祈ってるだけだしな」 けらけら笑う希望に、呆れたように肩を落とす聡。 ふと、葉華が何かに気づいたように看板の下隅を指差した。 「…ねえ、なんか此処に書いてあるんだけど」 「え?」 「どれどれ…?」 葉華の言葉によく看板を見てみると、確かに米粒のような字で解りにくいところに何かが書いてある。 希望が目を凝らしてよく見ながら、その字を読み上げた。 「…所々擦れてて読みにくいな…『この温泉…物は、ある程度人数が集まったと判断すると』……」 「「『判断すると』?」」 2人が不思議そうに問いかけると、希望は…ものすっごい爽やかな笑顔で振り返り、口を開いた。 「――――――『ぱっくり食べちゃいますのでお気をつけ下さいませvv by蓬莱☆』」 「「…え゛?」」 2人が引きつった声を上げた瞬間、温泉の縁ががばぁっ!と持ち上がり、まるでがま口の財布を閉めるかのように、他の客諸共飲み込んで閉じてしまった。 そりゃあもう見事なまでの、たった一瞬の出来事だった。 『……ゲップ』 どこからともなく、満足そうなゲップの音が聞こえてきた。おそらく、この『温泉?』からだろうと思われる。 その閉じた『温泉?』は、まるで灰色の蕾のような部分の下に、灰緑色の蒲公英のような葉が生えている。 閉じた外見だけを見ると、まるで灰色の巨大な植物のようだ。 ガラガラガラ…。 「……あら…?」 今更になって、水着を着たまきえが中に入ってきた。…が、当然温泉の代わりにあるのは…デッカイ蕾。 「…どうしたのかしら…?」 まきえが不思議そうにその蕾をぺしぺしと叩いてみると、後ろから慌てたような少女の声が聞こえてきた。 「あっ!お客さまー!そんなことしたら危ないですよー!!」 「…あら…蓬莱さん…?」 まきえが振り向いた先には、ぱたぱたと音を立てながらやってくる蓬莱の姿。 蓬莱は小走りで蕾に近寄ると、その蕾に耳を当て、目を閉じる。 そして暫く沈黙した後、困ったように身体を蕾から離した。 「…手遅れでしたねえ…」 「手遅れって…なにがですか?」 不思議そうに問いかけるまきえに、蓬莱は苦笑しながら蕾を叩く。 「この子…わたくしは『温泉植物』って呼んでますが。 体液…ぶっちゃけ胃液なんですけど、それが温泉と同じ性質を持ってるんです」 それを聞いて、まきえは思った。 ―――そんな温泉もどき、普通に温泉として扱っていいんですか…? …というか、要するに、皆さん胃液の中に浸かってたんですよね…? 「この温泉植物、変なクセがありまして…。 普段は何の変哲もない温泉(もどき)で、しかも中々気持ちいいんですけど。 ある程度自分の口中に人が入ってくると…その口を閉じて、中に飲み込んでしまうんです」 こんな風に、と蕾をぺちぺち叩く蓬莱。…さっき危ないって言ってたのに…。 しかし成る程。『植物の湯』と言うのはこの植物の胃液に浸かる温泉もどきだったのか…となんとなく納得してしまうまきえ。 「毎年毎年、必ずこういう目に合っちゃう人がいて…今回は気をつけてたんですけど…」 というか、それ以前にそんな温泉を普通に開放しとくのもどうかと思う。 「あの…飲み込まれた人たちは一体どうなるんです…? 私の息子達も、飲み込まれてしまったんですけど……」 おそるおそる問いかけるまきえに、蓬莱は笑顔で返す。 「大丈夫!暫く待ってれば皆さんきっと脱出してくれますから!! ………多分!!!!」 ちょっと待て。『多分』ってなんだ、多分って。 普通はそういうツッコミが入るところだが、まきえはそれに全くツッコミをせず、さらっと流した。 「あら…そうなんですか…? それじゃあ、出るまでご一緒にお茶でも飲みませんか…?」 「あ、いいですね!是非ご一緒させて頂きます♪」 にっこり笑うまきえに、蓬莱もにっこりと笑い返すのだった。 ―――なんつー母親と従業員だ。 ――― 一方、温泉植物の腹の中。 真夏の太陽輝く遠浅の海の真ん中ような空間に放り出された葉華は、頭を擦りながら起き上がった。 「あたたた…一体何が起こったんだ…?」 周囲を見渡して見ると、周囲には何人か他の温泉客の姿が見受けられた。 前も後ろも右も左も、かなり遠くまで水平線に覆われており、どこかに岸があるのかどうかすらよく分からない。 ただ、先ほどから後方遠くの方でイルカのような生き物が跳ねているのを見ると、そちらの方は深くなっているらしい。 だが、聡や希望の姿は全く見あたらない。どうやら離れた場所に落ちてしまったようだ。 周りで気を失っている他の客を起こしてから、葉華は辺りをもう一度見回した。 すると、やや離れた場所に1つの立て看板があるのを見つけ、小走りで近寄り、読み上げた。 「…『おいでませ温泉植物のお腹の中☆』…」 他の客と一緒に、葉華、一時硬直。 「……植物の腹の中―――――ッ!?!?」 葉華の叫び声が、空間に響き渡った。 「…『脱出するためには、他の空間と繋がっている場所を見つけて、全員と合流するしか道はありません。 ちなみに、繋がっている場所は入る度に変わってしまうので、頑張って探して下さいませーv』…」 ジャングルのような空間に放り出された聡と他の客達は、その看板を見てがっくりと肩を落とした。 すぐ隣に長い川が流れているが、それが手がかりになるかどうか…。 しかも周りからはギャ―ギャ―と鳥が騒ぐ声やら、ゴリラや猿の鳴き声が響いてくる。 ―――物凄ーく、危険な予感。 「うう…僕達、無事に脱出できるんでしょうか…?」 しくしく泣きながら呟いた聡の言葉は、ジャングルの中に吸い込まれて行った。 「…『P・S:空間が繋がっている場所には、何かしら目印があります。 ただし、形や大きさなどはランダムなので、そちらも頑張って探して下さいねv 蓬莱より☆』 …これじゃ大して役に立ちそうもないな」 さんさんと太陽が照りつける砂漠のど真ん中にある看板を淡々と読み上げた希望に、他の客達はがっくりと方を落とした。 視界に映る端から端まで全部砂、砂、砂。まさに砂漠そのもの。 …なのに飲み物を売る自販機がある辺り、なんというか…。 「砂漠の目印、ねぇ…。 とりあえず、歩いて探してみるか?」 振り返って笑う希望に、全員は仕方なく頷くのだった。 ―――はてさて、全員、無事に合流して帰ることができるのでしょうか? 【ライターより】 はい、相変わらず変な話ばかりでごめんなさい(オイ) 温泉宿のはずなのに全くそれらしさがないとはこれ如何に(爆)一歩間違えると思い切りサバイバルです(笑) 蓬莱以外のNPC達については、異界「プラントショップ『まきえ』」を御覧下さいませ。 とは言っても、蓬莱とまきえはただの第三者役ですので深くは気にしないで下さい(をい) で。今回は探索(もどき)シナリオです。 温泉植物の中は特殊な異空間になっており、希望の能力を持ってしても脱出は不可能なようです。 ちなみに皆様は水着のままで探索することになります(ぇ!?)ので、どんな水着を着てるか書いてくださると面白いかもしれません(何が) …と、言うワケで(どんなワケだ) 皆様には以下の三ヶ所(3人)の中から一ヶ所を選んで探索して頂くことになります。 1.葉華(海) 2.聡(ジャングル) 3.希望(砂漠) それぞれ、目印を見つけた時点で他のメンバーと合流できますが、そう簡単にはいかないのが世の中の常(ぇ) 当然、どの場所も何かしらハプニングが発生します(笑)なんだか楽しそうなハプニングが起こりそうな予感がする場所へ行きましょう(待て) 勿論、目印に関してもある程度推理をして下さいね。 あ、そうそう。 探索の最中に見つけた物(書いて下されば個別パートに反映される可能性が高いです)は持ち帰ることが出来ます。 欲しい物がある場合、此処で書くと手に入るかもしれません(あんまり関係ないような…) 例えば、「お宝」と書く場合。お宝だけではなく、どんなお宝か詳しく書いていただけると、非常に書きやすいです。 ちなみに、脱出した後はまきえも一緒に宴会をする予定です。 思いっきりハジケましょう(笑) |
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【共通ノベル】 ●海(?)ステージ:始まり 「うぅ〜…何でこう厄介事ばっかり起きるかなぁ…」 「まぁまぁ。此処で悩んでても始まらないでしょ?」 頭を抱えて苦悩している葉華の頭をぽんぽんと叩きながらシュライン・エマが葉華を宥める。 「それよりも、葉華くんタンコブない?」 「へ?あ、うん。痛くないから多分無いと思うけど…」 心配そうに葉華の頭を撫でるエマに葉華はきょとんとして返す。唐突な問いかけにやや驚いたのだろう。 「…温泉でのんびりまったりしようと思ってたのに、こんなことに巻き込まれるなんて…」 「うわっ!?あ、愛華姉ちゃん…いきなりどうしたんだよ?」 さりげなく葉華の後方を陣取っていた愛華が急に芝居がかった口調で喋りだしたので、葉華が驚いて後ろを振り向く。 と、目をうるうるとさせた愛華ががしっと葉華の手の平を両手で掴んで叫び出す。 「葉華っ!お姉ちゃんと一緒に頑張って脱出しようね!!」 「あ、え?…あー……うん」 愛華のハイテンションっぷりに押され気味の葉華は、引きつった笑みを浮かべながら頷く。 と、愛華は嬉しそうに笑って手を離した。 この2人も当然温泉植物に飲み込まれたクチなので、葉華を含めた3人ともが水着だ。 愛華は白地に赤のドット柄のビキニ。ただしふりふりがついているのでどちらかというと色気より可愛さが勝っている。更に手の中に浮き輪があるので子供っぽい雰囲気が増していたり。 エマは真っ白なホルターネックの水着。シンプルな分スタイルの良さが際立っている。 葉華は白地に緑色の葉っぱの模様がついたトランクスタイプの水着だ。ただし、愛華の希望で現在胸にバスタオルを巻いてはあるが。 「それにしても…一面海なんて、変なトコに来ちゃったなぁ…」 葉華の言葉に同意を示すようにうんうんと頷いた愛華は、持っていた浮き輪をしっかりと抱えなおす。 「そうだねぇ…。 温泉で遊ぼうかなぁと思って浮き輪持ってきてたんだけど、ちょうど良かったかも☆」 「…や、そう言う問題じゃなくて…」 「あっ、葉華!ほら、あそこイルカさん跳ねた!!かわいいねぇ…v 海も中々楽しいかもvv」 「…愛華姉ちゃーん…」 葉華のツッコミも何処吹く風。バシャリとイルカが飛び跳ねるのを見つけて楽しそうに笑う愛華に、葉華はがっくりと肩を落とした。 そんな様子を見ながら、エマが頬に手を当ててうーん、と小さく唸る。 「早く出ないとふやけちゃいそうね…」 「…あのさ。そう言う問題じゃないから…」 やっとマトモな意見が出るかと思った葉華は、エマの台詞にがっくりと肩を落として呟く。 が、エマは楽しそうに胸の前で手を組むと、にこりと笑う。 「でも、植物の胃袋内なんて、貴重な体験よね♪」 「……シュライン…お前もかよー……」 わくわくと効果音がついても可笑しくないような雰囲気のエマを見て、葉華はしくしくと涙を流しながら肩を落とした。 其処で暫く和んでいた愛華が、はっとして空を見る。 「…って和んでる場合じゃないのっ! なんとしても帰らないと…あいつに会えないじゃないっ」 此処から出れないと会いたい人にも会えなくなる。 すっかり忘れていた事実を思い出した愛華は、ある人物を思い浮かべてさっと顔を青くした。 「『あいつ』…?」 不思議そうに首を傾げたエマに、葉華はにやりと笑ってこっそり囁きかける。 「…愛華姉ちゃんの彼氏のことだよ。 なんだかんだ言ってもやっぱりラブラブなんだなぁ…」 「へぇ、そうなの」 うんうんと頷きながら語る葉華に納得したように声を上げるエマ。 そんな2人に気づいた愛華が、顔を真っ赤にして叫んだ。 「よ、葉華っ!そんなんじゃないんだってば!!」 「えー。だっていっつも何かと言うと彼氏の事ばっかじゃんかー」 「だーかーらぁー!彼氏なんかじゃないんだってばぁ!!」 正確には友達以上恋人未満なのだが、普段の愛華の言動やら何やらを考慮すると葉華が誤解するのも少々頷ける。 「まぁ、仲が良いのはいいことよね」 「あうぅ…エマさんまでそう言う事言うんですかぁ…」 半泣き状態の愛華を見て流石にやりすぎたかと葉華が「ごめんごめん」と小さく笑いながら謝るのだった。 ●ジャングル(?)ステージ:始まり 「…なんだか、無事に帰れるかどうかが不安でたまらないんですけど…」 そう呟きながら、周囲に広がる密林を見回してがっくりと肩を落とす聡。海色のトランクスタイプの水着の上に更にバスタオルを巻いてある姿だ。 一旦栄養補給しなければこのまま倒れそうな気がしたので、丁度見つけた林檎に良く似た実をしゃくしゃくと食べている。 味も林檎そのもので、なんだかもう既にジャングルらしくなさ全開である。 疲れきってるようなのに…なんだかイマイチ緊張感に欠ける気がしてならない。 そんな聡の背に、緊張感があるんだかないんだか微妙な声が聞こえてきた。 「あらあら〜一体どうしたんでしょうか〜?」 妙に間延びした声。困ってるんだか困ってないんだか。 そんな彼女はファルナ・新宮。隣には護衛メイドのゴーレム、ファルファが静かに立っている。 彼女としてはゆっくり温泉に浸かっていた筈なのに、気づいたらジャングルの中。 戸惑うのも…まぁ、無理はないだろう。 「…あの、失礼な事をお伺いしますが…この状況、理解していらっしゃいま…ぶ――――ッ!!!!」 ファルナの声に思わず脱力した聡は、苦笑気味に振り返って…口に含んでいた林檎を思わず吹き出した。 「うっ…ゲホッ!ゲホッ!!」 「あらあら〜…大丈夫ですか〜?」 林檎を噴出した後に咽出した聡の背を擦りながら心配げに声をかけるファルナ。 が、顔を真っ赤にした聡は、ファルファを指差して大声で叫んだ。…人を指差すのは失礼ですよ。 「な、な、な…なんで彼女はあんな水着を着てるんですか〜!!!」 …そう。聡が林檎を噴出したのは、彼女の着ている水着にあったのだ。 とは行っても、ファルナはパレオ付きのピンクのビキにで、聡が噴出すには幾ら何でも純情すぎるのでファルナが原因ではない。 ――問題はファルファだ。 彼女は水色の大胆なV字カットの水着を着ているのだから。かなりギリギリすぎて色々と問題が…。 しかもファルファ自体普通の人間と外見上さして変わりがない為、実に生々しいというか…。 「え〜?ファルファの水着がどうかしましたか〜?」 しかもファルナは解ってないし。 「えっと、そ、その、僕が恥ずかしいんで…た、タオルを巻いて下さいぃ〜!!」 「??? …えっと〜…ファルファ、あの方が困っているみたいなので、とりあえず身体にタオルを巻いてくださいますか〜?」 「解りました、マスター」 よく解っていないながらも聡が困っているのを察したファルナは、ファルファににこにこと笑いながら頼んだ。 ファルファはすぐに頷き、タオルを身体に巻く。 「これでよろしいんですか?」 「…はい…」 ファルナの問いに力なく頷き、一安心してがっくりと肩を落とす聡の背に男の声がかけられた。 「その程度で照れるなんてお前もまだまだひよっこだな」 「ひよっこってそんな事言われても…ってわ゛―――――ッ!?!?!?!?」 「あらあら〜」 その声に苦笑しながら振り返った聡が大声で絶叫する。 ファルナは口元に手を当ててちょっと驚いてるだけな辺り…中々の大物だと思う。 聡の振り向いた先にいたのは日向・龍也と来城・圭織。 肩を組んでぴったり寄り添っている。まぁ別にイチャイチャしてるぐらいならさして問題はなかっただろう。 問題は…龍也の格好だ。圭織はタオルをしっかり巻いてあるからそっちは問題ない。 ところが龍也ときたら、水着を着てないばかりか…タオルも巻いてない。 ご立派なモノを隠そうともせずに堂々と立ってるのだ。風に揺られてぶらぶらしてないだけまだマシかもしれないが…大して変わらないかも。 「何を驚いてるんだよ」 「だ、だってだって、そ、その格好…!!」 「何だ、そんなことか」 「だって温泉に水着で入るなんて邪道よ、じゃ・ど・う!」 うろたえまくる聡に呆れたように溜息を吐く龍也と、拳を握りながら何気なく力説する圭織。 …と言う事は彼女もタオルは巻いてあるが下は裸だと言う事か。 「い、今は温泉の中じゃないんですから隠して下さい!この辺の葉っぱで前を隠すだけでもいいですから〜!!」 もしかしたら新生葉っぱ隊誕生の瞬間を拝めるかもしれない。 「嫌なこった。俺は隠さなくちゃいけないほど自分のモノに自信がないワケじゃないんでね」 「自信もクソもないですよ〜!!」 「…まぁ、流石にこの場所で丸出しで走り回るのもどうかと思うけどね」 飄々と返す龍也と泣きそうな顔で叫ぶ聡に、圭織が苦笑しながら口を挟んだ。 「げ。圭織までそう言う事言うか?」 それにぱぁっと顔を輝かせた聡は、嬉しそうに「ですよね!」と叫びかけて…止まった。 何時の間にか圭織がちゃっかり水着に着替えていたからだ。 「…お前、それどっから出したよ?」 「どこからって…そいつは神のみぞ知るってヤツよ!」 呆れたように問いかける龍也に、圭織はウィンク付きでにっこりと笑って返す。 「あ、えーっと…」 「ほら、龍也もそのままにしてないで水着着て!」 戸惑う聡を置き去りに、同じく何時の間にかちゃっかり手にしていた男性用の水着を龍也に押し付ける圭織。 …とはいえ、流石に黒のブーメランはどうかと…。 ところが龍也は不満そうに眉を寄せ、口を開いた。 「嫌だ」 「『嫌』じゃないの! そのまま駆けずり回られてもなんかしまらないでしょ!」 きっぱりと断った龍也に叱るように言った圭織だったが、『そのまま〜』の辺りから照れ笑いになってる辺り…あんまり叱る気なさげである。 「……」 「ほら、龍也!」 無言で何かを考えるようにしていた龍也は、圭織が更に詰め寄った瞬間―――。 「ん…」 「!?」 ―――圭織にキスをした。 「!!!!」 「あらあら〜」 「……」 顔を真っ赤にして硬直する聡と、頬に手を当てなんでもなさそうに声を上げるファルナ、無言のファルファ。 「…はっ…」 「ふっ…ごちそうさん」 たっぷり十秒ほど触れるだけのキスをした後、圭織を離すと龍也はさっさと進み出した。 暫くぽーっとしていた圭織だったが、はっとして慌てて龍也を追いかけて行く。 「…ちょ、ちょっと龍也!こんなことで誤魔化されないわよッ!!!」 そう言いながらブーメランパンツ片手に龍也に追いついた圭織だったが、またすぐにキスされて誤魔化されていた。 「あの方達、熱々ですね〜」 「そうですね、マスター」 「……うぅ…僕、無事に帰れる自信が無くなって来ました…」 前方でいちゃつく龍也と圭織、そしてそれをのほほんと見ているファルナと頷くファルファを見、聡は疲れたようにがっくりと肩を落とした。 …聡の人生、お先真っ暗な予感。 「あ〜あぁ〜♪」 そんな聡の心を知って知らずか、そんなお決まりの叫び声を上げながら、カーキ色のサーフパンツを穿いたアールレイ・アドルファスが彼らの頭上の蔦から蔦へと楽しそうに飛び移って行く。 何度かぐるぐると回ってから、アールレイはバッと手を離し、憂鬱そうに肩を落としている聡の背中に飛びついた。 そのまま背中にがっしりと張り付き、強制おんぶの状態になる。 「うわっ!」 「あははは、大丈夫、アールレイが一緒だからーッ♪」 その妙な自信の根拠が一体何処から来るのかは不明だが、アールレイはくすくすと笑いながら聡の頭をべしべし叩く。 「うぅ…でもぉ…」 「それにホラ、折角面白そうな所に来たんだから、楽しまないと駄目だよ〜。 ね、お兄ーさん♪」 「……はぁ……」 生返事を返す聡ながらも、アールレイの明るさのお陰で少しは気分が浮上したようだ。 小さく微笑むと、聡はアールレイを背中に引っ付けたまま歩き出した。…意外と力があるようだ、この男。 「ちょっと、何時までそんな後ろにいるのよ!」 「そうだぜ。早くこっちに来いよ」 何時の間にか大分進んでしまっていたらしく、かなり前方所から圭織と龍也が呼んでいる。 「は〜い、今行きます〜」 「…」 その声に返事を返して小走りで走っていくファルナと、無言でその隣を歩いていくファルファ。 「さ、お兄ーさん、みんな呼んでるよ?」 「……そうですね」 背中からにっこりと微笑みかけられ、聡は小さく笑い返してから、アールレイを背負ったまま走り出した。 案外このメンバーもそれはそれで面白いんじゃないかな、なんてひっそり心の中で思いながら。 ―――ただし、まだ探索を始めてすらいないということを…忘れてはいけない。 ●砂漠(?)ステージ:始まり 「……どこ?」 1人の少年の呆然とした響きが、空に吸い込まれていった。 彼は温泉植物に飲み込まれた面々の1人である蒼月・華焔。 気づけば砂漠のど真ん中に放り出されていて、もう何が何だか解らないくらい混乱してしまっている。 看板を誰かが読み上げるのを半分意識を飛ばしかけている頭で聞きつつ、呆然と砂漠に座り込んでいた華焔の頭上から、くくく…と笑いを噛み殺すような声が聞こえてきて、反射的に顔を上げた。 希望だ。 黒のトランクスタイプの水着を着ていて、腹部には濡れている筈なのに全く透けていない真っ白な包帯が巻かれている。 腰に巻いてあっただろうバスタオルは、今は何かを包むように袋のような形状に捻ったモノを腰に巻いてある。 希望の後方には他の客も何人かいた。心配そうに此方を見ている。 人の姿を認めて慌てて立ち上がった華焔の頭突き(本人は無意識)をさらっと避け、希望が笑いながら口を開く。 「…随分長いこと意識飛ばしてみたいだけど、頭、平気?」 …不躾になんつー失礼な質問だ。 「平気に決まってるだろうが!いきなり失礼だな!!」 尻尾を逆立てた猫のように噛み付く勢いで怒る華焔を笑い声で流す希望。 更に怒って口を開きかけた華焔だったが、ふと思い出したかのように希望を指差した。 「…お前、なんてったっけ?」 あんまり希望のことを言えないような気が…。 「お前じゃなくって希望。さっき俺名前言ったんだけどなぁ?」 聞いてなかった?と笑いながら華焔の額を小突く希望。 くすくすと機嫌よさげに笑う希望を睨みつけながらも、華焔は大真面目な顔で急にがしっ!と希望の腕を掴んだ。 「俺は華焔!蒼月・華焔だっ!! とりあえず一番なんとかしてくれそうだし…頼むっ、助けてくれっ!!!」 ちなみにオプションは捨てられた仔犬のような瞳。バックミュージックは『アイ●ル』だ。 その勢いに驚いたのかきょとんとした表情で華焔を見ていた希望だったが、すぐに「ぶふっ!」と間抜けな音を伴って噴出し、驚いて緩んだ手から脱出して後ろを向く。 どっからどう見ても笑ってるようにしか見えないくらい肩が震えている。 「ぶくく…っ!そ、そんなチワワみたいな顔しなくても普通に助けるよ…! ぶははっ、俺も脱出したいし他にもいるんだから、流石に見捨てたりしないって…!!」 今にも大爆笑しそうなのを抑えるような希望の姿に、華焔は顔を真っ赤にして怒り出す。 「なっ!人が折角必死に頼んでるのに…っ」 そこで、唐突に華焔が押し黙ってしまった。 「…華焔?」 流石にからかい過ぎたか、と希望が振り返りかけた所で。 ―――するり、と、希望の腰に怪しげな手付きで腕が回された。 きゃー!と女性客のどことなく嬉しそうな色を含んだ叫び声が聞こえたが、唐突の出来事に驚いた希望はそれどころではなく、目を見開いて首を後ろに回す。 そこには、どこか艶の入った笑みを浮かべる、華焔の顔が。 「…華焔?どしたのお前?」 唐突にキャラが変わったかのような華焔の姿にやや眉を寄せながら問いかけた希望の顔に自分の顔をギリギリまで近づけ、華焔(?)はくすりと小さく笑った。 後方で一段と大きな女性客の叫び声が聞こえる。…中々元気な女性だこと。 「…俺は裂だよ。華焔じゃない」 ぽつりと囁かれた言葉に、希望が一瞬目を見開いた。 「なに?お前二重人格なワケ?」 「残念。近いけどハズレ。 俺は華焔に憑いてる神霊様なんだよ」 「神霊様ー?」 胡散臭げに眉を寄せた希望は、少し考え込むような仕草を見せてから、ぽむ、と手を打って華焔…もとい裂に顔を向けなおす。 「……愛染明王みたいなカンジ?」 「…勝手に人を欲望推奨の神様にしないでくれるかな?」 普段の行動で意外と気づかれないだけでもしや天然ボケか、希望。 「…ってのは冗談だけど。 実際俺も神憑きだから他人事じゃないし」 「へぇ、そうなんだ?」 にやりと笑いながら告げられた言葉に、裂も楽しそうに笑い返す。 「…お前、希望って言ったっけ?」 「そうだけど?」 名前を確認するように耳元で囁きながら怪しげな動きで指先を希望の身体に這わす裂を物ともせずさらりと答える希望に、裂は機嫌良さげに笑って肩口に顔を埋める。 「希望、か…いい名前だな。それにいい男だ」 「そりゃどうも」 実に直接的な賛辞にも謙遜することなくさらっと礼を言う希望。少しは遠慮と言う事葉を知った方がいいと思う。 というかいい加減その密着具合に誰かツッコミを入れてやれ。 女性客が興奮し過ぎて貧血で倒れそうだから。 そんな光景を物ともせず、裂は女性が聞いたら腰砕けになりそうな艶っぽい声で希望の耳元に囁いた。 「…こんないい男なら口説かないと、な♪」 その言葉に一瞬ぴくりと小さく希望が肩を動かしたが、すぐに顔を横に向けて裂を見る。 …超満面の笑顔で。 「…ごめん。俺、草間のモノだから。 それに俺、砂だらけの場所はちょっと…」 ぴしり。 空間内に嫌な空気が発生した。 さりげなくギリギリなネタが出てる気がする。それに、今この場にいない人間をさりげなく引き合いに出すのもどうかと。 普通ならそこで話を終わらせるところだが、裂は諦めなかった。 「…相手がいるからって手を引く気もないんだけど、俺」 ぴしっ。 またもやこの空間に嫌な空気が発生した。 そう言ってにっこり笑った裂に希望もにっこり笑い返した瞬間。 「そう言う場合は素直に引けェ―――ッ!!!」 唐突に裂…いや、華焔が希望からガバッと両手を離して空に向かって拳を振り上げて絶叫した。 どうやら華焔が無理矢理身体の主導権を取り返したらしい。 「おー華焔。お帰りー」 「おう、ただいま。 …じゃなくて!お前も少しは嫌がれーッ!!」 「やー、別にべたべた触られても気にしなければ何でもないし」 「そーゆー問題かー!!」 中々テンポのいい漫才だが、いいのだろうか。これ。 「とりあえず、俺は男からセクハラ受けたってことで終わらせていいのかな?」 くすくす笑いながら希望が告げた言葉に、華焔がはっとする。 瞬間、すっと華焔の身体から何かおぼろげなものが飛び出した。 よく目を凝らしてみると、それは狼の形をした幽霊のようなもので。 『…チッ。追い出されたか…』 「……ふーん…」 宙を浮遊する狼の霊もどきがぼやいたその言葉に、希望が何かを察したかのように興味深げに微笑んだ。 しかしそんな希望に気づく筈もなく、華焔が頭を下げ、その上で手を合わせて叫ぶ。 「一応これでなにもできないはずっ! ほんとごめん!!」 「『なにも出来ないはず』って…」 「あれ裂だから!幽体じゃ希望には触れない筈っ」 「あぁ、やっぱり。あれが裂なんだ」 必死に言う華焔に対してあっさりと納得した希望に、逆に華焔がきょとんとして希望を見る。 「あれが裂だってわかってたのか?」 「んー。カンで何となく、ね。 まぁ、何かされる心配がないにこしたことないし。 俺的にはオッケーよ?」 呆然とした問いかけにそう言ってにっこり笑う希望に、華焔がさっと顔を青くして謝る。 「うわっ、マジごめん! ほんと、俺にできることならなんでもするからっ!!」 「…ぷっ。…や、別にそこまで本気で謝んなくても大丈夫だから。 それに無理に何かさせるつもりもないし」 そんな華焔の様子に小さく噴出しながら口元を抑えて笑いを堪える仕草をしながら言う希望にほっとしたように肩の力を抜いた華焔。 その華焔の周りを漂っていた裂が、残念そうな響きを持ってぽつりと呟いた。 『その台詞、希望じゃなくて俺に言って欲しいなぁ』 「お前に言ったら変なことするからヤだ!」 それに関しては即拒否。 華焔と裂。この2人(?)、仲がいいんだか悪いんだか。 「じゃ、いい加減歩き出そうか」 そう言って振り返って笑った希望に、その場にいた全員はこくりと頷くのだった。 ●海(?)ステージ:探索開始。 少しした後座り込んだ3人(愛華は浮き輪に、葉華とエマは適当な岩に腰かけた)は、顔を突き合わせて相談を始めた。 「しっかし、目印なんて何処にあるんだろうな?」 「うーん…」 「『毎回変わる』って書いてある上にヒントもないし…何処を探せばいいかサッパリね」 「そうなんだよなぁ…ヒントが無いって言うのが一番辛いし…」 「んと…やっぱり海の目印って言ったら岸とかじゃない? ほら、イルカさんのいる方が深いんだから逆の方行って見るとか」 「んー…」 愛華の意見に葉華が頭の後ろを軽く掻きながら呟く。 「愛華姉ちゃんの言う事にも一理あるんだけど、どうもなぁ…。 此処まで見事に水平線が広がってるのを見ると岸があるかどうかがかなり不安だし…」 「あ、そっか」 うーん、とまた考え込みかけた2人を見て苦笑しつつ、エマが手を上げて発言する。 「『毎回変わる』って事は、もしかしたら見れば変わってるのが解るようなものなんじゃないのかしら?」 「「…あ」」 確かにその発言は一理有る。 目印が変わると言う事は、それが見れば目印だと解る物だと言う事だ。 はっとしたように顔を見合わせる2人に、エマはくすりと微笑みながら話を続ける。 「海上なら渦になってる場所とか、生物なら光っている魚がいるだとか。 もしかしたら、さっきのイルカが実は違う生物で、それが目印だとか。 私達が落ちている場所からそう遠くない場所に何かしらあると考えた方がいいと思うわ」 「「…おー…」」 パチパチパチ、と愛華と葉華が拍手を送る。 そんな大した事は言ってないわよ、と苦笑しながら顔の前で手を振るエマを見つつ、2人は顔を見合わせてクスクスと笑う。 「まぁ、何はともあれ、まずはもう少し地形を把握しましょうか? 深くなってる位置も知っておかないと動き回る時に危ないものね」 「おう!」 「はーい♪」 軽くウィンクしながらエマが言った言葉に行儀よく手を上げて返事をする2人。 …一見すると、「遠足の引率の先生と生徒2人」チックな雰囲気を醸し出しているような気がするのは…多分、気のせいじゃないだろう。 「危ない生物がいないとも限らないし、気をつけて動きましょう?」 「はい」 「分かってるよ。いざとなったらおいらが倒してやるからな!」 「ふふ、頼もしいわね」 「うん、ありがとう、葉華♪」 握り拳を作って笑う葉華につられるように、エマと愛華もにこりと笑い返した。 エマと愛華の能力はあまり突発的な戦闘には向いていない。 いざとなった時に一番素早く対応できるのは葉華なので、自然と葉華が先頭になるようにして歩くことになる。 葉華の腕に絡まっていた蔦は今は解けていて、海の中を常に葉華の前を漂うように動いている。 何か変な物や可笑しな振動があった場合は素早く感知出来るように、との葉華の配慮の結果だ。 たまに見慣れない魚や貝が目に入るが、目印になりそうなほど変わっている魚ではないようで、3人は黙々と深くなっていそうな領域へと向かった。 ちょっとした出来事もあったと言えばあったが、それほど大きなことではなかったので、ここでは語らないでおく。 ただ、何時の間にかエマの腕の中には魚や貝が沢山入った籠があったし、愛華の首には大きな真珠が植物の蔓でペンダントのようにされて吊るされていたことだけは、付け足しておこう。 そうして、暫く歩き続けた後…。 「…ちょっと待った」 不意に葉華の手がぴくりと動き、足を止めて2人を制する。 「どうしたの?」 当然一緒に止まった2人が、不思議そうに葉華の前を覗き込んだ。 「此処から少しずつ深くなってってる」 これ以上進むと危険な領域に入るかもしれない、と暗に語る葉華に、2人の表情も自然と硬くなる。 「さて、これからどうするか…」 「えっと…葉華くん」 ぽりぽりと頭を掻く葉華に、エマが苦笑気味に声をかける。 「何?」 「此処から先がどうなっているか、周囲の植物に聞くことは出来ないの? もしかしたらいつもと違うものを目撃してるかもしれないし」 「…あ、そっか」 どうも葉華は単純なことを見落としがちなフシがあるようだ。 エマの指摘に苦笑しつつ、葉華は海辺にある植物…要するに海藻の前にしゃがみ込んで話し掛ける。 「なぁ、此処から先はどんな感じになってるんだ?」 葉華の問いかけに、海藻は応えるかのように海水の中でゆらゆらと揺れた。 「うん…なるほど、あぁ、わかった…。 で、最近変わった物とか…」 多分会話をしているのだろうが、2人にはさっぱり解らないので傍目から見るとちょっと怪しい風景に見える。 「…なんか、愛華、ちょっと葉華の将来が心配かも…」 「そ、そんなこと言っちゃ駄目よ、愛華ちゃん」 ちょっと遠い目でそんな葉華の後姿を見つめる愛華をエマが苦笑しながら宥めた。 そんな2人を他所に、葉華は話し終わったらしく、すっと立ち上がると2人に振り返る。 「どうだった?」 エマの問いかけに、葉華は小さく頷いて話し出す。 「…此処から先は階段みたいに少しずつ深くなってってるみたいだ。 最終的にはかなり深くなるらしいから、愛華姉ちゃんとシュラインはこれ以上進まない方がいいな」 「「え?」」 考え込むような仕草で呟いた葉華に、エマと愛華が声を上げる。 「『私達は』って…葉華はどうするの?」 「おいら? おいらは潜るに決まってんじゃん」 「「えぇっ!?」」 さも当然といわんばかりの表情でさらりと告げられた言葉に、エマと愛華はは驚いて叫んでしまった。 「だ、だって葉華も危ないかもしれないんだよ!?」 「そうよ。1人で行くなんて危険過ぎるもの。私も潜るわ」 必死で引きとめる2人に、葉華は真面目な顔で向き直り、口を開く。 「ひとつ。愛華姉ちゃんの能力もシュラインの能力も水の中だと不利な条件の方が多い。 特にシュラインなんか迂闊に口を開けば水を飲むことになるからかなり危険だ。 その点おいらの場合は周りに植物がいればなんとかなるから問題ないし」 「あぅ…」 「それは…そうだけど…」 もっともな指摘に言葉を濁す2人に、葉華は更に話を続ける。 「ふたーつ。根本的なことだけど…2人とも、長時間息が続かないじゃないか。 おいらは元は植物だから身体の表面で酸素を補給できるから喋っても苦しくないし。 水中の僅かな酸素さえあれば幾らでも呼吸できるし、いざとなったら植物の管を伸ばして水上の酸素を取り込めばいい。 その管を使ってこまめな状況報告だって出来る。 以上2つの要素から、おいらが潜った方が安全なんだよ」 びしっとVサインもどきを取りながら言葉を閉める葉華に、2人は困ったように眉を寄せる。 「…だけど、葉華が怪我するかもしれないし…」 「そうよ。水上此処だって安全だって保障はないし…」 「2人はこの辺の海藻に守るように頼んだから大丈夫。 今のところは海底火山とかも見あたらないらしいから。…まぁ、この辺りの植物が知ってる範囲だから、もっと下の方に何かあるかもしれないけど。 それに、水上なら2人もいるんだし、自分達の身を守ることぐらい出来るだろ?」 そりゃ女2人だけ残すのは心配だけど、と眉を寄せる葉華を見て、エマと愛華は御互い顔を見合わせ、諦めたように溜息を吐いた。 「…わかったわ」 「…葉華が其処まで言うなら、大人しく待ってる」 「ん。ありがとな、2人とも」 半ば諦めるような納得の仕方だったが、葉華としては一安心だ。 にっこりと笑い返した葉華に、エマはでも、と真剣な表情で肩を掴む。 「…何があるか解らないから、気をつけてね?」 「おう。ちゃんとわかってるって」 にっと笑いかけて頷く葉華に、エマもほっとしたように溜息を吐く。 「葉華!危なくなったら無理しないですぐに戻ってきてね!?」 「…愛華姉ちゃん…過保護過ぎ…」 今にも泣きそうな顔でぎゅっと葉華の手を掴んで叫ぶ愛華に、葉華は思わず苦笑を返したのだった。 ●ジャングル(?)ステージ:探索中 ジャングルの中を黙々と進む一行。 龍也と圭織が後方でいちゃつきまくり(とりあえず聡が土下座しつつ頼んだので何とかブーメランパンツを穿いてくれた)、ファルナがファルファに取って貰った果物をもぐもぐと食べ、アールレイがあちこちを走り回ってすっかり冒険(もどき)を楽しんでいる中、口を開いたのは聡だった。 「皆さん、目印についてとか…考えてます?」 「全然」 「あんまり」 「それなりには〜」 「…」 「一応は考えてるよ〜♪」 「………」 各々から笑顔でかえってきた返答にがっくりと肩を落とす聡。 「えっと…じゃあとりあえず考えてる人は意見を頂きたいのですが…」 そう言った聡に一番最初に反応したのは圭織。 「怪しいポイント見つけたら火の玉で燃やして探ればいいのよ!!」 「ちなみに後始末担当は俺な」 幾ら何でもストレートすぎです。 さり気なく通り道の周りの一部が焦げてるのはそう言う理由だったのか。 「……えーっと…じゃあ、他の意見をー…」 そんな聡の言葉に次に手を上げたのはファルナ。 「そうですね〜…おっきなお花とかが、怪しいですね〜」 …その信憑性はどこにあるんですか? 「…アールレイ君は?」 苦笑しながら聡が問いかけると、アールレイはにっこり笑って答えた。 「うんとね、温泉植物だけに温泉とか泉かなーって思うんだ。 川があるし、滝壷でも探してみたらいいのかなぁ?って言うのも考えたんだけど。 あ、ヌシとか居たら楽しそうだよねー♪」 「…」 「どうしたの?アールレイなにか変なこと言った?」 硬直してしまった聡に、アールレイが不安げに問い掛ける。 「あ、いえ、そうじゃなくて!」 はっとした聡が慌てて顔を左右に振る。 別に変なことを言ったから固まったわけではない。…まさかこんなにマトモな意見がもらえるとは思ってなかっただけで。 「なるほど…お2人の意見を纏めると、植物とか、水に関係してる場所が目印になってるって思ったんですね?」 「えぇ」 「うん」 「じゃあ、その線で探してみましょうか?」 にっこりと問いかけた聡に全員が頷き、また一歩歩き出そうとした瞬間。 「ウキッ」 先頭に居た聡の足元で変な鳴き声が。 「……『ウキ』?」 変な鳴き声に首を傾げた聡が足元に顔を向ける。 そこには―――数匹の猿が、にっ、と言う擬音が似合いそうな表情で佇んでいた。 ●砂漠(?)ステージ:探索中(?) 歩き始めてから既に2時間経過。 「…疲れた」 華焔は不満を訴え、砂地に座り込んでしまった。 「おーい。幾ら何でも疲れるの早くないかー?」 座り込んだ華焔の頭上で呆れたように腰に手を当てて言う希望を睨みつけ、華焔は口を開く。 「…あのなぁ! 言わせてもらうけど、異常なのはお前!お前が元気過ぎんだよ!!」 この様子をよく見ろ!と華焔が指差した先には、ぐったりとしている他の客達。 それをじっと見た希望は華焔に視線を移し…首を傾げた。 「…そうかぁ?」 『……流石の俺もそう思うぞ』 なんつー鈍感。と言うか、なんでこんなに元気なんだ、この男。 珍しく華焔と裂の意見が一致した。良いことなんだか悪いことなんだか。 「仕方ねぇなー。 じゃ、一旦あそこの自販機の陰で休むか」 希望が本当に仕方なさそうに溜息を吐いた後に指差した先には、自販機が立ち並ぶ謎の場所。 その言葉にわぁ、と嬉しそうに声を上げた客達は、我先にと自販機の陰へと走って行った。 「…なんだ。皆意外と元気じゃん」 「早く休みたかっただけだって」 『あれは最後の気力を振り絞ってるだけだと思うぞ…』 つまらなさそうにぼやく希望と一緒に歩いて行きながら華焔と裂が力なくツッコむ。 希望はふーん、と興味なさげに呟くと、暑いせいでふらつく華焔の背をさり気なく支えてやりながら自販機の陰へと歩いていった。 *** そんな感じで、一時休憩。 「あー…喉カラカラ…」 華焔はそうぼやきつつ、始めのうちに買っておいた缶を開け、飲み干す。 生ぬるい飲料が喉を通る感覚に、思わず眉を顰めてしまう。 長い間手で持っていたせいで、最初は冷たかった飲み物もすっかりぬるくなってしまった。 『此処で買い直したらどうだ?』 裂の言葉に華焔が確かに、と頷く。 代金が『漢前な心意気1つ』とか言うふざけたものだから、それくらいならなんとかなりそうな予感がする。 要するに男らしく気合いを入れながら押せば出るという訳の解らない仕組み。 それぐらいなら金を持って無くてもどうとでもなるし。 そう考えた所で、自分の前にヤンキー座りで座り込んでいた希望が笑いながら自販機を指差す。 「…でも、残念ながら此処の自販機の飲み物、全部『生ぬる〜い』で統一されてるみたいだけど?」 その台詞に、華焔が目を見開いて口元を引き攣らせる。 「……マジで?」 「マジもマジ。 ほら、自分で見てみ?」 そう促されて華焔が改めて自販機を見る。 ―――確かに、全部表記が『生ぬる〜い』になってる。 スポーツ飲料系さえ『生ぬる〜い』になってる。どう考えても嫌がらせとしか思えないラインナップだ。 まだ『あつ〜い』だけで統一されてる方がマシかもしれない。きっぱり諦められるから。 「…ホントだし」 『この半端加減がイヤな感じだな』 がっくりと肩を落とした華焔を裂がまぁまぁと笑って励ます中、希望が腰に巻いてあるバスタオル袋に手を突っ込んだ。 笑いながら取り出したのは、人数分の缶と…正八面体の薄蒼色をした宝石のような石。 いつの間に買ってたんだろうか、飲み物…。 「やっぱ冷えた飲み物の方がいいもんなぁ♪」 「それはそうだけど…それも温くなってるんじゃないのか?」 「だから、『今から冷やす』んだよ」 『「今から?」』 楽しそうに缶を持つ希望に華焔と裂が同時に訝しげに問いかける。 それにくくっと喉の奥で小さく笑った希望は、缶を地面に置き、持っていた薄蒼の石をコインの要領で指で軽く弾く。 キィン、と小気味のいい音を響かせて宙に待った蒼い石を華焔と裂が不思議そうに見る中、希望は口の端を軽く持ち上げ、ぽつりと呟いた。 「―――来い」 カッ!! 瞬間、唐突に宙を待っていた石がその色と同じ色をした強い光を放った。 「うわっ!?」 『な…っ!?』 唐突に発生した光の眩しさに反射的に目を閉じてしまった華焔と、急に光り出した石に驚きの声を上げる裂。 その閃光は一瞬のもので、次の瞬間にはその光は治まっていて。 「今の、一体なんだったんだ…」 『……』 まだ目がチカチカする、と目を瞬かせながら華焔が視界を取り戻そうとする傍らで、裂が唖然として前を見ていた。 華焔の目がようやく視界を取り戻した時、不意に頭上から声が聞こえてきた。 【…お喚びですか、我が主】 「え?」 今さっきまでいたメンバーの誰でもない、聞き覚えのない女の声。 涼やかで凛とした、それでいてどこか冷たい含みの有る毅然としたその声音に、華焔は全く聞き覚えがなかった。 驚いて声のした方を見てみると、女が1人立っていた。 真っ白な長い髪、真っ白な瞳、青白い肌。華奢ながらもメリハリのきいた体に純白の着物を纏った美しい女性。 ―――雪女。 「勿論喚んだ♪」 「…希望?」 その雪女の前に微笑みながら近づいたのは希望。 いきなり砂漠のど真ん中に雪女が現れたのに全く驚いていない。 「な、なんでお前そんな平然としてんだよっ!?」 「へ?」 華焔のツッコミに、希望はきょとんとして首を傾げ、雪女と顔を見合わせる。 「…だって…なぁ?」 【私を喚んだのは主ですから…】 『「―――はぁ!?」』 顔を見合わせつつ言われた言葉に華焔と裂が驚いて叫び声をあげると、希望がまだわかんねぇ?と言いながらもう一度口を開く。 「俺が、この石で、雪女を、喚んだ…んだけど」 「そんな『誰が何処で何をしたゲーム』みたいな説明の仕方いらん!!」 「えー。いいじゃん、解り易くて」 『お前、石を媒介にして召喚が使えるのか?』 「まーな」 華焔のツッコミをさらりと交わした希望は、裂の問いかけに笑いながら返す。 そして雪女に向き直ると持っていた缶を目の前に掲げ、とんでもないことをのたまった。 「―――この缶、冷やしてくれる?」 「『そんな事の為に雪女を喚ぶな――――ッ!!!』」 華焔と裂の叫びが1つになった瞬間。 しかし、なんつー力の無駄遣いだ、この男。 【解りました。お任せください】 『「いいのかよ!?」』 しかも雪女、あっさり承諾。 何故だろうか。もしかして希望の突飛な行動に慣れてるのか? そんな2人の困惑を他所に、雪女はふっと缶に軽く息を吹きかけると、すっと消えてしまった。 ―――本当にそれだけの為に喚ばれたんだ、雪女。 呆然とその姿を見送っていた華焔と裂。 そのまま固まっていると思いきや、不意に目の前に缶が飛んできて反射的に手を出した。 パシッ!と音がして、華焔の手の中に缶が収まる。 その缶はやけにひんやりとしていて、持った瞬間に思わず手放しそうになってしまうが、慌ててしっかりと握りなおす。 「冷えてて気持ちいいだろ?」 楽しそうな希望の声にはっとして顔を上げると、希望が他のメンバーによく冷えた缶を渡しているところだった。 「そりゃそうだけど…お前、その石何時の間に持ってたんだよ?」 まさか最初から持っていたわけでもあるまい、と思って問いかけると、希望がくすりと笑って答える。 「や、この空間の仕組みを調べてる間にね」 『この空間の仕組み?』 「そ。全員が目を覚ますまでの間にちょっと」 そう言いながら自分の缶を開ける希望に習って、華焔も缶を開けた。プシッと言う音がして冷えた空気が漏れてくる。 口に当てて傾けると、ひんやりとしたジュースが喉の奥を通り抜けた。 体中に染み渡るような感覚に我知らず微笑むと、希望が楽しそうに喉を鳴らす。 「どうやらこの空間は絶えず繋がっている場所が変わってるみたいでさ。 一応俺の能力で外に出れないかってあちこちの空間に穴を開けて探ってみたんだけど、大抵がこの空間内の俺の視界に入る範囲内にしか繋がんなくてな。 何十回に1回ぐらいは繋がったんだけど、それも穴を広げようとしたらすぐに違う空間に繋がっちまって全然役に立たなねーでやんの。 で、その何十回に1回を利用して俺の石貯蔵庫に繋げた訳」 つっても一瞬で違う空間に移っちまったから取れたのはコレを含めて3つだけだったんだけど、と肩を竦める希望。 『じゃあ、その腰に巻いてんのには後2つ石が入ってんのか』 「そゆこと」 ま、何が入ってるかは緊急時のお楽しみでvと笑って誤魔化す希望に、華焔と裂は揃って眉を寄せた。 「ほらほら。後5分休んだらすぐ出発するぞー」 今のうちに休んどけ、と華焔を再度物陰に押し込んで隣に座る希望。 対する華焔はその言葉を聞いていっきにやる気をなくしたらしく、ぐったりした様子で足元の砂を弄り出した。 「…これで砂時計作ったら綺麗かな?」 唐突に関係ない言葉。目が虚ろな辺りちょっぴし危険だ。 『……華焔のヤツ、すっかり諦めモードなんだけど』 「まぁ時間になったら無理矢理歩かせるから大丈夫」 裂の苦笑気味の言葉にさらっと返す希望。何気なく鬼だ。 「だってさぁ!全然目印っぽいの見あたらねぇじゃん!!」 ついにキレた華焔だが、希望はものともせずにこにこ笑いながら 「それでも探さないと駄目だろー。 それともこのまま生ミイラになる気か?」 「嫌!!」 「ワッガママー」 『ま、其処が華焔のいいトコなんだけどな』 「2人とも五月蝿い!!」 ぶーっとふざけて頬を膨らませる希望と楽しそうな声で呟く裂に怒る華焔。 「大体さ、目印が砂の中に埋まってたりしたらどうするんだ? ……オアシスなんてお決まりのオチじゃないよな?」 「さぁ?」 それは行ってみないとわかんないな、なんて冗談じみた言い方をしながら肩を竦める希望にがっくりと肩を落とす華焔。 「ま、『頑張れ』って事で」 「…ワケわかんねぇ…」 ぶくく、と笑いを堪えているのか涙目になった状態で肩をぽん、と叩かれ、華焔は益々この場にへたり込んでしまいたくなってしまった。 がっくりと肩を落としていると、希望がすっと立ち上がる。 「―――はい、時間切れ。 探索続けるぞー」 「えぇっ!?もうかよ!?」 「もうだよー。ほれほれ、立った立った」 『休憩になんなくて残念だったな、華焔?』 不満の声を上げる華焔の腕を掴んで問答無用で立たせる希望。楽しそうに笑う裂。 悔しげに2人を睨み付ける華焔だったが、希望がふざけて「そんなに見つめられたら照れちゃう☆」などと言うので一気に怒りが失せてしまったのだった。 ●海(?)ステージ:ハプニング(?)発生!? 「じゃあ、これがおいらの命綱代わりってことで…2人とも、気をつけて見張っててくれな?」 「うん!」 「任せて」 葉華が自分で作りあげた長い植物の蔓の片端をしっかりと掴んでいた。 もう一方の端は砂にしっかりと埋まっており、その蔓の途中から大きなスピーカーのような茎が海の上に広がっている。 葉華が喋れば音(振動)が蔓を伝わり、スピーカー部分から声が出る仕組みになっているらしい。 深く潜っていくにつれ、植物が自動的に伸びていく性質にしてあるので、途中で足りなくなる心配はない。 「何かあったらこれで伝えるからな」 葉華の言葉にこくりと真剣な表情で頷いた2人を見て小さく笑った葉華は、じゃあ言ってくる、と片手を上げて深くなっている方へ歩き出す。 少しずつ海の中に沈んでいく葉華は、数分もしないうちにあっと言う間に見えなくなってしまった。 「葉華…気をつけてね」 愛華の呟きが海の中にいる葉華に届いたのかは…解らない。 *** 一方、海の中に潜った葉華はと言うと。 「……(思ってたよりずっと深いな…)」 葉華は足を軽くばたつかせながらどんどん深いところへ潜って行っていた。 最初は照りつけるように海の中を照らしていた光も、下へ下へと潜行していくうちに徐々に薄暗さを増していく。 これ以上暗くなるとヤバイと、今は近くにあった植物を改良して光る水中花を作って額に括りつけてある。 始めの何メートルかはよく海で見かけるような魚がちらほら見かけられる程度だったのだが、潜るにつれて段々見たことも無い魚が姿を現してくる。 エマが言った通りの光る魚がいたときは本気で驚いたが、大きさや他にも何匹もちらほら泳ぎ回っているところを見る限り、目印と言うわけでもなさそうだ。 一応捕まえて確かめてみたが、結局は鯛ぐらいの大きさのただの魚も同然だった。 …一体、何十メートル潜っただろうか。 『…葉華くん、大丈夫?』 持っていた蔓の端から、心配げなエマの声が聞こえてきた。 「大丈夫。今のところ変な魚介類は見あたらな…」 苦笑しながらエマに返事をしていた葉華の言葉は…変なところで途切れる。 ぞわり、と背中に奇妙な寒気が走った。 『…葉華くん?』 『葉華…?』 2人の心配するような声が聞こえてきたが、葉華はそれどころではない。 辺りをざっと見渡すと、先ほどまで自分の周りを舞うように漂っていた魚達の姿が、全くと言っていいほど見あたらない。 今まで穏やかに流れていた足元の海流が、不意に可笑しな流れに変化する。 ―――何かが、来る…! 葉華が本能的にそれを察知した時。 足元を埋め尽くすかのように―――海に不釣合いな黄金色の巨大な『何か』が、ごぼりと大きな気泡を漏らしながら現れた。 「…ッ!」 「……」 葉華がそれを見てひゅっと息を飲むのと、葉華の姿を黄金色の巨体が発見し、その身体に釣り合った大きな口をがばりと開いたのは―――ほぼ、同時。 *** その異変は水上にも確実に伝わっていた。 言葉を不自然に途切れさせた葉華の様子に不安を覚えた2人は、スピーカーもどきに顔を近づけて声をかける。 「…葉華くん?」 『……』 エマの声に応える声は―――ない。 「葉華…?ねぇ、返事してよ、葉華ッ!?」 不安がどんどん募っていき、愛華はスピーカーもどきを鷲掴みにして叫ぶ。 「愛華ちゃん、落ち着いて! もしかしたら何処かに引っかかって蔓が切れてしまっただけかもしれないじゃない」 「だけど、葉華が、葉華が…っ!!」 慌てて宥めるエマの声も耳に入っていない。 愛華は今にも泣きそうな顔でスピーカーもどきに顔をギリギリまで近づけて、叫んだ。 「葉華―――――ッ!!!!」 『…そんなに今にも泣きそうな声で叫ばなくても聞こえてるよ。愛華姉ちゃん』 「葉華っ!?」 「葉華くん!?」 困ったように喋るスピーカーもどきから聞こえてきた声に、思わず反射的にエマも齧りついてしまった。 『おいおい、シュラインまで…』 苦笑気味な声の葉華に、愛華が涙声で叫び返す。 「だ、だって!急に葉華が話すの止めるから…!!」 「そうよ。心配したんだから」 『う…ご、ごめんごめん』 嗜めるようなエマの言葉も聞いて、葉華はやっと謝る。 「一体何があったの?」 「そうだよ。いきなり喋るの放棄しちゃうような事があったんでしょ?」 『んー…。 …その事に関しては、実際に見せた方が早いかな』 「「…は?」」 ―――瞬間。 ザッバーンッ!!!! 「「きゃあっ!?」」 大きな音を伴って、目の前で巨大な水柱が立ち昇った。 何十メートルも超える高さと、数メートルにも及ぶ幅の広い水柱。 その中心に光を反射する巨大な『何か』が見えたが、逆光のせいできちんとした姿を見ることは出来ない。 ザァァ、と崩れた水柱が雨のように降り注ぐ中、バシャァ!とエマと愛華の真後ろでいちだんと大きな水音が響いた。 驚いて振り向いた2人の視界に映ったのは―――光を反射して輝く、黄金の巨大魚。 そして―――。 「よっ!只今、2人とも♪」 「「葉華(くん)!?」」 その巨大魚に跨るように乗っていた、葉華だった。 ●ジャングル(?)ステージ:ハプニング(?)発生!? 「…な、なんで猿が此処に…」 急に現れた数匹の猿に戸惑う聡を他所に、他のメンバーは妙に楽しそうに猿へと近づいて行く。 「わー、かわいー♪」 「ホントですね〜、どこから来たんでしょ〜」 「ちっちゃいわねー、まだ小ザルなのかしら?」 「…単にチビっこいだけだろ」 「龍也!そう言う事言わないの!!」 「…あ、あの…そう言う問題じゃなくて…」 「このコ達バナナ食べるかなー?」 「あげてみるー?」 「あ、食べましたよ!ほんと可愛いです〜♪」 「……」 今此処で効果音を入れるとしたら「ぽつ〜ん…」だろう。 すっかり猿と遊び出した面々に置いてきぼりにされた聡は、呆然としてその場に立ち竦む。 「…少しは疑う事を知りましょうよぉ…皆さん〜…」 このジャングルのような場所に住んでいる猿が人を見つけて友好的に近づいてくる可能性はゼロに近い。 そこんとこどう思ってるんだか…このメンバー、警戒心ゼロ。 それとも何かあった時になんとかできる自信があるんだろうか…。 しくしくと聡が泣きながら肩を落としていると、不意にその肩がとんとんと指先で叩かれた。 「…今それどころじゃないんです…」 落ち込んでるんですから、となんだか間違ったコメントをしつつ肩の手を払うが、またすぐにとんとんと肩を叩かれる。 「……やめてくださいってば」 ぺしっ。…とんとん。 「………だから止めてくださいよ」 べしっ。……とんとん。 「…あーもう!しつこいですって…」 ついに我慢の限界に達した聡が肩を叩いている相手に振り返って…固まった。 そこにいたのは―――ゴリラ。しかも関取サイズ。 「……ば……?」 「…ウホッ」 硬直状態の聡から最後の一文字を言うと同時に、ゴリラがにたりと笑った。 「…っうわぁ―――――ッ!!!!!!」 「「「「「!?」」」」」 聡の盛大な叫び声が聞こえ、4人+1体が驚いて振り返ると、そこには…ゴリラに俵持ちされた聡の姿。 それをじーっと見た後…圭織が口を開いた。 「…聡君…何時の間にゴリラとそんなに仲良くなったワケ…?」 「ちーがーいーまーすーっ!」 聡の必死の叫びも虚しく、何故か仲間側からブーイング。 「お兄ーさんずるーい!アールレイもゴリラと遊びた〜い!!」 「私もゴリラさんと遊びたいですわ…」 「ゴリラといちゃついてる暇があったら真面目にやれよ」 「…皆さん…」 ゴリラに俵持ちされたまましくしくと涙を流す聡。心配なんてこれっぽっちもされてない。 そんな聡を不憫に思ったのかどうかは知らないが、ゴリラは1鳴きすると、唐突に走り出した。 「ひぃえぇぇぇええええっ!?!?!?」 「聡さんっ!?」 「大変っ!聡お兄ーさんが攫われちゃった!!」 「なんだ、戯れてたんじゃなかったのか」 今更気づいた事実にようやく少し慌て始める一同。 しかし全員が動き出す前にゴリラはあっと言う間に聡を連れてジャングルの奥へと消えていってしまった。 ……しかも。 ウキッ!ウキキッ!! 「あらあら〜?」 「マスター!?」 他の猿の群れの上に掲げられるようにしてファルナが攫われかけていた。 このままだとファルナも聡の二の舞だ。 「マスター!!」 その様子に、ファルファがやや慌ててロケットパンチを放つ。 ドン!と見事に目の前の地面に着弾(?)したパンチはめり…と嫌な音を立てて地面にめり込んだロケットパンチを見て、猿はさっと顔を青くするとファルナを地面に降ろして一目散に逃げていった。 「あらあら〜…どうしたんでしょう?」 「マスター…大丈夫ですか?」 「えぇ、わたくしは大丈夫ですよ〜」 ファルファの言葉ににっこり微笑んで答えるファルナ。…でも多分自分が攫われかけていたことは全く理解してないのだろう。 「ちょっと!何で私も攫おうとしないワケ!?」 ちょっと離れたところで、女なのに自分だけ攫われなかったと憤慨してる圭織が。 「お前が攫われたら俺が困るって。 圭織を捕まえてるのは俺だけで充分」 「…龍也…!」 ただし龍也がちょっと気障な台詞を言ったらすぐに機嫌を直してたが。 …ラブラブだね。お2人さん。 「ねぇ、お兄ーさんはどうするのー?」 苦笑気味のアールレイの言葉にはっとする一同。 「そう言えばすっかり忘れてたわ! 聡君はどこに…」 圭織が慌ててゴリラと聡が消えた方向を見…止まった。 前方に広がる光景。 薙ぎ倒された木々。踏まれた地面が陥没するほどくっきり残った足跡。 …行き先丸解り。 「…悩む必要はなさそうだな」 ぽつりと呟いた龍也の言葉に、全員がこくりと頷くのだった。 関取体系が仇になったな、ゴリラ。 ゴリラが破壊していった跡を追って暫く進むと、猿が沢山集まっている広場へと出た。 ニホンザルからオランウータンやらゴリラやらマントヒヒやら、果てにはメガネザルに至るまで、猿の仲間が勢揃い。 「…猿の祭典?」 ぽつりと呟いた龍也のコメント、意外と的を得てるかもしれない。 「あ、お兄ーさん見っけ!!」 そう言ったアールレイが指差した先には…関取サイズのゴリラに抱き抱えられるようにして真っ青になってる聡の姿。 「…聡さんって、お猿さんに人気があるんですね〜」 違う。どう考えても聡を掴んで離さないのはあのゴリラだけだ。 「なんか周りの猿達って何かを祝ってるみたいじゃない?」 確かに。圭織の言う通り、周りの猿は何かを祝うかのように次から次へと果物や魚を持って来ている。 一体何を祝おうとしているのやら。 「…あっ!!み、みなさぁ〜〜ん!!!」 4人+1体の姿を見つけた聡は、完全に泣きかけの状態で叫ぶ。 それを見たゴリラが、嫌そうに眉を寄せた。 「…愛されてるわねぇ…」 「愛されたくないですぅ〜っ!!」 「いいじゃないか。種族と体型を超えた愛」 「良くないですよぉ〜!! しかも超えてるのは種族と体型だけじゃないですし!!」 圭織と龍也にさらりと見捨てられかけな言葉を吐かれてだくだくと涙を流す聡。 「……ん?」 「…今、何だか気になる言葉があったような…」 「あ、『超えてるのは種族と体型だけじゃない』ってやつじゃない?」 考え込む2人に手を上げながら答えるアールレイ。 それにあぁ、と2人が手を打ち、ファルナがファルファに守られながら声を出す。 「種族と体型以外に超えてるってなんですかぁ〜?」 あんまり緊張感のないその声に、聡は必死な形相で声を張り上げた。 「このゴリラ『オス』なんですぅ―――ッ!!!」 「「「「……え…?」」」」 ――――――沈黙。 数秒にも満たない時間だったが、全員にはとてつもなく感じたかもしれない。 その硬直の後、圭織が引きつった笑顔で手を振った。 「…そう言う愛の形もアリなんじゃない?」 「勘弁して下さいよ――――――ッ!!」 僕はゴリラと結婚する気はないんですぅっ!!と、聡の滝涙込みの絶叫がジャングルに木霊したのだった。 その後、(主に聡の)必死の説得の末なんとかゴリラに納得して貰い、聡は無事ゴリラから解放された。 更に簡単に事情を説明し、「何かそれらしき場所はないか」と質問してみると、ゴリラはついて来いと言わんばかりに歩き出す。 どうやら、迷惑をかけた詫びとして、心当たりの有る場所へ連れて行ってくれるようだ。 それを察して、一同は嬉しそうに手を叩き合わせるのだった。 ●砂漠(?)ステージ:ハプニング(?)発生!? ―――そうして一行が再度歩き始めてざっと一時間後。 段々時間間隔が可笑しくなる気分を直に味わいながら、華焔は翡翠色の翼をはためかせて前方を空を飛ぶ希望へと声をかけた。 「なんか見えるかー?」 「…んー…」 「返事ぐらいきちんとしろよ!」 生返事を返す希望に怒鳴ると、希望はくるりと空を飛びながら振り返った。 「………」 何かを言っているようなのだが、普通の声で喋られても此処まではきちんと届かない。 「大声で喋れ!聞こえない!!」 華焔が怒鳴ると、希望はぽむ、と今更気づいたかのように手を打つと、口元に両手を当てて簡易メガホンを作り、大きく口を開けて叫んだ。 「遥か前方にピラミッドらしき建物発見!」 『おっ、マジか!』 「よっしゃ、でかした希望!!」 希望の報告に嬉しそうな声をあげる客一同と裂、褒めながら男らしくガッツポーズを決める華焔。 ところが希望は再度ピラミッドの方角を確認したかと思うと、また口元に手メガホンを作って大声で叫んだ。 「あと、今現在超巨大蠍が接近してるから気をつけろ!!」 『「……はい?」』 ザァッ!! 希望の声に華焔と裂が間抜けな声を上げるのと、希望の後方で巨大な砂柱が上がるのはほぼ同時だった。 その砂柱の中で、巨大な赤黒い甲羅のような物が見え隠れしている。 ザッ!と砂柱を崩すようにその中ほどから現れたのは、巨大なハサミ。つづいて、長く、先に角がついた尻尾。 すぐに砂はまた下に落ちていってしまい、その姿が露になった。 体長数mを軽く超える、巨大なサソリだ。 ハサミだけでも既に希望の身長を超えており、毒を持った尾は一突きされれば一瞬であの世行き確定なサイズをしている。 サソリはその巨大なハサミを振り上げ、目の前にいる希望へと襲い掛かった! 「『希望ッ!!』」 華焔と裂が顔を真っ青にして希望の名を叫ぶ。 希望は間一髪の所でばさりと翼をはためかせてその攻撃を交わし、すぐに腰に巻いていたバスタオル袋へと手を入れ、素早く中から1つの石を取り出した。 ―――ダイヤ型の、希望の翼と同じ翡翠色をした、直径数cmほどの石。 人差し指と中指で挟むようにされた石は、腕の動きに合わせて翡翠色の軌跡を残す。 それが顔の真横に来た瞬間、希望が大声で叫んだ。 「――――『緋皇(ひおう)』!!」 パンッ!! 耳障りな破裂音と小規模ながらも眩しい閃光に思わず耳を塞いで顔を俯けた華焔だったが、希望が心配なのかすぐに顔を持ち上げる。 ―――が。 視界に入ってきたのは―――ぱらぱらと降ってくる、血ではない赤。 「…え…?」 どっ。 続いて鈍い音と共に落ちてきたのは、大きなハサミだった。 鋭利な刃物で切られたようなその切り口からは、今になってようやく濃緑色の体液がどろりと流れてくる。 呆然と上を見上げてみれば、片腕を途中から失って甲高い鳴き声を上げるサソリと、濃緑色の液体が付着した緋色の刃の槍を持つ―――希望の後姿。 「え?一体、今、何が…」 『アイツが一瞬であの槍を召喚してサソリのハサミを斬ったんだよ』 呆然とした華焔の疑問に、裂が代わりに答えた。 「希望が!?」 『…アイツ、相当慣れてる』 どこか苦々しげに呟く裂の言葉を聞いて、華焔はもう一度希望を見た。 希望は怒り狂ってもう片方のハサミと尾を振り回すサソリの攻撃を巧みに避けながら、槍で攻撃していく。 ところが中々上手く行かないらしく、先ほどから表皮に傷をつけるだけで切り裂くまでは至っていない。 このまま長期戦になるかと思われた。 …が。 なんと、サソリは攻撃の矛先を呆然と見ている華焔へと変えてしまったのだ。 ぎょろりと緑色の目を輝かせ、サソリは巨大なハサミを振り上げた! 巨体に似合わず、そのスピードは裂が華焔の身体に戻るよりも早く。 驚きの余り反応が一瞬遅れてしまった華焔が気づいた時には、ハサミは華焔にとてつもないスピードで迫る。 「―――させるかッ!!」 そのハサミが華焔に直撃するか否かの所で、希望が猛スピードで飛んできて、華焔を片腕で抱えて横切った。 ドォン!と大きな音がするのを背後で聞きながら、華焔は目を見開いたまま希望を見る。 希望は華焔の視線に気づいたのか、安心させるように微笑んだ。 『華焔っ!』 「裂ー。憑いてるんならきちんと守らんと駄目だろー?」 『そんなこと解ってる!クソッ、助けてくれてありがとよっ!!』 そして大分離れたところで華焔を降ろすと、裂が急いで此方に来るのを確認して悪態をついてからもう一度飛び上がる。 そのまま獲物を逃して悔しがっているサソリの頭上へ昇り、槍を下に向けて構えると、一気に振り下ろした! バキィッ! 甲羅が割れるような音がして、槍が甲羅に突き刺さった。 が、その刺さりは甘く、槍の刃の部分が甲羅を何とか貫き少しだけその身を貫いただけで。 ―――ドンッ!! その代わりとばかりに、濃緑色の体液を振り撒きながら叫んだサソリが振り回した尾が、希望の身体を直撃した。 「が…っ!」 『「希望ッ!?」』 小さなうめきだけを残して宙を舞う希望。四肢に力はなく、どさりと、重力に従って砂の上に落下する。 それを捕らえた瞬間―――華焔の中で、何かが切れる音がした。 「よくも…」 『…華焔?』 「…よくも、希望を…!!」 『っ!華焔!!』 ゴッ! 華焔の廻りに一瞬にして大量の青い炎が現れた。 彼の能力―――狐火だ。 空気が乾いているせいか、普段よりも炎の勢いが強い。 今のところ制御が出来ているのが奇跡なくらいだ。 『華焔!落ち着け、華焔!!』 裂が慌てて止めようとするが、キレた華焔は止まらない。 「そのまま―――丸焦げにしてやる!!」 ゴオォッ!! 華焔の周りを一瞬だけ舞った炎は、あっという間にサソリを包み込む。 全身を炎で包み込まれてサソリが悲鳴を上げるが、中々焼き尽くすことが出来ない。 相当丈夫な表皮をしているらしく、外側にはほんの少し焦げ目がついているだけ。 ただ、その場で大人しくされている分、華焔達に危険が及ばないのが救いだ。 「チッ」 舌打ちをした華焔は、攻撃方法を変えようと一旦狐火を引こうとした。 ――が。 「俺の合図があるまでそのままソイツを捕まえとけっ!!」 「『希望!?』」 聞き覚えのある声が後方から聞こえ、あっと言う間に自分の横を風が通り抜けた。―――希望だ。 腹部が少々赤くなっているものの、それほど重傷ではない様子。 驚いて硬直する2人の視線を背に受けながら、希望はうめくサソリの頭上高くへと飛び上がった。 「外からが駄目なら―――内側からだ!」 そう言いながら腰に巻いていたタオルにまた手を突っ込み、中から石を取り出す。 光の具合によって黄色にも紫にも見える不思議な色をした――稲妻のような形の石。 それを空に向かって掲げ、希望は華焔に向かって叫ぶ。 「――――今だ!」 はっとした華焔は、反射的に制御していた炎を消した。 そして露になった甲羅に刺さった槍を見据え、希望は大声で叫んだ。 「―――――――『召雷』!!!!!」 ドォンッ!!! 何もない場所から現れた巨大な紫色の稲妻は、まるで最初からそう定められていたかのように、甲羅に刺さった槍へと真っ直ぐに落ちた。 その稲妻は槍を伝って内部へと直接落ちていく。 強力な稲妻に内部から焼かれたサソリは、断末魔の悲鳴を上げる間もなく、ドォ…ン、と大きな音を伴って倒れたのだった。 かなり強力な稲妻を直接喰らったにも関わらず、槍は甲羅の上で焦げ目1つ作ることも無くその存在を主張している。 希望はバサリと翼を動かして舞い降りると、甲羅に足をかけ、ずっ…と槍を引き抜いた。 焦げてこびり付いた体液を見て一瞬眉を潜めたものの、軽く力を込めて一回転させるとその欠片はあっさりと剥げ落ちる。 綺麗になった緋色の刃を見て満足げに笑った希望は、その槍を肩に担ぎ、にやりと笑って見せた。 慌てて近寄ってきた客達に心配されながらも大丈夫だと笑う希望に近寄った華焔は見事なまでの不機嫌顔で。 あらら、と笑う希望の隣に近寄った裂は、呆れ気味に問いかけた。 『…槍を避雷針代わりに?』 「そ。イチかバチかだったんだけどな。 上手く行って助かったよv」 「『助かったよv』じゃねぇ!! 一歩間違えば死ぬトコだったんだぞ!?」 「生きてるからオールオッケー」 「そうじゃなくて!…クソッ!!」 飄々とした希望の表情にガリガリと頭を書く華焔を見て、希望はにやりと笑って見せる。 「…心配した?」 「なっ…!!」 その言葉に一瞬にして顔を真っ赤にする華焔。 「な、ンなワケねぇだろ馬鹿っ!!」 ベシッ!!と大きな音を立てて希望の背中に張り手をかますと、華焔はずかずかとピラミッドがある方向へと歩き出してしまった。 慌てて追う他の客を見つつ、見事に紅葉が浮かんだ背中を擦りながら希望はくくく、と笑いを噛み殺す。 「あれじゃあ『図星です』って言ってるようなモンだよなぁ?」 『確かに』 隣で浮遊しながら同意を示すように頷く裂に、希望は「だろ?」と笑って軽くウィンクを返すのだった。 ●海(?)ステージ:ゲート案内人発見!! 「えーっと…つまり、どういうこと?」 一旦また適当に岩場に腰かけて落ち着いた3人と1体(巨大魚)は、先ほど葉華との通信が途絶えた理由の説明を聞いていた。 痛そうにこめかみの辺りを抑えたエマが、疲れたように葉華に問いかける。 葉華は、さっきも言ったけど、と前置きをしてから、肩を竦めて簡潔に答えた。 「エマ達と話してる途中で急にこの魚が足元に現れて、事もあろうかおいらに襲い掛かってきたんだ。 ま、簡単に返り討ちにしてやったんだけど。 そんで植物でぐるぐる巻きにしようとしたら、急に『出口までご案内します』とか言い出して…」 で、2人も連れてくるつもりでコイツに乗って戻ってきたワケ、と葉華が話を締めくくる。 もう巨大魚が普通に喋っても大して気にならなくなるくらい突発的な話ではある。 それに異を唱えたのは、勿論愛華だった。 「えぇっ?どうして?愛華達が自力で見つけないといけないんじゃなかったの??」 「別にそう言うわけでもないみたいだな。 各ステージに1人、もしくは1体『水先案内人』代わりのヤツがいるらしいから」 ただ、見つけるのが一苦労みたいなんだけど、と葉華が肩を竦める。 『要するに、わてが皆さんに倒された場合、皆さんをゲート地点まで送り届ける役目を仰せつかってるわけでございやす』 変な口調でそう言いながら尾ひれをビチビチと動かすのは例の巨大魚。 ぱっとみ金色のナマズみたいな外見で、アニメや漫画で言う所のブ厚い唇とナマズヒゲはやけに目立っていた。 何度見ても相当のデカさで、泳いでいる訳でもないのにエマ達の身長よりデカかった。ぱっと見、軽く3mはありそうだ。 「…まぁ、送り届けてくれるんなら、別に文句はないけどね」 「なんつーか…ホント、変な植物だよなぁ」 苦笑しながらも金色に輝く鱗を撫でながらエマが言い、葉華が呆れたように溜息を吐く。 「ほんと。でも、帰れるなら別にいいや♪」 愛華は無事に帰れると知って嬉しそうに笑った。 愛華にとって大事な人にまた会えるとわかっただけでも、彼女にとっては大収穫だったようだ。 「ま、大事な大事な彼氏に会えるもんな〜?」 「なっ…!だ、だからアイツは彼氏なんかじゃないんだってばー!!」 「へー…どうだかー?」 愛華の必死な叫びもなんのその。葉華はにやにやと楽しそうに笑いながら、愛華をからかっている。 『随分と仲がよろしいでやんすね。あの坊ちゃんとお嬢ちゃんは』 「……えぇ。そうね」 なんだかズレたコメントを呟く巨大魚に、エマは困ったように笑いながら返事をするのだった。 *** 『…御三方。ここに飛び込めば脱出できるでやんすよ』 あれから少しして、葉華達は巨大魚の案内で海の中を奥深くまで進むことになった。 …実際のところは、巨大魚の口の中で着くまで談笑してただけなのだが…そこは敢えて触れないでおくこと。 何時の間にか着いたらしく巨大魚がそう告げると大きな口をがばりと開く。 てっきり海の水が流れ込んでくると思って身構えていた3人は、ふわりと潮の匂いを乗せた風だけがやってきたことにきょとんとしてしまった。 外に出てみると、足の下にあるのはひやりとした石畳の感触。 辺りを見渡せば、石で出来た神殿のような建物だと言う事が見て取れた。 「…此処、普通に空気があるの?」 『この海のいっちばん下にある特殊な海底神殿でやんすよ。 新しく出来た出口でござんすから、勿論呼吸できる生き物が来る事を考えてそう言う設計にしてあるみたいでやんす』 「なるほどね」 巨大魚の言葉に、エマが感心したように頷く。 植物の内部の割には、意外と此処に飲み込まれた存在のことが考慮してある仕組みだ。 「じゃあ、この海の一番底に来れないと一生出れなかったの?」 『……まぁ、そうなるでござんすね』 「うへぇ」 愛華の問いかけに頷く巨大魚に、葉華は嫌そうな顔で変な声を出した。 巨大魚で談笑している間の時間が結構長かった事を考えると、かなりの深さがあることは想像に難くない。 そんな深さを普通の人間が潜りきれるかと考えると…。…もしかして、この植物は脱出させる気があまりないんじゃないかと疑いたくなる。 『ホラ、あそこの石段を登りきった祭壇の裏にある穴に飛び込めば脱出できるでやんすよ』 ぺち、と可愛らしい音を伴いながら短いヒレで上を差した巨大魚。 それに促されて見てみれば、確かに石段の上に何かの儀式で使われていそうな場所があるのが見て取れた。 「わかった。ありがとな、魚」 葉華の感謝の言葉に、巨大魚はカッと目を見開いて反論した。 『魚なんてつまらない呼び方は止めて欲しいでござんす! わては「カルビ」って立派な名前があるんででやんすよ!』 「…さ、魚なのに…カルビ…」 「なんて言うか…」 変な名前ね、とは敢えて口に出さなかった。 機嫌を損ねたらなんだかえらいことになりそうな予感がしたからだ。 あまり長居をするのもアレなので、3人はさっさと石段を上がり、祭壇の裏を見る。 そこには、まるでブラックホールのような黒い渦巻いた大きな穴が口を開いていた。 「な、なんか…すっごく『っぽい』よな…」 「うん…なんか見るからに『出入り口ですよー』って感じがする…」 あからさま過ぎる出入り口に呆れ気味の愛華と葉華を、エマがまぁまぁと苦笑しながら促す。 「さ、早く入っちゃいましょう? もしかしたら、もう他の人達も入っちゃってるかもしれないし」 「それもそうだな」 「よーし、それじゃ、いちにのさんで一斉に飛び込もう!」 「おー」 「わかったわ」 …多分掛け声とか一斉で飛び込む必要はないと思うんだが…まぁ、それは各人の自由と言う事で気にしないで置こう。 「いち、にの…」 「「「―――さん!」」」 バッ!と同時に穴に飛び込んだ3人は、あっと言う間にその奥に吸い込まれた。 黒系の色で覆われた周囲がぐにゃぐにゃと歪み、平衡感覚を狂わせる。 暫くは下に落ちるような感覚が身体を包んでいたが、唐突に身体が上に引っ張られるような強い衝撃が襲ってきた。 その衝撃に意識が朦朧とし、自分が飛んでいるのか落ちているのかさえ解らなくなる。 暫く黒の中を漂っていたが、不意に、頭上に光が現れた。 それはどんどん大きくなり―――ついには、黒に染まっていた周囲が光で包まれた。 『皆さん、また遊びにきて欲しいでやんすー!』 完全に光で包まれる直前に巨大魚…もといカルビの声が聞こえたが…。 ――出来ればもう、二度と来たくないです―― 3人の心は、そんな思いで一つになってていたのは…言うまでも無い。 ●ジャングル(?)ステージ:ゲート発見!! そうして一行がゴリラに連れてこられたのは―――巨大なラフレシアの前。 高さはおよそ成人男性1人分、横幅は関取2人分くらいの大きさのラフレシアが、蔓に囲まれてひっそりと(?)鎮座していた。 「…ラフレシア、ですねぇ…」 「何でラフレシア!?」 「ってかコレほんとにラフレシアか?」 「って言うかこれうちで栽培してるラフレシア並の大きさなんですけど!?」 多分その辺はあんまり関係ない。 プラントショップの植物は変なのが多いがこんなところにそれがあるわけがないから。 「ウホッ」 「えっ?何々?この中に何かあるのー?」 ゴリラが木の上に上り中を覗いてみろと促すので、アールレイが興味津々に覗き込んだ。 …そして。 「…変なの。このラフレシア、中身が真っ黒だよ」 とつまらなさそうに呟くと、ひょいっと木の上から飛び降りた。 「え?」 「『真っ黒』って…」 不思議そうに首を傾げた聡が木に登ってその中を確認してみると…確かに。 中身は真っ黒なブラックホールのような黒い渦がぐるぐると円を描いていた。回転運動が駄目な人が見れば一発で酔うだろう。 異臭もしないし、よく見てみればあまり生きているモノ独特の気配を感じない。 「…もしかして、これがゲート…とか?」 「可能性は高いな。 わざと植物に隠してる辺り嫌がらせとしか思えないが」 「なんか『いかにも』って感じでそれっぽいですしね〜」 圭織の言葉に、龍也とファルナが頷く。 やはり全員同じ意見のようだ。 「…じゃあ、飛び込んでみますか?」 聡の言葉に小さく頷く一同。 とにもかくにも、試してみなければ始まらない。 一行は、この巨大ラフレシア(?)の中に飛び込むことにした。 一番手は、ファルナとファルファである。 「マスター、しっかり掴まっていてくださいね」 「解ってますわ。お願いしますね、ファルファ」 ファルファにしっかりと抱き抱えられたファルナは、自分もしっかりファルファにしがみつく。 「…では、行きます」 そう呟いたファルファは、軽く地面を蹴って真上の木の上に飛び移り、そこからラフレシアの中へ飛び込んだ。 ファルファとファルナは、まるで吸い込まれるようにして穴の中へ消えていった。 それを確認してから入る準備をしたのは、圭織と龍也だ。 木の上に立った龍也が圭織をしっかりと姫抱きで抱え、圭織が龍也の首に腕を回してしっかりと抱きつく。 「間違っても絶対離すなよ、圭織」 「それはこっちの台詞よ」 「違いない」 くくっ、と小さく笑った龍也は、ぎゅっと力を入れて圭織をしっかりと抱きしめたあと、木の上から飛び降りた。 龍也と圭織の2人も、ファルナとファルファのように、吸い込まれるように穴の中へ消えて行く。 最後に残ったのは、聡とアールレイだ。 「…お兄ーさん、大丈夫?」 「だ、だいじょうぶ…だと、思います…」 自分からラフレシアの中に飛び込むなど流石に体験したことはない。 聡はどきどきする心臓を手の上から抑え、深々と深呼吸をする。 …と、もう片方の手を、自分より一回り近く小さな手に掴まれる感覚があった。 ―――アールレイだ。 「…行こ?お兄ーさん♪」 そう言ってにっこり笑うアールレイに、聡の緊張が少しだけ解れる。 「……はい」 小さく微笑んで頷いた聡にアールレイはにっこりと笑い返す。 「行くよ…せーのっ!!」 アールレイの掛け声に合わせてばっと木を蹴った2人は、同時にラフレシアの中へ吸い込まれていった。 黒系の色で覆われた周囲がぐにゃぐにゃと歪み、平衡感覚を狂わせる。 暫くは下に落ちるような感覚が身体を包んでいたが、唐突に身体が上に引っ張られるような強い衝撃が襲ってきた。 その衝撃に意識が朦朧とし、自分が飛んでいるのか落ちているのかさえ解らなくなる。 暫く黒の中を漂っていたが、不意に、頭上に光が現れた。 それはどんどん大きくなり―――ついには、黒に染まっていた周囲が光で包まれた。 ―――光が完全に広がる直前、ゴリラのドラミングの音が聞こえた気がしたが…気のせいだと言う事にしておいた方が、聡の精神衛生上いいのかもしれない。 ●砂漠(?)ステージ:ゲート発見!! ピラミッドに辿りついた一行は、中を探索しまくっていた。 下から上へと昇っていくが、行き止まりばかりで罠は全く無く、物すらもほとんどなにも見つからない。 その上、てっきりミイラ男とかが襲い掛かってくると思っていたのにそれすらもない。 全く何にもない状況で黙々と歩き続けていい加減頂上へ着くんじゃないかと思い始めた頃、棺がずらりと並べられている部屋を発見した。 気味が悪いし何か祟りがありそうな部屋に全員が辟易する中、希望だけがズカズカと中に入って棺の蓋を一個一個蹴り開けていく。 正に神をも恐れぬ行為。 希望が棺を蹴り開けていく度青くなっていた華焔と裂も、何度も繰り返されていれば段々と慣れてくる。 他の客も諦めたのか、何時の間にか希望のすぐ近くに来て希望が蹴り開けた蓋の中身を覗き込む。 「お。こんなところにツタンカーメンもどきが」 大量の棺の中に無駄に豪奢で巨大な物を発見し、希望が楽しそうな声を上げた。 「…希望…お前真面目に探す気あるのか?」 「あんまり。 ってゆーか段々棺を蹴り開けるのが快感になって来たカモ」 『オイ』 「お前、変態への道を進みかけてないか…?」 「じょーだんだよ。じょーだん」 やや引き気味な華焔と裂にげらげらと笑いながら希望はツタンカーメンもどきをしっかりと見据え…げしっ!と言う音と共に蹴り飛ばした。 「ぎゃー!!ファラオの呪い―――ッ!!」 「植物の中に人が住んでるワケねーだろ。 空の棺如きに祟られてたまるか」 混乱して意味不明な叫び声を上げる華焔を見て呆れたように肩を竦めた希望が棺の中を覗きこんで―――止まった。 「ど、どうした? …もしかして、本当にミイラが入ってたとか!?」 「や、そうじゃなくて」 怯え気味の華焔に苦笑を返した希望は、覗いてみ、と身体を横にずらす。 ビクビクしている華焔が後ろから覗き込み…目を見開く。 「…何だこのブラックホール」 …そこには、棺の形に合わせたように、真っ黒で渦巻いた穴が開いていた。 「多分出口だと思うんだけどね。俺は」 『棺の中にブラックホールがあるよりはよっぽど可能性高いよな』 「う、うっせーな!」 顔を赤くして怒鳴る華焔を見て思わず笑いながら、希望は他の客に此処に飛び込むように促した。 唐突な発言にビビった客達だったが、希望の真剣な顔を見て落ち着いたのか、頷くと大人しく飛び込み始める。 あっという間に全員が飛び込み終わり、残すは希望と華焔・裂だけになった。 「ほら、華焔も飛び込んで」 「…此処に飛び込むのか?」 「そ。ホラ早く」 「…」 棺の中に飛び込むのはなんとなく抵抗があるのか、華焔が渋い顔で黙り込む。 「……仕方ないな」 それを見た希望は呆れたように溜息を吐くと、すっと華焔の腰に手を回した。 「ちょ、希望っ!?」 『おい希望!それは俺の専売特許だぞ!?』 「裂は黙ってろ!!」 戸惑う華焔や文句を言う裂を物ともせず、希望は棺の端に足をかける。 「お前が中々飛び込まないのが悪いのー。 裂は今のうちに中に戻っとけ。途中ではぐれたら大変だからな」 『…チッ。仕方ねーな』 舌打ちをしながらも渋々華焔の中へ戻る裂。 それを確認しつつ、華焔は困ったように希望へ視線を移す。 「だ、だからってなんで…!」 「『お姫サマ抱っこ』の方が良かった?」 「謹んで遠慮させて頂きマス!!」 力一杯拒否の叫びを上げた華焔に思いっきり噴出しつつ、「じゃあしっかり掴まってろよ」と囁いて、返事を待たずに一気に飛び込んだ。 飛び込んだ希望と華焔の姿は、あっと言う間に棺の奥に吸い込まれた。 黒系の色で覆われた周囲がぐにゃぐにゃと歪み、平衡感覚を狂わせる。 暫くは下に落ちるような感覚が身体を包んでいたが、唐突に身体が上に引っ張られるような強い衝撃が襲ってきた。 その衝撃に意識が朦朧とし、自分が飛んでいるのか落ちているのかさえ解らなくなる。 暫く黒の中を漂っていたが、不意に、頭上に光が現れた。 それはどんどん大きくなり―――ついには、黒に染まっていた周囲が光で包まれる。 ―――その時、外に出たら一番最初に希望の頭をド突いてやろうと、華焔が心の中で密かに誓っていたとかいなかったとか。 ●帰還成功! 全員がゲートに無事に飛び込んだ頃。 温泉植物の外ではと言うと…。 「…平和ですね…」 「平和ですねー」 ―――まきえと蓬莱がめっちゃ和んでた。 「あ、そこのお菓子とって頂けますか…?」 「はいはーい。どうぞーv」 「どうも…」 …それも、お茶と茶菓子付属で。 しかもまきえは既に別の温泉に入ったらしく、さっぱりしつつ浴衣着用済だ。 湯飲みに煎餅という典型的な縁側和みスタイルでのんびりとお茶を飲んでいる。 …アンタ等、ホントは心配してないだろ? 「うーん、かれこれもう3時間近く経ってますけど、皆さん中々帰って来ませんねー」 「そうですね…皆さん、お元気だといいんですけど…」 そのコメントは微妙に間違ってると誰か突っ込んでやってくれ。頼むから。 …しかし。 そんな妙にほのぼのとした空間に終止符が打たれることになった。 『―――ウッ』 「「…『ウ』?」」 唐突に聞こえてきた変な呻き声に、まきえと蓬莱が不思議そうに顔を見合わせる。 どうやらどちらかが言ったわけではなさそうだ。 ではどこから―――? そんな2人がはっとして同時顔を向けたのは―――当の元凶である、温泉植物。 ―――心なしか、蕾が不自然に膨らんでるような…。 『…ウッ…ウゥッ…』 「…やっぱり…」 「この植物から、ですよね…?」 温泉植物を見ながら不思議そうに顔を見合わせる2人。 当の温泉植物はと言えば、先ほどから断続的に漏れる『ウ』の音に合わせて温泉植物が膨らんだり縮んだりを繰り返している。 そんな植物をじっと見つめていたまきえが、ぽつりと呟いた。 「…なんだか、今にも吐きそうでえづいてる酔っ払いみたいですね…」 嫌な例えはやめてくれ。なんだか緊張感が一瞬にして吹き飛ぶから。 とは言っても表現的には間違ってないようで、植物の蕾の伸縮の間隔が段々と短くなり、且つ、心なしか蕾が青みを増しているような気が…。 『ヴッ…!!』 蕾の口の部分が、一際危険な予感のする呻き声と共に一瞬綻び、また閉じる。 そこで蓬莱がはっとした。何かに気づいたようだ。 「…もしかして、皆さんが戻ってくるんじゃあ…?」 そう呟きながら、湯飲みと茶菓子を手に持ってじりじりと後ずさる蓬莱。 「え?じゃあ、もうすぐ息子達が…?」 「恐らくは」 蓬莱がそう言って頷くのと同時に、温泉植物が一際大きく、気持ちの悪い声を上げた。 『…ヴエ゛ェッ!!!』 まさに吐く瞬間な声を上げた植物は一段と派手に縮んだかと思うと、一気に元に戻るように膨らんだ。 ぽんっ!!!という間抜けな音を伴って、温泉植物の蕾から沢山の『塊』が宙に向かって吐き出された。 ひゅぅ…どさどさどさっ!! 「だっ!」 「でっ!」 「「痛っ!」」 「「きゃあっ!!」」 「「うわぁっ!?」」 「「っ!!」」 『ぎゃぁっ!!』 四方八方滅茶苦茶に吐き出された塊は、地面に落ちて同時に声(一部声無き声)を上げた。 ……『声』を? 「あらあら…」 「皆さんお帰りになられたようですねー」 ―――そう。 温泉植物に吐き出された複数の塊とは、温泉植物に飲み込まれた面々のことだったのだ。 地面に直で落ちた者とその上に落ちた者。 落ちた者の状態はその2種類だけではあるが、全員それなりに痛かったわけで。 「いったぁーい!お尻打ったぁー!」 「ったー…!顔面から落ちたし…!!」 「いたた…結構派手に落ちたわね…。 葉華くん、愛華ちゃん、大丈夫?」 尻を擦る愛華と顔を擦る葉華に、エマが腰を擦りながら苦笑気味に問いかける。 「なんとか…」 「…鼻血は出てないから大丈夫…」 「……2人とも、後で擦りむいた場所、消毒しましょうね…?」 頷く2人を見、エマは苦笑気味に呟くのだった。 「…っつー…」 一方、龍也と圭織は、龍也が圭織の下敷きになる体制で着地(?)していた。 「いったーい…! …あっ!龍也、大丈夫!?」 それでも衝撃が来たらしく痛そうにうめいた圭織だったが、龍也はどうでもなさそうに起き上がる。 「あぁ。お前の下敷きだから問題ない」 「龍也…」 真顔で言われた台詞に、圭織が嬉しそうに頬を染める。…熱々ですね…。 「…大丈夫ですか?マスター?」 ファルナはと言えば、ファルファが上手く抱えて落ちたおかげで、ファルナ自身は無傷だった。 ファルファ自身は、少し傷ついてしまったが…。 「えぇ。ファルファのおかげで大丈夫でしたよ〜」 「そうですか…ご無事でなによりです」 「…後で傷ついた場所の整備…しましょうね?」 「はい」 そう言って、ファルナとファルファは2人で小さく微笑み合うのだった。 「あービックリしたー! でもすっごく面白かったねーvお兄ーさん♪」 落ちた場所が良かったのか傷はないアールレイがご機嫌に聡に笑いかける。 「…面白かったのは何よりですけど…。 アールレイさん、僕の上からどいて頂けません…?」 …が。聡がいるのはアールレイの尻の下。要するに見事にクッション代わりにされたわけだ。 「え?あ、ゴメンゴメン☆ 大丈夫ー?」 「…とりあえずは…」 全く悪びれていない様子で謝るアールレイに、聡はがっくりと肩を落としながら頷くのだった。 「ってー…。 …華焔、裂、無事か?」 仰向けで落ちたらしく、後ろ頭を擦りながら希望が自分の上に落ちてきた華焔に問いかえる。 と、華焔が無言で起き上がり、希望の顔の両隣に手を突き、にこりと微笑んだ。 「…希望が進んで俺に押し倒されてくれるとは思わなかったな?」 ……訂正。華焔と入れ替わった裂が、にっこりと爽やかに微笑みました。 「……」 それを見てきょとんとした後、何かを考えるような仕草をする希望。 一体何を言うのかと思いきや。 「…ちょっぴし積極的になってみました」 こんな時にまでわざわざボケなくても…。 「…そうか。それはいい傾向…なワケあるか――――ッ!!!」 喋ってる途中で口調が変わってがばりと起き上がる。 どうやら華焔が裂から主導権を取り戻したようだ。 「お、戻った」 「お前なぁ、こう言う時はわざわざノらんでいい!!」 「えー。だってそれじゃあつまんねーじゃん」 「身の危険と隣り合わせの面白味を求めんな―――っ!!!」 飄々とした希望の態度に叫ぶ華焔。…元気だなぁ、この2人。 「…あらあら…」 「なんだか収集つかなくなってますねー」 その光景を離れた所から見つつ、困ったように頬に手を当てるまきえと、楽しそうに笑う蓬莱。 当の温泉植物は吐き出してスッキリしたのか、蕾を閉じて『ぐがーッ』とイビキなんぞかいている。 「どーします? なんかこのままだと1時間でも2時間でも騒いでそうですよー?」 そう言いながらも私は楽しくていいですけど、と笑う蓬莱。彼女も中々アレな人だなぁ…。 「…そうですね…」 そんな蓬莱に苦笑を返し、まきえは一歩前に出た。 蓬莱が何をするんだろとわくわくして見ていると、まきえはゆっくりと両手を持ち上げ…。 ――――――パン!!!!! 力いっぱいその手を叩き合わせた。 その音はこの周辺にやけに大きく響き渡り、全員が動きを止める。 音の発信源――もとい、まきえを驚いたような顔で見る面々を見渡し、まきえはにっこりと――そりゃもう爽やかに微笑んだ。 「―――皆さん、お帰りなさい。 嬉しいのは解りますが、どうせ騒ぐのなら、夕食も兼ねた宴会でお願いしますね?」 「「「「「「「「「「…………はい」」」」」」」」」」 なんとなくその場の雰囲気に飲まれて思わず頷いてしまった一同に、まきえは満足げに微笑む。 「…まきえさん、凄い…!」 その後ろでは、何故か蓬莱が感動して目を輝かせていた。 ●無事を祝って宴会開始☆ まきえの勧めと一部の者の希望により、もう一度別の温泉に入り直した一堂は、浴衣に着替えて大部屋に集まった。 「うっし、全員集まったなー?」 全員がいるのを確認し、妙に楽しげな希望が酒の入ったコップ片手に(※希望は未成年です)意気揚揚と立ち上がる。 「えー。それではー…面倒くさい前置きはなしにして。 全員無事に帰還したことを祝して―――。 …かんぱーい!!!」 「「「「「「「「「「かんぱーい!!!!!」」」」」」」」」」 希望の大雑把な音頭に合わせ、全員がジュースや酒の入ったコップを掲げて叫んだ。 …こうして、『帰還記念大宴会(命名:希望)』が始まったのだった。 ――――――までは、よかったのだが。 酒がある宴は、当然というかなんというか…あっという間に無茶苦茶な物に変化してしまった。 「龍也ー!飲んでるー!?」 「飲んでる飲んでる」 圭織は龍也にべったりくっついたまま酒瓶を次から次へと開けていき、龍也はそんな圭織の腰にちゃっかり手を回しつつも、中々のハイペースで瓶を開けていっていた。 既に圭織はほろ酔い状態で、強い筈なのにすっかりおふざけモードで時々龍也に抱きついたりしながら酒を飲んでいる。 なんだかんだ言っても、龍也も満更でもなさそうだが。 「…あ、酒切れた…」 コップに入った酒を飲み干して、龍也が残念そうに呟きながら注ぎ足す為に瓶に手を伸ばそうとすると、圭織に掴まれて阻まれた。 「…なんだ、圭織?」 ちょっと不満そうに眉を寄せる龍也ににやりと笑った圭織は、自分のコップに残っている酒をぐっと飲み干すと、そのまま龍也の顔を両手で挟み―――口付けた。 「ん…」 なんとなく圭織の意図が読めた龍也は、薄らと口を開く。 それに気づいた圭織は小さく唇の端を持ち上げ、そっと自分の口も開いた。 生ぬるい液体が、圭織の口から龍也の口へと流れ込んでいく。 その独特の味は―――酒。 2人がやっていることは、俗に言うところの『口移し』だ。 丁度その場面を目撃したまきえが「あら…」と小さく呟いたが、すぐに見なかったことにして宴会に戻っていたりする。 そのまま龍也がごくりと酒を飲み干すのを確認してから、小さな吐息と共に圭織は口を離した。 「―――どう?」 唇をゆっくりと舐めながら妖艶に微笑んだ圭織に、龍也も満足げに微笑む。 「――――最高、かな」 「『かな』じゃ意味ないでしょ?」 軽くツッコミを入れながら、2人は顔を見合わせて笑い合う。 「…私の美貌とお酒で…酔わせてあげるわ」 龍也に小さく口付け、圭織が挑戦的な視線と笑みを向ける。 それを見た龍也もにやりと笑って見せ、酒瓶を傾けてコップに注ぐと、片手で圭織の腰を抱き寄せ、耳元で低く、甘く囁いた。 「―――それじゃあ、俺もお返ししないとな?」 その意図に気づいた圭織が一瞬目を見開くが、すぐにその瞳を楽しげに細める。 「――――――上等!」 その言葉が合図だったかのように、2人はまた口付けを交わすのだった。 結局のところ、龍也が圭織に酔ったのか、それとも逆なのか。 2人の勝敗の結果は―――神と本人のみぞ知る?。 ……どうもご馳走様でした。 「きゃはははは!! よーおかー!飲んで食べて笑ってるー!?」 早速ジュースと間違えて酒を飲んでしまった愛華が、ご機嫌な様子で葉華に絡んでいる。 絡まれた葉華はと言えば、愛華から漂ってくる酒の匂いに嫌そうに顔を顰めて鼻を摘んだ。 「うっ…!愛華姉ちゃん酒くさッ!! 酒とジュース間違えたなっ!?」 「まちがえてなんてらいもん!!」 じりじりと後ずさる葉華だったが、酔っ払った愛華はお構いなし。 追いかけるように詰め寄ると、酒がなみなみと注がれたコップを握り、大声で叫んだ。 「あーかがじゅーしゅとお酒を間違えるわけないれしょーっ!!」 「…呂律、回ってないよ?」 「うるひゃーい!!」 逆ギレ発生。 しかも叫んで立ち上がったかと思ったら、急に座り込んで泣き出した。 「うぅ…ボブぅ…会いたいよぉ…。 蓮くんにも会いたいのぉ…っ」 「げっ!笑い上戸で絡み上戸で泣き上戸!?」 怯む葉華を全く気にせず、愛華はそのまま天井を仰いで思い切り叫んだ。 「うぅっ…ボブ―――ッ!!蓮く―――――んッ!!!!」 …ひっそりボブの方が前に来てるところが気になるのだが。 「うわっ!?な、泣かないでよ愛華姉ちゃんっ!!」 「ふえーん!!愛華もうおうちかえりたい―――ッ!!!」 「今度はだだっこモードかよ!?!?」 三○ツッコミ炸裂。 とはいえ、酔っ払いはそれぐらいで止まる筈もなく。 葉華は泣き出した愛華を宥めるのに必死で、宴会を楽しむ事などこれっぽっちもできなかったとか。 ――― 一方、聡達の方はといえば。 「…な、なんか、僕の前だけ見たことの無い果物や魚介類がいっぱいある気がするんですけど…」 目の前に広がる皿を見て、ほのかに青くなっていた。 何故だかは不明だが、見事なまでに聡の前に奇妙な食物が集まっている。 フグとヒラメを足して割ったような外見の桃色の魚とか、バナナとドリアンを足して割ったたような見た目の緑色の果物とか。 …既にこの世の物ですらない気配がしまくり。 「あ、魚介類は私が獲ってきたのよ。面白いでしょ?」 そう言って手を上げながらにっこり微笑むのは向かい側に座っているエマ。 「果物を取ったのはわたくしですわ」 「あ、アールレイもいっぱい取ったんだよーっ♪」 続いて楽しそうに手を上げたのはファルナとアールレイ。ちなみにファルファは部屋の入り口に座って騒ぎを眺めている。 ただし2人の指差す先を見る限り、変な果物を取ったのはファルナだけのようだが。 「…どう見てもアールレイさんが取ったの以外は毒がありそうにしか見えないんですけど!?」 顔を一層青くして叫ぶ聡に、エマが微笑みながら話し掛ける。 「そんなことないわ。大丈夫、きっと美味しいわよ?」 「その根拠はどこから来てるんですか…?」 聡の疑わしげな視線と言葉に、にっこりと笑顔で返すエマ。 しかもよく見てみれば、エマ自身はちゃっかり普通の魚介類だけを食べている。…超・不安。 「さぁ、聡さん。折角ですから食べてみて下さいな?」 「……え゛」 そう言って、ファルナがにっこり微笑みつつ箸で刺身風に切った果物を持って差し出してきた。 「な、何で僕なんですかっ!?」 「だって、折角取ったんですもの。誰かに食べて頂きたいじゃないですか?」 そう言って箸を聡に差し出したまま笑うファルナ。見ようによっては男の憧れシチュエーション、『はい、あーんv』ではあるが…下手をしたら己の命が危ういのでアウト。 「そーだよお兄ーさん。 折角くれるって言ってるんだからもらっとかないと♪」 面白そうな事になった、と思ったアールレイが便乗し、素早く後ろに回って聡の身体を羽交い絞めにする。 子供のような体躯なのに、聡を軽く押さえ込んでしまうほどの力を持っているようだ。聡がもがいてもビクともしない。 「あ、アールレイさんまで!?」 「大丈夫v 倒れたらアールレイがきちんと看病してあげるからねー♪」 「よりによって倒れる事前提ですか!?」 アールレイとの会話で益々顔色が悪くなっていく聡に、ファルナがにっこり微笑んで箸を差し出す。 「ささ、ぱくっと一思いにいっちゃって下さい♪」 「だ、だってこれ黒と紫のマーブル模様ですよ!? 見るからに身体に悪そうな色してるじゃないですかっ!?!?」 必死で嫌がる聡に、アールレイがつまらなさそうな顔をする。 「もー、お兄さんワガママー!」 「生死を賭けた問題を『ワガママ』の一言で済まされても…!!」 もう聡はいっぱいいっぱいで今にも泣きそうだ。 「…聡さん?」 「はい?」 「あーんv」 ファルナの呼び声で振り返った聡は、にっこり笑顔のファルナの言葉につられて反射的に口をぱかっと開く。 「あー…」 ぽいっ。 当然、ファルナはその隙を逃さなかった。 ファルナによって放り込まれた果物は、またもや反射的に口を閉じた聡の口の中に見事に収まった。 ―――ボン!! 「きゃっ!?」 その一瞬後、聡の口の中で爆発音が発生し、顔中の穴と言う穴から怪しげな煙が噴き出る。 その直後、聡はぱかりと開いた口から煙を吐きながら―――ぱたりと、倒れた。 「あらあら…」 「うっわぁ、すっごーい!爆発したよ、爆発ー♪」 ファルナは困ったような困ってないような微妙な表情で、アールレイは完全に面白がって歓声を上げている。 …哀れ聡。君はきっと死ぬまでこう言う役回り。 ちなみに聡は翌日、原因不明の高熱に一日中うなされたそうだ。 「あらあら…皆さん、お元気ですのね…」 「まきえさん…」 息子が瀕死だと言うのに微笑ましげに笑うまきえ。先ほどの騒動の間も楽しそうに見ているだけだったし…中々の鬼っぷりだ。 そんなまきえを見て苦笑を零すエマだったが、自分も似たようなものだから口には出さない。 しかし、すぐににこりと笑って、まきえに珍貝魚が盛られている皿を差し出した。 「…まきえさんもおひとついかがです?」 「謹んで遠慮させていただきますね」 笑顔で即答された。 そんな聡達の騒動を離れたところで眺めていた希望は、酒をげらげらと楽しそうに笑いまくる。 「あっはははは!!おっもしれー!!!」 その様子を隣で見ていた華焔が、呆れ気味に頭を抱える。 「…お前なぁ…どう見たらあれが面白いんだよ?」 「こー見たらv」 その問いかけに爽やかに微笑みながら自分を指差す希望。 それを見て、華焔は深々と溜息を吐いた。 「…酔っ払いに聞いた俺が馬鹿だったよ」 「俺酔っ払ってないってー。コレ素、素」 「なおのこと悪い!!」 きっぱりそう言いきった華焔だったが、すぐに目付きが怪しいものへと変化する。 …裂が表に出てきたらしい。 希望の頬を撫で、艶の有る微笑で囁きかける。 「酒が入って仄かに赤らんだ頬、僅かに潤んだ瞳、濡れた赤い唇。 帯が緩んで少しだけ見え隠れする胸がまた色っぽいな…」 うっとりと語りつつ完全に口説きモードの裂。 『帯が〜』の辺りでさり気なく胸に指先を這わせてる辺り少々身の危険が…。 「あはは、そりゃどーも♪」 ただ、希望は全く気にしておらず、にっこり微笑み返しつつ酒を煽っている。 しかし裂も中々めげないらしく、すすす、と希望の後ろに移動し、腰に手を回す。 「…この帯、解いてもいいか?」 「きゃー、エッチー☆ お代官様ご無体なー♪」 「ふっふっふ。良いではないか良いではないか…ってちっがーう!!」 「ぶははははっ!ナイスノリツッコミ!!」 そのまま襲いかねん裂に危険を感じたのか、途中で華焔が無理矢理表に戻ってきた。 「忙しないのなー、お前等?」 「うっせぇ!っつーかお前も少しは嫌がれ――っ!!」 「メンドい」 「そんな返答あるか―――――ッ!!!!」 …すっかり漫才コンビニなってる華焔と希望だった。 なんかもう、何がなんだか。 そんなこんなで宴はどんどん無駄に盛り上がっていき、深夜を過ぎたらしっちゃかめっちゃかになってしまった。 ―――翌日。 何時の間にか雑魚寝してしまったメンバーが蓬莱に発見されたのは…その日の正午を過ぎた頃だったとか。 ちなみに。 温泉植物はまた蕾を開いて元気に温泉を振舞っているらしく、翌日も人で賑わっていたようだった。 ―――『知らぬが仏』とは、良く言ったものだ。 今回巻き込まれた面々の大半は、勿論、2度と入ろうとはしなかったと言う。 …お疲れ様でした。 終。 □■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□ ■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■ □■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□ 【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】 【0158/ファルナ・新宮/女/16歳/ゴーレムテイマー】 【2155/桜木・愛華/女/17歳/高校生・ウェイトレス】 【2313/来城・圭織/女/27歳/弁護士】 【2797/アールレイ・アドルファス/男/999歳/放浪する仔狼】 【2827/蒼月・華焔/男/16歳/蒼月神社当主見習い】 【2953/日向・龍也/男/27歳/何でも屋・魔術使い】 |
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【個別ノベル】 【0086/シュライン・エマ】 【0158/ファルナ・新宮】 【2155/桜木・愛華】 【2313/来城・圭織】 【2797/アールレイ・アドルファス】 【2827/蒼月・華焔】 【2953/日向・龍也】 |
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