【タイトル】 科学部の危険な喫茶店
【執筆ライター】 有月 加千利
【参加予定人数】 1人〜
オープニング /ライターより /共通ノベル /個別ノベル


●「学園祭」 オープニング

 この学園では月神と草間は科学部だった。
 学園祭の出し物について再三、二人で話し合ったが、これと行ったものが思い浮かばず、生徒会にも届出をまだ出していない。
「だからな。草間」
「却下―――!」
「なんで?」
「喫茶店なん二人でできるわけ、ないじゃないか!」
 そう、この科学部には部員が二人しかいなかった。
「でも僕は喫茶店でみんなに美味しいものを食べて欲しいんだ。万年閑古鳥の科学室が人の声であふれ、楽しい笑い声が聞こえて、みんなが楽しい顔をしている、そんな風景をみてみたい」
「……あのな……その気持ちは分かる。俺にもよくわかる。だがな、それで生徒会から許可が下りると思うか?」
「降りたら、やってもいい??」
 草間は考えた。
 どうせ、許可が下りるわけがない。
 喫茶店をやるには衛生検査や材料調達、調理係、メニューつくり、色々と下準備が必要なのだ。
 だから月神が喫茶店を諦めるのに決定的なことを分からせるために、生徒会に月神自身に直接かけあったもらったほうがいい。
 許可なんて下りないんだから。
「分かった。許可が下りたら、俺もやろう」
「本当? 男に二言はないね!」
「ああ」
 どうせ、許可など降りないのだから。

 月神はノックも無しでついた早々に生徒会室のドアをガラっとあけた。
 そこには学園祭関係の書類に目をとおし、何かを書いている、生徒会長、繭神総一郎の姿が。
「やあ、繭神」
繭神は月神を見ると、顔をこわばらせた。
「なんだ。何か用か」
 警戒心露に月神に言うと自分に近づいてくる月神から距離をとる。
「そう、用があってきたんだ」
「なんだ」
「実はね……僕と草間くんの科学部で喫茶店を開こうって言っててね。それの許可が欲しいんだ。あ、それとね、出来れば繭神にも喫茶店を手伝ってくれたら、僕嬉しいんだけど」
 まったく、めちゃくちゃな要求だった。
 実際、学園祭は明日からであって、繭神は生徒会長なのだから科学部ばかりに構ってはいられないし、第一保健所の許可というものもあるのだ。
「それは聞けない要求だな」
「……そう?」
 急に月神はしおらしく、悲嘆にくれた顔でその先を続ける。
 苦しげに額に手をあてて語りだす。
「そんな風に邪険にされたら……僕、理性を保っていられなくなるな……。繭神ならわかるよね、この意味。僕はこの学園祭に命をかけていると言ってもいい。楽しみたいんだ……。ああ、今にも理性が壊れそうだ……おや、なんだか手がむずむずしてきたな……」
 少しあごをあげて、目を細めてそう言う月神に繭神はぎりっと歯噛みする。
月神の顔は、「それでも僕の言う事を聞けない?」という、勝ち誇った顔だった。
「キサマ……。脅しているのか……」
「やだなあ、そんな事ないよ☆」
 さっきまでの表情を一変して笑顔で答える。
「で、許可してくれるの? くれないの?」
「ぐ……」
「ああ、なんだか理性が……」
「わ、分かった! 許可する! すればいいんだろう!!」
「やった! じゃあ、科学部の手伝いの方もよろしくね。約束だよ」

 こうして二人だけの科学部は、絶対無理そうな「喫茶店」をひらく事になった。
 九十九パーセント、月神のわがままだが、それでも決まってしまった。

(科学準備室には冷蔵庫もあるし、食器は科学機器でいいよな。ビーカーとかあるし。
 メスシリンダーでジュースのんでもらってもいいし)

 めちゃくちゃである。




●ライターより

 喫茶店の手伝い要員か、お客さんとしてくるのか、選択してください。



●【共通ノベル】

生徒会の許可をもって帰ってきた月神に、草間の顔は青くなった。
 科学部は二人。
 それでどうやって喫茶店なんてものが出せるというのだ。
「あのな、月神。許可を貰ったって言ったってどうやって二人でやってくつもりだ?」
 頭を押さえてそういうと、月神はあっけらかんと返答した。
「ボランティアで誰かきてくれるかもしれないじゃない。科学部の前に張り紙をはっておこうよ。あ、それとね。繭神が言ってたんだけど、保健所の許可を取るには時間がかかって、学園祭の間までに取れないんだって。だからこれはあくまで化学実験としての展示会って事で進めてって」
「……なんだそれ」
「だから、かぎりなく化学実験に近い喫茶店って事で……まあ、繭神対策は僕が考えておいたから安心して」
 繭神対策ってなんだ?
というか、そんな喫茶店、安心なんてできるか?
 出店側の草間でさえ、胡散臭いと思っているのに客なんて入るのだろうか?
 不安いっぱいで草間は頭をかかえた。
 それを横目で見ながら月神は机に座ると、紙とペンを持ち出して、それにざっと書く。
「科学部主催 喫茶店、手伝ってくれる方を募集! お客様もお楽しみに!」
 それを科学部の扉に張る。
 科学室は移動教室だ。
 さぞ、沢山の生徒が見てくれる事だろう。
 それで手伝ってくれる人が本当に来るのかは、まだ草間には疑問だった。

 その張り紙を張った日の放課後。
 早速科学室を訪れた人物がいた。
 もっとも、学園祭は明日からなので今日中に集まらなければ喫茶店も何もできないのだが、最悪二人でやろうと思っていたところへの救世主だ。
「シュライン! 来てくれると信じていた!」
 草間の大の親友であるシュライン・エマがやってきたのだ。
「だってチョコ。科学部って確か二人しかいなかったよね。それで喫茶店って……なんだか心配だったのよ」
「俺も心配だ……」
「はあ……」
 草間のあまりの意気消沈ぶりにシュラインはますます心配になった。シュラインは草間の事をチョコと呼ぶ。シュラインがつけたあだ名だった。
 奥にいた月神は席をたつと大声で、
「そんな心配することないって! 大丈夫。僕にも考えがあるから」
 という。何の考えがあるのか疑問だ。
 シュラインは周りを見渡すと、まだ誰も手伝い要員が来ていないことにまた少し不安になった。
 そこへまた科学部へ入ってきた人物がいた。
「こんにちは。ここで喫茶店のボランティア、募集してるって聞いたんですけど。私は巳杜靜っていいます」
 髪の長い、利発そうな少女だった。
 月神は喜色満面で靜を迎えると、
「来てくれて有難う! 絶対楽しい喫茶店になること間違いなしだよ!」
 と手放しに喜ぶ。
 と、開けっ放しになっていたドアにもう一人。
 背の低い少女がたっていた。
「私も手伝いにきた。ササキビ クミノといいます。喫茶店経営の経験があるから何かと役にたつと思うけど」
 冷静沈着、という雰囲気の少女がたっている。
「君も! 有難う! ねえ、草間、三人も手伝ってくれる人が来てくれたよ! これで模擬店もバッチリだ!」
 うきうき気分で月神は舞い上がった。
「さしあたって、靜、差し入れを持ってきたんだけど」
 そう言って巳杜靜は大きな紙袋を月神に手渡した。
 何かと思って中を覗くと、そこには真新しいメイド服が何枚も入っている。
「清潔感が漂うようにやっぱり喫茶店っていったらメイド服だよね。だからもってきたんだけど」
「ああ、嬉しいよ! なんか雰囲気でるなああ」
 それを見ていたシュラインは複雑な表情だ。
「私に似合うかしら……」
「とりあえず着てみればいい。似合うかもしれないぞ」
 草間は自分が着ないのでぽろっと口からそんな言葉が出る。
「……チョコって、そういう趣味があったんだ……意外」
「ま、待て。それは断じて違う! 俺はそっち系の趣味はない!」
 なんだか盛り上がってきたところへ、ササキビ クミノが、彼女も大きな紙袋を机の上に置いた。
「私ももってきたのよ。白衣」
 科学部に「おお!」という歓声があがった。
 そう、科学部といえば、白衣だ。
 月神は嬉しそうにその紙袋の中を物色してみる。
 十枚近く入っているそれの一枚を広げてみせて、また喜んだ。
「今の科学部にあるものって、みんな古いものばっかりなんだよ。持ってきてくれて嬉しい!」
 そう言うと、巳杜靜は顔を曇らせた。
「え〜じゃあ、靜のもってきたメイド服は着ないの?」
 そう言うと、月神は
「両方着ればいいじゃない!」
 と笑顔で答えた。
「女の子はメイド服の上に白衣で、男性は白衣のみね!」
 草間はまた頭に手をあてる。
「なんだか……ますます怪しくなってきたな……」
 そんな草間は放っておいて、月神は皆を椅子に座らせた。
「じゃあ、どういう風に喫茶店を始めるか、だけど……」
 と月神が言い出すと、シェラインが手をあげる。
「私、いい事を思いついたんだけど、ここ、冷蔵庫が二台もあるでしょう? だから冷えたデザートなんていいと思うんだけど」
「デザートはいいけど、ここに冷蔵庫は一台しかないよ」
 月神は業務用大型冷蔵庫を指さし、シュラインに言う。
 が、ササキビ クミノが首をひねった。
「え、だって、あの小さな冷蔵庫は何?」
 ササキビ クミノが指差す方向に視線を向けると、確かにもう一台、古い小型の冷蔵庫がある。
 一見、見落としてしまいそうなものだ。
 月神は首をひねる。
「ねえ、草間、あれ、なんだっけ。なんだが忘れていたことがあったような……」
「ああ……あれは……レディの秘密基地への入り口だったような……」
 意味不明な事を言う二人に巳杜靜がなんだと思ってその冷蔵庫を開けた。
「うわ!!」
 その中は冷蔵庫ではなく、通路になっていた。二メートルくらいある長くて暗い通路の奥にはなにやら部屋があるようだ。
「見てよ、皆!」
 巳杜靜はそれを皆に見せると、皆は無言でその冷蔵庫の闇を見詰める。
 途端。
 パチッっとその暗い通路に灯が灯った。天井部分に蛍光灯がついていたらしい。
 その奥から白衣をきた大柄な男が狭い通路を四つんばいになって歩いてくる。
「な、誰かくる!」
 巳杜靜がそう叫ぶとみんな一歩、その冷蔵庫からはなれた。
 その間に草間と月神が入って中から出てくる人物を待っている。
 のそのそと出てきたその人物は冷蔵庫の前まで来ると、
「ボクも手伝ってもイいよ」
 と微妙にアクセントが違う言い回しをして皆を見渡した。
 月神が慌ててその人物……レディ・ファウストというのだが……レディを冷蔵庫からひっぱりだすと皆に紹介する。
「あ、あの、正直言って忘れてたんだけど、科学部にもう一人幽霊部員がいたんだ。彼はレディ・ファウストっていうんだけど……君も手伝ってくれるの?」
「いイよ」
 のそりと体格のいい体を伸ばしてレディは言う。
「な……なんで冷蔵庫の中に住んでるの……?」
 当たり前といえば当たり前な質問をシュラインはする。それに胸を張ってレディ・ファウストは答えた。
「秘密の実験のタめさ」
「でもなんで冷蔵庫なの……」
「……う〜ん……」
 急に頭を抱えて悩みだしたレディに月神がフォローを入れる。
 なんで冷蔵庫なのか自分でもよく分かっていないレディにつっこむのは禁句なのだ。
「研究者って気難しいから……」
 精一杯のフォローだ。
「秘密の実験って何?」
 ササキビ クミノが聞くとレディはまたあまたを抱えてう〜んと唸った。
 月神はまたフォローを入れる。
「あ、あれだよね、秘密実験って人に言えないんだよ。僕だって防爆冷蔵庫買ってもらって放射性物質の研究とかしたかったし。でもそんな事いえないし」
『防爆冷蔵庫って何?』
 その場の皆から不思議そうな声があがる。
「放射性物質の被爆を抑えるものなんだけど……」
「そんな実験を学校の科学室でするなーー!」
 草間から猛烈な突っ込みがあった。
 そんなこんなで喫茶店メンバーは揃った。
「ところでこの喫茶店の名前って何なの?」
 シュラインが不思議そうに言うと、月神が胸を張って答える。
「エディション」
 それを聞いたレディが「おお」と声をあげる。
「何? どういう意味?」
 ササキビ クミノが言うと、月神は得意げに言った。
「加減乗除って意味。科学部っぽくていいでしょ? 本当は「カフェ エディション」って名前にしたかったんだけど、この喫茶店、ちょっと訳ありでカフェって入れられないんだ。だから「エディション」だけで」
(保健所の許可が無いから正式には科学実験の展示会だからか……繭神はどうやってごまかす気だろう……。それに月神もなんだか考えがあるみたいだし……)
 草間はまだ不安一杯で頭痛がしそうだった。
 とにかく、模擬店喫茶「エディション」は明日からの学園祭に参加する事が決定した。

「なあ、本当に行くのか?」
「行くわよ。差し入れまで買ったのですし」
 学園祭当日。
 あまり行く気のない少年と行く気満々の少女が科学室へと向かっていた。
 羽角悠宇と初瀬日和である。
「だって科学部で喫茶店って、なんか怪しくねえ? 第一そんなの学園祭のパンフレットにも載ってなかったじゃないか」
「でも月神さんとか草間さんがやってるって話だし、面白そうじゃない」
 話しながら科学室の前までたどりつく。
 ドアの前には青い模造紙の周りを妙にくねくねと切ったところに「エディション」と書かれている。
「なあ、「エディション」って何?」
「さあ……? この喫茶店の名前じゃない?」
 入り口はそれだけで、中は普通の科学室だった。日和はひょこっと顔だけ出してみる。中にいたササキビ クミノがそれに気が付き、「いらっしゃいませ」と上品にいった。
 メイド服に白衣という服装を見て日和はそれだけでこの喫茶店が気に入った。
「こんにちは!」
 その後に続いてきた悠宇は「ああ、やっぱり」と内心思った。やっぱり普通じゃない。
「何、なに! お客さんがきたの?」
 奥から巳杜靜が顔を出す。
「いらっしゃいませ! どう? このメイド服。かわいいでしょ?」
「かわいらしいですわね」
 日和は笑顔でころころと笑う。
 それを横で見ていた悠宇は(そうか? メイド服の上に白衣だぞ?)
 と内心突っ込んだ。
「何を召し上がりますか?」
 そう言ってササキビはメニューを二人に差し出す。
 このメニューは先日、月神が作ったものだ。
 二人は靜に席を促されると、早速メニューを開いた。
「えーと」

『 エディションメニュー

・ 異国から取り寄せた豆を挽いて湯で落としたもの(アイス・ホット)
・ 香草を湯で煮出したもの(ハーブティー)
・ 炭酸水と水と果汁の化合物(ジュース)
・ たんぱく質の凝固と炭水化物の加熱による変化(目玉焼き定食)
・ 果汁入りゼラチンの科学的変化物(ゼリー・ババロア)  』

「何……これ……」
 羽角悠宇は固まる。
 さっぱり意味がわからない。
 かろうじて括弧で書いてあるものが実際のメニューだと思われる。
 脱力している悠宇の前に座っていた日和は満面に笑顔を浮かべた。
「素敵だわ!」
「どこが!」
 すかさず悠宇はつっこみを入れる。
(食べる気も飲む気もおこらねえな)
 内心そう思ったが、折角来たわけだし、
 注文をしないというのも失礼だ。
 とりあえず、コーヒーらしきものを頼もうかと思い、日和の方へと向く。
「決まったか?」
「ええ。この「香草を湯で煮出したもの」って、ハーブティーの事ですよね」
 巳杜靜にそう聞くと、靜は「はて?」とメニューを覗く。
 そもそも、メニューは月神まかせだったので靜は見ていなかった。
「ちょっと待ってくださいね」
 そう言って自分の持っているメニューを見て、ああ、なるほど、と思う。
 この喫茶店は保健所の許可がない。だからできるだけ化学実験に見せるように形だけでもこういうメニューにしたのだろう。
 たしかシュラインがハーブティーを作ると張り切っていた。だからこれがきっとハーブティーなのだろう。
「そうですよ」
 巳杜靜は笑顔で答えた。
「たぶん」
 ササキビ クミノがこっそりと聞こえないように言う。聞こえなければいいのだ。
 悠宇はじゃあ、と注文をする。
「えーと。この異国の豆を挽いて湯で落としたもののホットと、香草を湯で煮たもの、一つづつ」
「はい、分かりました」

 給仕に出てきたのは、大柄な男だった。
 レディである。本人たっての希望でウェイターをやる事になった。
 机の上に並べられる三角フラスコやらアルコールランプやら、三脚やら石綿やらを見て、やっぱり科学部主催だな、と悠宇は思った。
「じゃあ、まず、コーヒーから」
 レディはそう言って三脚に石綿をおいて、下にアルコールランプを置き、上に水の入った三角フラスコをおいた。
「これで湯がわくマデまっててくレ」
 それと同じようにして日和の方にカモミールと水の入ったビーカーを置く。
「こっちも湯が沸くまで待ってくレ」
「なんか思ったよりひどいな」
 これでは本当に実験をしているようで、さしずめ自分たちは実験体のようだ。
 奥から月神がでてくる。
「いらっしゃいませ、科学部の喫茶店へ。ここはね、実験テイストで飲食できるっていう喫茶店なんだ。面白い趣向でしょ?」
「……まあな」
 悠宇はあいまいに返事をしたが、日和は思っていたよりもめちゃくちゃなので喜んだ。
 そもそもこんな化学実験的な喫茶店なのは保健所の許可がおりていないから、の一言につき、名目はあくまで「科学実験の展示会」なのだ。
「楽しいですね! あ、私差し入れを持ってきたんです。クッキーですけど、皆さんで召し上がってくださいね」
 そう言って菓子折りを月神に渡した。
「うれしいね! せっかくだからここで皆で食べようか。今はあんまりお客さん、こないし」
 月神が上機嫌でそう言った言葉に答えたのは、入り口に立っている人物だった。
「客がこない? 当然だな」
「繭神。あ、そういえば手伝いに来てって言ってたんだね」
「ばかもの。生徒会長が科学部だけにかまっていられるか。様子見に来ただけだ」
「それでもいいよ。なんだか手伝ってくれる人が沢山集まってきてくれてさ。折角だから「異国の豆を挽いて湯で落としたもの」でも飲んでいきなよ」
「……なんだ、それは」
 それに悠宇が答えた。
「……なんだかコーヒーっぽいぜ」
「遠慮しておく」
 悠宇は心の中で「お前、ずりいぞ!」と思いっきり繭神を罵った。
「じゃ、ジュースならいいでしょ。折角きたんだし」
「じゃ、俺がイく」
 レディがなにやら面白がって厨房に消えていった。
 その間に三角フラスコの水は沸騰し、カモミールの入ってるビーカーからはいい香がしてくる。
 月神は日和からもらったクッキーを開けてシャーレの中に数枚ずつ分けていった。
「靜と、ササキビと、初瀬と、羽角と、レディと、繭神と、厨房にシュラインと草間がいるな。あと、僕の分」
 総勢九人の分を取り分けるとクッキーはなくなった。
「繭神、じゅースだ」
 厨房からレディが帰ってくると繭神にジュ―スの入ったメスシリンダーを置いた。
 メスシリンダーとは、縦にながい、薬品の量を測るときに使う測量器機だ。
「……なんのジュースなんだ?」
 それは、なんだか茶色と黄色で上下分離していた。
 奥から出てきたシュラインが、慌てて別のジュースをもってくる。
 それは普通のオレンジジュースに見えた。
「レディ、それは無理、無理だわ!」
 何が無理っぽいのか、は飲めないだろう、というのが靜にもササキビにも、周りの皆が分かったからだ。
「まあ、ゆっくりしてってよ」
 月神は繭神にシュラインのもってきたジュースを渡し、クッキーをそえた。
「じゃ、僕、草間も呼んで来る」
 そう言って月神は科学準備室に消えていく。

「ねえ、草間」
「なんだ」
「この学校には色んな人間がいるね」
「まあ、そうだな。どこでもこんなもんだろ」
「楽しくて、嬉しい……」
 顔を伏せた月神に草間は顔を向ける。
 そして驚いた。
 月神は泣いていた。
 ぽろりと涙のしずくが頬を伝う。
 草間はわけがわからず、焦りまくった。
「な、何ないてんだよ、お前」
「楽しかったり、嬉しかったりすると、涙が出るんだね」
 草間は無言でハンカチを差し出した。
 この先に何があっても、覚えていたい。
 悲しい運命に打ちひしがれた時、思い出したい。
 自分が、自分でなくなってしまっても、覚えていたい。
 月神の願いは誰にも気がつかれず、ひっそりと一言だけにおさまった。
「僕、これからもずっとこういう想い、覚えていたい。忘れたくない」
「ああ……。俺も同じだ」
 月神の言った事の真の意味など分かりようのないはずの草間の言葉が、月神には最高の返事だった。


「何やってんのーーー!」
 科学室からシュラインの声が聞こえてきた。
「悠宇さんが記念写真とりたいって! 皆で撮ろうよ!」
 今度は靜の声だ。
「行くぞ」
「うん」
 顔をあげた月神の顔はもう、笑顔に戻っていた。

「じゃ、撮るからな〜。ハイ、チーズ」
 パシャ。

「ちょっと待って〜もう一回、私、目をつぶってしまったわ」
「靜も〜、もう一回取り直して〜」

 写真はその時の幸せを閉じ込めておける。
 その写真は月神にとっても、他の皆にとっても、楽しい時間が閉じ込められていた。
 
              ☆END☆


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】
1166/ササキビ  クミノ  /女性             / ネットカフ所有
3787/レディ   ファウスト/ 男性            /秘密?組織の会長
2283/巳杜    靜    /男性だが、夢の学園内では女性 /中学二年生
3524/初瀬    日和   /女性             /有名進学校の生徒
3525/羽角    悠宇   /男性             /有名進学校の男子学生
0086/シュライン エマ   /女性             /草間興信所事務員



●【個別ノベル】

【1166/ササキビ・クミノ】
【3787/RED・FAUST】
【2283/巳杜・靜】
【3524/初瀬・日和】
【3525/羽角・悠宇】
【0086/シュライン・エマ】