●「学園祭」 オープニング
学園祭も終わりに近づこうとしていた頃合。
草間武彦は、校舎の空き教室の窓からぼんやりと校庭を眺めていた。
次第に暮れゆく夕空の下、眼下ではファイアストーム用のやぐらが着々と組まれている。
後夜祭が始まったら、赤々と燃える炎があそこで高く燃え盛るのだろう。そして生徒たちはそれをぐるりと取り囲み、手をつないで賑やかにフォークダンスでも踊るに違いない。
――面倒だ……。
草間は胸ポケットから一つシガレットチョコを取り出し、くわえる。
彼自身は後夜祭に参加する気などさらさらなかった。ここで時間をつぶしている理由は唯一つ、学園祭を見学に来た部外者たちがごった返す校門を通り抜けるのが面倒くさかっただけ。
もうしばらくしてほとぼりが冷めたら、教師やクラスメイトたちに捕まる前にさっさと帰るつもりだった。
机が隅に積み上げられ、片側にアンバランスな空間が構成されているこの空き教室。廊下の際奥にあたる教室ゆえ、さざめきからも程遠い。
……もう『騒ぎ』もこれで終わりか。
開け放した窓からは涼しい秋風が入って来る。それをあくびでうけとめながら、ぼんやりと草間はそう考えていた。
まあ、これはこれで寂しい気もするが……。
と。
突然、背後の扉ががらりと開いた。草間はびくっとしつつ振り返り、そこに立っている者と目が合った。
「あー……?」
「草間くん」
おずおずとそう彼の名前を呼んだのは、かすかに見覚えのある女生徒。
「えっと……夏本、だっけ」
「そ、そう。な、夏本さらら、です」
「……別に敬語じゃなくていいよ。俺ら同い年だろ」
「う、うん」
慣れていないのか彼女は草間に対し、依然緊張した態度を崩さない。
そうしてまた、教室の入り口から立ち去ろうともしないのだった。かすかに頬を赤く染め、草間をじっと見つめてくる。
「……? 夏本、ここは見ての通り何もないぞ」
「う、うん」
そう言ったきり黙り込んでしまった彼女だったが、しばしの逡巡を見せてから、ぱっと顔をあげた。
そしてつかつかと歩み寄ると草間の正面に立ち、当惑している彼の顔を見据える。
見れば、その唇はきゅっと引き結ばれていた。
「わたしね、学園祭の実行委員をやってるの」
「……? ああ、そう」
「それで、主な担当は後夜祭なんだけど」
「じゃあこんなとこにいる場合じゃないだろ。ほら、他のやつら下で忙しそうに準備してるぞ……」
何げなくそう言おうとして、草間は騒ぎに気がついた。
生徒たちがなにやら騒ぎながらバタバタと走り回っている。そして、先ほどまで校庭の中央に鎮座していたはずのやぐらが。
「やぐらが、ない……?」
「さっきからおかしなことばかり起こるの。まるで、誰かが後夜祭をやらせないようにしてるみたいで。
……一緒に、解決して欲しいの。後夜祭、どうしてもわたし、成功させたいから」
お願いします、とさららは深々と頭を下げた。
●ライターより
今回は、草間武彦、および夏本さららと共に、事件の解決に向け捜査・探索していただきます。
○なぜ何者かは、後夜祭の準備を邪魔しているのか
その理由を推測していただき、プレイングにお書き下さい。
参考:夏本さらら
2年生、17歳。性格は内気、物怖じしつつ小さな声でしゃべる。男の子は少し苦手だが、草間に対しては多少の好意を持っている。
クラスでは地味な存在。普段の学園では図書委員で、今回は意を決し学園祭の実行委員に立候補した。
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