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草間興信所
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 草間興信所‥‥東京の片隅にひっそりと存在しているそこを知る者はそう多くない。
 愛想のない、鉄筋作りの古い雑居ビル。その一室に居を構える探偵の仕事場。
 申し訳ばかりの応接セットと、事務机一つに棚が少々という手狭なその部屋の中を、鉱石ラジオから溢れ出る名も知らぬ女性歌手の甘ったるい歌‥‥そして、大イビキが満たしていた。
草間武彦
 この興信所内にただ一つの事務机に突っ伏し、眠るのは草間・武彦(くさま・たけひこ)。探偵である。
 その傍らに置かれた既に昭和の化石も良い所の黒電話が、けたたましくベルを鳴らし、歌とイビキを掻き消す。と‥‥草間は手だけを伸ばし、受話器を握った。
「はい、草間興信所‥‥」
 突っ伏した姿勢のまま、頭をわずかに傾けて受話器を耳と口に当て‥‥相手の声に聞き覚えがあったらしく、言いかけた挨拶を飲み込み、草間は顔を上げると不機嫌そうに受話器に話した。
「だから、怪奇事件はお断りだって言ってるだろう。寺だの神社だの教会だの、もっとそれっぽい所に当たれよ」
 確かに、この部屋の壁には、『怪奇ノ類 禁止!!』だ等と貼り紙が貼られている。
 この興信所に持ち込まれる事件は、何故か知らないが怪奇事件の類が多い。そして、それらの事件を解決すると、それが噂を呼び、また新たな怪奇事件を呼び寄せてくる。
 草間は、内心『ハードボイルドな探偵』を目指しているからか、それを喜んではいないのだが‥‥その禁止の制約が守られた事はない。
「ああ、確かに慣れっこにはなったさ。これで飯も食ってる。だが、それとこれとは‥‥待て、切るな!」
 草間の制止の声も届かず、向こうは一方的に電話を切る。
 不機嫌さを露わにして叩きつけるように受話器を置き、草間はポケットからタバコを引っ張り出すと口にくわえ、火をつけるや深々と紫煙を吸い込んだ。
 その時、草間が起きた事に気づいたためか、奥の部屋から一人の少女が姿を現す。
草間零
「お兄さん、何の電話でした?」
 少女の名は零(れい)。大日本帝国軍の残した心霊兵器であり、常識はずれの霊力と戦闘能力を持つ。
 とある事件以来、草間の妹としてこの興信所に住み、何かと生活のだらしない草間が散らかし放題に散らかす興信所の掃除をしている。
「仕事だよ。全く‥‥」
「では、お客様が?」
「すぐ来るってな。手回しの良い事だ‥‥」
 草間は、一通り身支度をしようと、興信所の奥の洗面所へと引っ込んでいく。
 零は、客が来る前にもう少し部屋の中を片づけようと、まずは一番に散らかった机の上に手をやった。と‥‥
 玄関のブザーが、核攻撃を知らせるサイレンだってもう少し優しげだろうというような、けたたましい濁った音を響かせる。
「あ、はい、今行きます」
 来客‥‥零は掃除をあきらめ、玄関へと小走りに駆けていく。
 こうしてまた、新たな事件が草間興信所に舞い込んだのであった。

[看板イラスト:陸原一樹]
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