神聖都学園。それは、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学と幾つかの専門学校が複合された、巨大複合教育施設だ。 　義務教育はもちろんのこと、最新科学から、漫画の描き方まで様々な事を学べる。 　生徒総数は一万人弱。 　寮などの設備も整っており、広大な敷地の中に、幾つもの校舎と関連施設が置かれている。 　もちろん、都内にそんな広大な土地を用意するのは並大抵の事ではなく‥‥それが故にか、学園は何やら曰くが山と有る土地に建てられているらしかった。その為、この学園内では、しばしば怪奇現象が発生する‥‥ 「怪奇現象なんてありません！」 　神聖都学園の音楽教師、響・カスミ（ひびき・−）が声を上げてそれを否定した。 「そんなの、絶対、絶対、絶対にありません！　第一、その‥‥とにかく無いんです！」 　そう声を上げてはいるが、カスミが実際には何しに来たかというと‥‥怪奇現象の調査依頼なのだからまあ、世の中ままならない。 「そうよ‥‥もし、そんな怖い事が本当にあるんなら、もう学校になんて来られないじゃない。あーっ、もう‥‥どうしよぉ〜」 　否定ついでに、内心をポロポロと漏らしてしまっているカスミ‥‥どうやら、怖くてしかたないから否定するという、なかなかに正直じゃない怖がり方をしているらしい。 　もっとも、怪奇現象には激烈に弱いカスミは、本物を見ると即座に気絶し、前後の記憶を失うため、怪奇現象の実在はまだ知らない。これを幸いと言うべきかどうかは微妙だが。 「あ‥‥コホン」 　と、不意にカスミは、衆目の中だった事に気づき、取り乱した様子を咳払い一つで取り払う。もっとも、顔は少し赤かったが‥‥ 「と、ともかく‥‥怪奇現象なんて無いんだけど、何か問題が起きてるのは確かみたいなのよ。ちょっと、調べてくれない？　ね？　お願い」 　台詞の最後の方は、本当に縋る様な思いでお願いしてくる。 　噂があって、放置されてるのも怖いのだろう。だから、カスミはこうして、怪奇現象を否定しながらも、怪奇現象に強そうな人を頼ってくる。 　とはいえ、学校は元から怪奇現象の多い所‥‥そこを更に巨大化させ、曰く有る土地に建てたのが神聖都学園だ。 　カスミが怪奇現象に怯えないですむ日が来るのは、多分、遙か先の事なのではないかと思われた‥‥ [看板イラスト：綺人]