●「海キャンプ」 グランドオープニング
青い海! 白い砂浜! 怒濤の波打ち寄せる磯! 何だか怪しげな洞窟!
突然に決行がきまった学校行事、海キャンプ。海なら臨海学校で行ったのに、という疑問の声は誰からも上がらない。
このまま何となく終わるかと思っていた夏休みに、最後のイベントが降って湧いてきたのだ。要は楽しければ何でも良いのだ。
「海の馬鹿やろぉー! おーっ!」
早速、白い波頭に向けて楽しそうに声を上げている者、もくもくとキャンプ用のテント設営に励む者など、浜辺のキャンプ地は次々と学園の生徒達で埋まっていく。
そんな彼らの姿を眩しそうに目を細めて見ていた月神・詠子は、視線を外して海を見て言った。
「さあ‥‥ボクも楽しまないとね。折角、お膳立てをしたんだから」
「あーあ、かったりぃなー、俺、何でキャンプなんか来たんだろ」
熱心に誘われてキャンプに来たものの、団体行動やら共同作業はつくづく自分に合わないらしい、と改めて認識しながら、草間武彦は溜息を付く。
既に夕闇が辺りを包み始め、空には早々と月が浮かんでいた。
「やれやれ‥‥」
懐からシガレットチョコレートを取り出し、口に加えようとした時、草間は足元に月の光を受けて輝く石の欠片を見つけた。
「何だ‥‥これ」
拾い上げた石は、ゆらゆらと揺れる淡い光を帯びていた。蛍の光を思わせる柔らかい輝きにしばし草間は魅了される。
「その石、良かったら渡して貰えないかい?」
その言葉が自分に掛けられたものである事に、草間は最初気付かなかった。小さな石の欠片は瞬く間に草間の心を掴んでいたのである。ゆえに、語り掛けてきた男が生徒会長の繭神・陽一郎である事を思い出すのにも、多少の時間が必要だった。
「無理に、とは言わないけど」
返事がない草間に対して、改めて繭神が言葉を掛けた。
「‥‥いや、別に構わねぇけど、この石、どうするんだ」
頭を振って気を取り戻した草間は、ひょいと繭神に向かって石を投げた。
「まぁ、平和な学園生活を送る為に必要になるってとこかな? まだ他にも沢山あるから、全部集めるのは大変なんだけどね」
放物線を描いて飛んできた石を片手で受け取ると、繭神は本当に面倒くさいといった表情を浮かべながら答えた。
幻の学園を巡る物語は静かに、確実に次の段階へと進んでいた。しかし、この時点で自分たちを取り巻く状況を明確に理解している者はごく僅かであった――
●生徒会発行『海のしおり』
・8月25日〜31日の間、「海キャンプ」を行います。
海辺でのキャンプとなります。基本的に現地でテントを張って宿泊します。
・学園との行き来
夏期講習や全国統一模試、部活や授業などの理由で、キャンプ地から学園に戻りたい方、あるいは学園からキャンプ地に来たい方は、学園とキャンプ地を往復しております無料送迎バスをご利用下さい。
・テント、炊事道具、寝袋などは学園の備品を貸与します。
これら備品の数が足りない事も有り得ますので、個人的にこれらを所有されている方は、それをキャンプ地に持ち込んで使用して下さいますようお願いします。
・食事は、食材を配布しますので、各生徒が自分で調理してください。弁当やおやつを持って来ても構いませんが、ゴミは全て持ち帰るようお願いします。
・キャンプ中の服装は、原則「当校規定の体操服又は水着」とします。
なお、私服を着用しても構いません。
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